放課後、健太が階段を下りると、下駄箱の前は大勢の生徒で混雑していた。これから真っ直ぐ家に帰る者がいれば、部活動にいそしむ者、校舎の外で待ち合わせをする者もいる。
靴を履き替えた健太は急いで外に出ようとしたが、少々慌てていたため、前にいた生徒の背中にぶつかってしまった。
勢いよく弾き飛ばされ、地面に尻餅をつく健太。そんな彼を、一人の女が見下ろしていた。
「ちょっと。人にぶつかっておいて、お詫びの言葉はないの?」
「あ、ああ……すまん、佐藤」
健太は今しがた衝突したその女生徒、佐藤サダ子に謝った。サダ子は彼のクラスメイトで、背は低いが平均的な女子二人分の体重を誇る肥満児である。加えてとんでもない不器量で、周囲の男子たちからは「ビア樽」や「目を合わせたくない女子ナンバーワン」などといった不名誉な称号を賜っていた。
だが、皆が忘れてしまっても、健太だけははっきりと覚えていた。この娘がかつて「完璧」と称賛される優しく美麗な才女だったことを。
「まったく……女の子のお尻ばっかり追いかけてるから、そういうことになるのよ。もうちょっと気をつけなさい」
サダ子は健太に嫌味な言葉を投げかけると、巨体を揺らして帰っていった。
その冷たい態度からは、ほんの数ヶ月前まで彼女と健太が相思相愛の仲だったとは想像もできない。
(仕方ないよな。麗華は変わっちまったから……何もかも変わっちまった)
以前の恋人が去っていくのを無言で見送ると、健太は校舎の外に出た。
「健太、こっちこっちー」
呼ばれて振り返ると、そこに複数の女子生徒の姿があった。健太は笑みを浮かべ、そちらに歩を進める。四人の女子が彼を待っていた。
彼の名を呼んだのは、すらりとした長身の少女だった。名前は田中ヨシ子。細い腰に手を当てて仁王立ちし、長い手足を誇示している。しかし、不思議なことに顔だけは体型に不釣り合いなほどふくよかで、こけしを思わせるシルエットだ。
「トイレ、長かったのね。待ちくたびれちゃった」
と、ヨシ子の隣で悪戯っぽい笑顔を見せたのは、さらさらした黄金色の髪の女生徒だった。染めたのではなく、天然の金髪である。顔立ちは少し日本人離れしており、瞳はつぶらで鼻梁は高い。薄い桜色の唇で柔らかく微笑むその姿は、文句無しの美少女だった。
だが、残念なのはその体型だ。先ほど健太がぶつかって弾き飛ばされた佐藤サダ子と似たり寄ったりの肥満体なのだ。だらしなく垂れた三段腹が制服のブレザーからはみ出し、いかにも窮屈そうだった。体重は三桁に届くかもしれない。なぜか顔にだけは余分な脂肪がついていないが、そのせいでぶくぶくと肥え太った首から下が、まるで頭部と別の生き物のように見える。スリムな肢体と下ぶくれの顔をあわせ持つヨシ子とは対照的だった。
この美貌の女生徒は鈴木ノリ子。「米俵」と称される体型は別にして、顔だけ見れば学校一の器量良しだ。
「とにかく行こうぜ。麗華の車、もう迎えに来てるんだろ?」
「う、うん。いつもの場所に停まってるって……」
残った二人の少女たちが、そんな会話を交わして歩き出した。
言葉づかいが乱暴な茶髪の女子は、吉本エミリ。以前は箸にも棒にもかからない不良少女だったが、今は学年一の成績を誇る優等生である。煙草を吸いながら健太たちの勉強を見てくれる、姉御肌の頼れる才女だ。
一方、青白い顔色の小柄な女生徒は、嘉門院麗華という。
健太たち五人は、エミリと麗華を先頭に学校をあとにした。校門から少し離れたところに、大型の高級車が停まっていた。
「お待ちしておりました、麗華お嬢様」
運転手が麗華に挨拶し、彼女を丁重に車に乗せる。健太たちも中に乗り込んだ。
麗華は地味な風貌からは想像もできないほどの資産家の令嬢で、お付きのメイドや運転手など、大勢の人間を従えているのだ。
「今日はどちらに?」
「ええっと……あたしの部屋に行ってください」
「かしこまりました」
