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おばあちゃんの日 7話】 [sage] 2010/06/16(水) 19:37:49 ID:ca+sg0Zs Be:
「さって、いっくかなー!」
いつものノリで出発しようとしたところで、麻由美は今の自分が着物姿、しかも肉体は70近い老人のものになっていることを思いだした。
「あらまあ、私としたことが…ほほほほほ。」
誤咬ますように口元に手を当てると、麻由美は日傘…そろそろ初夏だけに日射病や熱中症への用心にと祖母がもたせてくれたものだ…をさし、しずしずと小さな歩幅で歩き始める。
着物にアップにまとめた髪型、落ち着いた雰囲気の老婦人が日傘をさして、ゆるりゆるりと歩く様をみていると、半径3メートル圏内が京都か奈良かというような錯覚に陥りそうになる。
幸いにも、まだ午前中だけに日差しはそれほど強くない。慣れない着物ではあるが、麻由美は10分ほどかけて住宅街を抜けて商店街に入る。
ふと、店舗の1つに目を向ければ、そのショーウィンドウガラスに映るのは、優しそうな表情を向ける老婦人の姿。
少し前まで、早く大人になりたいという思いだけが強くて、老齢に差し掛かった自分の姿など想像したこともない麻由美だったが、こうして落ち着いた雰囲気の老婦人になれるのなら、それもまんざら悪くもないと彼女は思っていた。
「さて、次のバスは…」
目当てのバス停まで辿り着いた麻由美はとりあえず時刻表を確認する。
「えっと、後10分か…どこかで時間をつぶす…ほどもないか…」
近くに行きつけの店も多いが、下手に足を伸ばしてバスに乗り損ねては本末転倒。しかも、その店の多くは、女子高生など若い子向けばかりで、今の麻由美のような老人が足を入れるような場所ではない。
他にバス待ちのお客もおらず、麻由美はベンチに腰掛けてバスを待つことにした。
(えへへへ、もしかしておばあちゃんに断られると思ったけど、うんと言ってもらえてよかった。あたしがおばあちゃんにならないと、こんなコトできないもんね。けどおばあちゃんがこんなことできるなんて思ってもみなかったよ。)
麻由美は、祖母が初めてこの年齢逆転をやって見せた時のことを思いだしていた。
最終更新:2010年07月12日 01:14