補正下着

509 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/01/14(土) 00:07:20.24 ID:K7aBpTwo Be:
     姑からのプレゼントは、身体のラインを強力に矯正するという舶来の下着だった。
    「これはね、ヨメ子さん。私とお揃いなのよ、どうかしら」
     にこにこと笑みかけるシュウ子。六十近い年齢で、美容に執念を燃やすのはいささか
    滑稽にも思われたが、そこは嫁の世渡りで、
    「ええ、嬉しいですわ。これでお互い、もっときれいになりましょうね」
     と、内心の失笑を包み隠して愛想よく振舞って見せていた。

    『はあ、バカバカしい。こんなモノは私にはまだ、必要ないっつーの』
     風呂場でヨメ子は自らを姿写しに映すと、軽くポーズをとってボディラインをチェッ
    クする。
     大きく張り出し歪みのない乳房。たるみなく引き締まった腹筋。そしてつん、と形よ
    く引き締まり、上向きにせり上がったヒップ。二十四歳の女の絶頂の、どこに出しても
    恥ずかしくないほどの見事なスタイルであった。
    「むふふ、学生時代にスポーツで磨き上げたこの美貌にスキはないわよ……」
     言いつつ、満足するヨメ子だったが、ふと触れた後背部に、柔らかな肉の感触をおぼ
    えて、思わず顔をしかめていた。
    「んぐっ、でも、最近お酒が過ぎたかもだわね」
     夫の長期の海外出張で姑との二人暮らしはストレスもかさむものである。ついつい酒
    量が増えてしまうのも仕方のないことではある。 
     バスタオル一枚を巻き付けた格好のまま、寝室に入ったヨメ子の目に入ったのは、義
    母から贈られた下着セットだった。
    『……まあ、ものは試しっていうもんね』
     ロングタイプのウエストニッパーとでも言うべきか、上胸部から上脚までをぴったり
    と覆うタイプの黒いシルク生地の下着を着こんでいくヨメ子。
    「ん……なんだか、すごい締めつけられてるっていうか、噛まれてるような感じがする」
     びっちりと張り付いた下着は、強めの圧力でもって、ヨメ子の身体を圧迫していく。
    「まあ、これで少しでも効果が得られるのならいいんだけどね……」
     いささか不快な感触に眉をひそめながら、ヨメ子はそれでも我慢してベッドに横にな
    り、深い眠りについた。

510 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/01/14(土) 00:07:51.89 ID:K7aBpTwo Be:
     と、次の朝のことである。まどろみから覚めたヨメ子は、なんだか自身の肉体に強い
    違和感をおぼえた。
    『う……ん、なんだかお腹がぶかぶかする……』
     下着のガードル部分がゆるんだのか、と下腹に手をあてがってみると、
    「ん……、んんん? 何よ……何よこれぇ!」
     昨日まで引き締まり、緊張していたはずのヨメ子の腹筋は完全に弛緩しきっており、
    ぼっこりと盛り上がって、段になってしまっていたのだった。
     慌てて跳ね起きて、自らの姿を鏡で確認するヨメ子。
    「や……嫌ぁっ! どうなってるのよ、私の身体、どうなっちゃったのよ!」
     ヨメ子が悲鳴をあげるのも無理からぬことで、鏡に映ったヨメ子の肉体は、二十四歳
    の女の盛りのそれではなく、軽度に肥満し、かつ胸や尻などは弾力を喪失し、すっかり
    とうなだれてしまった中年女性のボディラインになってしまっていたのであった。
    「嘘でしょ、これじゃまるでおばさんじゃないの……」
     と、呟いたところで、ヨメ子は自らの着けていた下着に思案が巡った。
    「そうだ、これよ。これが原因だとしか思えないじゃない」
     思うが早いか、ヨメ子は下着をびりびりと裂きながら脱ぎ捨てる。
    「さあ、これで、これで元に戻れるはずよっ……」
     と、鏡の前に歪んだ裸身をさらしながら変化を待ったが、5分待とうが10分待とうが、
    一向に肉体は元の形状へと戻る気配はない。
    「こっ、こんなことって……はっ、そうよ。お義母さんよ、あの人がなにか知ってるに
    違いないわ」
     肥満し、膨張した身体に薄手のネグリジェ一枚だけを羽織ると、義母のシュウ子の居
    る和室へとどすどすと駆けていった。
    「あっ……あのっ、お義母さま、ちょっとお伺いしたいことがあるんですけど、いいで
    しょうかっ!」
     息こんで襖越しに声をかけるヨメ子に、すこしの間があって、「いいわよ」というシ
    ュウ子の落ち着いた声が返って来た。

