おばあちゃんの日 第10話

麻由美は慌てて室内を見回したが、どこにも祖母の姿は見あたらない。
この部屋にいるのは麻由美本人と目の前にいる着物姿の少女二人だけだ。
1分も目をつぶっていればその間に祖母とこの少女…たぶん、隣の部屋にでもいたのだろう…が入れ替わることなど簡単かもしれないが、そんなことをする意味が分からない。
「ねえ、あなた、一体だれ?おばあちゃんは、どこに…あ?え?あれ?あれ、声が…」
しびれをきらすように少女に問いつめようとした麻由美は自分の異変に気づいた。
「な、なに?こ、声が…」
いつも聞き慣れているはずの自分の声とは思えなかった。
声変わりは終わっていてもまだ甲高いところが残っている女子高生の声ではない。
ハスキーどころか、しわがれているといってもいいこの声。
「ほらほら、麻由美。これをみてごらん。」
目の前の少女が手鏡を差し出してみせる。
見覚えのない少女がなぜ自分の名前を知っているのか、怪しむ間もなく、その鏡を覗きこんだ麻由美は再び驚かされることになる。
見慣れすぎている自分の顔が映っていていなかった。
少なくともそこに映っているのは16、7歳の少女の顔ではない。
生気に乏しいくすんだ土色の肌、しかもそこにはまるで畑の畝のように幾筋もの皺が刻まれている。
頭の方も、総白髪とまでいかないまでも白髪混じりというより白い髪の中にところどころ黒いものが混じっているといい有様だ。
鏡に映っている顔はどうみても老婆、それも70歳前後のものとしか思えないものだった。
「な、なんなの。この顔…」
そう呟く声もまたしわがれたままだ。
「まだ分からないのかい。麻由美。まあ無理もないことだけど。」
少女の声で麻由美は我にかえった。
そういえば、この少女は何者なのだろう。そして祖母はどこにいったのか?
「あ、あなた、だれ?それにおばあちゃんは?それになんであたし、こんなことになってるの?」
「ちょっと落ち着きなさい。麻由美。おばあちゃんがさっき言ったこと思い出してごらん。」

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最終更新:2010年08月01日 08:57