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道問うや君

297 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 20:56:56 ID:d3dmzkKw Be:

お久しぶりで四十年のものです。
と、言ってもお話の続きは現在手直しをいろいろしているところなので
ちょっと前に出したイタコっぽい憑依話の逆バージョンをお届けします。
個人的には部分入れ替えに手を出したいところではありますが……


「道問うや君」


夕暮れ時、人里離れた山間にひっそりとむすばれた庵を訪ねたのは、美男ではあったけれ
ども、視線にやや神経質なものを混じらせた線の細い青年だった。
「こちらでしたら、僕の悩みを晴らす契機をいただけると伝え聞きました」
神妙な面持ちで言葉を絞り出す青年の前に枯れて曲がらなくなった足を投げ出したままで
座る高齢の尼僧は、かつてはひとつの宗派の座主としてあまたの門徒を導いてきた善知識、
高徳の僧侶であった。
「いえいえ、そんな大層なことは、しても差し上げられないのですが」
皺の中に埋没した両目を温和に細めながら、尼僧は青年に向けて深々と頭を下げていた。
「まずは、どうぞ、あなた様のお悩みというものをお話しくださいませな」
尼僧は覚束ない手ずからに、茶を淹れて青年の正座する膝元へとそれをすすめていた。
ほとんど飛び込みで訪問した非礼もまるで咎めることのない尼僧の篤実さに打たれて、青
年は飾りない本音を打ち明けることにしたのだった。

「実は、僕には付き合っている彼女がいるんです」
「はあ、それはまた、けっこうなことで……」
「ええ、彼女は優しい人ですし、誰からも好かれる温厚な性格で、幸せにしてあげなくちゃ
いけない、とは思っているんです」
青年の言葉尻の歯切れの悪さに、尼僧はほんの少しだけ眉の端を動かしていた。
「……ですが、僕には他に心を寄せる女性がいまして、その人以外の女の人のことを深く愛
していく自信がまるで持てないんです」
気まずさに顔を曇らせる青年に、尼僧はまあまあ、と宥めの手を伸ばす。
「ええと、俗に言いますところの『ふたまた』というやつですかな、それとも、懸想する相
手にしかあなた様の気がないってことは、占い師なんかが言います『つらい恋』というのを
味わっておられるのですかねえ」
尼僧の察しは見当を外したものではなく、青年はこくりと頷き、リュックサックから一冊
の雑誌を取り出していた。
「……つらい恋だなんて高尚なものじゃないんですけどね」
おずおずとページをめくった先に現れたのは、伸びやかな手足と豊満な胸元をわずかな布
きれで覆った美少女が砂浜にたわむれている写真だった。 
「彼女、沖村アスカちゃんっていうんです」
「なるほど……どれどれ」
差し出されたページを拡大鏡を頼りに前後しながら視界に入れた尼僧は、
「ひゃあ、こりゃあ、結構なこと。お見事な肉付きをしてらっしゃいますことねえ」
しぼんだ口元に手をあてて、びっくりとした様子を見せていた。


298 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 20:58:04 ID:d3dmzkKw Be:

「僕は彼女の追っかけをしているんです。彼女の撮影会とか、握手会とか、サイン会、どん
な小さなイベントだって必ず駆けつけているんです」
ふむふむ、と尼僧は黙って相槌を打つ。
「彼女は、そう、この業界では一、二を争うトップアイドルなんです。もちろん、僕みたい
な奴は他にもいくらでも、そう掃いて捨てるほどいるんです」
俯いたままで青年は悔しげに眉間に皺を寄せていた。
「もちろん、不毛だってことは分かってますよ。頭では。でも、心まではそうはいかないん
ですよ。愛しくて、辛くて、そして……悲しいんですよ」
ほう、と一つ、青年は小さく息を漏らす。
「……ううん、それでも愚僧感じますにな、そういった悩みに苦しむのは洋の東西を問わず
昔からあったように思われるのですよ。人ならぬ人形に懸想する男の話や、死んだ稚児の遺
骸に執着した法師の話やら」
尼僧は自分の手元の湯呑みを口に運ぶと、はあ、と小さく息を吐く。
「男同士、女同士での恋の話やら、教師さんと生徒との愛のお話や、子供に対して抱く性の
幻惑や近親者への恋慕など。禁忌に近ければ近いほど、それは甘美に感じられてしまいます
のよなあ」
尼僧は禿頭をぺたぺたと撫でながら、墨染の袖に片手を突っ込んで神妙な表情を作ってい
た。
「むろん、私はあなた様のことを軽蔑して言うじゃありませんよ。情動には人それぞれに強
さ激しさの違いがありますからな、それが強くて激しければ、それだけ苦しいし、道を踏み
外してしまうことだって……まあ、あなた様に限っては、ありませんでしょうけどなあ」
尼僧の言葉に弾かれて、青年の背筋が強張って伸びた。
「ええ、だからこそ、僕はこのよこしまな気持ちを捨て去って、どうにか今の彼女との交際
に打ち込んでいきたいわけなんです」
すると、尼僧は何かを感じ取ったように、ぱん、と膝を打って、
「いいや、いけませんな。やっぱりあなた様は大事な事を分かっておられないのですわい」
尼僧は、油紙のような瞼の奥から、険しい視線を青年に投げかけていた。


