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とりかえばや

628 名無しさん@ピンキー [sage] 2012/02/25(土) 04:46:55.50 ID:wrfuj8h7 [被レス:1] Be:
    #ちょいと長めの投下。某所で見たネタにインスパイアされてます。

    「とりかえばや」

     3年生へと進級し、高校生活もあと1年を残すだけとなった4月の上旬。
     高塚恵美子は、始業式の席で、思いがけない顔を壇上に発見することになった。

     「──それでは、今年度から本学園で教鞭をとっていただく先生を紹介しましょう。○○県の嵐之高校から赴任して来られた、栗林優美先生です……」

     クラスのHRが終わり、一緒に帰ろうと誘ってくる友人達に「今日はちょっと用があるから」と断って教室を出た恵美子は、職員室に向かう途中で、廊下の向こうを目当ての人物が歩いているのを発見した。

     一瞬の躊躇の後、彼女に声をかける。
     「──お姉ちゃん」
     「!」
     ハッとした様子で振り返ったその女性──新しくこの高校に赴任してきた女教師、栗林優美は、ほんの少しだけ戸惑いの混じった、それでも十分に親愛のこもった笑顔を向けてくる。

     「あら、恵美子ちゃん……ダメよ、学校の中では「栗林先生」って呼ばなきゃ」
     軽くたしなめるような言葉だが、さほど怒っているような様子はない。
     それも道理で、恵美子と優美は従姉妹関係にあり、もともと実の姉妹のように仲が良かったのだ。

     「──ウチの学校に、転任したんだ」
     「ええ、ちょっと前に急に決まったの。恵美子ちゃんには事前に教えようかとも思ったんだけど……ビックリする顔が見たくて」
     驚かせてゴメンねとチロッと舌を出すその仕草は、今年で27歳になり1児の母でもある大人の女性とは思えないくらい、同性である恵美子の目から見ても可愛らしかった。
     それでも、恵美子を見る包み込むような慈愛に満ちたその視線は、確かに年長者の貫録のようなものを感じさせる。
     「もぅ、ほんっとに、驚いたんだからね!」
     だから恵美子も、思い切って「以前」と同じく「姉に甘える妹」としての言動をあえて表に出してみることにする。
     そうしてみると、半年近く会っていなかったことが嘘のように、ふたりの関係は「仲良し姉妹」と言う枠にしっくり納まるような気がした。

    ……
    …………
    ………………

     (この心地よい関係を壊したくない)
     昼食を仲良く一緒にとり、互いの近況を報告しながら、「彼女」は、半年前のあの日から、ぜひ訊きたいと思っていたひとつの疑問を、心の奥にしまい込むことを決意するのだった。

     * * * 

629 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:47:37.38 ID:wrfuj8h7 Be:
     久方ぶりに訪れた祖父母の家。
     しかし、そのキッカケが祖父の葬儀だと言うのはいささか皮肉なものだ。
     葬儀に参列した人々の大半が、地元のちょっとした名士であった祖父の死を悼む中、しかし、恵美子は「あー早く終わらないかな」と薄情なことを考えていた。
     恵美子は、2年前に死んだ祖母にはいろいろ世話になった思い出が沢山あったが、祖父に対しては、せいぜい「正月にお年玉をくれる人」くらいの感慨しか持てなかったのだ。
     故人の死を悲しむより、むしろ「高校生の貴重なゴールデンウイークをよくも!」という身勝手な怒りの方が頭にある。
     とは言え、それを大っぴらに表に出さない程度の分別は、16歳の少女にもあった。
     なんとなく手持ち無沙汰なまま、ふと視線を右に向けると、隣の女性は手にしたハンカチで目尻の液体を拭いながらジッとお棺の方を見つめていた。
     黒一色のアンサンブル姿の彼女──従姉の優美は、同性である恵美子の目から見てもプロポーション抜群だ。出るところは出ていて締まるところは締まっているのが、歳相応よりやや幼げな体つきの恵美子には羨ましかった。
     知らない人が道端で彼女を見かけても、誰も一児の母親とは思わないだろう。下手したら女子大生に見られてもおかしくない。
     それでいて、ワンピースの裾から伸びる黒いストッキングに包まれた脚は、ほっそりしていながら確かに大人の色気を放っている。知らず恵美子は見とれてしまった。

