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天気晴朗なれど波高し

639 :名無しさん@ピンキー:2010/11/09(火) 11:37:50 ID:dKkLjA7q
保守代わりの小ネタです。

『天気晴朗なれど波高し』

 「ええっ!? あ、あたしに婚約者、ですか?」
 にこやかに笑う「両親」の前で目をパチクリさせている少女は、現在「敷島桜華」(しきしま・おうか)と呼ばれていた……が、その名は本来彼女のものではない。
 元々、彼女は山本小枝(やまもと・さえ)と言う、ごくありふれた一般庶民の娘だった。
 いや、父親がリストラにあって40過ぎでフリーターのような真似をしており、母親のパートと小枝自身のバイトも足しにして、どうにかまともに暮らしていける……そんな生活レベルだ。
 長女の小枝以外に、年の離れた弟妹がひとりずつおり、経済的に決して楽ではなかった。
 そんなある日、バイト先のファミレスに、何の酔狂か敷島財閥の令嬢である桜華が取り巻きを連れてやって来たのである。
 実は、桜華と小枝はクラスメイトとして一応の面識はあった。
 もっとも、小枝にとっては「すごいお金持ちのお嬢様、いいなぁ~」という憧れの対象であり、桜華にとっては「フッ、冴えない小娘ね」といった程度の認識ではあったが。
 ウェイトレスをしている小枝を見た桜華が、いつもの気まぐれを起こし、「わたくしもその制服を着てみたいわ」と言い出したのが、そもそもコトの始まりだった。
 「ええっ、そ、そんなコト言われても……」
 人の良い小枝はあたふたしている。店長もチェーン店オーナーの娘である桜華の突飛なワガママに苦い顔をしつつ逆らえないようだ。
 ただ、間が悪いことにちょうどクリーニングに出して予備の制服などがなかったため、仕方なく同程度の身長の小枝が今着ているものを貸すことになったのだが……。
 「ちょっと! 入りませんわよ?」
 幼い頃から最高級の料理を食べ、適度な運動その他で鍛えられた桜華の高校1年生とは思えぬグラマラスボディに、質素な食生活からスレンダーな体型にならざるを得なかった小枝の制服は窮屈すぎたらしい。
 普通なら、そこで話は終わるのだろうが……これまで事態を静観していたフロアマネージャーの諒子が、ふたりに奇妙な提案をしてきたのだ。
 「では、桜華お嬢様、その制服が入る体にしてさしあげましょう」
 と。
 さして考えることもなく、桜華がその提案に頷いたことで、現在のようなややこしい事態に陥っているのである。

