──あるいは、それは避けられない「運命」だったのかもしれない。
この世界に於いて、魔法や魔物は大多数の人に単なるおとぎ話だと認識されているが、実はそうではない。
科学で解き明かせない奇跡の力も人外の生き物も存在するのだ……もっとも、必ずしもそれが幸福をもたらすとは限らないが。
「先生、危ない……きゃあっ!」
目の前で、年端もいかない少女が、「敵」の攻撃から自分を庇って吹き飛ばされるのを見た時、河合那雪(かわい・なゆき)の頭が真っ白になった。
仕事を終えた帰宅途中に、突然人気のない町角に迷い込んだかと思うと、触手の生えたオオカミのようなモンスターに襲われるというだけでもレア過ぎるイベントだ──全然嬉しくないが。
そして間一髪のところで、そのテの女児向けアニメから抜け出して来たようなフリフリヒラヒラの衣装を着た少女に助けられ、その子がコスプレでも特撮でもなく「現実にモンスターと魔法を使って戦って」いたのを見たのだ。思考が一時停止しても無理はないだろう。
そもそも那雪は、あまり積極的だとか臨機応変だとか言えるタイプではない。むしろ、どちらかと言えば消極的かつ慎重なタチだ。
しかし、そんな那雪の茫然自失状態は、敵の攻撃で地面に叩きつけられたショックによってか「魔法少女」の変身が解けたことで、一変する。
「! お、小川さんっ!?」
そこにいたのは、彼女が担任する1年C組(那雪の職業は中学の英語教諭だ)でも、ひときわアクティブで目立つ子である小川月乃(おがわ・つきの)だったのだから。
(え!? どうして……小川さんが……まさか、最近噂になってる「魔法少女」の正体って……小川さんだったの??)
那雪の脳裏でさまざまな疑問が渦を巻き、解けていく一方で、那雪の体は無意識に自分の生徒の方へと向かって駆け出していた。
「小川さん! 大丈夫?」
少女を抱き起こすと、月乃はうっすらと目を開ける。
「だめ……せんせ……にげ…て……」
少女の視線の20メートルほど先には、彼女を弾き飛ばしたバケモノが、心なしか得意げな目でふたりを見下ろしていた。
『しっかりして、ツキノちゃん! もう一度、マジカルバルキリー・ルーナに変身しないと、このままじゃあ……』
いきなり頭上に現れたウサギのぬいぐるみ(?)が、テレパシーのようなもので懸命に少女に呼びかけているが、痛みのせいか完全に月乃は意識を失っている。
見れば、月乃の傍らには、先程の魔法少女が持っていた翼のついたバトンのようなものが転がっていた。
『ツキノちゃん! ツキノぉ~!』
少女の意識を呼び覚まそうとウサギが無駄なあがきをしているのを背に、那雪はバトンを拾い上げると、立ちあがってバケモノに向かって走り出す。
「わたしの生徒に……」
『ちょ、ちょっと貴女、無茶なことは……って、え、うそ……なんなの、この魔力係数は!?』
背後でウサギが騒いでいるが、那雪の知ったことではない。
そう、那雪は、普段は臆病な程大人しいが、いったん頭に血が昇ると果てしなく斜め上の方向に暴走するタイプだったのだ!
「何てコトするのよーーーー!!」
バトンをまるで剣のように構えながら走り寄る様子は、意外とサマになっている。実は、彼女は祖母から「大和撫子のたしなみ」として薙刀を習っていた経験があるのだ。
それでもバケモノの方は、相手をただの人間と侮っているのか、馬鹿にしきった目で那雪を見ている。
しかし。
『ひょっとしたらだけど……イケるかも。セレニティウィング! 緊急事態につき、マスター権限を一時委譲! 対象は現在の所持者!!』
『──緊急命令、了解。現所持者との同調を開始』
手にしたバトンが、ウサギの呼び掛けに同じくテレパシーで応えたと同時に、那雪の体が眩い光に包まれた。
光の繭の中で、瞬時にして衣服を分解され、全裸になる那雪。
地味なファッションとは裏腹に、グラビアモデルも顔負けのグラマラスな肢体が光の中に浮かび上がる。
「えぇぇっ!?」
驚く暇もなく、彼女の全身を光の帯が覆い隠し、きつく締め上げる。
「く…くるし……」
痛いというほどではないが、窮屈な感覚が那雪の体を襲う。まるで、小さな鋳型にぎゅうぎゅうと詰め込まれて、体型を無理矢理直されているような……。
いや、「ような」ではない。まさにそのものだった。
なぜなら、光の帯が消えた瞬間、そこには本来の那雪とは似ても似つかない姿の「少女」が立っていたのだから。
150センチちょっと小柄な身長。10代初めの若々しい精気に満ちた引き締まった華奢な体つき。ほっそりした手足は妖精のように優美だが、胸や腰のあたりの曲線はまだそれほど目立たない。
「え? え??」
驚く「少女」を尻目に、先程とは少し異なる光のリボンが彼女の体に巻き付き、次の瞬間、それは色鮮やかなコスチュームと化して「少女」を飾り立てる。
白銀色の髪に巻き付いたリボンはそのまま、「少女」の髪をツーテイルにまとめあげた。
続いて、肩の辺りが大きく膨らんだレモン色の長袖ブラウスに、そしてオレンジ色のコルセットワンピースが形成される。フレアスカートの丈は短く、少し動いただけで下着が見えそうだ。
スラリと伸びた健康的な太腿の半ばまでを純白の編み上げロングブーツが覆う。ブーツとスカートの裾のあいだの絶対領域が目に眩しい。
「こ、これって……」
衣装だけではなく体型や容貌に至るまで、その姿は間違いなく、先程までオオカミ型モンスターと戦っていた「魔法少女」とそっくりだった。強いて言えば、髪と瞳の色が違うくらいだろうか。
──Gurahhhhh!!!
