無題・性質逆転

472 名無しさん@ピンキー [sage] 2013/03/03(日) 02:20:52.38 ID:jMyMXzQp Be:

    「うふふ、素敵よねえ、ホントにこの国に来て良かったわぁ」
     小さくきりりと引き締まった小顔の中に、凛凛と輝くのは大きく開かれた
    黒目がちの瞳だった。鼻梁は高く、引き締まった口元には白く並びの良い皓
    歯が覗いていて、微笑のごとに、その口からは旋律のような吐息が漏れた。
     すらりとした痩身ではあったが、胸元は実に豊かに盛り上がっており、ぴ
    っちりとしたブラウス越しにその丸みある形はくっきりと浮き彫りになって
    いて、動作をひとつ行うたびに、それは弾みつつ、きゅうきゅうと窮屈そう
    に衣擦れの音を上げていた。
     腰つきは優雅にくびれついており、長くすらりと伸びた足もまた扇情的に
    白く輝き、ミニスカートから伸びるラインは女優もかくや、とばかりである。
     逆転国の国立大学へと留学してきたメイファは、すっかりとそれまでの冴
    えない容姿を一転させてしまい、トップモデル顔負けの長身美女へと激変し
    てしまったのであった。
    「あはは、これじゃ勉強も捗らないかもね。イケメンに言い寄られたりなん
    かしたら、私、断れないかもしれないしね、ふふふ」
     鏡の前に何度も身をよじらせながらポーズを作ってみる彼女は、ふとベッ
    ドの方に視線をやってみる。

     すると、そこには毛布にくるまったままのルームメイトの姿があった。
    「ねえ、それにしてもリーファ。あなたも、そういつまでも塞ぎこんでいら
    れると、部屋の雰囲気が暗くなって嫌だわ。どうにかならないの?」
     すると、怒気に歪んだ低い声がひとつ、
    「ぅるっさいわねえ、メイファ、あんた、この国に来て立場が逆転したから
    って……はしゃいでるんじゃないわよっ!」
     毛布を剥いで現れたのは、肥満した身体をよれよれのトレーナーに包んだ
    だらしない印象を見る者に与える女の姿だった。
     顔にはひどく吹出物が浮き出し、髪はぼさぼさで、顔から手足からまんべ
    んなく弛緩しているくせに、胸は平らかで、腹よりも低い段にあるのが不憫
    なほどであった。
    「あら、だって、女の子だったら誰だって到底望むべくもない美人になれた
    のなら気分が高揚するものじゃないの?」
     にやにやとメイファ。余裕に満ちた笑顔だった。
    「っ……私だって、こんなことになると分かっていたのなら、こんなところ
    にくるなんて決めなかったわっ!」
     祖国においては、キャンパスクイーンの座を大差で獲得していたほどの美
    貌を誇っていたリーファである。その屈辱のほども知れるものであった。
    「あらぁ……でも、もうこれは正式な任務なんですもの。任期の3年をきち
    んと果たさなければ、最悪、あなたも国に戻ることができないわよ」
     意地悪く、メイファは釘を刺す。

     うっ、と言葉に詰まったリーファに、
    「いいじゃないの、たった3年我慢すれば、またあなたはあの輝かしい美貌
    を再び取り戻すことができるんですもの。これはあなたの人生に課せられた
    試練のひとつだとでも思えばいいんじゃないの?」
     メイファは一転して優しげな声を掛ける。
    「……でも、だからって、私はいつだって、みんなから綺麗だね、って言わ
    れ続けてきたんですもの。そうじゃない私なんて……考えられない」
     太い眉毛を不器用そうに引きつらせるリーファを眺めながら、
    『うふふ、確かにこんな表情じゃあ誰も同情は寄せてはくれないわよねえ』
     と、内心の黒炎を吹き上げさせるメイファだった。
    「まあまあ、それも勉強に集中してさえいれば、そうそう気になるものでは
    ないわよ」
     と無責任に慰めつつ、メイファは、
    「ああ、それはそれとしてね、今夜は歓迎のパーティで正装なんですってよ。
    でも、私もあなたも、ここについてから日も浅いし、そんな用意もできてい
    ないから……ねえ、良かったらお互いの持ってきたドレスを交換しないかし
    ら?」
     提案は非情のものにリーファは感じられたが、否の回答はできないことと
    悟って、力なく首を縦にするのだった。

     そして、互いの持ちこんだドレスを交換してそれぞれ着用する二人。 

    「あらぁ……まるで誂えたようにぴったりだわ。足が長くなってるからちょ
    っとだけ丈が短くなるけど、まあ、バランス的には悪くないと思うの」
     本来の着用者よりも上手に着こなすメイファに対して、リーファは、
    「ん……ぐぐ、お腹回りが……厳しい……」
     胴囲の膨張した彼女には、かつての彼女自身の嘲笑の的だったはずのメイ
    ファのドレスですら、サイズがきついのだった。
    「まあ、リーファったら……待ってて、ちょっと、息を止めて、お腹を引っ
    込めてね……それっ」
     ぐいっ、とお腹の肉をねじ込んで、ようやくリーファのドレスはホックを
    止めることができたのだったが、
    「あら……少しだけ……きついかしらねえ」
     ぼよん、とタコ糸に縛られたハムを彷彿とさせる元キャンパスクイーン。
     にやにやと笑みがこぼれてしまうのを必死にとどめて、メイファはトラン
    クから白いベルトを取り出した。
    「まあ、ホックは外したままで、このベルトだったら少しくらいは余裕があ
    ると思うから、ね」
     されるがままのリーファには、もう能動的な意思が喪失してしまっていた。
     ありえない屈辱と、それから悲しみと怒りとで、感情が麻痺してしまって
    いたのだった。
    「まあ、いいわ。これから私の私服は全部あなたに貸してあげるから、そう
    下着も全部、いいからね」
     にやにやと下心を丸出しに、メイファは優雅な笑みを浮かべていた。


    「あらぁ、駄目よ、そんな顔してちゃ。いいこと、私たちは国を代表してこ
    こまで来たのだから、いつだって毅然と、そうエレガントに振舞わなきゃな
    らないのよ…………」
     そんな、メイファの言葉も、すでにリーファの暗褐色に暗転した世界には
    届かないのであった。
     ただ、彼女の腹部にきつく締めつけられるベルトの金具の疼痛が、時折、
    彼女を現実世界へと覚醒させるばかりなのであった。

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最終更新:2013年05月09日 15:52