母の肢体/娘の身体48-52

<エピローグ>
 あの日、ママと……いいえ、「娘」と約束を交わした日から、今日にいたるまでの日々の事を、あたしは振り返っていた。
 「あれから一カ月しか経ってないってのに、あたしも「恵美」も、今の立場にすっかり馴染んじゃったわねぇ」
 元はと言えば自分達から(多少形は違えど)望んだ事だったせいか、あたし達はそもそも最初から、互いの立場を入れ替えて、あたしが「雪乃」、彼女が「恵美」として暮らす事に、さほど抵抗感はなかったのだ。
 そして、首から下がすげ替わっているという状況のおかげか、極めてスムーズにその状況に対応することができた。
 それは身体的な動作やスキルだけに留まらない。
 あの「約束」を交わした夜から、しばらくして気付いたんだけど、たとえば、あたしが「今日の料理は何にしようかな」と考えただけで、いつの間にか、適切なメニューとレシピが何件か頭に浮かんでくるようになってたわ。それこそ熟練の主婦さながらに。
 それは「娘」も同様みたいで、他校との交流試合で、会ったことないはずの相手校の選手と、気がつけば普通に談笑していたらしい。
 そう、知識的な面についても、どうやらあたし達は、現在の立場にふさわしいものを備えつつあるみたい。
 まぁ、そうでなきゃ、あたしが会社の書類処理とかあんなスムーズ出来るわけないのよね、確かに。
 おかげで、公的な、って言い方はちょっとヘンだけど、ふたりとも仕事とか学校とかではまったく不自由することはないのはラッキーよね。
 プライベートでは……まぁ、「恵美」と政紀の方は、先ほど見た通りよ。
 ま、若い男女が恋仲になったら、いずれ行きつく所まで行くのも、まぁ仕方ないか……って、これじゃ、あたし、すっかり「お母さん」ねぇ。
 え? あたし? あたしはねぇ……。
 ──Prrrrrrrrrrr!
 あら、誰かしら。あたしはバッグの中からケータイを取り出した。
 「やぁ、雪乃くん」
 「泰男さん!? 日本に帰ってらしたんですか?」
 予定では今日の夜、バンコクから帰って来られるはずなんだけど。
 「ああ、ついさっきね。それで、よかったら今から食事でもと思ったんだが、どうだろう? 恵美ちゃんと、もしいたらウチのドラ息子も交えて」
 「あ、はい、あたしは構わないんですけど……」
 チラと2階の方に目を走らせる。
 「あの子達は、どうやら「取り込み中」みたいですよ」
 「! そうか。いや、まさかそこまで二人の仲がススんでいるとは」
 さすがは泰男さん、あたしが言外に匂わせた意味を正確に把握してくれたみたい。
 「それじゃあ、雪乃さんだけでもどうかな?」
 「ええ、喜んで……待ち合わせは、いつもの店でいいのかしら?」
 子供達がよろしくやってるなら、大人だってそれ相応に楽しませてもらっても、罰は当たらないわよね♪


 * * * 

 ホテルの窓からは、満月より少しだけ痩せた月の光が差し込んでいる。いわゆる十六夜というやつだ。
 長年憧れていた愛しい男性と、初めて身体を重ねるのには、悪くない夜だった。