511 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/01/14(土) 00:08:36.60 ID:K7aBpTwo Be:
    「お義母さま、じつは、あの下着がっ……!」
     とまで言ったところで、ヨメ子は絶句した。
    「あらあら、大変ね、私ってどうも、おかしな取り違いをしてしまったみたいね」
     ヨメ子のそれと同じデザインで、白い色の下着を着用したシュウ子は、苦笑まじりに
    ヨメ子をかえりみた。
     しかし、その肉体は、ヨメ子の知っていた中年太りして上下ともにまんべんなく弛緩
    し、うなだれたものではなくなっていたのである。
    「おか……っ、おか……っさまっ、どうして、それは、どうしてっ」
     ヨメ子が言葉に詰まるのも無理からぬことであった。
    「うふふっ、どうやら私達って用いるべき下着を取り違えてしまったようね」
     言葉とは裏腹に、さほど困った様子を見せもしないシュウ子の首から下のその肉体は、
    見事なまでに若返り、かつその肉付きを劇的なまでに魅力的なものへと変貌させていた
    のであった。例えは陳腐であるが、今のシュウ子のすばらしい肉体ならば、優に一冊の
    グラビア写真集の被写体ともなりえるほどのものだったのである。
    「だからこの通り、私は若妻として理想的な肉体に若返り、ヨメ子さんはお姑さんとし
    て平均的な体型へと作り変えられてしまったというわけなのね」
     真っ青になったヨメ子は、
    「だったら、それがわかってるのなら、なんとかしてくださいよ。私、こんなみっとも
    ない身体じゃ、もう生きていけません」
     すると、シュウ子は、ややむっとした様子を見せたが、すぐに、
    「……そうね、あんなに素敵なスタイルをしていたヨメ子さんが、いきなりこんな中年
    太りのだらしない身体になってしまったら、ショックよねえ」
     言いつつ、シュウ子はヨメ子に接近し、
    「うふふ、あんなに大きくて張り詰めていたヨメ子さんのおムネがこんなになってしま
    って、ほんとに可哀そう……」
     自らの若返って大きく張り出したバストをヨメ子に見せつけながら、シュウ子はヨメ
    子の力なくうなだれた乳房を手に取って、その弾力が喪失していることを感触として確
    認していた。
    「……あ、あの、お義母さま、からかうのはやめてくださいっ」
     非難の声を上げつつ身を翻して離れるヨメ子。

512 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/01/14(土) 00:09:08.06 ID:K7aBpTwo Be:
    「え……ああ、ふふ、ごめんなさい。つい、私もこんなに若々しい身体になれたものだ
    から、つい、嬉しくなってしまって、ね」
     すると、ヨメ子は口を尖らせて、
    「わっ……私がこんな身体になったのは誰のせいだと思ってるんですかっ! それに、
    お義母さまの、そんな皺だらけの顔でそんなアンバランスな身体をしていても、グロテ
    スクなだけですっ!」
     これにはさすがにシュウ子もかちんと来て、一瞬、その顔を赤く染めたが、ふうっと
    一息を吐いて、
    「そうね、あなたの言う通りだわ。それに、このままじゃ息子にも気の毒でしょうし、
    それじゃあ、解決のための手段を講じましょうか」
     言いつつ、下着セットに同封されていた液体のビンを手に取った。
    「なっ、なんですか、それは?」
     ヨメ子が声を上げる間に、そのビンの中の液体を茶卓の上の湯呑みに3分目ほど取っ
    たシュウ子は、
    「ですから、解決のための手段ですよ。ヨメ子さん、これをお飲みなさいな」
     姑にすすめられるままに、ヨメ子はそれをぐっと呷った。
    「これで……次は、どうするっていうんですか?」
     ヨメ子は、湯呑みを両手の掌中に握りしめたままに、義母に詰め寄った。
    「どうするも、こうするも、まあ、あとは私にお任せなさいな」
     シュウ子の声が、やけにゆっくりと聞こえてくるものだ、とヨメ子が思った時にはも
    うすでに、ヨメ子は再びまどろみの世界へと落ち込んでいった。
    「うふふ、さあて、それじゃあうるさいのも眠らせたことだし、作業の続きといきまし
    ょうかね」
     シュウ子は、ヨメ子を自らの布団に横たえると、下着セットに同封された、もう二つ
    の道具を取り出していた。
    「うふん、さて、ヨメ子さん。あなた、無神経にも私のこの顔のことを『皺だらけ』だ
    なんて言ってくれましたね」
     言いつつ、輪郭のぼやけて弛み落ちた頬を手でさすった。
    「誰だってね、人間、歳を取ればこうなるんです。だけど、そんな私の近くで、あなた
    はあまりにも自分の若さを見せつけてくれたものでしたねえ……」