     * * * 

     「それにしても、恵美子ちゃん、優美の若いころによく似てるわね」
     葬儀が終わり、沈んだ気分を払しょくするかのように親族一同が世間話に花を咲かせている時、伯母の由梨がそんな言葉を漏らした。

     「本当に似てるならよかったんだけどねぇ。この子、いくら外見が優美ちゃんに似てても、頭はからっきしなのよ」
     笑って答える母親に恵美子はちょっとムッとしたが、それでもその内容自体を否定はできなかった。

     恵美子は、昔からよく従姉である優美と似ていると言われていた。
     憧れの従姉に似ていると言われてうれしい反面、それがコンプレックスにもなっていた。
     端的に言うと、優美は才色兼備な女性だった。
     高校生の頃の成績は、いつも学年でもTOP10内を保っていたし、大学も近くの国立大の法学部に現役で一発合格したのが、母である由梨の自慢話の一つでもあった。
     もっとも、大学を卒業した優美が選んだのは高校教師の道で、将来は弁護士か検事になるのではと期待していた両親の思惑を見事に外すことになるのだが。

     とは言え、法曹ほどではないとは言え、教師という職も、こんな田舎ではそれなりのステータスを持つ。
     恵美子は、母親である聖子にいつもそんな従姉と比べられて、優美という存在がある種のプレッシャーの実像になっていた。
     とは言え、優美のこと自体を嫌いだったわけではない。むしろ好きだった。
     ひとりっ子の恵美子は、優美のことを実の姉のようにしたっていたし、優美もまた恵美子のことを年の離れた妹として可愛がっていた。
     恵美子が教育学部を志望しているのも、そんな優美への憧憬からだ。
     そのことを知った優美は、頑張れと励まし勉強の相談にも乗ってくれた。
     「恵美子ちゃんは、「まだ2年生だし」って思うかもしれないけど、受験の用意は早めにしておいた方がいいわよ?」
     電話でそんなアドバイスもくれる優美のことを、恵美子は学校の教師達より余程頼りにしていたのだ。

630 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:49:08.34 ID:wrfuj8h7 Be:
     しかしながら、やはり持って生まれた才能による差異というヤツはあるのか、恵美子の成績はいまひとつ芳しくなかった。
     下から数えた方が早いわけではないが、せいぜい中の上。優美の忠告もあって手は抜いていない──それどころか、彼女の人生でかつてないほど真面目に勉強しているのに、成績は何とか微増傾向にある……といった程度だ。
     そんな自分が、恵美子は歯がゆかった。

     親戚一同が集まっての夕餉の支度に、自分のやる仕事は無いだろうし、家事半人前の自分が手伝っても邪魔になるだけだよね……と、恵美子は自分に言い訳して、屋敷の離れへと引っ込んでいた。
     「恵美子ちゃん、こんなところにいたんだ」
     突然声を掛けられて、ビクッとなりつつ振り返る恵美子。
     「……お姉ちゃん!?」
     「もう~、恵美子ちゃん、さっさと隠れちゃうんだもん。聖子おばさん、怒ってたよー?」
     「え? だ、だって……」
     「うん、まぁ、気持ちはわかるけどね」
     口ごもった恵美子を優美は「仕方ないなぁ」と言う目で優しく見ている。
     こんな風に自分の気持ちを簡単に理解してくれるから、恵美子は優美が大好きなのだ。

     「ところで、恵美子ちゃん、ここ何の部屋?」
     優美は辺りを見回しながら、恵美子に尋ねた。
     「うーん……よく知らない。あたしもここに来たの、まだ2回目だし」
     前はお婆ちゃんに言われてすぐ出ちゃったから……と、恵美子は答える。
     「へぇ~。わ! 大きな鏡。こんなのあったんだ」
     優美は、部屋の壁のひとつに掛けられた、古い大きな姿見を見ながら言った。

     何とはなしに、鏡の近くに並んで立つ優美と恵美子。縦横とも2メートル近くありそうな姿見は、至近距離からでも、ふたりの姿を余裕で映しだしていた。

     片や、黒い喪服のワンピースを着た、20代半ばの既婚女性。
     片や、藍色とベージュで構成された高校の制服を着た、ミドルティーンの少女。
     顔立ちや雰囲気はよく似ていたが、その違いは一目瞭然だった。

