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おばあちゃんの日 6話】 [sage] 2010/06/15(火) 22:26:17 ID:gQYQPXki Be:
「わあ!おばあちゃん!凄く似合うよ!可愛い!素敵!」
「そ、そうかい…自分が若くなっているとはいえ、ちょっとピンとこないねえ。」
最近ではやや希少に値する、控えめで奥ゆかしそうな雰囲気を漂わせた少女は、高校の制服に着られているといった感じで、自分の身体を見下ろしていた。
「やっぱり、細い方が可愛綺麗というのは鉄板なのよね~。おばあちゃんと分かっていても、ちょっと嫉妬しちゃう。」
「そんなこといわないでおくれよ。麻由美、おばあちゃん、恥ずかしいんだから。けど、最近の子のスカートが短いって知ってはいたけど、本当に短いんだねえ。これじゃ下着は丸見えだし、布が短すぎてまるでスカートそのものはいてないみたいで落ち着かないよ。」
そう呟きながら少女となった祖母は照れるようにしてスカートの裾を握った。
先ほどまでアップでまとめられていた髪はクロノヘアピンと輪ゴムから解き放たれ、前髪周辺が色取り取りのアクセサリつきヘアピンでかきあげられるようにもちあげられている。
この少女をみた人間が、彼女を女子高生と思うことはあっても、本当は70近い老婆であるとはとても思わないだろう。
「でも、ホントに可愛いっておばあちゃん。学校にもこんな可愛い子はそんなにいないんだから。」
「そ、そうかい…そう言われると悪い気はしないけど。」
「そうそう、今日はその格好でいてもいいんじゃない。」
「それもそうだねえ。夜まで誰も帰ってこないんだし。誰か来ても、麻由美の友達の振りとかしてやりすごせそうだしねえ。」
多少嫌がっていた祖母も、麻由美の色々言われるとその気になってきたようだ。
「そうそう。折角の機会と、この力なんだから、おばあちゃんももっと楽しんだ方がいいよ。」
「ところで麻由美は、いつまでもここにいていいのかい?やりたいこともあるようだし、モタモタしていると元に戻ってしまうよ。」
「あ、そうだった。じゃあ、ちょっと遊びにいってくるからお留守番お願いね。おばあちゃん。」
「あ、ちょっとお待ち。下駄とか巾着とか出してあげるから。」
5分後、片手にサイフや携帯電話を入れた巾着をぶら下げ、足元は着物の柄によく似合った落ち着いた色合いの下駄をはいた麻由美は玄関で祖母の見送りを受けていた。
「分かってると思うけど、麻由美、充分気をつけるんだよ。歳を取ると身体の力がおちるのは当然だけど、素早い動きもできなくて思うように動けなくなるからね。
それに耳も目も悪くなっているから、車とか気をつけるんだよ。気づいたら目の前に車がいたなんてこともあるんだから。」
「は~い、気をつけま~す。それよりおばあちゃんこそ、若い身体、ちょっとでも楽しんでね。どうせなら、近所を歩き回ってきてもいいんじゃない。」
「こんな格好を人様にみられるなんて流石に恥ずかしいよ。それより、麻由美。何をしたいのかは分からないけど、楽しんできてね。」
「は~い、じゃあ、いってきまーす。」
典型的とも言える格好の女子高生に見送られる形で、老婦人はその年齢にはそぐわない快活な返事と仕草と共に家を後にした。