わたくしが貴女で、わたしがアナタ!? 第1話~悪役王女の憂鬱~

618 :603:2010/10/26(火) 23:20:42 ID:+qjOHXV9
#例の「悪の女幹部←→戦隊ヒロイン」の入れ替わり話、書き始めてみました。と言っても今回は出だしのみですが。


1.悪役王女の憂鬱

 地球を周回する軌道上の宇宙船「ソルフォード号」。そのブリッジ近くに設置された豪華な船室で、ひとりの美女が窓の外を見降ろしていた。
 「地球、か……本当に美しい惑星(ほし)ね」
 安手のヒーローアニメなどであれば、それに類するセリフを吐く「悪の宇宙人」は多々見受けられただろう。そしてその台詞の裏には「だからこそ自分が征服・支配するにふさわしい」という感情があったはずだ。
 しかし、彼女が口にした言葉には、そういった打算とは無縁な素直な感嘆が感じられた。あえて言うなら、秘められていた感情は「羨望」だろうか?
 そう、この女性──真聖メナス星王家の第一王女であり、地球侵攻軍第二大隊の指揮官でもある姫将軍レイア・ソルフォード・メナスは、心の底から地球の美しさに感動し、心から慈しんでもいたのだ。
 (でも……そんな惑星をわたしたちは侵略しようとしている)
 自らに課せられた任務を思うだけで、レイアの心は沈んだ。
 170センチ近い長身とグラマラスなボディに、黒の生地に宝石の散りばめられたドレスを着て、極彩色の化粧を施した、典型的悪女然とした格好をしているが、レイア本人は内心この格好を気に入っていない。
 ただ、「星王家の人間の平時軍装」としての規定に従っているだけであり、レイア自身は、むしろ白や水色、ピンクといった色合いで、フェミニンなデザインの服装の方が好みに合っていた。
 また、性格面も、軍の指揮をとっている時こそ凛々しく、あるいは冷徹とも思える判断を下せるものの、本来の彼女は、古典的な意味での「お姫様」にふさわしく、花鳥風月を愛で、敵味方問わず失われる命に涙する、優しい女性だ。
 「ふぅ……疲れたわ」
 王家のひとり娘として(ただし、男子は兄と弟がひとりずついる)帝王学教育も受けてはいるから、戦闘指揮や戦術考案などもできないワケではないが、正直自分の性にはまるで合ってない……と常々彼女は感じていた。
 「……確か、地球時間で125時間後まで作戦行動はないはずよね」
 そのため、王家の姫としてははしたないことだが、レイアは「ソルフォード号」から抜け出し、「隠密調査」と称して息抜きに地球(大概は担当地区である極東)に降りることもしばしばだった。
 「また、爺やは怒るかもしれないけど……コレも指揮官の重責に耐えるためなの。わかってね」
 サラサラと書置きを残して、転送装置のスイッチ入れる。
 ──シュンッ!
 という僅かな空気音を残して、船室からレイアの姿は消え、ほぼ同時に地球上に秘密裏に設けられたメナス軍のセーフハウスのひとつへと現れる。
 「ふぅ~、ちょっと体が重いけど、やっぱり地球はいいわねぇ」
 セーフハウスと言っても、東京都内の某所にある高級マンションの一室であり、体重計に偽装された転送装置を除けば、メナスのハイテク関連の機器はひとつも見当たらない。
 典型的な「ひとり暮らしの若い女性の部屋」に偽装されているうえ、こうやってレイアが来た時にショッピングで買い込んだものなども置かれているため、仮に中を見られても、異星人の王女の別宅だとは思われないだろう。
 「さて、シュミの悪い軍装はパパッと脱いで……ケバいメイクも落として……っと」
 ひとりごちながら、レイアは全裸&素顔になる。


619 :わたくしが貴女で、わたしがアナタ!?:2010/10/26(火) 23:21:27 ID:+qjOHXV9
 実のところ、メナス星人の身体的外見は、ほとんど地球人と変わらない。色素の関係か肌の色が異様に生白く見えるが、それだって北欧出身かアルビノだと言えば誤魔化せる範囲だろう。
 ただし、星王家の人間は、地球人の自然な髪にはほぼあり得ない炎のように鮮やかな緋色の髪と、ルビーの如き真紅の瞳が特徴だ。もっとも、これらも染料やカラーコンタクトで十分隠せる。
 また、額の上部には命珠(ジェム)と呼ばれる、親指の爪よりふた周りほど大きな赤い結晶体が付着している。
 一見するとインド人女性のビンディのようだが、命珠はメナス星人が誕生の際に手に握って生まれ、生後まもなく額に着床させる半有機結晶体だ。
 主が経験した事柄をすべて記録しており、時には本人が忘れていることさえ思い出させてくれるという便利な記録媒体であり、テレパシー的な繋がりで主と簡単なやりとりもできる生きたAIでもある。
 さらに王族の命珠は、不可視領域の赤外線やX線も感知する優れた第三の目の役目も果たす。
 とうぜん重要度も極めて高く、本人の許可なく命珠に他人が触れることは家族であっても原則ご法度。同性であれば無二の親友、異性であれぱ生涯の伴侶にしか触らせないものなのだ。

 レイアは慣れた手つきで全身にスプレーを吹き付け、青白い肌を日本人らしい黄色みを帯びた肌色に変える。髪にも別のスプレーをすると、美容院でみられるレベルの赤茶色に変化した。
 「フンフンフ~ン♪」
 体色を変えると同時に、王女の重責も一時的に置き捨てたかのように彼女は上機嫌になり、鼻歌を歌いながらクローゼットからブラウスやスカート、カーディガンといった女の子らしい服を取り出して着替え始める。
 数分後、鏡の前には、一点を除いて(かなりの美人ではあるが)ごく普通の女子大生くらいの年頃の女性が立って、満足げに自分の姿を眺めていた。
 「これでよしっ、と……あ、忘れてた」
 残る唯一の奇異な部分──命珠のことを思い出すレイア。
 命珠を額から外すこと自体は主の意思があれば不可能ではないのだが、メナスの人間にとって何も付けていない額をさらすのは、日本人女性が頭を完全に丸坊主にするくらい抵抗感のあることだ。
 迷ったあげく、レイアはバンダナで額を隠すことにした。
 「うん、完璧ね!」
 厳密には、バンダナが若干野暮ったく浮いているのだが、まぁ、そのヘンは個人の趣味の範囲だろう。
 革製のポシェットを手に、レイア──いや、「日向麗(ひなた・れい)」と名乗る女性は、土曜の午後の繁華街へと足取り軽く出かけていった。

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最終更新:2010年11月22日 17:09