投稿日:2009/02/24(火)
<1>
街中を歩く二人の女性。
一人は170cm超の長身。細い手足に革のロングブーツ。
もう一人は150cm前後、ピンクのアンサンブルが可愛い感じだ。そしてその上からはっきり分かる大きな胸。
「こんな店あったっけ…」
「何の店だろう…」
怪しげな仮面や奇妙な形の壷。二人は吸いこまれるように入っていった。
「いらっしゃい。」
中には白髪の老婆が座っていた。
「これは何のお店なんですか?」
小さな瑠美が甘ったるい声で聞く。
「まぁ、一言で言えば骨董品屋ってところかねぇ。」
二人がそんなやり取りをしている中、コツコツとブーツの音を立てながら、さやかが小さな店の中を見回していると、鈍く光る銀色のオブジェを見つけた。幾何学的なデザインで、なんともいえない形をしている。
「それがお気に入りかい?」
老婆が声を掛ける。瑠美も老婆と一緒についてくる。
「ここにおいてあるものはいろいろ言われがあるんだけどね…」
老婆が続ける。
「これは、どこから来たのかよく分からないのよ。何かと一緒に店に置いたんだろうけど。」
「ふぅん、そうなんだ…」
さやかがつぶやく。
「気に入ったなら持っていきなさい。」
「そんな、価値のあるものじゃないの?」
「どこから来たものか分からないんだから、お代をもらうわけにはいかないよ。」
含み笑いをしながら、老婆が答える。
(そこまで気に入ったわけじゃないけど、タダなら持って帰っちゃおうかな…)
「じゃあこれ、いただけますか?」
さやかより先に、瑠美が言った。
「えぇ、今包むから待っててちょうだい。」
老婆はオブジェを両手で持ち上げると店の奥へと消えていった。
「瑠美も気になってたの?」
「うぅん、ていうかどこから来たかわからないってなんだかミステリアスじゃない?」
白い歯を見せながら瑠美が笑う。
(この歳になってこんな無邪気な感じが似合うのも、瑠美だからよね)
さやかがそんなことを考えている間に、老婆が店の奥から出てきた。丁寧に布で包んである。
「出所はわからないけど、大事にしておくれ」
「はい。」
さっきと同じ笑顔で瑠美が品物を受け取った。
499 名前:砂漠のきつね[] 投稿日:2009/02/24(火) 19:07:37 ID:o2135Cb3
<2>
店から出ると、ずいぶん雲行きが怪しい。遠くでは雷鳴が鳴っている。
「早く帰ろうか。」
さやかは瑠美と帰路に着いた。
その途中、雷鳴が轟いた。
「キャァッ!!」
二人が悲鳴を上げた。
「落ちたわよきっと。早く帰ろう。」
さやかが言った途端、大粒のひょうが落ちてくる。
「何なのこの天気。」
「とりあえず、家に行こ。」
二人は走って瑠美の家へ向かった。
アパートの階段を駆け上がり玄関に入った時には二人はびしょ濡れになっていた。
「こんなの言ってなかったじゃない、晴れだって言ってたのに」
瑠美がふくれながら今日の天気予報に文句を言った。
「とりあえず上がって。」
「濡れてるけどいい?」
「しょうがないよ。上がって。」
瑠美がバスタオルを持ってさやかに近づく。瑠美はもう髪を結わいていたゴムを解いてバサバサと髪を拭いている。
「ありがとう」
さやかも部屋に入り、長い髪を乾かし始めた。ブラウンに染めた髪がしっとりと濡れている。
「服着替える?」
「そうね。でも瑠美の服なんて着られるかな。」
「Tシャツなら大丈夫でしょ。」
そう言いながら瑠美はクローゼットから服を探す。
「先に着替えていい?」
ピンク色のニットのアンサンブルは、濡れたために胸の大きさがより露わになっていた。
(中学の頃から大きかった胸、女の子らしい小さな背丈。いいなぁ、瑠美みたいなかわいい感じ)
「いいよ。」
