母の肢体/娘の身体14-24

投稿日 2010/04/11(日)





     * * * 


     あの後、あたしとママはとりあえず寝間着から普段着に着替えることになった。
     生憎元の身体とはサイズが違い過ぎるので、当面は下着も含めて互いに服を交換して使うことにする。
     にしても、さすがママ、下着はアダルトな代物が多いなぁ。あ、紐パンだ。こっちはスケスケじゃん、おっとな~!
     折角だから、あたしは赤いシルクの下着一式を身に着けることにした。真紅の生地に黒のレース飾りがついたスリーインワンとスキャンティ。足にはもちろん黒のストッキングを履き、スリーインワンから伸びたガーターで止める。
     試しに鏡の前で「ウッフーン」とポーズをとってみる。
     「うわぁ、すっごく色っぽい」
     あたし自身、決してスタイルは悪くないつもりだけど、ママのこの豊満な身体には、色気という点では圧倒的に負けてるわねー。
     しかも30代半ばを過ぎて、娘もひとりいるって言うのに、身体の線が崩れる気配すらないなんて反則過ぎる!
     さすがに服の方までよそいきの格好をするつもりはなかったので、ママがよく着ている紺色のカットソーとミディ丈のスカートを身に着ける。
     「それにしても……やっぱ大きいなぁ。いいなぁ」
     立って見下ろすと、胸に遮られてつま先とかが全然見えないなんてねー。
     ふと思い立って、鏡台の前に腰かけて、ママの化粧品に手を伸ばす。
     「……ん、こんな感じかな。よしっ、と」
     いつものママのお化粧を思い出して、それを自分の顔で再現してみた。
     あたしは普段あまりメイクに気を使わない方だから、ちゃんとできるかちょっと不安だったけど、予想以上にうまくいった。
     「うん、こうして見ると、あたしもなかなか大人っぽいじゃない」
     気をよくしたあたしは、いつものママみたく鼻歌を歌いながら、ママの部屋を出てダイニングへと降りていった。


     * * * 


     「はぁ~、やっぱり若い子は可愛い下着が多くていいですねぇ」
     娘の部屋で、タンスから取り出したランジェリーを手にしながら、わたしは感嘆の溜め息をつきました。
     「そう言えば、わたしも若い頃は……」
     高校に入ったくらいの時は、わたしも恵美同様、それほど胸が大きいわけではありませんでした。せいぜい平均よりちょっと大きめ程度。だから、色々と可愛らしいデザインのものを選ぶ楽しみもあったんですけど……。
     娘を身ごもった頃から、日に日に胸が大きくなって、いまではFです。
     全然ないのもちょっと困りますけど、胸なんて恵美ちゃん程度もあれば十分です。これ以上大きくたって、重いし邪魔だし……。
     「それに胸が大き過ぎると、選択の余地がほとんどないんですよね」
     日本人女性の大半はA~Dカップらしく、わたしみたいにFカップサイズの下着を捜すのは、結構大変なんです。見つけても、あまりデザインとか選べませんし。
     「たまには……いいですよね」
     誰もいないのにキョロキョロ辺りを見回したのち、わたしは恵美ちゃんのコレクションの中から、思い切りキュートでフェミニンなデザインのブラとショーツを選びました。
     「うーん、やっぱりこういうのがいいなぁ」
     身体自体は高校生の娘のもののせいか、ミントグリーンの下着が、しっくりと馴染んでよく似合ってます。
     しばしポーッと鏡の仲の自分に見とれていたわたしですが、ふと我に返ると、急に恥ずかしくなって、慌てて鏡に背を向け、タンスから上に着る普段着を捜し始めました。
     休日ですし、家の中にいるのですからくつろいだ格好でいいでしょう。となると……。
     迷った挙句、わたしは無地のブラウスとカーディガン、そして思い切ってミニスカートという組み合わせをセレクトしました。


     ふふ、こんなに丈の短いスカートを履いたのは、何年ぶりでしょう。でも、これでも高校の制服よりは多少長めなんですよね。
     わたしは、壁にかかった娘の制服にチラと視線をやりました。
     (い、今のわたしなら着られるかも……って、何考えてるんですか、わたしは!)
     ブンブンッと首を激しく横に振ると、わたしは気分を変えるべくドレッサーの前に座り、娘の化粧品を少し借りることにしました。
     せっかくこんな格好してるんですから、濃いメイクは似合いませんよね。できるだけナチュラルっぽく……そう、いつもの恵美みたいに……。
     うん、完成です。こうして見ると、わたしもまだまだイケてますよね?
     鏡の中の自分の顔に気をよくしたわたしは、浮き浮きと上機嫌で娘の部屋を出て、ダイニングへと足を運びました。


