おばあちゃんの日 第3話

311 【おばあちゃんの日 3話】 [sage] 2010/06/12(土) 21:03:53 ID:CyT7ZEuZ Be:

【おばあちゃんの日 3話】
「麻由美。終わったよ。」
着物姿の少女が、鳥のさえずりを思わせる声で呟くと、彼女の前に座っていた老婆…チュニックとショートジーンズという服装が実に違和感満載だ…がうっすらと目を開けた。
思うように目が見えないのか、老婆は数度瞬きをした後、更に目をこらす。
「…ん…あ、おばあちゃんが若くなってる!あ、それにこの声。」
老婆の声は、その年齢に相応のしわがれて、どこかドラ声混じりのものだった。
「ふ~ん、やっぱり歳をとるとこんな風になっちゃうんだね。」
細い骨に肉のない皮膚が垂れ下がる、土砂降り後の傘の様な自分の腕を目の高さにまで持ち上げつつそう呟く老婆。
「ほら、これを観てご覧。」
着物の少女は、老婆に手鏡を差し出した。
「わー!顔もやっぱり歳とっちゃってる…皺だらけだし、あ、こんなところに染みもあるし、白髪だー!ふ~ん」
普通の女性なら忌避するような老齢の外見的特徴をむしろ歓喜混じりの声で呟く老婆。
「でも、このカッコウだと、なんか無理矢理似合わない若作りみたいで情けな~い。着替えてからすればよかったかなあ。」
老婆は自分の着ているチュニックを情けなさそうに見下ろしながら呟く。
「ほらほら、麻由美。なんでこんなことをしたがるのか分からないけど、どうせ、どこかに遊びにいくつもりなんでしょ。その格好じゃ怪しまれるだろうから、今何か用意するから着替えましょう。」
着物の姿の少女は、てきぱきとした動きでタンスの中を探り始める。
「あ、おばあちゃん、あたし、おばあちゃんが着ているみたいな着物がいいな。」
「はいはい。確かに、今の麻由美なら、おばあちゃんの着物も似合うだろうけど…あれ、もしかして、着物を着たいからこんなことしたいってわけじゃないよね。」
「うーん、ちょっぴりくらいそれもあるけど…本当の目的はナイショ。そうだ。折角だしおばあちゃんも、あたしの服とか着てみる。」
「それもいいけど、麻由美は一人じゃ着付けできないでしょ。ほら、早く今着ている服、脱いで。」
「はーい。」
老婆は早速着ているチュニックとジーンズを脱ぎはじめる。
今の外見からでは全く想像できないが、このチュニックにジーンズという若作りすぎる服装の老婆は先ほどまでの女子高生麻由美であり、地味な着物姿の少女は、麻由美の祖母であるらしい。
どういう理屈でこのような年齢の逆転が起こったのか不明のままではあるが、麻由美が、これを利用し老婆となることで何かを企んでいるらしい。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年07月12日 01:12