車が向かったのは、学校からほど近い場所にある高級マンションである。ここは高校に進学したのを機に、麗華の親が愛娘に与えた仮の住まいだった。
友人たちを引き連れて帰宅した麗華を、メイドの秀美が出迎えた。
「お帰りなさいませ、麗華お嬢様」
「た、ただいま、秀美さん」
「今日もお友達がご一緒なんですね。ただいま、お菓子をお持ちします」
「い、いえ、結構です。あの……今日は勉強に集中したいので、あたしが呼ぶまで部屋に入らないでくれませんか。お願いします……」
麗華は聞き取りにくい小声で言った。有名な資産家の令嬢でありながら、彼女はほとんどそれを感じさせない卑屈な態度で周囲に接する。まるで平凡な庶民が一夜にして金持ちになったかのような、物慣れない態度だった。
麗華と健太の顔をちらちらと見比べたのち、秀美は「仕方ない」とでも言いたげにうなずいた。
「わかりました。それじゃ、私はしばらくお買い物に行ってきましょう。ご用の際は私の携帯におかけ下さい、お嬢様」
「は、はい……わかりました。すみません」
忠実なメイドが出て行くと、広い家に健太と四人の少女が残された。
「それじゃ、さっそく始めましょうか。ねえ健太?」
美少女ノリ子の言葉が合図となって、皆が各々の制服を脱ぎだした。複数の少女が衣服を脱ぎ捨てていく扇情的な光景が、健太の目を楽しませる。
素裸になったスタイル抜群のヨシ子が健太の手を引き、ベッドに飛び込んだ。
「まずは私からね。健太、キスしてちょうだい」
ヨシ子は二重顎を前に突き出し、分厚い唇を近づけてきた。健太は険しい顔で拒絶する。
「絶対に嫌だ」
「もう、健太ったら。私にキスしてくれたこと、一度もないんだから。しょうがないわね。じゃあ、こっちをお願い」
健太の拒絶に残念そうな顔をしながら、ヨシ子は彼の手を自分の乳房にあてがった。女子高生とは思えない巨乳が、健太の手の中で豊かな弾力を示した。
「どう? 私のおっぱい、とびきりの揉み心地でしょ」
「ああ、最高だ。でも、お前の乳じゃないぞ。これはあいつの……」
件の話題を持ち出そうとした健太の口を、ヨシ子の繊細な指がそっと塞いだ。
「ううん、違うわ。これは私のおっぱいなの。もう私のものなの。そうでしょ?」
張りのある乳房を健太に揉まれ、時おり荒い息を吐き出しながら、ヨシ子は言った。
「最近、サイズが大きくなったのよ。健太のおかげね」
と、得意げに語って自らの豊満な体つきをアピールする。
細い腰や整ったプロポーションこそ入れ替わったときと変わっていないが、体の線は全体的に丸みを帯び、少女というよりも女の体になりつつあった。
硬く勃起した乳首を強く抓ると、ヨシ子は色っぽい声をあげて身をくねらせた。
「ああっ、そこいい。体が熱くなっちゃう」
「下も触るぞ」
「うん、お願い。いっぱい可愛がって……」
菓子パンにも似た丸顔を真っ赤にして、健太の愛撫を待ちわびるヨシ子。この少女と自分がこのような関係になるとは、以前の健太は想像さえしなかった。
そのヨシ子が、今は自分の指に性器をかき回されて、浅ましいよがり声を発している。本当に不思議なものだと健太は思った。
「あっ、あっ、すごい。健太に触られると、体がビクビクするの」
ヨシ子の女の部分は早くもよだれを垂らし、結合の準備を整え始めていた。桜色に染まった肌に舌を這わせ、健太は最愛の少女のものだった肢体の味を楽しむ。
その首に載っているのは別人の頭部だが、首から下は紛れもなく「彼女」の体なのだ。
「ヨシ子ばっかりずるい。私も健太としたいのに」
突然、横から割り込んできた美少女の顔に、健太は少なからず驚いた。それは、いま健太が相手をしているはずの「彼女」の顔だったからだ。
「れ、麗華?」
「違うわ、私はノリ子。あれからもうだいぶたつんだから、間違えないで」
黄金の糸で編んだような美しい髪を強調しながら、ノリ子は答えた。
繊細な顔立ちも麗しい金髪も、もとは「彼女」のもの。しかし今はノリ子のものだ。学校一の美少女となった肥満児が、健太とヨシ子の間に割り込んでいた。