 諒子の提案に対して、まるで催眠術にかかってでもいたかのように、ふたり──桜華(おうか)と小枝(さえ)はそろって頷いてしまっていた。
 そのあとのことは、夢、それも悪夢のような出来事だった。
 桜華から小枝に制服を返させて、ふたりが服装を整えると、諒子は懐から革製のチョーカーのようなものを取り出した。
 それを彼女たちの首に巻くと、ふたりは身動きひとつできなくなる。
 「は~い、ココで注目ぅ~!」
 楽しそうな表情で諒子が桜華の頭部に手をかけると……まるでマネキン人形のように、ポロッと取れてしまったではないか!
 同様にして小枝の頭部も取り外すと、そのまま桜華の体に載せ、シュルッとチョーカーを外す。
 「あ、動ける……」
 首から下が桜華になった状態のまま、足踏みしたり、両手をニギニギさせたりしている小枝を尻目に、諒子は今度はテーブルに置いた桜華の頭を小枝の体につないだ。ただし、コチラはチョーカーを外さないまま。
 「ホラ、桜華お嬢様、これでキチンとこの店の制服が着れましたよ?」
 「な、な、な……なんですの、コレはーーーっ!?」
 茫然自失の状態から我に返ったのか、大声をあげる桜華。慌ててペタペタ体を触っているが、無論、そこにあるのは小枝の体だ。
 「──「山本さん」、いくらバックヤードだからって、そんな風に大声を上げるのはNGですよ。女性としてもはしたないですし」
 落ち着いた声で諭すフロアマネージャーの諒子。
 「だ、誰が山本ですの、誰が!」
 「もちろん貴女よ、「山本さん」。ほら、そこにも書いてるでしょ?」
 諒子が指さす先、桜華の胸元にはウェイトレスらしくネームバッジが付いている。無論、そこに書かれた名前は小枝の苗字である「山本」だ。
 「え……」
 一瞬呆気にとられた桜華に、畳み掛けるように諒子が話しかける。
 「さ、休憩時間は終わりよ。そろそろ夕食時になって忙しくなるんだから、「山本さん」もフロアに戻って頑張ってね。あ、「桜華お嬢様」のお相手は私がするから、気にしなくていいわ。さ、もぅ行きなさい!」
 「は、はい……」
 あれほど高慢で傍若無人なはずの桜華が、どういうワケか唯唯諾諾と諒子の指示に従い、「バイトのウェイトレス・山本小枝」としてフロアに戻って行くのを、小枝はポカンと口を開けて見ているしかなかった。
 「さて……と。小枝ちゃん?」
 「は、ひゃいッ!!」
 微笑む諒子にポンと肩を叩かれて、思わず声が裏返る小枝。
 「もぅ……そんなにビクビクしないでよ。小枝ちゃんに何かするつもりはないんだから」
 見れば、諒子の表情は、先ほどまでのどこか冷たさを感じさせるアルカイックな微笑ではなく、小枝も見慣れた「優しくて頼りになるお姉さん」としての笑顔だったので、小枝もわずかに緊張を解く。
 「あのぅ、諒子さん、これは一体?」
 「うーん、一応ヒミツなんだけど、ま、いっか。私ね、実は魔女の家系なの」
 普段なら魔法とか奇跡とかの類はあまり信じてない常識人の小枝だが、そっきのアレ、そして現在進行形で自分の身に降りかかっている事態(首のすげ替え)を見ては、信じないわけにもいかない。

 「はぁ……それで、どうしてこんなコトを?」
 「あの、高慢ちきなお嬢様の振る舞いに我慢しかねたから、って言うのと……それと、けなげないい子の小枝ちゃんへのご褒美、かな」
 「?」
 「あのね、首から下が入れ替わったこの状態だと、術をかけた私と、被術者であるあなたたち二人、そして特に二人に縁の深い家族とか恋人とかでない限り、周囲の人間は、その「体」に応じた人物として認識しちゃうのよ」
 「ええっと、つまり、今の状態だと、あたしが敷島さんで、敷島さんがあたしだって、周りの人には見えるってことですか?」
 「うん、大体そんな感じ。でね、小枝ちゃん、お家のことが大変なのに、いつも笑顔で頑張ってるじゃない? せっかくの機会だから、2、3日「お嬢様」として羽を伸ばして来なさいよ」
 そういうことかと、小枝は諒子の意図を了解したが、素直にうなずくには気がかりなコトもあった。
 「でも、敷島さんの方は、どうするんです? 彼女の性格じゃあウェイトレスは勤まりそうもないし、あたしの家のコトだって……」
 「ふふ、その点も心配無用よ。ホラ、見てごらんなさい」
 促されて、店の方を覗いてみると、なんとあの桜華が文句ひとつ言わずウェイトレスとしての仕事に励んでいるではないか! しかも、アルバイトなど初めてだろうに、接客態度その他もまったく問題ない。
 「あのチョーカーを付けてるとね、頭の思った通りに体が動くんじゃなくて、体にふさわしい言動を頭がとるようになるの。お嬢様がアレだけキビキビ動けているのも、小枝ちゃんの普段の真面目さのおかげね」
 無論、チョーカーを外した小枝の方は、とくに差し支えなく思ったとおり動けるそうだ。
 「お嬢様の家には、店の外で待ってる取り巻きの人たちが連れていってくれるでしょ。クルマで来てるみたいだし。お嬢様暮らしに飽きたら、戻してあげるから、またお店にしらっしゃいな」
 そう言って、諒子は小枝(ただし、周囲から見れば「敷島桜華」)を店の裏口から送り出したのだった。