 泰男は「雪乃」を抱きしめ、彼女の唇にそっと自分のそれを重ねてくれた。
 唇から蕩けていくような感覚の中、自分の唇が微かに震えていることに、「雪乃」は気づいた。
 いかに、この「身体」自体は経験済みとは言え、やはり受け入れる恵美の意識としては、たとえ愛する男が相手とはいえ、未知なる体験に僅かにおびえているのかもしれない。
 細かい事情など知らないはずだが、それでも泰男は、愛しい女性の恐怖を理解し、口付けを繰り返しながら、彼女の髪や背中を優しく撫でてくれた。
 それだけで、「雪乃」は自分の中の僅かな恐怖が陽光の元の氷柱のように溶け薄れていくのを感じる。
 恐怖から解放された「雪乃」は、自分の気持ちに正直に行動する。
 すなわち、自分からも彼に触れたいと思ったのだ。
 その感情に従い、自ら泰男の頬に手を伸ばして触れ、頭を抱き寄せて激しい口付けを求めていく。
 「ん……ぁふぅ………」
 「雪乃」は官能的な声を漏らしつつ、彼の背中に両腕を回した。
 情熱的なキスと抱擁の後、「雪乃」の豊満な肢体は、白い敷布の敷かれたダブルベッドの上へと押し倒された。
 泰男が唇を離し、彼女の顔を覗き込む。
 彼に見つめられた「雪乃」は、無性に恥ずかしくなり、少しだけ目を逸らした。
 その「雪乃」をあえて自分の方を向かせようとはせず、泰男の大きな手が彼女の髪を優しく撫でた。
 「雪乃くん、もしかして、照れてるのかな?」
 「……いい男は、女に恥をかかせないものだと思いますけど?」
 「おっと、こりゃ失礼。でも、そんな風にスネてる顔も可愛いよ」
 泰男は心底愛おしそうに、「雪乃」の柔らかな髪を弄んだ。
 髪に触れられているだけなのに、それがたまらなく気持ち良かった。
 「雪乃」は瞳をトロンとさせて彼を見上げた。
 「もっと……」
 「うん?」
 「もっと……色々して、欲しいです」
 「雪乃」の艶っぽい懇願により、泰男の瞳の中でも男の欲望がたぎり始める。
 「もちろん……色々してあげよう」
 男の唇は、そのまま「雪乃」の白い首筋に吸い付く。
 あたかも、動物がマーキングするかのように、泰男は何度も何度も「雪乃」の首筋に赤い痕を残していった。
 そこには、日頃の紳士めいた礼儀正しさはなく、ただ愛する女を求める男の姿だけがあった。


 「あ……あぁ……!」
 「可愛いよ……雪乃くん……」
 泰男は恋人への愛を囁きながら、手ではその豊満な乳房を捕らえていた。
 彼に揉みしだかれる度に、白磁のようなそれはプルプルと揺れる。
 その谷間に顔を埋めると、泰男は固くしこった薄紅色の突起を舐め上げた。
 瞬間、雪乃は押し寄せる快感に我を忘れ、恋人の後頭部をグッと自分の胸へと押し付けた。
 「あぁっ……イイっ! もっと……もっと、吸って!」
 「雪乃」の懇願を聞いて、泰男の中でますます男の欲望が膨らむ。
 両手で乳房を包み込み、ゆるゆると揉みながら、先端部を口の中に吸い込み、突起のみを集中的に攻める。
 たちまち、「雪乃」は鮮烈な悲鳴を漏らし始める。
 苦しいからではない。
 あまりの(未知なる)快感に耐えきれずに、だ。
 「雪乃くん……」
 泰男が、今度はムッチリした太腿の間に手を這わせてきた。
 「脚を開いて……」
 膜の有無はともかく、実質これが初体験である「雪乃」は、年上の男の導きに従うしかない。躊躇いつつも、少しずつ両脚を開いていった。
 程なく、女性の一番大事な場所が彼の眼前に晒された。
 「あぁ……恥ずかしぃ……!」
 まだ直接触れられてもいないのに、そこは先程の愛撫でしとどに濡れているようだった。
 「触れても……いいかな?」
 「ええ……でも……優しくしてね?」
 「雪乃」の要望に応え、泰男はそっと人差し指でそこに触れてきた。ピチュ……と湿った水音のような音が微かに聞こえる。彼が人差し指を引き出すと、そこにはトロリとした蜜がたっぷり付着していた。
 「濡れてるね、雪乃くん……」
 恥ずかしさに耐えかねて、「雪乃」は顔を真っ赤にして目をつむった。
 そんな彼女の様子を、泰男は好ましげに見つめながら、指の腹で花園を優しく愛撫してきた。
 撫でられれば撫でられるほど、自分のそこに蜜に溢れていくのがわかった。
 そして、ついに彼の指が、痛いほどに尖る桃色の肉芽に触れる!
 「ひあぁンーーーーーーッ!」
 「雪乃」の体が一際強く跳ね上がった。
 「ふふ、ここが気持ちいいのかい?」
 泰男は指の腹で押したり、摘み上げたりして陰核を弄んだ。
 「あぁぁぁっ!! やぁっ……! はぁん! ダメぇ……!!」
 雪乃は敷布をグッと掴み、容赦ない快楽の津波に耐えようとしたものの、初めての身にそれはあまりに酷な話だった。蜜液がしたたちり落ち敷布を濡らしていく。
 「雪乃くん……そろそろいいかな?」
 泰男は「雪乃」の耳元に顔を近づけて囁き、その額に軽くキスを落とした。
 「あ……?」
 一瞬何のことはわからなかった「雪乃」だが、すぐに彼の真意を悟り、今まで以上に頬を真っ赤に染めながら、それでもコクリと頷く。


