『あっついなー、早く終わらないかなぁー』
夏も近づく梅雨明け間近の教室、苦手な数学の授業中に、沙耶香は机にラクガキをしなが
らひたすら時間が過ぎるのを待っていた。
ボワ~ン!!と、突然いかにもな音と閃光、それに白い煙までつけてそいつは出現した。
「おわぁっ?」
「キャーッ!」
「な、何だぁ?」
皆逃げ腰で立ち上がり、騒然とする教室の中を見回すと、そいつは優雅に首を振ると、こ
れまた優雅に手を一振りした。瞬時に皆の声も騒音も消え、活人画のごとく動きが縫いと
められると、それはようやく口を開いた。
「やれやれ、ずいぶん賑やかな所へ出てしまったものだ。」
その口から綺麗な日本語が発せられる事が強烈な違和感をかもし出す。なにしろ異様な風
体と言ってよかった。二メートルは有るかと思われる見上げるほどの長身の男。均整の取
れた体つきに端正な、しかし絶対に日本人にはあり得ない堀の深い風貌。綺麗に整えられ
た輝く漆黒の髪と髭がいっそ不似合いに感じるほどだ。その美丈夫が、黒を基調としたと
ても古いスタイルのように感じられる見たことも無い服装に身を包んで、静かに立ってい
た。
「さて、、」
明らかに只者でないと判る者が獲物を探すかのごとくあたりを見回すのは恐ろしい。
『い、一体なんなのよー?』
ビクつきながら見つかりませんよーにと首をすくめていた沙耶香だったが、程なく謎の男
の目が自分をとらえ微笑するのを見た。
「私を呼んだのは君かね?」
「わ、私っ?」
「そうだ、その魔方陣で私を呼んだのだろう?」
「ま、魔方陣?」
思いもかけぬ問いに愕然として見下ろすと、確かに机の上には何やらそれらしき円形の模
様をラクガキしていたのだが。だけどこれは?
「メールで出回っていた、これっ?」
「まあ多少不完全ではあったがね、何しろ久しぶりの事だ。興味を覚えて来てみたのだ
よ。」
『ど、どうなってるのよ、魔方陣で呼び出すって…』
「あ、あんた、、誰?」
混乱しそうになりながらそれだけ言うのが精一杯だった。その反応が面白いのか、僅かに
男の微笑が強くなったように感じた。
「私か?私はそうだな、人間たちが神とか悪魔とか言うものに近いかな。」
「か、神様と悪魔じゃ、全然違うじゃない?」
「どうも人間の認識は不完全な様でね。それはともかく、なにしろ久しぶりの召還である
し、贈り物として、ひとつ祝福はどうかね?」
「祝福?」
「そうだな、何か一つ君の願いを叶えてあげよう。」
「ホント?」
「ああ、といってもこの世界を壊すわけにはいかないので、あまり世界に大きな影響を与
えないものに限るがな。」
「願いねぇ…」
『多分お金持ちとかは OK なのよね。でもウチはそう不自由してるってわけじゃないしぃ。
せっかくだから、やっぱり…』
ちょっと考えてから沙耶香は思い切って一つ頼み込んでみることにした。
「胸おっきくして。」
「胸?」
日ごろの鬱憤が溜まっていたのか、怪訝な顔で覗き込んでくる男に沙耶香はまくし立てた。
「だって、ホラこんなにおっぱい小さいんだもん。いっつも貧乳って馬鹿にされてるみた
いで。」
「脂肪の塊が欲しいのか?」
意外だという感じの呟きに、沙耶香はまた馬鹿にされたような気がして、叫ぶような調子
で返した。
「そ、その脂肪の塊が重要なんじゃない。」
男が僅かに首を振ったような気がしたが、どうやら本気だと分かってもらえたようだ。
「ふーむ。ではこの部屋に居る者のうち、最も乳とその下の胴回りの差が大きな者と体形
を入れ替える。それでどうだ?」
『乳の下の胴回りって、アンダーバストの事だよね。って事はぁ、優子だw。』
「ひっ!」
誰かの声がした。見回すと優子が蒼白になってこちらを睨みつけているのに気がついた。
男との会話は皆聞こえていたらしい。
『優子の体凄いもんね。ウエストは細いし手足も長いし、なにしろ F カップのプリプリ
おっぱい。私と体つきを取り替えたら大損だもんねw 』
優子の表情を見ていたら、もうそれしか無いという気分になってきた。ごくりと唾を飲み
込み、吐き出すように答えた。
「いいわっ、それでお願いっ。」
「ふむ。」
また僅かに微笑むと、男は優雅に手を振った。と、同時に沙耶香は全身が泡立つような感
覚に包まれた。歓喜とともに体が作り変えられていく予感を覚える。見下ろすと、既にブ
ラウスの下で胸がふくよかになり始めているのが分かる。
「うふふ」
早速両手を胸に当て、柔らかさを増した乳房の感覚を確かめる。大きい、確かに1サイズ
は大きくなっている。AAカップのブラからはみ出した柔らかな膨らみがこんもりと盛り上