     「あ、やっと来たんだ。そろそろ出来るからお皿並べて」
     驚いたことに、珍しく娘が台所に立って、朝ごはんを作ってくれてるじゃありませんか!
     無論、母ひとり子ひとりで、わたしが働いている関係上、娘の恵美もひととおりの家事はこなせます。ただ、恵美は少々無精な面もあって、お休みの日なんか、滅多に自分からお手伝いしてくれることはないんですけど……どうした風の吹きまわしでしょう。
     「ん? どーしたの?」
     「い、いえ……朝ごはん、作ってくれたんですね」
     「うん、あたしもお腹空いてたし、あり合わせでパパッとね」
     食卓の上には、「これぞ洋風朝ご飯!」といった感じの数点のメニューが並んでいました。
     ふたり分の大皿には、カリカリに焼かれたベーコンと黄金色のスクランブルエッグ。焦げ目ひとつなくキツネ色したトーストには、バターと蜂蜜が添えられています。さらに、レタスとキュウリとプチトマトのサラダが置かれ、手製のフレンチドレッシングがかけられています。
     娘は「あり合わせ」と言いましたけど、どうしてなかなか大したものです。
     わたしと娘はいただきますと唱和してから朝ごはんを食べ始めました。
     娘の作った朝食は、見かけだけでなく味も美味しかった(いつの間に腕を上げたのでしょう。何だかちょっと悔しい気分です)です。
     でも、美味しかったせいでしょうか、いつもと違ってトーストを1枚食べただけでは何だか物足りない気分です。
     「ママ、今はあたしの身体だからじゃない? ホラ、あたし運動部だからよく食べるしさ」
     そう言えば、確かに恵美は普段トーストを2枚食べてから朝練に出かけていましたね。
     でも、わたしの場合、とくに運動する予定はないのですから、ここは我慢するべきでしょう。物足りなさを意思の力で抑えつけて、コップに入ったミルクを飲み干します。
     紅茶党のわたしは、朝がパンの時はミルクティーを入れるのですけど、うん、たまには牛乳も悪くありませんね。


     朝食を食べ終えたのち、わたしたちはそのままダイニングで、この奇妙なトラブルについての善後策を話し合いました。
     もっとも、原因自体はほぼわかっているとは言え、その対策となるとサッパリです。
     アイデアその1、どこかの高僧か霊験あらたかな神社にお祓いしてもらう。
     そんな腕の確かなお坊さんとかに心あたりはありません。そもそも、まがりなりにも「神様」と呼ばれる存在が為した業を、呪いの人形か何かと一緒にしてよいものでしょうか。
     アイデアその2、ブラ●クジャ●クみたいな天才的外科医に移植手術を頼む。
     仮にそれが行える名医がいたとしても、検査だとか何やらですごく時間を取られるでしょうし、手術代も目の玉が飛び出る程高いに違いありません。
     そもそも健康な人間の身体に、簡単にメスを入れてくれるのでしょうか。これまた現実的とは言えないでしょう。
     アイデアその3、もう一度同じ神像を手に入れて使う。
     非常識には非常識と言いますか、これが一番妥当ではあります。
     ただ、秘書として社長のスケジュールはわたしも把握してますが、木下さんはちょうど昨日の昼から一週間、今度は東南アジアに出かけているはずです。すぐにあの像を手に入れてもらうのは難しいでしょう。
     また、はたして同じものがもう一度手に入るのか、という問題もあります。
     そうなると……。
     「少なくとも、木下さんが帰ってくるまでは、「アイデアその4、とりあえず当面は事情を隠して、何事もなかったフリをする」しかないでしょうね」


