おばあちゃんの日 第2話

310 【おばあちゃんの日 2話】 [sage] 2010/06/12(土) 19:31:05 ID:CyT7ZEuZ Be:

変化は、肌の色だけでは止まらない。
次第に灰色がかる肌の色の一方で、表面にはどことなく鱗を思わせる線が走り始める。
変化はその肌の下でも起こっていた。それほど太くない腕から肉が次第に消えうせ、皮膚が濡れたビニールのように垂れ下がって、骨の形が露わになる。
腕の先にある指にもまた異変は生じていた。若い女性ならではの白魚のようの指が節くれ立った枯れ枝のようなものに変わる。
女子高生であるはずの麻由美の腕はいまや老人のように老いたものへと変化を遂げていた。
しかしその急激な老いは腕だけのものではなかった。少し栗色がかった髪に白いものが混じり始める。
白インクをつけた細筆が無数に走っているかのように髪の中に白いものが増えていく。いつのまにか、黒髪といっても差し支えなかった麻由美の髪は、白8黒2の白髪と変わり果てていた。
そして麻由美の顔。それこそもっとも顕著といえるだろう。
目元と口元に小さな皺が生まれたかと思うと、それはたちどころに深さと数を増していく。肌の色も腕同様に、灰色にくすみ、張りが失われ、頬の辺りが垂れ始める。
肌のくすみと皺のせいだろうか。その表情には、先ほどまでの快活さはほとんど残っていない。
1分前まで女子高生が座っていたその場所に今座っているのは、70歳ぐらいと思われる老婆の姿だった。
一方、麻由美の前に座っていた祖母の身体にも変化が起こっていた。
染めているとはいえ、ところどころに残っていた白髪が1本残らず消えている。
それどころか髪にはつややかさが蘇り、みどりの黒髪という言葉が相応しい美しいモノへと変わっている。
着物の袖から覗く手…その指も、老人特有の節くれ立ったものではなく、若い女性のような細く柔らかそうな美しい指だ。
そして何よりもその顔。そこにあるのは、いくら化粧をしても隠しきれない皺と染みに飾られた老婆のものではない。
どんな表情をしようとも皺の1つも浮き出しそうにない張りのある真珠色の肌、当然口元に浮かぶのは皺ではなくてえくぼだ。卵形の整った顎のラインが、その美しさを一段と強調する。
老婆となった麻由美の正面に座っているのは、着物姿の少女だった。

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最終更新:2010年07月12日 01:11