 「雪乃」の了解を得た泰男は、彼女の両脚を広げその間に割り込んできた。
 「じゃあ、入れるよ……雪乃くん……」
 「ああ……来て……泰男さん……」
 泰男は屹立した己の分身を「雪乃」の花弁に宛がい、ゆっくりと奥へと侵入していく。
 「ふぁっああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 強烈すぎる刺激に「雪乃」は耐えきれなくなり、恋人の首にしがみ付いた。
 痛みや不快感はまったくなく、それどころか蕩けきった花園は蜜を溢れさせながら、男のモノを嬉々として受け入れている。
 それは、泰男の方も同様らしかった。
 「ああ……雪乃くん……いいよ……最高だよ、雪乃……!」
 雪乃の名を何度も呟き、腰を動かしている。
 どうやら、ふたりの身体の相性は最高らしかった。
 それなりに経験豊富なはずの泰男が、まるで思春期のがっついた少年のような性急さで「雪乃」を攻め、それにせきたてられるかの如く「雪乃」ものぼりつめていく。
 「雪乃……! 君の中に……出すよ……! いいかい?」
 「あぁぁ……泰男さん……ください……あなたの赤ちゃんの素を…あたしに……あぁぁぁっ!」
 ふたりは同時に絶頂に達し、泰男の分身が「雪乃」の胎内に白濁の液を吐き出す。
 「雪乃」は、己が胎内を汚す白濁液の熱さにうっとりと陶酔しながら、意識を失ったのだった。

 * * * 

 わたし達が、互いの首から下とその立場を交換してから、およそ1年あまりの時が流れました。
 その間に、本当に色々なことがありました。

 中でも、一番の変化は、木下のおじさまと母さんが結婚して、わたしとマサくんが義理の兄妹になったことでしょうか。
 マサくんとわたしは、恋人であると同時に義理の兄妹でもあると言う、どこぞの少女マンガみたいな関係になってしまいました。
 当初はちょっと戸惑いましたけど、「お兄ちゃん」と言う響きに何か感じ入るところがあったのか、マサくんは以前以上に優しくしてくれますし、これはこれで悪くありません。
 (わたしは「兄さん」と呼んでるんですけど、「それはそれで!」とサムズアップされちゃいました)
 日本の民法では、別段義理の兄妹だって結婚できますし。
 現在は、借家であったウチを引き払い、4人一緒に木下家に住んでいます。
 ただし、わたしだけは未だに「木下」姓ではなく「上原」姓を名乗っているんですけどね。
 (まぁ、どの道遠からずわたしも「木下」姓になることは間違いないのでしょうが)
 いずれにせよ、わたし達は家族として、そしてふた組のカップルとして、至極幸せで充実した毎日を送っています。

 そう言えば、つい先日、おじさま……いえ、義父(とう)さんが、律儀にも例の神像を出張先で見つけて来てくれました。
 その晩、わたしと母さんはどうやら同じ夢を見たようです。
 夢の中で、あの彫像とよく似た姿の自称・神様に、「元に戻るか?」と質問されましたけど、わたし達はほとんど即答で「NO」と答えました。
 て言うか、今更戻されても、むしろ困ります。
 いえ、そういう消極的な理由よりも何よりも、わたし達は現在の互いの立場やパートナーをこよなく愛しているのですから。
 そう答えると、神様(自称)は、ニコリと微笑まれ、「それでは、別のプレゼントを差し上げよう」と言い残して、昇天していきました。
 朝目を覚ますと、案の定、あの彫像は砕けており、1年前と同様、ほどなく木屑になって散りました。

 あ、そうそう。神様の言う「プレゼント」については、しばらくして判明したのですが……。
 「それで、母さん、どっちだったんですか?」
 「女の子ですって。ニューヨークにいるあの人も喜んでたわ」
 「ヒャッホー! ふたりめの妹、ゲットだぜ!」
 「もぅ、兄さん、はしゃぎ過ぎですよ~」

  • fin-

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最終更新:2010年05月05日 17:21