299 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 20:58:51 ID:d3dmzkKw Be:

「いえ、でも、僕は分かっているんですよ。この気持ちをずっと持っていてはいけないんだ
って、だからこそ、捨て去る糸口を見つけようと、こうして躍起になっているわけで……」
尼僧は青年の言葉の先を手で制しながら、
「いいえ、あなた様のはね、ただ『知っている』だけなのですよ、良い事と悪い事を区別す
ることができるっていうだけのこと。喫煙は体に悪い、いじめは良くないって、そういうこ
とを教えられて覚えているのとおんなじなんですわなあ」
「それでは、いったい僕はどうしたらいいって仰るのですか?」
青年は、内心の乱れを語気に絡ませながら、眼前の小さな老尼僧に食ってかかっていた。
「……んん、難しいですなあ、人が陶冶しますのには時間が必要なもんですから、一ついい
訓示を受けただけなんてあいまいなもんでは、ほんの一月もせんうちに忘れてしまうでしょ
うよ、さて、どうしたもんですかなあ」
尼僧は膝をぽんぽん、と打ちながら、じっと思案に暮れていた様子だった。
青年も、まあ、それもそうだろうなあ、という諦めに顔色を失いつつあったときだった。
「……じゃあ、その、荒療治ってやつを、ひとつ施してみましょうかねえ」
尼僧は手の動きを止めて、ちらりと青年の目に視線を投げかけた。
「荒療治……ですか?」
尼僧は頷く。
「ええ、ここ一番の荒療治。私もお役目を引退してからこのかた三十年とは試していなかっ
た方法なもんですから、確実にどう、とは申し上げられませんがね」
こんこん、と小さく咳き込みながら背を丸める尼僧に、青年はこっくりと首を縦にして返
答をしていた。
「……試して、できることならなんでもします」
「んん、わかりました。それではこの行を成すために二週間ほどはここに留まってもらわん
ことにはなりませんが……」
「ええ、かまいませんよ。大学もちょうど夏休みですし、それくらいの時間を取るくらいの
ことは容易いことです」
青年の言葉に、尼僧はよし、と腰を静かによっこらと持ち上げていた。


300 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 20:59:39 ID:d3dmzkKw Be:

夕闇がすっかりと辺りを覆ったほどの時刻となっていた。 
尼僧が用意した簡素な膳を平らげて、風呂までよばれた青年は奥部屋に寛いでいたが、尼
僧の呼び出しで、再び板の間に戻り、背筋を正して彼女と対座していた。
なにしろ青年は都会っ子でしかも体力に自信があるほうでもないわけで、苦行や荒行につ
いていくことができるかどうか、今になって不安になってきていたのだった。
「……ああ、別に、痛い事や苦しい事するわけじゃありません。お気を楽にされるがよろし
かろうかと」
「はあ、でも僕も今まで仏道修行とかそんな、知らずに通ってきたものですから、これから
どんなことをするのか、考えるだけで緊張しちゃうんですよ」
青年の素直な返事に尼僧は相好を崩すと、首を横に振った。
「あははぁ、苦行は勿論必要なことです。でもですね、自分の体を痛めつけることだけで苦
しみから逃れようとするのンは、かえって逃げてることです」
尼僧の深い皺に埋もれた表情に赤みが差しているのは、彼女もまた湯上りだからだった。
「悩みっていうのは、その本質と向き合ってこそ、解決が得られるんですよ」
ずん、と問題の核の部分について決めつけたあとで、尼僧はにじり寄って青年との間を少
しだけ狭めていた。
「はあ、それでは、これから僕はいったい何をするんでしょう」
一種の怖さを含んだ尼僧の顔が近付いた事で、青年はぞっとするものを感じたが、なんと
かその恐怖感を押さえつけながら尼僧に尋ねていた。
「はあ、それではまず、あなた様にはこの私の手を握っていただきましょう」
すっ、と無造作に枯れ木のような両腕を前に出して、尼僧はその手を握るように青年に言
った。
「これは……禅問答か、何かですか?」
訝りつつも、青年は素直に尼僧の両手をとった。ごつごつ、がさがさとした手触りは、ま
るで朽木の枝葉を掴んでいるかのような嫌な感触である。
「ええ、じきにわかりますとも、じきに、ね。それでは次に、あなた様の想い人の、沖村さ
んとやらのことを強く考えて思い浮かべてください」
言われるままに、青年は彼の偏執するグラビアアイドルのその艶めかしい肢体を思い浮か
べる。逆立ちしても届かない、まるで星のように遠い彼女のその姿を。
尼僧は目を閉じて、青年の手からその思念を受け取ろうとしていた。