     (こうしてみると、やっぱり恵美子ちゃんって学生時代の頃の私によく似てるわ。
     でも……私はもう恵美子ちゃんのように若くはないのよね。
     周りは「まだまだ学生でもイケるよ!」なんてお世辞言ってくれるけど、お肌の艶もハリも若い子には負けちゃうし──万一、恵美子ちゃんみたいな可愛い制服を着たら犯罪だわ。
     はぁ~、できることなら、もう一度だけ女子高生になってみたいなー)

     (やっぱり、お姉ちゃんって綺麗。スタイルもいいし、大人の女性だよね。あたしもお姉ちゃんのようになれたら良いのになぁ)

     隣り芝は青いと言うべきか、どっちもどっちな事を考えているふたり。

631 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:50:06.35 ID:wrfuj8h7 Be:
     ──と、その時。ふたりを映している鏡が、いきなり眩い光を放ったのだ!

     あまりの眩しさに目がくらみ、ふたりはそのまま床に倒れ込んでしまった。

     ……それから、どれくらい経っただろう。おそらくはせいぜい数分と言ったところか。
     優美は、あの部屋の畳の上で意識を取り戻していた。
     恵美子のことが頭を過ぎり、一瞬不安にかられたが、彼女もすぐ隣に同じように倒れていたので、ホッと安心する。
     だが、意識を取り戻した恵美子が、こちらに顔を向けたのを見た瞬間、彼女は驚きのあまり言葉を失ってしまった。

    ……
    …………
    ………………

     向かい合って互いの顔を見つめながら、しばし沈黙するあたしたち。
     でも、こうしていつまでもここにいるワケにはいかない。
     「──やっぱり、入れ替わるしかないと思うよ」
     上手くまとまらない考えを、何度かこねくり回した末に出した結論を、あたしはポツリと呟いた。

     目の前の女性は、一瞬パッと顔を上げたものの、それでも何も言わず再び目を伏せる。
     いつになく気弱で鈍重な反応の彼女の蒼白な顔を、あたしはボンヤリ眺めていた。
     目の前の女性は、黒い喪服姿で首には真珠のネックレスを着けている。
     今日、何度も見たお姉ちゃんの服装だ。

     でも、ひとつ違うことがある。
     それを着ているのは、お姉ちゃんじゃない──「あたし」なのだ。
     まだ幼さの残る顔をした少女が、不釣合いな大人の格好をしている。
     
     それだけじゃない。
     あたしがあの鏡を覗き込むと、そこには「お姉ちゃん」の姿が映る。
     正確には、「あたしがいつも着ている制服を着ているお姉ちゃん」が立っているのだ。

     でも、確証はないけど、あたしたちは「身体」そのものが入れ替わったんじゃない……と思う。手の指紋とか、細かいホクロの位置とかで、「確かにコレは自分の身体だ」と感じる。

     おそらく、あたしは歳をとってお姉ちゃんの年齢になり、お姉ちゃんは逆にあたしの歳まで若返ってしまったんじゃないだろうか。
     つまり、お互いの「年齢」が入れ替わったのだ。

632 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:51:11.20 ID:wrfuj8h7 Be:
     元々姉妹同然に似ていたあたしたちだから、年齢が変化しただけで、一見肉体が入れ替わったように見えるんだろう。
     だから、あたしは、決してお姉ちゃんそのものになったわけではない──はず。

     「そんなの……無理だわ。まずは、元に戻ることを考えましょう」
     お姉ちゃんは、何か痛みを堪えるような小さな声でそう答えた。

     確かに、その方が筋は通っている。
     でも、あたしは──そうすることに躊躇いがあった。
     そもそも、そんなに頭も度胸もないはずのあたしが、ここまで論理的に状況を把握できているのは、今の事態に至った理由に見当がついているからだ。

     以前、この部屋に一度だけ入った時、お婆ちゃんに聞いたことがあったのだ。
     この鏡は、複数の姿を映し、その人達が同じ事を願うと、その願いを叶えてくれるのだ──と。
     さっき、あたしはお姉ちゃんに憧れ、心の奥で、お姉ちゃんみたいになりたいと願った。
     もしかしたら、お姉ちゃんも若い頃の自分に似たあたしを見て「昔は良かったなぁ」と感じていたのかもしれない。たぶん、そうなんだろう。
     それで、鏡があたし達ふたりの願いを「年齢を入れ替える」という形で叶えてくれてたんだと思う。
     本当に身体ごと入替えなかったのは、そうするにはあたしたちふたりの「願い」が足りなかったからかもしれない。
     お婆ちゃんの話では、鏡に映る人数が多ければ多いほど、そして願いが強ければ強いほど、とんでもない奇跡が起こるらしいから。