「ヨシ子だけじゃなくて私にもしてよ、健太」
「あ、ああ……じゃあ、キスしてやる」
健太はノリ子の細い顎をつかみ、可愛らしい唇に自らのそれを重ねた。満足げに目を細めるノリ子の口内に舌を差し入れ、音を立てて唾液を味わう。
「ん……健太のキス、いやらしい。んっ、あんっ」
ノリ子は艶やかな「彼女」の声で歓喜した。中身こそ別人だが、その声も顔も「彼女」のもの。記憶の中の「彼女」が決して見せなかった淫猥な表情を前にして、健太の牡が立ち上がった。
「あっ、健太のチンポが当たってる。お願い、もっと私の体をいじって。ああっ、あんっ」
「健太、もっとキスして。もっと私を味わって」
体だけの「彼女」と頭部だけの「彼女」を同時にもてあそぶことで、健太の中で得体の知れない興奮が生まれる。健太の心をかき乱すのはヨシ子でもノリ子でもなかった。二人が持っている「彼女」の一部だった。
「もう我慢できねえ。入れるぞ、ヨシ子」
すっかり奮い立った健太は、ヨシ子の細い腰をつかみ、正面から己のものを突き入れた。健太によって女にされた「彼女」の入り口が広がり、彼を一気に飲み込んだ。
「おほおっ、入ってきたわ。健太が私の中に……ぶひいっ」
ヨシ子の下品な喘ぎは獣じみていて、情緒の欠片もない。豚を犯している気分になった。健太は相手を気づかうことなく、腰を乱暴に叩きつける。喜んでいるのか苦しんでいるのかもわからないヨシ子の鳴き声を聞きながら、男の欲望を存分に満たした。
激しく絡み合う健太たちを、手持ち無沙汰のエミリと麗華が座って眺めている。
「おい、早く交代してくれよ。あたしも早く健太とヤリたくてウズウズしてるんだから」
「あ、あたしも……健太君と、その、したいです」
二人は頬を赤くして、愛する健太を待ちわびていた。
ヨシ子、ノリ子、エミリ、麗華。まるでタイプは異なるが、皆、健太のことが好きで好きで仕方ないのだ。
こんなことになってしまったのは、四人が「彼女」の恋心を植えつけられたためである。
「女の子にとって一番大切なもの……それは恋する心です。麗華さんの恋する心を、あなたたちのそれと交換してあげましょう。これが僕の最後のマジックです」
あの日、「彼女」の魅力を一つずつ剥ぎ取り、バラバラにした黒衣の占い師は、そう言って「彼女」と四人の恋心を交換した。だが四人は誰にも惚れていなかったために、健太を愛する「彼女」の想いだけが一方的に四人に移植されることとなった。
その結果、「彼女」は健太に対する一切の好意を失い、代わりに「彼女」から魅力を奪った四人の娘が健太を恋い慕うようになってしまったのだ。
以来、健太は自分に迫ってくる少女ら全員と関係を持ち、その中から一人を選ぶでもなく、堂々と全員と交際している。
「どうだ、ヨシ子。俺のチンポはそんなにいいか?」
健太はかつての恋人の体を持つクラスメイトに問いかけた。
「は、はい。最高ですっ! ぶひいっ、もっとしてえっ」
「この豚がっ! 麗華の体でスケベなことばかりしやがって! あの日、お前が麗華と体を入れ替えなきゃ、こんなことにはならなかったんだぞっ」
「そ、そうです。こんなに気持ちいい体になって、とっても幸せなのおっ! あう、すごいっ!」
ヨシ子はよだれを垂らして喘ぎ、たくましい少年のペニスを堪能していた。
彼女に言わせると、こうして健太とまぐわっているときが、一番、現在の自分の身体を自分のものだと実感できるのだという。
すなわち、この行為はヨシ子にとって意中の相手との仲を深めるだけでなく、もとは他人のものだった首から下の肉体を自分に馴染ませる儀式なのである。
「彼女」の肢体を奪った醜い女を貫きながら、健太は言いようのない背徳感と征服感とに燃えていた。
「ああ……麗華、麗華っ!」
傍らのノリ子と接吻を交わしつつ、愛する少女の名を呼ぶ。最初の波がやってきた。
「おら、出すぞっ! 中出しだ、麗華っ!」
熱い塊が健太の先端から噴き出し、少女の胎内に叩きつけられる。ヨシ子の体がびくんと跳ねた。
