アットウィキロゴ

麻美と美由紀

「何言ってるの、アンタ?」
「だから私、あなたになってみたいの。」

エレベーターという密室の中で、二人の女の声が響いた。

麻美と美由紀は、高校時代からの同級生。
昔から華があった麻美と違い、美由紀は地味な存在だった。

そんな二人が再会したのは、同じ大学の薬学部だった。
麻美は浪人し、美由紀の2年後輩として入ってきた。
大学でも構内で顔を合わせる程度だったが、麻美が同じ会社に就職し、
さらに同じ研究室に配属されてきた。
同僚の反応は、美由紀が配属されたときとは、随分な違いだった。


美由紀の脳裏に、あの日の光景が蘇った。


高校2年生の頃、美由紀はある男子に想いを寄せていた。
「それなら美由紀ちゃん、私が伝えといてあげる。」
修学旅行で同じ班になった美由紀は、消灯時間後の会話の中で、
麻美に想いを知られてしまった。

1週間後、告白し断られた美由紀。
暗鬱とした気分の中で見たのは、その男子と麻美が手をつないで楽しげに帰る姿だった。

麻美がこちらを見て、蔑むように笑ったのを美由紀は鮮明に思い出したのだった。

「あなたが入ってきたときに、思い出したの。奥底に埋めていた記憶なのに。
 どうせ二人で馬鹿にして笑ってたんでしょ?」
「そうよ、だから何なのよ今更、おかしいんじゃないの?
だいたい、あんたなんかがあいつにOKされるわけないでしょ。
ま、3年前に私から振ってやったけど。」
そういう麻美を遮るように、美由紀が捲くし立てた。
「おかしいのはそっちよ。本当のあなたの顔も知らないくせに、
あなたの猫かぶりに騙される男も、騙して平気なあなたも。」

男の前では自分にも優しげに振舞う麻美が、なおさら美由紀には許せなかった。
何を言っても信じてもらえないこと、
そして言った所で自分に何のメリットもないことも長年の経験で分かってしまっていた。

でも… 許せない…


211 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/01/24(土) 02:21:29 ID:oWiESLng
「逆恨みもいい加減にしたら。醜いから。」
「あんまり酷い事言わないほうがいいんじゃない。あなたこの体になるんだから。
一重瞼にメリハリのない顔と体…」
不気味な笑みを浮かべる美由紀に、ただならぬものを感じながら、
麻美は強気に切り返した。
「そうね、私に比べれば。」

年齢を考えれば、幼児体型というよりおばさんっぽい、ということになるのだろう。
小さな背に主張のない胸と、緩んだヒップ。
対照的に、麻美は何を着ても目立つ胸。
端正な顔立ちは少し厚めの化粧で、より引き立てられている。
膝丈のスカートからすらりとした、それでいて美しい曲線を描く脚が伸びている。

「自分が何言ってるか分かってんの?
狂ってるわよアンタ。エレベーターだって、あんたが止めたんでしょ!」
薄いプラスチック板がボタンの下に散らばっていた。
「そうよ。だって、このエレベーター、古いから監視カメラもついてないんだもの。
それに、この時間なら警備員もいないし、来るとしても時間かかるし。
一つ言っておくけど、しばらくしたらあなたは狂ってる『私』になるんだから。もう、今のうちにアンタって言っとこうかな。」