     ただ、なぜか、その事実を口にするのに躊躇いがあった。
     ううん、「なぜか」じゃないよね。
     あたしは、「一度優美お姉ちゃんの立場になってみたい」、そう思っていたからだ。
     だから、せっかく叶ったその願いを自ら壊すような真似をしたくなかったのだ。
     でも……このままだと、お姉ちゃんは納得してくれないだろうし、他の人達にあたしたちの現状を訴えるかもしれない。
     それでは、すべてが台無しだ。
     だからあたしは、諦めて妥協することにした。
     「大丈夫。元に戻る方法はあるから」
     「えっ!?」

     あたしはおねえちゃんにこの鏡の隠された秘密を話した。
     最初は信じようとしなかったお姉ちゃんも、目の前の現実には勝てず、半信半疑ながらあたしの説明に頷くしかなかった。
     「つまり……今のこの状況は、私達ふたりが願ったせいなのね?」
     「うん、たぶん。お姉ちゃんに心あたりはある?」

633 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:51:46.09 ID:wrfuj8h7 Be:
     そう聞くと、お姉ちゃんはフイと視線を逸らした。
     「……恵美子ちゃんはどうなの?」
     「あたし? あたしは──うん、あると思う。「早くお姉ちゃんみたいな素敵な大人の女性になりたい」っていつも思ってたもん」
     あたしが素直に認めると、お姉ちゃんはなぜか苦笑いした。
     「恵美子ちゃん、私はそんなに憧れてもらえるような立派な女じゃないわ。それに……大人になるって、それはそれで結構辛いことよ?」
     その言葉は、お姉ちゃんが過去、あるいは今のあたしの立場を羨んでいたことを認めたようなものだった。

     「じゃあ、元に戻るには、もう一度ふたりで鏡に映って「元に戻りたい」って願えばいいのかしら?」
     「うん、そのはず。ただ、一度願いを叶えると、しばらく「力」がなくなるから、最低でも一昼夜はおかないとダメらしいよ」
     叶った願い事に比例して、「奇跡パワー」を溜めるための時間は長く必要だって、お婆ちゃんは言ってた。
     「つまり、少なくとも明日にならないと元には戻れないってこと?」
     「そういうことだね。だから、とりあえず今は、あたしたち、入れ替わるしかないと思う」
     もちろん、あたしの願望が入っていることは否定しないけど、時間をおく必要があるのは本当ことだ。
     「恵美子ちゃん、楽天的ねぇ……でも、確かにこのままだとマズイものね」
     「そうそう。だから、ここはいったん入れ替わるしかないって」
     あたしの魂胆なんてお見通しなんだろうけど、さっきみたいに頭から否定しなくなったのは、お姉ちゃんも、元に戻れるとわかって心に余裕が出来たからかもしれない。

     「でも、入れ替わるっていうことは、恵美子ちゃんが私になるということよ。できる?」
     からかうようなその言い種に、ちょっとだけカチンときて、あたしは言い返した。
     「平気だって! それを言うんだったら、お姉ちゃんこそ、あたしになれるの?」
     「私は……恵美子ちゃんと違って大人だもの。それに、私は母親なのよ?」
     確かに、この家には3歳になるお姉ちゃんの娘さんであるマミちゃんも連れて来られている。今はたぶん、和也おじさん──お姉ちゃんの旦那さんか誰かが世話してるんだろうけど、離れから戻ったら当然、母親である「恵美子」が面倒みることになる。
     つまり、このままだと、あたしが。