那雪が変じたその姿に、本能的に警戒心を抱いたのか、バケモノが耳触りな咆哮とともに、飛び掛かって来たのだが……。
彼女が手にしたバトンの先端、真紅の宝玉が取り付けられた部分から、50センチほどの光の刃が伸びる。
両手でバトンを構えた那雪は、自分でも驚くほど平静に、まるでライトセ●バーのような形状となったバトン(?)を振るって、月乃があれほど苦戦していたバケモノを、ただの一太刀で切り捨てたのだった。
……てな感じで始まる、女教師と女生徒の秘密の放課後タイム。
オオカミモドキとの戦いで重傷を負い、その回復に魔力を回しているため、しばらくは変身して戦うことができない月乃。
責任を感じた那雪は、魔法少女のマスコット・ユゥリィの依頼を受けて、月乃が回復するまで彼女に代わって「魔法戦乙女ルーナ」となって戦うことに。
本来、魔法少女の変身アイテム兼武器である「媒体(メディウム)」は、各個人の魔力波長に合わせてカスタマイズされているのだが、百万人にひとりくらいの確率で、ほぼ同じ魔力波長の人間も存在する。
運がいいことに那雪と月乃はそのレアケースに該当したため、月乃用の媒体セレニティウィングで那雪が変身して戦うことができたのだ。
ただ、魔法少女としての姿は、マスター登録された本人の姿を基に調整されているため、那雪が変身しても、ルーナの姿になってしまう。これは、変更不可能。もっとも、那雪にとってはむしろ自分とわからぬこの姿の方がありがたかった。
こうして、昼間は教師、放課後は魔法少女の二足のワラジで暮らすことになった那雪。最初の頃は、敵を倒すことでいっぱいいっぱいだったが、何度か戦って慣れてくると、変身した自分の姿に好奇心が湧いてくる。
快活で陽気な月乃(ルーナ)の姿になっているせいか、いつもの気真面目さが薄れ、変身状態のまま、服だけ変えて中学生の女の子として遊び歩いたり、部屋でオナニーしてみたり。
さらに、ひとりエッチしてるところを月乃に見つかり、鏡の前で、おしおきと称してイカされちゃったり、瓜二つな美少女のくんずほぐれつしたり。
その結果、お互い「単なる教師と生徒」とは言えないイケナイ関係に。
(もちろん、月乃がタチで、那雪がネコ)
しかし、ようやく、あと少しで月乃が完治するというタイミングで、敵方の攻勢が激化。
懸命に戦う「ルーナ」だったが、ついに力尽きて、触手に捕らわれる。そのまま、純潔(この体の)を奪われるかと諦めかけたところで、「魔法戦巫女スノウ」が現れる。
「なゆちゃんのピーをピーしていいのは、あたしだけなんだからーー!!」
圧倒的な攻撃魔法で敵の一群を蹂躙するスノウ。胸元の開いたロングドレスに長手袋、
黒タイツ&ハイヒールというアダルトちっくな格好の彼女の容姿は、髪と瞳の色こそ違うものの那雪と瓜二つだった。
無論、その正体は月乃。ユゥリィが妖精界で作らせていた那雪用にカスタマイズされた媒体を使って強引に「スノウ」に変身し、「ルーナ」を助けに来たのだ。
そのまま、「ルーナ」と「スノウ」の姿で、互いの身体を求め合うふたり。
その後も、数多の敵の侵攻をルーナとスノウは絶妙なコンビネーションで撃退する。
時々、ふたりの「中の人」が入れ替わっているのはご愛嬌。
今日も「変身したまま」ベッドで抱き合うふたり。熱い交歓ののち、アダルトな「スノウ」の姿をした月乃が、「ルーナ」の少女姿の那雪の耳元に囁く。
「ねぇ、今度、変身したまま学校に行ってみない? なゆが「小川月乃」として女子中学生やって、あたしが「河合那雪」として先生やるの」
「ああ……ダメよ、月乃ちゃん、そんなこと……第一、髪と目の色が」
「フフッ、そんなの魔法で簡単に変えられること、なゆだって知ってるクセに。
本当はなってみたいんでしょう? あたしに……「小川月乃」に」
誰にも知られず、自分がクラスで人気者の美少女、「月乃」になる?