301 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 21:00:20 ID:d3dmzkKw Be:

突如、尼僧の手がぶるっと震えた。
「おおぉ。来ましたぞっ!」
尼僧の声にびっくりして顔を上げた青年の目に飛び込んできたのは、ぎろん、と白目をむ
いて血管の浮き彫りになった顔を引きつらせる醜悪な老婆の姿であった。
ひいっと喚いて手を振りほどこうとする青年だったが、がっきりと組み合わされた手はほ
どけない。
「しゃっ、心を乱しますなっ」
尼僧の喝が飛び、青年は混乱から一時平静を取り戻す。
その青年の目の前で、尼僧はじわりじわり、と変貌をはじめていった。
枯れ木のようだった全身に、みちみちと筋肉となめらかな脂肪とが張り付いていき、老い
屈まっていた手足がずんずんと伸張していく。
「あふっ、ふおほほっ!」
てらてらとタマネギの表皮のようだった肌には潤いが備わっていき、皺がぐんぐんと引き
伸ばされていく。
「あはっ……ううっ、ぐっ、げ……がほっ」
尼僧は口からぼろり、と肌色の塊を吐き出す。それは入れ歯だった。その空洞になった彼
女の口中には、新しい白玉のような歯がぐんぐんと生え揃っていく。それに合わせて顎の形
も変化していき、つぶれて撓んだ顎は、小さく尖ったものに再形成されていく。
肌は明るい艶と張力とを取り戻し、みるみるうちに古希をはるかにすぎたこわばった尼僧
は若く、しなやかな姿に変貌していく。
「ああっ、胸、気持ちいいぃ、膨らんで、く……ひゃはあん」
あばらの浮き出て項垂れ萎んでいた胸元には、新しい形の整った双丘が形成されていく。
窮屈な襦袢の中から半ば零れ落ちて、豊満な膨らみと先端のピンクの突起までも露わになっ
ていく。まるで干し柿が旬のトマトになったほどの強烈な変化だった。
そして、腰部には上質な筋肉が取り付いて、上半身と下半身とをバランスよく繋いで締ま
っていく。
「ぁあん、お尻いっ、気持ちいい、いいのっ」
ぶるんぶるん、と弾みながら溢れ出すお尻を感じながら、尼僧は立て膝で、大きく伸びを
する。もう、足を曲げ伸ばしすることにも不自由はないようで、白く、質感のある太ももを
青年の目に焼き付けながら、変化は続けられる。
もう、重苦しくかぶっていた瞼の弛みは存在せず、きらきらと光る瞳が長い睫毛のなかに
魅惑的な輝きを湛えている。鼻梁は隆起して美しい横顔を形成する因子となり、口元もきゅ
っと引き締まり、唇は濡れた艶を帯びている。


302 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 21:01:12 ID:d3dmzkKw Be:

「よしっ、と、これで……完成よっ」
声質もまた、まるで別人のそれだった。青春の張りに満ち満ちた高い響きをもったものに
変性していた。
ぽかん、と口をあけたままに硬直する青年は、ようやく手を離すことができたのだが、あ
まりのショックに何も言うことも、何をすることもできなかった。
「んーっ、やっぱり若いカラダはいいわねえ、足元はしっかりしてるし、視界ははっきりす
るし、なによりこの弾力あるムネ……ううん、女としての自信を取り戻す瞬間よねっ」
溌剌とした動作で全身を鳴らしてなじませる尼僧のその姿は、すっかり沖村アスカのそれ
に成りおおせていた。ただ、一つだけ違うと言えば、青々と剃り上げられたその頭くらいの
ものだった。
脇に置いてあった手鏡に向かい合い、いしし、と小さく笑みをこぼしてから、尼僧は自ら
の胸の頂点をなんとか襦袢の中におさめてから、再び青年に向き合った。
「……あああ、あなたは、その姿は? いったい、どういうことなんですかっ」
歯の根も噛みあわぬほどに動揺しながら、青年はアスカに化けた尼僧に声を振り絞った。
「ふふーん、どうよ、コレ。さっきの雑誌にあったコとおんなじでしょ、凄いでしょ」
わざと、先ほどのグラビアと同じポーズを作って青年にアピールをする。本家よりもなま
じ、この特殊な状況と、青頭とが作用して、より強い妖艶さを醸していた。
「私はね、今はもう引退したけど昔は『依り代女』っていうお勤めをしていたのよ」
「よりしろめ、ですか」
肌のあぶらの匂いまで変わっていて、若い女の持つ惹きこまれるような芳香を、今の尼僧
は発していた。
「そう、まあ神様に仕える巫女じゃなくてね、死んじゃった人の霊を身体に降臨させること
でうまくお別れできなかった家族なんかともう一度、きちんとお別れさせてあげるっていう
役目を果たすものなの、そのために『器かたどり』っていう姿を真似するなんていう芸当も
できるわけなのね」
しみじみと過去を顧みながら、尼僧は束の間、思い出に浸っていた。
「ま、今の私じゃ鬼霊の降臨なんて芸当は出来なくなっているんだろうけど、それでもまだ
このくらいの真似までだったらなんとかなっちゃうわけなのよ」
このくらいの事で済まされることではないな、と青年は目を丸くしながらも頷くしかなか
った。先ほどまでの皺だらけの老婆が、自分の憧れの沖村アスカになっているのだから。足
元に転がる入れ歯は幻ではないのだ。


303 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 21:02:17 ID:d3dmzkKw Be:

「それでね、これからあなた様にしてもらっちゃう事はね……なんだと思う?」
ずいっ、と顔を寄せてくる尼僧には、先ほどと違った迫力が備わっていた。胸元はたゆん
っと揺れて、その高い威力、破壊力を誇示している。
「なん……なんでしょうか、ねえ?」
なんとなく、感じるものがありながらも、それを肯定否定を繰り返しながら、青年は尼僧
の視線に射竦められてしまっていた。
「まあ、すっとぼけて……もう、こうに決まってるでしょ」
青年の膝の上ににじりのぼると、尼僧はその唇で青年の口を塞いでしまった。
「うむっ、むむ」
舌の絡まる濃厚なやつを一つ貰って、青年の脳は、完全に蕩けてしまっていた。
「……ねえ、私だって折角、こんなに若返って若い男とナニナニするチャンスなんだもん、
男だったらそんな野暮しちゃいやよ」
実年齢にしたらまるでそぐわない甘えた言葉も、今の姿ならば許された。短い襦袢の下か
らはまぶしいほどに輝く太ももが青年の中の男の本能を誘うのだ。
「いえッ……でも、僕は、その、彼女の体だけが目当てなわけじゃないんでして、その、そ
れに今付き合ってる相手の事とかも、その」」
「だから、頭でっかちはいけないって言ってんのっ」
たどたどしい言い訳を並べようとする青年に、尼僧は実力行使を始めた。
くいっ、と頭を持ち上げる青年の股の根の部分に指を当てると、尼僧はじっとりとした笑
みをこぼしていた。
「……ふふふ、それにオトコノコの部分は素直なものよ、煩悩なら私がいくらでも晴らして
あげるもの、さあ、じゃあそろそろ修行をはじめましょ」
白い襦袢を脱ぎ去ると、そこには青年の切望していた世界が待ち構えていた。
「れっつ、法悦境!」
そして、二人は二匹の獣になって、おのおのの肉体の欲望のなすがままを、相手の身体を
介して具現化していたのであった。
「あ……ひゃあ、スゴっ……ぐひっ」
青年は、初めて女性の余すところない秘奥に触れて、絡みつくものを感じて、爪先まで蕩
ける衝撃をジェットコースターのように何度も感じては果てて、それを繰り返していた。
尼僧は上になり下になり、白い指先で、口でもって歯でもって、足を絡めて胸を寄せて、
何度も何度も激しい愛撫を攻め立てるように繰り返す。
「さあ、どんどんいくわよ、どんどんね」
もはやそれは齢八十にも届く尼僧の言葉ではなかった。理屈は本能の前になんの意味も持
たなかった。


304 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 21:03:04 ID:d3dmzkKw Be:

夜を徹して行われた情事は、十にも届く絶頂の末に、ようやく終息しようとしていた。
絡み合って横たわるお互いの肌からは汗が流れるままになっており、そして強い芳香を醸
していた。
はあ、はあ、と荒い息をようやく整えつつあった青年は、
「……ようやく、分かりましたよ。いや、自分が分かってなかったってことをですけどね」
尼僧は青年の胸に指先を這わせると、少しだけ口元を綻ばせた。
「初めてだったんです、女の人とこんなことしたの」
「ええ、わかってますよ」
先ほどまでの昂ぶりが嘘のように、尼僧の口調は穏やかだった。
「そのわりにはなかなかのお手前だったようです」
褒められているのか茶化されているのか、青年は眉間に皺を寄せた。
「欲情をただ切り離そうとすることはできないし、しても他に歪みを生じるだけだっていう
ことを、あなたは身をもって教えてくれたんでしょう?」
尼僧は応えずに、ただ目を伏せたまま気持ちよさそうに静かな余韻に浸っていた。
「すごく、気持ち良かったですよ。今夜の事。僕の一生の思い出になると思います」
すると、その言葉に対して静かに頭を振って尼僧は、
「いいえ、それだけではまだ足りませんよ」
怪訝な顔をする青年に慈愛に満ちた視線を投げた。
「私は、今、アスカさんの、おそらく二十歳そこそこの肉体になっておりますが、これが、
およそ二週間ほどで、残念なことにもとの八十歳の老婆に戻ってしまうのです。だいたい
一日に五歳ほどづつ、齢をとっていく。元の姿に戻っていくというわけですね」 
女としての絶頂の姿にある今の尼僧があっという間に枯れてしまう。それは、あまりにも
残酷な変化になるであろうことは青年にも容易に想像されることだった。
「そして、あなた様には私が枯れてしまうその際まで、ずっと私のことを愛して貰いたいの
です」
明日になれば二十五歳、明後日には三十歳、そしてそのまた明くる日には三十五歳、と。
「あなたには、そうですね、一人の女の絶頂である春の季節から、冬枯れの季節までをずっ
と感じていただきたいのです。そして、そこからありのままの自分自身の気持ちをつかみと
ってもらいたいのですね、おわかりでしょうか?」
青年は、しばらくの間放心して虚空に視線を遊ばせていた、が、ややあって。
「ええ、わかりました。何がわかるのかはわかりませんし、もしかしたらわからないままで
おわるのかもしれませんけど……」
言いつつ、青年は尼僧の豊満な乳房の間に顔を埋めて、
「今は、ただ、こうしていたいです」
尼僧は返事に替えて、青年の頬をそっと撫でた。


305 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/06/11(金) 21:07:22 ID:d3dmzkKw Be:

そして、それから三週間後の朝のことであった。
庵の寝所には寄り添って身体を寄せる二人の男女の姿があった。
むろん、一人は青年であり、もう一人はあの尼僧であった。が、尼僧の姿は三週間前と変
わらないままであった。いや、正確にはつややかな黒髪が伸び揃って、ショートボブくらい
になっていたのだが。
「……ねえ、どういうことです。いつになったらあなたはお婆ちゃんに戻るんです?」
昨夜もまた激しい「お勤め」を済ませた青年は、揺れるような余韻に浸りながら、顔を寄
せる尼僧に口を尖らせた。
「いや、ははは、おっかしいですね。私も耄碌して、術が解けなくなってしまいましたか、
それともあなたがアレをしてくれる度に、強い意識が私の中に入り込んでいるのか……」
苦笑いをする尼僧は、青年のじとりとした視線を感じると、
「それともあなたは、私に早く腰の曲がったお年寄りに戻ってくれっていうのですか?」
拗ねたように上目づかいの視線を送ってくる。
その、あまりに甘やかな声色に、青年はまた、むくむくと情念を膨らませてしまう。
「早く、しわしわおっぱいの、手もぶるぶる震えて足も不自由な総入れ歯のお婆ちゃんにな
れ、なんてつれないことをいうのですかぁ?」
長い睫毛の奥から潤んだ視線を青年の心に流し込んでくる。もう、これで先は決まってい
た。
「そんな聞きわけないこと言うような悪い尼さんには、えいっ、こうだっ」
青年はにわかにのしかかって、尼僧の胸をわしづかみにする。きゅうっ、と張りのある乳
房が擦れる音がして、尼僧はひくんっ、と、蕩けるように表情を赤らめる。
「ああん、ダメっ、このカラダったら感度が良すぎるんだもの」
言葉とは裏腹にその気は満々、その日の朝も早くから二人して修練修行の一幕でありまし
た、と。

おしまい。

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最終更新:2010年06月13日 18:43