513 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/01/14(土) 00:09:38.76 ID:K7aBpTwo Be:
     シュウ子は、二枚の大型の湿布薬のようなものを取り出していた。
    「ええ、と。まずは、この薄紙を剥がした湿布を、ヨメ子さんの顔に貼り付けて、と」
     べたん、とヨメ子の顔全体を覆うように大きな湿布を貼り付けてしまった。
     そして、5分後、
    「さあ、もうそろそろ時間ですね」
     べりっと湿布を剥がすと、そこにあったヨメ子の顔は消失し、のっぺらぼうのように
    白い起伏のない平面になってしまったのである。
    「ふふ、うまくいったわ。それじゃあ、次は私の番ね……」
     言いつつ、ヨメ子の顔を移し取った湿布を卓の上のすぐに手の伸ばせる場所に置き、
    それから自らの顔にも新しい湿布を貼り付けていた。
     そして、さらに5分後、べりっと音を立てて湿布を外したシュウ子の顔もまた、消失
    したが、彼女はそのまま手探りで卓の上に置いてあったもう一枚の湿布を摘み上げ、自
    らの顔にぺたりと押し当てると、そのままさらに5分の時間を待ったのである。
     そして、それをゆっくりと剥がし終えた後には、
    「うふふ、本当はこんな小生意気な子の顔になるなんて気がすすまないんですけどね」
     頬をさすりつつ、その瑞々しい触感と弾力とにシュウ子はにやり、と口の端を曲げた。
     鏡の中には、その表情をしたヨメ子がいた。髪を古めかしいひっつめにしていたが、
    まぎれもなくその顔と、そしてその声はヨメ子のものになっていたのであった。
    「さあ、このまま顔がないままじゃああなたも不自由でしょうからね……」
     にやり、とシュウ子は笑いつつ、もとの自分の顔の宿った湿布をヨメ子の顔に押しつ
    けて、彼女をもとの自分の顔へと変えてしまったのであった。
    「うふふ、なんですか、そんな老けた顔をして無理に若づくりな髪形なんてして、恥ず
    かしいとは思わないのかしらね」
     自らの髪を下ろして、その髪型に似せたシュウ子は、あとであらかじめ購入しておい
    た髪染めでもって、お互いの髪の色まで入れ替えてしまうつもりであった。
     ヨメ子の髪を一度まっ白に脱色し、その上からややまばらに黒く染めていく。もちろ
    ん、自らもその間の時間を利用してライトブラウンに髪の色を変えてしまった。
     もう、時間は昼どき近かったが、ヨメ子はまったく目を覚ます気配もない。相当に強
    い睡眠薬を飲んでしまったものと思われた。
     そして、シュウ子はヨメ子のクローゼットから、彼女のお気に入りだったタンクトッ
    プとブルージーンズとを取り出した。
    「……ヨメ子さん。あなたは相当自分のスタイルに自信があって、ぴっちりと身体の線
    が出るものばかり、好んで身に着けていたようですけどね」
     

514 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/01/14(土) 00:10:20.15 ID:K7aBpTwo Be:
     するすると、それらを着込んでしまうと、もはやそこに居るのはまったくヨメ子その
    ものであった。
    「でも、今の私の方がいくぶんか、スタイルがいいんじゃないかしらね、ふふふ」
     窮屈そうに胸元のボタンを一列外しながら、眼下に横たわる老女と化したヨメ子を見
    降ろし、そして小さくあざ笑った。
    「さて、それじゃあ仕上げに入りましょ。このドレーンチューブを私の耳穴に貼り付け
    て、それからこちらの端をヨメ子さんの耳に取りつける、と」
     そして、シュウ子はお互いの「記憶」の操作の作業へと移ったのである。
    「ええ、とヨメ子さんの記憶を全部、吸い出した上で私に転送っと……それから、私の
    亡夫との思い出や、息子との思い出なんかを、全部、『複写』したうえでヨメ子さんの
    記憶に上書きする……っと、よし、出来たわ。みるみる記憶が流れ込んでくるわ!」
     もちろん、この企みに関する事項については秘したままである。
    「ふふふ、これで全部ね。これでヨメ子さんの全部が私の物になったってこと……」
     鏡の前でにんまりと笑うヨメ子になりすました女は、自らの胸を掌に押しつけ、その
    はちきれんばかりの弾性と、その感度の良さとを味わい、しばし陶然としていた。
    「あはぁ……いいわあ、若いカラダ。これから息子の夜のお世話もしなくちゃならない
    んだから、私もがんばらなくちゃね」
     くふふ、と笑うシュウ子の頭の中には、最愛の息子が、ヨメ子とどのような性生活を
    送ってきていたのかも完璧に入っているのだった。
    「そして、ふふヨメ子さん……いいえ、もう『お義母さま』とお呼びするべきでしょう
    ね。これからもせいぜい孝養を尽くさせていただきますわ」
     