     でも……。
     (それでもいい! お姉ちゃんになりたい!)
     そんな強い気持ちがふつふつとあたしの中に湧き起こる。
     「お姉ちゃんみたいになりたい」が、「たとえ一時でもお姉ちゃんになりたい」という衝動にいつの間にか変化していた。
     幸いマミちゃんは歳の割に利発で聞きわけのいい子だから、あたしでも一日くらい面倒はみられるに違いない。この家にいる間なら、他の親戚のおじさん、おばさん達もいるわけだし。
     「大丈夫、あたしだって女の子なんだからね! ちゃんと「お母さん」やってみせるよ」
     自信たっぷりに、そう宣言してみせたせいか、お姉ちゃんは躊躇いながらも私の提案に納得してくれた。

    ……
    …………
    ………………

634 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:52:24.04 ID:wrfuj8h7 Be:
     当面の方針が決まったところで、まずやることがあった。
     あたし達は、お互いの服を交換しなければならないのだ。
     元来姉妹同然の仲なので、互いに服を脱いで下着姿になることくらいは別段気にならない。

     「ねぇ……そのぅ、下着も?」
     脱いだ喪服で胸元を隠すようにしながら恥ずかしそうに聞くお姉ちゃんに、あたしは意地悪くこう答えた。
     「だって胸の大きさも違うもの。今のあたしにはこのブラじゃ合わないよ」
     そう、喜ばしいことに、推定10年後のあたしの体には、Bカップのこのブラジャーはかなりきつかった。
     ホックを外すと、ふた回りほど大きくなった乳房がぶるんと震えてブラから零れ出た。
     単にサイズが大きくなったちだけじゃない。
     乳首がしっとりとベージュに翳っているような気がした。
     自分の体なのに、数分前の自分ではないようことを、改めて再認識する。
     逆に、お姉ちゃんの方もやっぱりカップが大き過ぎて合わないらしい。
     お姉ちゃんもブラを外すと、それをあたしに手渡した。
     受け取った大人っぽい黒いレースのブラジャーは、脱いだばかりで微かに熱を保っている。サイズはEカップだった。
     「へー、お姉ちゃん、こんなの着けてるんだ」
     これまでつけたことも無い、黒いレースの大きなブラが、今のあたしの胸にはピッタリだった。
     傍らの、何とかBカップという大きさの今のお姉ちゃんの胸に、たまらない優越感を感じる。

     「ショーツは良いでしょ?」
     入れ替わりにあたしの黄色いブラをつけて、恥ずかしそうに胸の前で腕を組むお姉ちゃんは、まるっきりあたしそのものだった。なぜだか、その姿をとても可愛く感じてしまう。
     けれど。
     「う~ん、でも、そのブラにそのショーツは合わないと思うよ?」
     悪戯っぽい笑みを押し隠し、真面目な顔でそう告げる。
     お姉ちゃんもそのことは分かっていたのだろう。渋々頷いた。

     最初は恥ずかしそうに黒いシルクのショーツに手をかけていたお姉ちゃんだけど、覚悟を決めたのか一気に下へとずり下ろした。
     対して、あたしは気負わず堂々と黄色いショーツを脱ぐ。
     そのまま、互いの穿いていたショーツを交換する。

     当たり前の話だけど、これまで他人の下着なんて着たこともない。
     たとえ、友達や家族であっても、普通はそんなの気持ちが悪いだろう。
     でも……なぜか、いまのあたしは心を躍らせていた。
     まるで、本当に自分が栗林優美という全くの別人になったような、そんな気持ちが正常な感覚を抑えていた。
     (あぁ、さっきまでお姉ちゃんの大事な場所を守っていたものが、今度はあたしの大事な場所を守ってくれるんだ……)
     黒いショーツはあたしの股の間に隙間無くピッタリと密着して馴染んだ──まるで、最初からそこがあるべき場所であったかのように。

635 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:53:16.66 ID:wrfuj8h7 Be:
     お姉ちゃんが着ていたワンピースを手に取ると、お姉ちゃんの香水の匂いが鼻をついた。
     喪服なんてこれまで着たことは無かったけど、生地の手触りがほかの服と違うだけでワンピースには変わりない。
     お姉ちゃんの匂いが染み付いたワンピースに脚を通し、背中のファスナーを上げようとしたけど、うまく上まで閉めることができない。
     助けてもらおうと隣を見ると、既にあたしの制服に着替え終わったお姉ちゃんは、なぜか鏡に映る自分に見入っていた。