「うほっ、出てる。イクっ、イっちゃう。中出しイクっ」
「彼女」の美しい身体の上で、ヨシ子の頭部が鼻息荒く絶頂に達した。
射精を終えた健太は、半ば気を失っているヨシ子から一物を引き抜く。新しい所有者によって性感帯を開発された少女の体が、濃厚な牝の臭いを放っていた。
「気持ちよさそうだなあ、ヨシ子。私だって、ダイエットさえすれば……」
健太とのキスで興奮した様子のノリ子が、ヨシ子を羨ましげに見つめた。
ノリ子も健太の愛人の一人だが、とてつもない肥満体のためセックスに及ぶことは滅多にない。もっぱら口で健太に奉仕する係である。「もっと痩せれば相手をしてやる」と健太は言っているのだが、ノリ子にはそれができないらしい。
「終わったみたいだな。やっとあたしたちの出番だぜ、麗華」
「すごい……ヨシ子、失神してる」
健太の背中に裸体を押しつけてきたのはエミリと麗華だ。
バストこそヨシ子ほどではないが、エミリは肉づきのいい魅力的なボディの持ち主だった。
一方の麗華は小柄で幼児体型。以前は青白い顔色と長い前髪のせいでクラスの男子たちからは敬遠されていたが、「彼女」の名前と立場を手に入れてからは、前髪を切って服装にも気をつかうようになり、随分と明るくなった。
惚れた相手に尽くすタイプのようで、健太の言うことは何でも聞き入れてくれる。彼に命じられるまま一行のスポンサーとなって、皆に遊ぶ金を提供しているのが彼女だった。
「麗華、こっちに来いよ。そんであたしの上に乗りな」
エミリは麗華の小さな体を抱きかかえ、自らは仰向けに寝転がった。二人の女子高生が抱き合い、仲良く健太に秘所を晒した。
「な、何するの、エミリ?」
「たまには麗華と一緒にしてみたくなったんだよ。なあ、健太、あたしの考えてること、わかるだろ?」
「ああ、わかってる。味くらべだろ」
健太はエミリの意図を察し、鈍い光を放つ男性器を二人の体の隙間に突っ込んだ。柔らかな二人の腹の肉に挟まれ、若いペニスはすぐさま活力を取り戻す。
ヨシ子のエキスで濡れた健太のものを、先に受け入れたのはエミリだった。
「んん……健太のチンポ、まだまだ元気じゃねえか。あたしの中をゴリゴリしてきやがる」
「そりゃ、日頃から鍛えてるからな。こんな風に」
健太の切っ先がエミリの奥へと分け入り、子宮をぐいぐいと圧迫する。素行不良の優等生の顔が歓喜に歪んだ。
「はあっ、それいい。一番奥に当たってる。あんっ、あんっ」
リズミカルに腰を動かして秘部の最奥まで抜き差しする健太に、エミリはたちまち魅了される。学校の教師たちが手を焼く問題児の女生徒も、健太にかかれば赤子同然だった。
「エミリの中、すっげえ熱い。肉が絡みついてくる」
「あっ、ああんっ。そんな、そんなこと言うなあ……」
「そろそろいいか。お次は麗華だ」
健太はピストン運動を中止し、ゆっくりとエミリの中から抜け出た。そして硬いままのペニスを、今度は麗華に突き入れる。
「ああっ、健太君があたしの中に……」
「麗華の中は狭くてきついな。動くのも大変だ」
小柄な麗華の女性器は、当然のことながら狭い。太い健太のものを受け入れるのは大変だろう。
しかし、健太は麗華の体を押さえ、容赦なく彼女の中を往復した。ヨシ子、エミリ、そして麗華の愛液が健太の汁と混じり合って泡だつ。
「ううっ、健太君。健太君……」
「ははは、サダ子の顔、だらしなく緩んでるぞ。普段は大人しいくせにエロいやつだ」
「酷い。あたしはもうサダ子じゃなくて麗華だって言ってるのに……ああっ、ダメっ」
「お前は麗華じゃない。サダ子だ。あいつの名前だけもらっても、サダ子はサダ子だろ」
バックスタイルで麗華を犯しながら、健太は相手の本当の名を呼んだ。こうすることで、この少女の性感が高まるのを彼はよく知っていた。
麗華の膣内が適度にほぐれてくると、また交代してエミリの締めつけを堪能する。