がっていくのが嬉しい。
しかし、沙耶香の喜びはそこまでだった。このままでは胸が苦しくなってしまうと、ブラ
をはずためにブラウスを脱ごうとした時に気がついた。
『な、何コレ?』
スカートから引き出そうとしたブラウスが、どこもかしこもキツくなっている。腹には明
らかに余分な肉がつき、腕を動かすたびにブラウスがひきつれるようだ。プヨプヨとした
肉が波打つように震え刻々と隙間を埋め尽くしていく。
『ど、どうして?』
混乱する沙耶香に、意外な方向から聞こえてきたあえぐような声が、恐ろしい事実を伝え
た。
「は、はぁ、あ、ああっ?」
予想もしない所から聞こえてきた声に驚き振り返ると、そこには激しく息をしながら身悶
えする麗華がいた。
『そんな!ウソ、麗華なの?でも、でもっ!』
確かにこのクラスで胸が大きいといえばもう一人、麗華もそうだった。だけど、麗華ははっ
きり言ってデブ、なのだ。胸こそ一メートル越えとも言われるが、それだけでは無くどこ
もかしこも太い。むっちりというよりブヨブヨとした手足、どっしりとした腹に尻、背中
でさえ皺が出来そうなほどあふれ出す脂肪。丸々とした顔に埋もれそうな目鼻。体重はど
のくらいだろうか?歴史の教科書に出てくるふくよかな土偶のような体形なのだ。いっそ
のことそんな可憐な名前じゃなければ良かったのにと、しばしば冗談の種になるほどだっ
た。
その土偶が、目の前で身じろぎするたびに、はっきり分かるほど萎んでいく。ついにそれ
を支えるだけの尻が無くなって、麗華のスカートがハラリとずり落ちると、随分すっきり
としてきた白い太ももが露になり、ブラウスの下からブカブカになったパンツが覗く。信
じられない事実に驚き、震えながら見下ろす沙耶香の眼に恐ろしい光景が飛び込んできた。
既に丸々と膨らんでハムのようになった体。ブラウスのボタンは両側から引っ張られて引
きちぎられそうだ。
「そんな!いゃぁっ!」
そこからは、もうあっという間だった。一気に全身が残りの脂肪を受け入れて膨らみ、ブ
チブチと何かが切れるような音がしてブラもブラウスもスカートともはじけて行く。急激
な体重増加に耐えかねて床に崩れ落ちるように尻餅をつくと、ブヨブヨとした体が波打つ
ように揺れた。全てのボタンが外れ大きく前の開いたブラウスからは確かに大きいがだら
りと下がったデブパイと立派な腹が、巨大化した尻でキツキツになったスカートからは丸
太のような足が覗いていた。
そして、沙耶香目の前では麗華が嬉しくてたまらないといった感じで全身を撫で回してい
た。既にパンツまでずり落ちてしまい、下の茂みが丸見えになってしまっているのだが、
そんな事を気にする風は微塵も無い。撫で回す手が体の線を露にし、ブカブカになったブ
ラウスの上からでも体形が全く変わってしまっていることが分かる。それに、あの脂肪の
下から現れた意外なほどの美少女顔。ニキビが多くベトついた感のあった肌までが、別人
のようにすっきりと変貌していた。
『そんな、こんな事って、』
呆然とする沙耶香だったが、元凶の男は涼しい顔で微笑みかけてきた。
「どうかね?」
「ち、違うっ!こんなの要らないわっ!」
肉に埋もれそうな顔の中から必死に搾り出した当然の抗議にも、男は笑みを消し意外だと
いう表情を見せた。
「ふーむ?脂肪が重要なのではなかったのかね?」
「そうじゃなくて、、とにかく違うわっ!」
「ふむ?違うのか?」
そう言う男がまた優雅に手を振りあの泡立つ感覚がもどってくると、沙耶香は安堵の吐息
をもらしたが、すぐに何かがおかしいと気がついた。泡立つ感覚は胸だけに集中している
のだ!まさかと思って見上げると、麗華の胸だけが見る間に膨らんで行くところだった。
『!!!』
もちろん沙耶香の胸はどんどん萎んでいく、それも中身だけが抜けるようにしおれて、、
「やめてやめて、やめてぇ~っ!いやぁああっ!」
件の男は、恐慌をきたしわめき散らすように叫ぶ沙耶香を見やると、頭を僅かに振ったよ
うに見えた。
「やれやれ、これほど長く存在してみても、人間といったものは良く解らぬものだ。どう
も上手くいかぬようだから、これで私は失礼するよ。」
言うが早いか、沙耶香が止める間もなく男はボワ~ンと擬音めいた破裂音を残して何処か
へと消え去った。跡に残されたのは、床にへたりこんで泣き叫ぶ沙耶香と、再び丸々と膨
らんだ胸を抑えスカートを引きずりあげる事も忘れて立ち尽くす麗華、呆然として彼女ら
を見比べる人々だけだった。
最終更新:2011年07月02日 13:30