おばあちゃんの日 第18話

445 【おばあちゃんの日 18話】 [sage] 2010/08/15(日) 20:32:57  ID:ddDw+QoS Be:
    今回、麻由美の方から祖母に年齢の入れ替わりをお願いしたのにはこういった経緯があったわけだ。
    多くの女性にとって、老いとは、むしろ忌み嫌うものであるはずでもある。
    だが、まだまだ成長途中、ある意味自分の身体の未成熟ぶりに不満をもっているような麻由美にしてみれば、年齢を重ねることへの途中経過をすっとばして、いきなり老婆に慣れると言うことは、むしろ日常を離れた刺激的な体験とでもいうべきものだった。
    バスの到着を待ちながら、バス停のベンチに腰をおろしながら、着慣れない和服の感触にくすぐったさにも似た感覚を覚えつつ、麻由美はその和服の感触を楽しんでいた。
    もし、祖母が了解してくれてまた老婆になれたら、今度は着物をきてみたいと、考えていたのだった。
    お祭りとかそういうイベントがある時でないと、着物を着るのはちょっと難しい。
    麻由美の祖母は着付けができるし、家には色んな着物もあるから、その気になればいつでも着物を着ることができるわけだが、その格好で町を出歩くとなればちょっと話が違う。
    お祭りとか成人式とかがあるのでなければ、麻由美のような年頃の女の子が、浴衣にしろ振り袖にしろ、街中を歩けばイヤでも人目をひく。
    それではまるで仮装かコスプレでもしているようなものだ。
    人目をひくのがきらいでもなくても、奇異な目でみられるのは流石に遠慮したい。
    だが、老婆…60を過ぎた女性が着物を着て歩いていても、それが少数派だとしても、それほど珍しくはない。
    いや実際には珍しいかも知れないが、老齢に差し掛かった女性が和服姿というのはある意味当たり前、不思議ではないという前提があることだけは確かで、麻由美にしてみても、どうせなら和服の似合う老婦人という役割を楽しんでみたいという気分になっていたのだ。
    そして、今、祖母の手で着せられた着物に身を包み、閉じた日傘と巾着を脇においてたたずむ麻由美は満足の体だった。
    髪も祖母の手でちゃんとアップにまとめられているし、鏡で今の自分が、和服姿の上品な老婦人となっていることは確認済み。
    いい意味で歳をとったという感じのこの姿でなら、色んな意味で、老婆としての生活を楽しめそうだった。

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最終更新:2010年09月30日 20:49