212 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/01/24(土) 02:22:04 ID:oWiESLng
現実離れしたことを口にしているのに一歩も引かない美由紀を前にして、
麻美は恐怖さえ感じるようになった。
「できるもんなら、やってみなさいよ。」
待ってましたと言わんばかりに、
美由紀はポケットに手をやった。麻美は気にも留めなかった。
「いいのね、その体に未練はない?」
「未練?馬鹿じゃないの。」
「猶予をあげたのに…人の親切はありがたく受け取るものよ。」
少し目線を落としながら言うと、すかさず美由紀は麻美の脚に注射針を突き刺した。
「何すんのよ!」
美由紀は突き飛ばされる直前に思い切りシリンジを押した。
麻美の太ももに鋭い痛みと鈍い痛みが混じり合う。
エレベータの壁に体をぶつけた美由紀。
一瞬痛そうな表情をみせたが、すぐに立ち上がった。
白黒のマットの上には、鋭い針が露出した注射器が転がっている。
麻美は刺された場所を押さえながら非常呼び出しのボタンを押そうとしたが、
すでに力が入らない。
崩れるようにその場に倒れた。
「何したのよ。」
「大丈夫。筋弛緩薬だと呼吸筋にも効いて死んじゃうから、鎮静剤の倍量を打ったの。即効性があるから、もう効いてきたかしら。」
さっきと同じように微笑をたたえる美由紀の顔を見て、麻美は同じ台詞を吐いた。
「狂ってるわよ。」
「目覚めたら私の体よ。最後に今の体の感触を確かめておいたら。
まあ、それが自分の体だったって記憶もなくなるんだけど…」
「馬鹿じゃないの…エレベーター開いたらあんた警察、行き…」
自分の体を弄ることもなく、強弁を吐きながら、麻美は意識を失った。


213 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/01/24(土) 02:22:28 ID:oWiESLng
(さてと、さすがに止まった連絡くらいは行ってるころね。騒ぎになる前に始めないと)
美由紀はベージュ色の自分のバックから別の注射器を取り出した。
麻美の髪を結っていたゴムを解き、きつく腕に巻く。
肘に見つけた血管に注射器を刺し、中身を注入する。
(20分は来ないで…今のうちに服を変えておこうか)
ガーゼを刺し口に押し当て、ゴムで留めた。
美由紀は自分の腕を縛り、注入する。
(私はまず買わないわね、こんな色)
同じ色のファーの付いた黒のバッグ。
麻美のバッグからゴムを取り出し、同じように傷口を留める。
うつぶせに倒れた麻美を仰向けにした。
(重い…)
力なく腕が左右に広がる。
ピンクのウールのコートの下は、白の上下のアンサンブル。
ほのかに甘い香水の匂いが立ち込めた。
袖を脱がすのに一苦労した後、ブーツを脱がし、
黒い革のミニスカート、黒のストッキングを脱がした。
(こんなの履いてるから、刺されるのよ。私みたいにジーパン履いてればねぇ)
「フフ、でもこれから私が履くのか…寒そう…」
下着を外しながら、美由紀は1人笑みを浮かべた。
全裸になった麻美。
しかし、いつもよりバストが小さい感じがする。
(もう効果が出始めたかな)
美由紀は自分の胸に圧迫感を感じ始めた。ジーパンがきつくなる。
急いで自分の服を脱いでいく。
(おおぅ)
今までの自分にない谷間。くびれもある。
直後に全身の痛みが襲う。
思わずかがんだ目の前の麻美の脚が、縮んでいく。
(ということは私が伸びてる…うっ…)
あまりの痛みに美由紀も意識が朦朧とする。


214 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/01/24(土) 02:23:14 ID:oWiESLng
5分経っただろうか。
美由紀が目を覚ます。
(寒い…)
お互いの服が散乱したエレベーターの中。
自分の付けていたAカップのベージュのブラジャーを着けようとした。
しかし、背中まで手が回らない。真下を覗いて気づく。
(そうだ…)
美由紀は麻美のバッグを漁る。
自分は普段、鏡など持ち歩いていないからだ。
ピンクの手鏡を見つけると、美由紀はゆっくりと開いた。
二重瞼にパッチリとした瞳。手鏡を持つ腕に伝わる胸の感触。
手鏡を胸に抱きしめ、美由紀は喜びを露わにした。
その下に転がる自分の体。
「美由紀ちゃん、どうしたの?」
わざとらしく、美由紀は美由紀になった麻美に話しかける。
「服着なきゃ。」
美由紀は麻美の付けていた黒のブラジャーを手に取る。
「へぇ、Eカップね。」
ショーツを穿き、黒のストッキングを重ねる。
白の上下のアンサンブル、黒の革のミニスカートを身に付けた。
最後に、キャメル色のブーツを履く。
「どこからどうみても麻美ね」
いつもより高い目線。
下を見ても、乳房が邪魔をしてウエストもブーツも見えない。
「さてと、美由紀ちゃんの服を着せないと…」
かがむと真下に見える谷間。
いつもと違う景色に戸惑いながら、美由紀は自分の服を着せていく。
小さな胸、くびれのない寸胴な体。
「メリハリないわね、私に比べると…」
麻美の口調を真似る美由紀。
もはや、麻美が言っているようにしか聞こえないのだが…
十数分前とは全く変わってしまった互いの体。
服を着せ終わる頃、あるものに気がついた。
麻美が付けていた指輪。
「証拠物件にされちゃう。」
そう言いながら、美由紀は右の中指から指輪を外した。
指も太くなり、なかなか外れない。
ねじりながらようやく外す。
自分の手から伸びる細く長い指先。
同じ中指に指輪をはめた。
「これで完成、と。」
「そんなことないですよぉ…」
同僚から口説かれているときの麻美の口調を真似した美由紀。
自分の低めの声とは違い、可愛い高い声。
自分のものになった感覚を噛み締める。