 「困ったなぁ……」
 広いとか贅沢とか言う表現すら生温い、まさに「大金持ちのお嬢様」の部屋で、天蓋付きのベッドに腰掛けたまま、ポツリと呟く小枝。
 諒子の言葉通り、店の前には敷島桜華の取り巻き(従者?)達が待ち構えており、あれよアレよと言う間に、首から下が桜華の肉体となった小枝は、リムジンに乗せられ、この敷島邸へと連れて来られた。
 もっとも、諒子いわく、今の小枝はごく一部の例外を除いて他の人間には「敷島桜華」にしか見えないらしい。それは取り巻きやこの家の使用人の態度からしても間違いないようだから、この場合「自宅に帰った」というべきなのだろう。
 あまりに非常識な事の成り行きに流されていた小枝だが、自室──無論、桜華の部屋のコトだ──に「戻って」ひとりになると、ようやく現状に対する認識と実感が追いついてきた。
 諒子がした行為自体については責めるつもりはない。彼女自身、桜華のあまりに身勝手な言動には腹を据えかねていたからだ。
 だから、言うならば桜華に対する「おしおき」の片棒を担ぐようなこの事態に協力すること自体は、やぶさかではない。
 また、それなりに諒子の性格を知っているから、彼女が嘘をつく──たとえば、元に戻してくれない──ような事態も、まずないだろうと思っている。
 ついでに言うなら、彼女とて苦労はしているが17歳の女子高生。普段目にすることのないセレブ(笑)の生活に対する好奇心だって、それなりにある。
 では、何が問題かと言えば……。
 「敷島さんのご家族に会ったら、すぐに娘じゃないってバレちゃうじゃない」
 諒子の説明によれば、この魔法(の眩惑)は、「縁の深い家族とか恋人とかでない限り」通用する。つまり、逆に言えば家族にはモロバレということだ。
 「そういう意味では、片手落ちな魔法だよね、コレって」
 誰にも自分──「山本小枝」だとわかってもらえないというのも、それはそれで恐い話ではあるだろうが、少なくともそちらのほうが、まだ実用的な気がする。
 頭を捻ってはみたものの、上手い解決法が浮かばない小枝だったが、ふとベッドの上に放り出したポーチ(無論、桜華のモノだ)の中で、携帯電話が鳴っているのに気がつく。と言っても、通話ではなくメールの着信音のようだが。
 一瞬躊躇したものの、思い切ってケータイを開く小枝。折よく、と言うべきか、今着信したメールは諒子からのようだ。
 ──心配性な「お嬢様」に朗報! コッチの「山本さん」のチョーカーには偽装機能が装備されてるから、山本家に帰っても心配ありません。たぶん、ソッチもね!

 「そっか。そーいう問題もあったよね、確かに」
 チョーカーによって「山本小枝」っぽく行動を制限されているとは言え、あの顔の少女が山本家に帰れば確かにひと騒動あったろう。
 その心配がなくなったのは良かったが、しかしコッチはどうすればよいのだろう? 小枝はチョーカーを外してもらっているのだが……。
 小枝が首を傾げているところにノックの音が聞こえた。
 「お嬢様、環です」
 「あ、はい、どうぞー」
 声からして、出迎えてくれたメイドさんのひとりだろうとアタリをつけて、入室を許可する。
 「失礼します。お召し替えをお手伝いに参りました」
 (おめしかえ……って、ああ、着替えのことか)
 本来なら、「子供じゃないんだから、ひとりでできます」くらいは言うのだか、あいにく今の小枝は「桜華」として認識されているのだ。
 下手に断って不審を抱かれるよりも、素直に手伝ってもらう方がいいだろう。実際、小枝には、この部屋の何処にタンスがあって、何を着たらいいのかもよくわかっていなかった。
 「ええ。それじゃ、お願い」
 できる限り桜華っぽく振舞おうと、横柄に返事したつもりなのだが、メイドの環さんは一瞬目を見開いて驚いたようだ。
 (アチャ~、何か失敗したかなぁ?)
 とは言え、何が間違ったのかわからない小枝にとっては、そのまま流すしかない。
 後日、仲良くなった環に聞いたところ、
 「かつてのお嬢様は、普段は「お願い」どころか、返事さえロクにしてくださらない、それどころか「遅いわよ!」なんて文句ばかりおっしゃる方でしたから……お召し替えの最中も、いろいろ気を使ってくださいましたし」
 と、聞かされて、「あの人、どんだけ高飛車なのよ」とドン引きすることになるのだが、それはまた別の話。
 とりあえず、外出用の凝ったドレス(としか思えない服装)から、比較的ゆったりした着心地のよいワンピースへと、小枝は着替えさせてもらった。
 「その……お父様とお母様は?」
 ついでに、「毒を食らわば皿まで」という心境で、両親について尋ねてみた。「お父さん、お母さん」ではお嬢様らしくないか、と少し気取った呼び方をしてみる。
 「はい。先ほどお嬢様が外出なさっている間に、ご連絡が入りました。予定どおり、明後日の夜に帰国されるご予定だそうです」
 「! そ、そう」
 (ハァ~、よかったぁ)
 国外出張か何かだろうか? どうやら、ふたり揃って不在らしいのは、小枝にとって幸いだった。

