おばあちゃんの日 第19話

446 【おばあちゃんの日 19話】 [sage] 2010/08/15(日) 22:26:18  ID:ddDw+QoS Be:
    そんなことを考えていると、ようやくバスがやってきた。
    いつものように立ち上がろうとして、この年齢の膝と腰、更に着物が邪魔をしていつものように立ち上がれない自分に気づいた。
    片手で日傘を杖代わりに、そしてもう片手をベンチの背もたれに当てながら、改めてゆっくりと立ち上がる。
    「あら、おばあちゃん、大丈夫ですか。」
    少し離れた位置に座っていた中年女性が明らかに心配そうな表情で問いかけてくる。
    「あら、ええ、大丈夫ですよ。すみませんねえ。ご心配かけて。」
    少々の動きにくさと痛みはあるが、動けないわけではない。
    だが純粋な善意からこういった声をかけてもらえるというのはなかなかに新鮮な体験だ。
    「歳はとりたくないですねえ。さあ、年寄りは動きがゆっくりですから先にのってくださいな。」
    麻由美が無事立ち上がったことを確認しつつも心配そうな表情で振り返りながらバスに乗り込む女性。
    最近のバスはローステップということもあって、今の麻由美でもそれほど苦労しなくても乗り込むことができた。
    バス停の位置がターミナルから少し離れた場所からあることもあって、バスは7分の入り。当然、座席は総て埋まっていて
    「あ、おばあちゃん、どうぞ、座って!」
    麻由美が乗り込むと同時に、12.3歳ぐらいの女の子が跳ねるようにして座席から立ち上がって、麻由美に対して、席を指してみせる。
    「あら…」
    今の自分が老婆であるだけに、席を譲られる可能性も考えていた麻由美だったが、乗ったと同時に、それをされると、ちょっと付いていけないところがあった。
    「遠慮しないで。あたし、次の次で降りるし。」
    そこまで言われた上に、周囲の乗客の目もあるから、座らないわけにもいかない。
    「ありがとうね。折角だから座らせていただきますね。」
    その女の子の祖母ならこういうだろうと思えるセリフを考えながら口にする。
    麻由美が座席に腰を下ろす様をみて満足そうな表情を浮かべる少女。

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最終更新:2010年09月30日 20:50