本来不可能なはずのその「企み」は、那雪の心を魅了し、彼女は思わず頷いてしまう。
「あぁ……はい、なりたいですぅ」
そして、その後……。
「──それじゃあ今日のホームルームは終了。伊吹さん、号令お願いね」
「はい。きりつ……れい、ちゃくせき」
颯爽と教壇を降り、職員室に向かう担任の「河合那雪」に、1-Cの生徒達は羨望の眼差しを向ける。
「はぁ……いいよなぁ、河合先生」
「コンタクトしてイメチェンしてから、なんか、グッと色っぽくなった感じ」
「服装もオシャレで、雰囲気も前より明るくなったし……憧れるわぁ」
と、男女問わず大人気。
そんなクラスの噂を耳にして、ニコニコしている「月乃」。
無論、その中味が誰であるかは言うまでもない。
「そう言えば、月乃っちもちょっと雰囲気変わったよね」
月乃の親友である花音の言葉に、ちょっとドキッとする「月乃」。
「そ、そう? 自分ではよくわかんないけど……どんな感じかしら」
「なんて言うか、こぅ……女の子っぽくなった?」
「あ、花音ちゃん、ヒドーい! それじゃあ、わたしが前は女の子らしさが皆無だったみたいじゃない」
「あ、いや、そういうワケじゃないんだけどさ」
と、じゃれ合いつつ、何食わぬ素振りでやり過ごす。
あの日、ふたりが入れ替わってから、すでにひと月あまりが経過していたが、この入れ替わりは誰にもバレていない。
無論、先程のように「どことなく雰囲気が変わった」という意見はあるものの、そのほとんどが、ふたりの変化を好意的に捉えているようだ。
本来は「魔力の無駄遣い」とも言えるこの行為も、「日頃から軽い魔力負荷をかけて、魔力を鍛える」という魔法の鍛練にはちょうどいいということで、ユゥリィも黙認しているのだ。
もちろん、今も夕方から夜にかけては敵との激しい戦いが待っている。
人知れず、世界の平和を守り続けている魔法少女(!)である自分たちに、「ご褒美」として、この程度の気晴らしがあってもいいじゃないか……と、「月乃」は思うのだった。
……以上です。
やはり自分にまともな百合は書けなかった罠。仕方ないので、「プロローグ+ダイジェスト」で、あとは皆さんの脳内補完お願いします。
●河合那雪
主人公/ヒロイン。中学教諭にして2年5組の担任(25歳)。
腰まである黒髪を三つ編みにして、眼鏡をかけている (わかりやすく言うと、メガほむの十年後を想定w)。
比較的長身(167センチ)でグラマラス(93・61・89)。 真面目で責任感のあるいい人だが、内気で人見知り気味。
ただ、幼い頃から祖母に薙刀を習ってきたので、 見かけによらず体力や運動神経はいい方。
普段は優柔不断だが、切羽詰まると暴走するタイプ。
●小川月乃
ヒロイン。那雪が担任するクラスの女生徒(14歳)。陽気で勝気な性格の、栗毛をツインテールにした美少女。
やや小柄でスレンダー(152センチ/79・56・83)。クラスの女子のリーダー格。ゲームやアニメが好きだが、
年頃の女の子らしくオシャレや恋バナなどにも興味津々。いわゆる天才肌で、勉強もスポーツも、ほとんど
努力しなくても中の上から上の中くらいを維持できる。 (イメージは「ロウきゅーぶ」の真帆)
両親に溺愛されて育ったため、ちょっと我がままだが、決して悪い娘ではない(むしろ正義感は強い方)。
○魔法戦乙女(マジカルバルキリー)ルーナ
口紅型の媒体セレニティウィングで月乃が変身した姿。コスチュームは、「ななついろドロップス」の
秋姫すももの衣装をより派手にしたような感じ。髪は金色に、瞳は翡翠色になる。
戦い方は、RPGで言う魔法使い(遠距離戦)タイプで、セレニティウィングが変形した魔法のバトンは
主に魔法の射出と制御に使用。
なお、那雪が変身すると、衣装や容姿はほとんど同じだが、髪の色が銀、瞳がアイスブルーになる。
ラ○トセイバーっぽくバトンの先から魔力を放出して戦う。
○魔法戦巫女(マジカルシビラー)スノウ
那雪がコンパクト型の媒体ジョーハリーで変身した姿。銀髪紫眼。衣装は某キュアパッションの
ベースカラーを薄いピンクにした感じ。武器は長さ1.5メートルほどの杖(ロッド)。先端部に魔力の刃を
発現させ、薙刀のようにして戦うほか、浄化魔法も得意。
ちなみに、月乃が変身すると、髪型がポニテになり、瞳の色もより赤味が強くなる。
・ユゥリィ
いわゆる魔法少女のマスコット役。デフォルメしたピンク色の兎のぬいぐるみっぽい姿をした妖精。
最終更新:2011年10月09日 23:45