     それから、しばしの後、
    「ん……あ、ふぅ……私、眠っていたの?」
     布団から身を起こしたヨメ子に、
    「ええ、よほどお疲れだったのでしょうね、お義母さま」
     シュウ子は労りの言葉を投げ掛ける。
    「はぁ? お義母さまって……」
     言いかけて、ふと枕元の姿見が目に入る。
     白髪混じりのひっつめの髪。頬肉が弛み、皺っぽくなった顔。そして、和装の中に収
    まっためりはりのない、生気なく萎れかけた体型。
    「……ええ、そう……だったかしら、私はお姑のシュウ子なの?」
     ヨメ子としての記憶を消され、シュウ子としての記憶を上書きされた哀れな女は呆然
    と違和感を感じながらも、それを否定することができないことに苛立ちつつ、自問した。
     すると、
    「うふふ、いけませんよ。お義母さまはまだお若いんですから、そんなご自身のことま
    でお忘れになっていては……」
     内心が表情に現れないように細心の注意を払いながら、シュウ子はヨメ子にそっと諭
    した。
    「ふん、そんなこと……あなたに言われるまでもないことですよ、ヨメ子さん」
     反発して、つい自分の名をシュウ子に与えてしまったこの瞬間に、二人の入れ替えは
    完成したのだった。

515 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/01/14(土) 00:11:57.43 ID:K7aBpTwo Be:
     それから、数週間後、
    「ねえ、ヨメ子さん……言いにくいことなんですけれど、あなた、夜に寝室からあまり
    大きな声を洩らすのはやめてもらえないかしら」
     今ではすっかり姑としてなじんだヨメ子は、控えめな苦情をシュウ子に告げた。
    「はい? なんですか、その『大きな声』って、よくわからないんですけど、私」
     わざと空とぼけて、シュウ子はかぶりを振った。
    「それは、その……夜の、営みというか、その」
     しどろもどろにヨメ子は言葉を選ぶ。すると、シュウ子はふん、と鼻を鳴らして、
    「ちょっと……お義母さま、もしかして私達のしていること、聞き耳を立てていらっし
    ゃるんですか?」
     失礼だ、とばかりにシュウ子に強い語勢を浴びせる。すると、ヨメ子もたじろいで、
    「いや……そうじゃないの、もういいから、それは、そのことについては忘れて頂戴」
     ヨメ子は悔し紛れにひと腐れ、
    「それより、あなた、ちょっと服装が最近、派手に過ぎませんか? あなたももう、人
    の妻なんですからね。肌の露出は控えめにしたほうがいいんじゃありませんか!」
     知らずに、かつて自分が姑に言われた言葉を口にしていた。これには思わずシュウ子
    もぷーっと吐き出して、
    「あら、すいませんね。お義母さま。でも、私はできれば自分に良く似合う服を選んで
    身につけていたい、とそう思っているだけですのよ、他意はありませんわ」
     そして、挑発がてらに付け加えて、
    「それに、最近の私、どうも胸の発育が良くなりすぎちゃったみたいで、合う服を選ぼ
    うとするとこんなのばかりになってしまうんですよ、えへ、帰ってきたばかりの和樹さ
    んにちょっと悪戯されすぎたのかなあ?」
     新妻の甘えた声で、シュウ子は駄目を押した。そして、絶句する姑、ヨメ子を後ろ目
    に悠然と自室へと戻っていくのであった。
    『くすくす、愉快痛快ってのはこのことかしらね』
     身体に漲る生気を感じながら、シュウ子は再び自身に訪れた春を謳歌するのでありま
    した、と。
     こんなところで今回はおしまいですかね。まあ、この後が面白く書けてこそ、こうい
    った黒いお話は興を増すのでしょうが、さてさて。

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最終更新:2012年04月18日 18:00