     「あたしに、そっくり……」
     その姿に、あたしの口からも思わず、そんな言葉が出た。
     「そうね……まるで昔に戻ったみたい」
     お姉ちゃんは鏡の中を見ながらそう呟いた。
     でも、その態度からは、心なしか自分の今の状況を楽しんでいるような、ほのかな喜びの感情が感じられた。
     「ねぇ、ファスナーを上げてくれるかしら?」
     「うん、わかった」
     その答え方まで、まるでいつものあたし──「高塚恵美子」そっくりだった

     「これ、和也さんのお母さんにもらったものなんだから、なくさないでよ」
     お姉ちゃんは、先に外していた真珠のネックレスをあたしの首にかけると、ふたり並んで鏡を覗き込む。
     「うわぁ……怖いくらい、私に似てる……」
     あたしの隣りで、茫然と呟く少女。
     若返ったせいか、その声のトーンはいつもより甲高く、どこか興奮してるようにも思えた。
     「それを言うなら、貴女だってあたしにそっくりよ」
     あたしもいつになく柔らかなトーンの──そう、普段のお姉ちゃんみたいな声で言い返した。

     彼女の方に視線を向けたあたしは、微妙な違和感を感じた。
     あたしの制服を着た彼女は、「高塚恵美子」そのものだったけど、いつものあたしとは違うものを身に着けていたからだ。
     逆に自分の足元を見ると、あたしもこの「栗林優美」の喪服には似合わないものを身に着けている。
     「ねぇ、ストッキングを脱いで」
     「えっ」
     他人の下着もそうだが、他人のストキングを身に着けた経験も当然無い。
     そもそもストッキングを穿くこと自体、指で数えられるくらいだった。
     あたしの穿いていた黒いスクールソックスを渡し、代わりにストッキングを渡される。
     伝線しないようにゆっくり爪先から穿き上げた。
     「いい? たった今から「私」は優美で、あなたは「恵美子ちゃん」よ」
     「うん」
     素直に返事する彼女の手にある最後のピースに、「私」は気がついた。
     「その指輪……」
     「あっ。そうだね」
     「恵美子ちゃん」は、首飾りの時の躊躇いが嘘のようにアッサリと指輪を外し、「私」の左の薬指にはめる。

636 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:53:54.30 ID:wrfuj8h7 Be:
     これで「栗林優美」の身に着けていたものは、全て「私」が身に着けている。
     指にはめた指輪を見ながら、「まだ結婚もしてないのに」とおかしくなったけど、思い直す。
     (ううん、今の「私」は人妻だもの。
     和也さんの奥さんで、マミちゃんのお母さんの「栗林優美」──それが私)

     * * * 

     完全にお互いの外見にあった格好に着替え終えたふたりは、これからどう行動するべきか話し合った。
     今日から明日の午後まで、丸一日をどう乗り越えるか?
     どう行動すればいいのか?
     先程まで渋っていたとは思えないほど、彼女──「恵美子」は、この入れ替わり劇に積極的になっていた。ここまでしたからには、と開き直ったのかもしれない。
     「優美」としても、異論はなかったので、打ち合わせはスムーズに進んだ。

     そして、ふたりは連れ立って離れから屋敷に戻った。
     彼女達が姿を消していた時間は、1時間程だったろうか。
     当然、「恵美子」は、「母」である聖子に怒られだが、信頼の厚い「優美」が弁護したおかげで、すぐにお説教は終わった。
     「恵美子」からの感謝の視線が、「優美」には心地よかった。
     その後、聖子たちと別れた「優美」は、「夫」の元へ戻り、甘えてくる「娘」を優しくあやしてあげた。
     (マミちゃんって、和也さんと「優美」のいいところを受け継いだような娘で、本当に天使のように可愛らしいわねぇ)
     自分も将来こんな子が欲しい……と考えかけて、「優美」は首を横に振る。
     (ううん、今は私がマミのお母さんだものね)
     「どーしたの、ママ?」
     「ふふっ、なんでもないのよ、マミ」