215 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/01/24(土) 02:28:41 ID:oWiESLng
そんなとき、真下で気配を感じた。
麻美が目を覚ましたのだ。
「おはよう、美由紀ちゃん。」
違和感を感じながら麻美は起き上がろうとするが、
壁にもたれかかるのが精一杯だった。
「何で、あたしがいるの?」
「まだ、元の記憶があるのかしら?」
麻美は意識を失う直前を思い出した。
顔を、胸を触る。
「あたしじゃない…」
「そうよ。」
手鏡を麻美の前にかざす。
「いや、何これ…」
「だから言ったじゃない、私、あなたになりたかったの。
間違えちゃった、『あたし』って言わなきゃ。」
「いやぁ!」
悲鳴を上げた麻美の頭を押さえ、再び顔を手鏡の前に向ける。
「あなたは美由紀。」
「違う。」
「じゃあ、こんな顔した人、他にいたっけ…」
恐怖に怯える麻美。周りからは美由紀が恐れ慄いているようにしか見えない。
美由紀は立ち上がった。
「アンタも立ちなさい。」
「何これ。」
白いブラウスにデニムのジーンズ。いつもの胸の重さがない…
弛んだヒップ。目の前にある白いニット生地の膨らみ。
そして、見上げないと視界に入らない自分の顔。
「だからぁ、あなたは美由紀。まだ、わかんないの?」
「違う、私は麻美よ。」
「『私は麻美よ!』かぁ。フフ、そんなこと言って。
私が麻美。みんなはどっちを信じるかしら。」
「夢よ、こんなの。」
「夢ならいいのにねぇ。」


216 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2009/01/24(土) 02:35:38 ID:oWiESLng
「戻しなさいよ!ねぇ、戻し…」
胸倉をつかんだ麻美は、肩で息をし始めた。
「何、なんなの…」
「あなたは誰?」
「あたし、あたしは…あたしは…」
「美由紀よね。」
「違う。」
「じゃあ、誰?」
「わたしは…わたしは」
「大丈夫、ちゃんとうまくやるから。」
不敵に笑う美由紀は、まるで本性を顕した麻美のようにも見えた。
また壁にもたれかかる美由紀の体。
次第に視点が定まらなくなる。
「美由紀ちゃん?」
「麻美ちゃん?なんで、私麻美ちゃんといっしょにいるの?」
「エレベーターが止まっちゃったから…
もうすぐ助けがくると思うけど。美由紀ちゃん、気を失っちゃったのよ。」
「そうか、麻美ちゃんが助けを呼んだんだ…ごめんね、迷惑掛けちゃって。」
「いいよ、別に。」
(嫌だわ、こうやって意味もなく相手に媚びるのって。
でも、それももう終わり。私は麻美…)
「どうしたの? 麻美ちゃん。」
「うぅん、なんでもない。早く来てくれるといいね。」
『麻美』は『美由紀』に優しく返事をした。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年02月25日 23:38