 「お嬢様、本日はお食事は何時ごろになさいますか?」
 内心ホッと胸を撫でおろす小枝に、環が尋ねる。
 一瞬ワケがわからなかったが、どうやらここの桜華は好き放題な時間に夕飯をとっているらしい。
 母なり自分なりが夕食を作り終えた時が夕飯時……という山本家にはない習慣だ。
 「えっと……何時頃から食べられるの?」
 だから、つい、そんなことを聞いてしまう。
 「は?」
 「いや、だから、厨房の方でいつ夕食の用意ができるのかな、って」
 言いかけた言葉が尻すぼみになる。
 おそらく、いや間違いなく、本物の桜華なら、そんなコトを気にしたりせず、自分の希望を通すのだろうが、諒子に「苦労性」と評された小枝には無理な話だった。
 「は、はぁ……料理長に聞かないと正確な時間はわかりませんが……おそらく、19時ごろではないか、と」
 午後7時なら、山本家の夕飯時と大差はない。
 「じゃあ、その時間でいいわ」
 「はい。では、用意ができ次第、お迎えに参ります」
 「ええ、お願いするわね」
 三度面喰ったような表情を披露しつつも、瞬時に居住まいを正し、環はいかにもメイドらしい一礼を残して、桜華の部屋を出て行った。
 ──バタン!
 扉が閉まり、ドアの向こうの気配が遠ざかるのを確認してから、小枝はボフンとベッドの上に寝転がる。
 「ふわぁ……き、緊張したぁ」
 どうやら、いくつかミスはしたみたいだが、とくに怪しまれるまではいってないようだ。
 「それにしても、ご両親が海外旅行中なのは運がよかったなぁ」
 メイドの環によれば、明後日の夜に戻ってくるらしい。
 (てことは、明後日の午後に戻ればいいわね)
 たしか、明後日の土曜も「山本小枝」は午後にバイトのシフトが入っていたはずだから、その時にでもファミレスに行って諒子に頼めばいいだろう。
 そう考えると、今までイッパイいっぱいだった小枝の心にも、多少余裕めいたモノが生まれてきた。

 他の人間の反応を見る限り、自分はあくまで「敷島桜華」として認識されてるみたいだし、2日間くらいなら「お嬢様ライフ」を、堪能するのもいいかもしれない。
 ふと、視点を下方に移動させると、仰向けになってもほとんど形の崩れないふたつの膨らみが、目に入って来る。
 「お、おっきぃ」
 ──ゴクリ………
 なぜか、思春期の少年みたいに唾を飲み込んでしまう小枝なのだった。

#とりあえずは、ここまで。無論、次回は「サエちん、お嬢様のグラマラスボデーを探求するの巻」です。貧乳娘が突然巨乳になったら、やっぱりいろいろ興味津津だと思うんだ。

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最終更新:2010年11月26日 16:37