     * * * 

     その後も、入念な打ち合わせのおかげか互いに特に困るようなこともなく、私たちは一日を祖父母の家で過ごした。
     嫌みで辛気臭いと思っていた親戚のおばさん達も、立場を変えれば驚くほど好意的で好感が持てる人で、私は「栗林優美」として振る舞い、話し、過ごすことを大いに堪能した。
     特に、「夫」──和也さんとの「夜」については、「素晴らしい」の一言に尽きた。
     お姉ちゃん(この呼び方に何だか違和感を感じるのだけれど)は、「万が一迫られても、疲れたフリをすれば、和也さんは引いてくれるから」と言っていたけど、いざその場になって求められた私は、素直に応じてしまったのだ。
     無論、あたし──高塚恵美子に「経験」はない。それどころか恋人すらいたことはない。
     だが、今の私はこの人の妻の「優美」なのだから、主人に抱かれるのも当然のことだ。
     なぜか、そう思ってしまったのだ。

637 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 04:54:55.61 ID:wrfuj8h7 Be:
     幸か不幸か十歳成長したこの身体の方はすでに「経験済み」だったようで、特に痛みもなく私は夫のモノを胎内奥深くに受け入れる事が出来た。
     夫のソレは私の膣にまるであつらえたようにピタリとハマり、私たちふたりは(隣りの部屋で娘が寝ていることも忘れて)熱い一夜を過ごすことになった。
     和也さんも私が「本物の恵美子」ではないなどと思ってもみないようだ。それどころか「いつもにもまして反応がいい」と、むしろご機嫌なくらいだった
     娘のマミは目覚めなかったものの、私たちの夫婦の営みの様子は、他の部屋に止まった親戚には聞こえてしまっていたようで、朝から「熱々ねぇ」と叔母たちから冷やかされた。

     (祖父の葬儀に来てるのに流石に不謹慎だったかしら?)
     恥ずかしくはあったが、別段悪いことをしたワケじゃないし……と私は開き直る。
     ──いや、本当は「他人の夫を(妻のフリをして)寝取る」というとんでもない罪を犯しているのだが、優美になりきっていたその時の私は、まったくそれに思い至らなかったのだ。
     幸い、「恵美子ちゃん」の寝た部屋は私たちの部屋から離れていたため、気づかれていないようなのが救いだ。

     そして、祖父の葬儀も終わり、昨日と同じ夕刻になった。
     親戚もそとりまたひとりと帰宅し、残るは私達と恵美子ちゃんの家族だけだ。
     名残り惜しいが、そろそろ「元」に戻らねばならないだろう。

     コッソリ抜けだした私は、恵美子ちゃんと連れ立ってあの離れへとやってきた。
     ふたり並んであの姿見の前に立つ。
     ──けれど、何も起こらなかった。
     願い事が揃ってないのが原因かと、わざわざ紙に「元に戻りたい」と書いてそれをふたりで声を合わせて読みあげてみても、やはり何も起こらない。
     いや、鏡がほのかに光ったような気配はあるのだが、昨日の眩い光とは雲泥の差だった。

     「もしかして、あたしたちの願い事で、思ったより「パワー」を消耗してるのかも」
     恵美子ちゃんが困ったような顔で、推測を口にする。
     「そんな!? それじゃあ、しばらくこのままってことなの?」
     「うん、たぶん……」

     * * * 

     結局、ふたりちはそれ以上どうすることも出来ず、当分今の立場になりきって暮らし、1ヶ月後に再びこの部屋に来ることを約束して、それぞれの家に帰るしかなかった。

639 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 05:46:23.53 ID:wrfuj8h7 Be:
     26歳の有能な高校教師から平凡な女子高生になった「恵美子」はともかく、高校生からいきなり教師になった「優美」が、うまく日常を送れるはずがない──普通はそう思うだろう。
     しかし、むしろ実情は逆だった。

     「家」(言うまでもなく栗林家だ)に帰ってから気がついたのだが、実は今の彼女は「高塚恵美子の十年成長した姿」ではなかったらしい。
     正しくは、「16歳の恵美子に、17歳以降の優美の経験と成長を足した存在」だったみたいなのだ。
     具体的に言えば、16歳になるまでの「恵美子」としての知識と記憶は、当然今の彼女にもある。逆に言うと、16歳までの「優美」の記憶はない。
     けれど、17歳(正確には16歳と数ヵ月?)以降の「優美」の経験と知識、そしてそれによる成長の成果などは、キチンと彼女も使えたのだ。
     ──道理で、見た目も本来の優美ソックリなワケだ。何しろ、その身体の成育過程までも、今の私は映し取ってしまったのだから。