     「アハハ、ま、それが無難よねー」
     溜め息をつくわたしと違って、娘は何だか楽しそうです。
     「ねーねー、ママ、そんな落ち込まなくてもいいじゃない。こんな珍しい体験、普通は一生できないんだし、どうせならウンと楽しんじゃおうよ」
     はぁ~、お気楽ですね。無闇にポジティブというか楽天的なところは、亡くなった夫に似たんでしょうけど。
     「それで、恵美ちゃん、何を企んでいるのかしら?」
     あきらめてわたしが問いかけると、娘はニヤリと人の悪い微笑みを浮かべました。
     「とりあえず、隣の駅前にできたショッピングモールまで出かけましょ。しばらくは元元出れないんだし、着るものとかも買わないと」
     「しばらく」どころか、もしかしたら一生元に戻れない可能性もあると言うことを、この娘はわかっているのかしら?
     とは言え、確かに一理はあります。母娘とは言え、服はともかく下着まで、いつまでも貸し借りしてているのは流石に気がひけますしね。
     「ふぅ……わかりました。今回は、わたしがお金を出します。でも、あまり無駄遣いしてはダメですよ?」


     * * * 


     やむを得ない事情とは言え、いざ服を買いに行くとなると、ママもあたしもやっぱり女だし、けっこう浮き浮きしてくる。
     朝食のお皿を手分けして洗ってから、外出着に着替えて早速出かけようってことになったんだけど……。
     あたしは、自分の寝室に戻ろうとするママを引き止めた。
     「ダメよ、ママ。ママの首から下は、今はわたしの身体なんだから、服が合わないって」
     体重は知らないけど、身長にして6センチ、胸囲は12センチも違うんだから。ウェストとかヒップのサイズも結構差がありそうだし。
     「それは……確かにそうね」
     「でしょ。だから、ママはあたしの服から好きなの着ていいよ。その代わり、あたしはママのよそいきから何か貸してもらうから」
     各人の今の体型に合った服を着る。うん、コレはまったくもって論理的にみて妥当な判断よね。
     (べ、別に、折角グラマーになったから、ママの大人ぽい服を着てみたいとか思って言ってるワケじゃないんだからネッ!)
     似非ツンデレな台詞は心の中だけに留め、なんだかアワアワしているママをあたしの部屋に押し込むと、あたしはママの寝室に入って普段着を脱ぎ、下着姿でタンスを漁る。
     うーん、下着は、このままでいいかナ。結構、この組み合わせ、イイ感じだし。
     それにしても、ママのあの大きなオッパイが、いまあたしの胸で揺れてると思うと、なんだかつくづく不思議な気分(いや、正確には首から下全部、あたしの身体じゃないんだけどね)。
     ま、それはそれとして。そうなると、赤い下着が透けないようなのを上に着ないとダメか~。
     まず、この白のワンピースは却下ね。もっとも、透ける云々以前に、ワンピースと言うよりドレスといった方がふさわしい代物だし、そもそもショッピングに行くような格好じゃないけど。
     黒のアンサンブル……は、悪くないけど、ちょっと喪服っぽいか。パス。
     あ、このワインレッドのレディススーツはいいかも……ゲッ、これ、シャネルじゃん。ママ、シャネルのスーツなんて持ってたんだ。
     白いブラウスを着てから、早速そのスーツに袖を通してみると、当り前だけど、あつらえたように今のあたしの身体にピッタリだった。
     姿見の前でピシッとモデル立ちをキメると、グラビアモデルみたいに恐ろしいほど様になっている。
     うーん、やっぱりプロポーションいい女性(ひと)って得だなぁ。
     どうせなら、とお化粧も気合いを入れてみよう。他所行きモードのママのお化粧なんて記憶はあやふやだったけど、思ったより上手く出来たみたい。折角だから、髪もアップにしてみたんだけど、遠目にはママとソックリに見えるかも。
     母娘だけあって、元々あたしとママは割と似てるしね。もっとも姉妹と間違えられるのは何だかなぁ、って感じだけど。
     ママのお財布その他を入れたヴィトンのハンドバッグを手に、あたしはママの部屋を出て、リビングへと向かった。