二人の女子高生を代わる代わる味わうことで、再び射精の欲求が湧き上がってきた。
「おおっ、出すぞ。中に出してほしいのはどっちだ !?」
「あ、あたしがいいっ」
二人は異口同音に答えた。それを聞いて、まずは麗華に子種を植えつけた。濃厚な白濁が少女の胎内を焼き、若く健やかな子宮に無数の精子を送り込んだ。
「ああっ、健太君が中に出してる。熱いよ。こんなに出されたら赤ちゃんできちゃう……」
満足そうに吐息をつく麗華から急いで抜け出て、エミリに残りの精を注ぎ込む。健太の遺伝子が灼熱のマグマとなって、エミリの体内に飲み込まれていった。
「んんっ、中出しされてる。あたし、健太に種付けされてる……うう、気持ちいいっ」
ビクビクと体を震わせ、膣内射精の甘露を味わうエミリ。
二人の少女はたっぷりと健太の精液を受け止め、女の幸せを噛み締めた。その嬉しそうな顔には、妊娠の恐怖など微塵もない。むしろ受精するなら本望なのだろう。
「ふう、二人ともよかったぞ。思いっきりしぼり取られた……」
健太は疲労を感じてへたり込んだ。そこに美貌の肥満児、ノリ子が寄ってくる。
「後始末は私に任せて。口で綺麗にしてあげる」
「ああ、麗華、頼む……」
「だから、私はノリ子だってば」
ぶつぶつ文句を言いながら、ノリ子は細い唇から舌を出して健太のペニスをなめ始めた。その顔のおかげで、「彼女」が淫らな奉仕をしてくれているような気分になる。
健太はノリ子の向こうに視線をやった。そこには「彼女」の肢体だけを持つヨシ子がいる。反対側には、「彼女」の知能を持つエミリと、「彼女」の名を持つサダ子がいた。
(麗華……)
健太は心の中で「彼女」の名を呼び、かつての恋人に思いを馳せた。人の形をした悪魔によって全てを奪われる前の「彼女」の姿が脳裏に浮かんだ。
あの日、カトーという名のあの魔術師によって、完璧な「彼女」は消されてしまった。
知恵、顔、体、名前……大事なものを一つずつ剥ぎ取られてしまった「彼女」は、最後には健太への愛情すら無くしてしまった。再び健太の恋人となることはないだろう。
その代わり、「彼女」の顔や名前を盗んだ四人の娘が健太の愛人となった。
四人の長所を合わせれば、かつての完璧な「彼女」とほぼ同等である。ある意味、「彼女」は今も健太のそばにいると言えるかもしれない。
全てのマジックが終わったあと、カトーは健太にこう言った。
「いかがです? あなたの願いは叶えましたよ。何でもできる完璧な麗華さんから、皆が羨む要素を全て取り去りました。これで、健太さんは彼女と対等どころか、どんな分野で競っても、絶対に勝てると思います。スポーツでも、勉学でも、そして容姿や人望も。『相手のことを好き』という気持ちでさえ、今の麗華さんはあなたに敵わないでしょうね。何しろ恋心を残らず無くしたわけですから、勝負にもなりませんよ」
「ち、違うんだ。俺はこんなこと望んでない。麗華を元に戻してくれ……」
「それは難しいですね。『僕の仕事がお気に召さない場合、料金は結構です』とは言いましたが、元通りにするとはひとことも言っていません。それに、他の皆さんがこんなにも喜んでいらっしゃるわけですし、今さら元には戻せませんよ。ほら、ご覧なさい。四人ともあなたにぞっこん惚れてらっしゃいますよ」
あの日から、健太はカトーの姿を一度たりとも見ていない。
もう顔を合わせることは二度とないだろう。そんな確信があった。
「どう? 健太、私の口、気持ちいい?」
「健太、私、もう一回してほしいな。こっちに来てよ」
「おい、健太、あたしのことも忘れるなよ」
「健太さん……あたしも、もう一度してほしいです……」
静かに回想にふける健太を、四人の少女が取り囲んでいた。
バラバラになった「彼女」が姿かたちを変えて、今も自分に寄り添ってくれている。そう思うと、自分がいま嬉しいのか、悲しいのかもわからなくなる。
健太はベッドに倒れ込み、小声で「彼女」の名前を呼んだ。
最終更新:2013年08月15日 13:48