     そのおかげで、名門高校の歴史の教師という立場も、一家の主婦にして一児の母という立場も、何ら問題なく全うできているのは、正直有難かった。

     ただ、その分、「恵美子」の方は色々と苦労しているようだった。
     なにせ、大まかな記憶こそ残っているみたいだが、知識や経験のレベルは16歳当時に戻っているのだから。
     もっとも、その頃の彼女はまさに優等生として名を馳せていたのだから、学業関連は問題なかったらしい。
     困ったのはプライベートな友人関係だ。
     親戚でそれなりによく知っている恵美子の家族は何とか誤魔化せても、それまでほぼ面識のなかった学校の友達とは、いろいろ行き違いもあった……と、「優美」は電話で愚痴られた。
     それでも、時間をかけて、新たな交友関係を築くことができたのは大したものだろう。

     * * * 

     さて、互いにそれなりに現在の立場に適応しつつ、1ヵ月を過ごした私達は、それでも約束を違えることなく、祖父母の屋敷へと集まっていた。
     私に関して言えば、正直、今の暮らしに未練はある。
     煩わしい大学受験や就職のことを心配しなくて良いというのもさることながら、優しくハンサムな夫と愛らしい娘に囲まれ、生徒達から憧憬のま眼差しを向けられる日々に、私はすっかり魅了されていたのだ。
     けれど、だからこそ、このまま「栗林優美」としての立場を盗んではいけない──と、なけなしの良心のようなものが、許さなかったのだ。
     あるいは、「二度目の高校生活も結構悪くないよ♪」と、電話でおどけてみせる恵美子ちゃんに対して、いつしか「妹」に対する愛情のようなものを感じるようになっていたからかもしれない。

640 「とりかえばや」 [sage] 2012/02/25(土) 05:47:04.91 ID:wrfuj8h7 Be:
     しかし……あの日、離れに足を運んだ私たちが見たものは、無残に割れたあの姿見だった。
     当然、元に戻ることなんかできるはずがない。
     茫然とした私達はそのままフラフラと祖父母の家を後にして、それでも何とか無事互いの家に帰りついていた。
     私は、栗林家に。
     恵美子ちゃんは、高塚家に。
     すでに、無意識のレベルで、そこが自分達の「帰るべき場所」だと私たちは認識するようになっていたのだ。

     改めて事態を噛みしめた私たちは、その後、恵美子ちゃんの学校近くの喫茶店で「最後の話し合い」を行った。無論、話題は、今後のことについて。
     「こうなったからには、仕方ないよ、お姉ちゃん。あたし達、それぞれの道を歩むしかないよね」
     「順風満帆な栗林優美の人生」を得た私はともかく、彼女の方も意外なほどサバサバしていたのが、多少なりとも救いだろうか。
     あるいは、彼女は彼女で安定しきった「栗林優美」としての暮らしに、何がしかの不満はあったのかもしれない。

     それから半年近く会わない日が続き……今日、久しぶりに、ここ──「あたし」にとっては懐かしい気もする(実はその感情も結構風化している)浜崎学園で、再会することになったというわけだ。

     会う前は聞こうかと思っていたのだ。
     「あの鏡を壊したのは、貴女じゃないの?」
     けれど、今更それを問うことに何の意味があるだろう。
     私自身、今の「優美」としての暮らしに満足こそすれ不満は殆どない。
     そして、彼女もまた「恵美子」としての人生を望むと言うのなら……。

     うん、この事について思い悩むのはもうやめよう。
     「それじゃあ、「高塚さん」、明日からよろしくね」
     「はーい、栗林先生……でも、プライベートの時は、「お姉ちゃん」って呼んでもいいよね?」
     上目遣いで見つめる「従妹」の姿が抱きしめたくなるくらい愛らしい。
     「もちろんよ、恵美子ちゃん♪」
     そう、だって私は仲の良い従姉妹同士。
     私にとって彼女は「可愛い妹」で、彼女にとって私は「優しい姉」なのだから。

    -end-

    #以上。私定番の「入れ替わったら元に戻らないでござる」系なお話。鏡の真相は藪の中。
    #ちなみに、恵美子の制服は某「メモオフ」の浜咲学園の女子制服を想定。優美と恵美子のビジュアルも、白河姉妹で置き換えるとわかりやすいかも。
    #そして支援感謝!

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最終更新:2012年04月18日 18:01