     * * * 


     娘の部屋に押し込まれたわたしは、しばし困惑していました。
     いえ、理屈としては恵美が言ってることが正しいとはわかっているのです。
     でも、30歳の坂を数年前に越えた女に、いまさらミドルティーンの女の子の格好をしろと言われましてもちょっと……。
     もっとも、まったく興味がないと言えば、それは嘘になるでしょう。
     個人的には(娘には少女趣味と笑われますけど)、可愛らしい服を着た女の子を見るのが大好きです。
     もっとも、わたし自身は元から身長があまり低くなかったのと、亡き夫と知り合った前後から急に胸を始めとする各部のサイズが成長したことで、そういった服が似合わないため、自分で着ることは齢18にしてあきらめざるを得ませんでしたが……。
     ──あら? もしかして、首から下が娘の身体の今の状態なら、長年の夢がかなっちゃうのかしら。
     そう思いつくと、いても立ってもいられませんでした。
     娘のクローゼットには、わたしが買ってあげたのに娘の好みと合わないためにしまいこまれたままの一連の服があることは、母親としてしっかり把握しています。
     今回は、その中から、薄いピンクの地に小さな花の模様を散らしたオーガンジーのワンピースをチョイスしてみました。レースやフリルの飾りがいっぱいついた、いわゆる「甘ロリ」に近いタイプの服です。
     鏡に映してみると、やや小柄でスレンダーな娘の体型によく似合ってます。まったく、どうして着るのを嫌がるのかしら。こんなに可愛いのに……。
     もっとも、首から上がオバさんでは台無しですね。ここは、わたしの化粧技術の粋を凝らして、せめて「20歳前の女の子」に見えるようなナチュラルメイクを何としても実現してみせましょう!
     ──と気合を入れた割には、拍子抜けするほど簡単に「少女らしいメイク」を実現することができました。
     昔、化粧品の訪問販売員をしていた経験上、自分のメイクの腕前には多少の自信はありましたけど、まさか本当に「十代後半の女の子」に見えるとは……。
     これなら、制服を着て娘の学校に紛れ込んでも、さほど違和感はないかもしれません。
     鏡の前で、「ニコッ!」とか「キラッ♪」とか可愛らしく見えるポーズをいくつか試してみたのち、さすがにちょっと恥ずかしくなったわたしは、服に見合うデザインのショルダーポーチを持って、階下へと降りました。


     「あ、ママ、遅かったね……って、何ソレ!?」
     「う、うん……せっかくだし、こういう可愛らしいカッコしてみたんですけど……やっぱり似合わないかしら」
     「ううん、バッチリ! ちょっとアブない趣味のお兄さんとかに見られたら、即お持ち帰りされそうなくらい似合ってるわよ」
     それはそれで嫌な褒められ方ですね。
     「あ、待って、どうせだったら……」
     娘は、わたしの手を引いて部屋へと戻り、わたしをドレッサーの前に座らせると、引き出しから取り出したふたつの黄色いリボンで、ツーサイドテール(娘いわくツインテール)の形にわたしの髪をまとめました。
     「どう? この方が可愛さ20パーセント増しって感じじゃない?」
     「ふわぁ……そう、ですね」
     鏡の中の「少女」は、高校生としてもちょっと幼げな印象に見えますけど、そのぶん愛らしさは大幅にアップしています。
     「ふふふ……ねぇ、ママ、見て。ホラ、あたし達、こうして並ぶと何だか仲良し姉妹って感じじゃない?」
     スツールに座ったわたしの後ろから、わたしの身体を抱きしめるようにして、娘が顔わ出しているのが、鏡越しに見えました。
     「え、ええ、確かに」
     その光景は、まさに少し歳の離れた姉妹という印象を受けます。ただし、いつもと違うのは、娘が「姉」で、わたしが「妹」に見えるところでしょう。


     「ねぇ、ママ……どうせだったらさ、今日のお買い物のあいだ、あたしが「お姉さん」
    で、ママが「妹」って設定で、ちょっと遊んでみない?
     ホラ、せっかく隣町まで行って周囲にご近所さんの目はないわけだし」
     その言葉に、躊躇いながらもコクンと頷いたのは、あるいはわたしにも何がしかの「予感」があったのかもしれません。
     「じゃ、ママ、家から一歩出たら、今日はあたしのこと「お姉ちゃん」って呼んでね」
     「あの……わたしはそれでいいとして、恵美ちゃんは? お姉さんは普通、妹を名前で呼ぶと思うんですけど」
     「ふむふむ、言われてみれば、その通りね。じゃあ……たった今から、あたしが「雪乃」、貴女が「恵美ちゃん」ってことで。OK?」
     「はい、わかりました、「雪乃お姉ちゃん」」
     ──ただ単に呼び方を変えただけなのに、何だかイケナイことをしているみたいで、すごくドキドキします。
     それは、娘……いえ、「雪乃お姉ちゃん」も同じみたいで、ほんのり頬が赤くなっているのがわかりました。
     「じゃ、じゃあ行こうか、「恵美ちゃん」?」
     「はい!」

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最終更新:2010年04月13日 02:47