307 名無しさん@ピンキー [sage] 2011/10/19(水) 22:07:43.98 ID:0zuRfHnZ Be:
【おばあちゃんの日】
満員どころか、半分埋まることさえ珍しい店だけに、お客が少ないことは麻由美も予想していたが、誰もいないというのは…それも予想の範囲、というかどこか期待していたぐらい。
「どうぞ、お好きな席に。」
ウェイトレスの老婦人に促され、麻由美は、狭い店内の椅子とテーブルをぬいつつ、一番奥の目立たない席に座る。
腰を下ろして、数呼吸おいたところで、お冷やとおしぼりが運ばれてきた。
「あの…失礼かもしれませんが、初めてのお客様ですよね?」
「え、ええ…孫がこのお店のお茶が美味しいっていうものですから…」
「あら、お孫さんが。それは嬉しいわあ。ええと…こちらがメニューですので、おきまりになったら声をかけてくださいね。」
本来の女子高生の麻由美としては何度も来ている店だけにメニューなどみる必要もないのだが、今ここに来ているのは、初めて来店した老婆としての麻由美。
いきなり注文を決めるというのもおかしいと思い、わざとメニュー全体に目を通す。
「あの…ミルクティをいただけますか。アッサムティーで。」
いつも頼んでいるミルクティを注文する。
注文を受けて、早速カウンターの向こうでは老マスターが動き始めた。
老婆としての感覚のためだろうか。何度も訪れて、かなり馴染んでいる店が何故か新鮮に感じられる。
「おまたせしました。」
テーブルの上におかれるミルクティ…とカステラ。
「あ、あの…これは?」
メニュー全般が安いだけに、ドリンク類にオマケがつくことなど聞いたことなどないこの店。麻由美の驚きは大きい。
「わざわざ脚を運んでくださったことへのサービスですよ。どうぞ、召し上がってください。ミルクティによく合いますよ。」
それほど空腹感はなかっただ、勧められた以上、断るのもむしろ失礼だ。
まずミルクティを一口含んだ後、スプーンで一口サイズに切り分けたカステラを口に運ぶ。
そしてもう一度ミルクティを一口。
最終更新:2012年04月18日 17:37