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おばあちゃんの日 4話】 [sage] 2010/06/13(日) 21:41:15 ID:tFbCympB Be:
「ほら麻由美。もっと腕あげて。それと背筋も伸ばしてないとダメよ。」
「は~い、けど腕疲れる~身体重い~」
「歳をとるってのはそういうことよ。この前のことで分かってるでしょ。それに麻由美はいい方よ。病気とか怪我とかしていないままでその歳になってる分、まだ楽なんだから。」
「はいはい。それよりまだ終わらないの?」
「着物の着付けっていうのは、それなりに時間のかかるものなの。もっともこの若い身体だからまだ楽だけど。」
ここまでの経過を知らない人間がみたら、かなり違和感があるというか不思議と思えるような光景だった。
70歳前後に見える老婆に着物の着付けをしているのは、その孫娘といってもいいような少女。しかも、老婆の方が女子高生のような話し方であるのに対して、少女の方はまるで老人のように落ち着いた話し方だ。
謎の力によって、老婆となった本来は女子高生である麻由美は、今は少女の姿になっている祖母に、着物の着付けをさせられている真っ最中だった。
「はい、これで終わり。」
「ありがとう。おばあちゃん。」
「じゃあ、次は髪の方をいじりましょうか。着物姿にこの髪型じゃおかしいし。ほら鏡台の前に座って。」
祖母である少女に促され、慣れない着物に少々苦労しつつも鏡台の前に座る麻由美。
10分弱後
「ふう、こんなものかしらね。麻由美の髪質はおばあちゃんに似ているから、かなりいじりやすかったけど。」
鏡に映っているのは、光沢抑えめの鶯色の着物に身を包み、総白髪の少し手前といった感じの髪をふんわり気味にアップにまとめた、物腰柔らかそうな雰囲気の老婆…いやこの場合は老婦人と呼んだ方がむしろしっくりくる…だった。
「そうそう、こんな感じになりたかったの。流石、おばあちゃん。」
「流石って、おばあちゃん、他にはほとんど知らないからね。こんなことで喜んで貰えるなら嬉しいけど。」
会話を聞かなければ、孫娘に髪を整えて貰って喜んでいる祖母といった光景だが、実際には立場が逆なわけで、なかなかややこしい。
「あ、そうだ。おばあちゃんも今は若いんだから、あたしの服、着てみてよ。」
「え、おばあちゃんが麻由美の服を?ちょ、ちょっと最近の若い子の服は恥ずかしいよ。」
「最近の若い子って、今はおばあちゃんも若い子になってるんだからいいじゃない。この前は、普段着みたいなブラウスとジーンズしか着てなかったんだしね。このチュニックとジーンズ…だけじゃちょっと寂しいし…ほらおばあちゃん、あたしの部屋にきて。」
立ち上がった麻由美は祖母の手を掴むと、そのまま自分の部屋へと引っ張っていった。
最終更新:2010年07月12日 01:12