さやかは長い髪を赤いセーターの上に垂らしながら、瑠美に答えた。黒いパンツは濡れたためにヒップから脚へのラインをそのまま描き出している。
(モデルみたいな長い手足、スラリと伸びた背丈。いいなぁ、さやか。)
500 名前:砂漠のきつね[] 投稿日:2009/02/24(火) 19:09:05 ID:o2135Cb3
<3>
その時だった。
台所に無造作に置かれていたオブジェが光を放ち出した。
「何だか光ってない?」
先に気づいたのは瑠美の方だった。身震いするような感覚が襲う。
「どうしたの?瑠美」
声を掛けるさやかの目の前で信じられない光景が広がっていく。
袖から出ている手が徐々に細く、そして長く伸びていく。
アンサンブルからあらわになる臍。
グレーのチェックのミニスカートから見える脚は、
むっちりとした太腿とふくらはぎが、
ムチムチとした肉感的なものから細くスラリとした脚に変わっていく。
「い、痛い…」
「瑠美、瑠美!」
「あぅっ!」
声にならない悲鳴を上げる瑠美。
体をよじりながらも一瞬動きが止まる。
少し癖の入った黒いセミロングの髪が
さらりとしたブラウンのロングヘアへと変化していく。
胸元で存在を主張していたバストはゆっくりとしぼんでいった。
苦痛にゆがんでいた視点が定まらなくなり、
徐々に瑠美の体は白い光に包まれていく。
「今の、何だったの?」
そうつぶやく瑠美。
目の前の光景に、さやかは目を疑った。
丈の短くなったピンクのアンサンブルに、ショーツが見えてしまうほどのミニスカート。
そこから伸びるモデルのような長い脚。
小さな瑠美の服になんとか身を押し込めたさやかの姿があった。
「どうしたの、さやか。」
目の前に自分がいる…
「なんなの、これ。」
「え、何?」
「瑠美、私になってる。」
「えぇ?」
顔を見合わせる二人のさやか。
鏡の中にも二人のさやか。
一人は、赤いニットに黒いパンツ。
もうひとりは臍出しのアンサンブルにきわどいほどのミニ。
「さやかに、なってる!?」
口を半開きにして驚いた様子の瑠美。
表情の違うさやかが顔を合わせている。
言葉もなく、本物のさやかがうなずく。
思わず瑠美に手を差し伸べるさやか。
右手で左肩をつかむ。
自分で自分の体を抱きしめたような感覚。
(なんなの、これ。なんで瑠美、私になっちゃったの?)
501 名前:砂漠のきつね[] 投稿日:2009/02/24(火) 19:09:51 ID:o2135Cb3
<4>
「!!」
「どうしたの?」
さやかの体にも異変が起きる。
細い脚はパンツの中で生き物のようにうねった後、
むっちりとした丸みを帯びる。
はち切れそうに黒いパンツの生地が密着する。
パンツを破きそうなほど、膨張するヒップ。
細い指はふっくらと丸っこくなり、やがてニットの袖から見えなくなった。
腕も肉感を増していく。赤いニットの上からもわかる、やわらかな二の腕。
ブラウンのストレートの長髪が縮み、癖のある黒髪へと変化していく。
「何?何なの、これ。」
さやかの姿になった瑠美があわてている間にも、変化はゆっくりと続いていく。
わずかに生地を押し上げていたバストがゆっくりと、しかし確実にその膨らみを増していく。
ブチッという鈍い音がした。
大きさに耐えられなくなってAカップのブラジャーが切れる。
ようやくバストの変化が止まったときに、また、
光がさやかを包んだ。
眩んだ目が見えるようになった頃、瑠美の目の前にはさやかの服を着た瑠美がいた。
瑠美の眼に映る自分の顔。袖がだぶだぶの赤いニットとは対照的に、
イヤでも視線がいく胸の膨らみ。裾が床に付いた黒いパンツ。
さやかの服を着た自分。
服の違いで辛うじてさやかであるとわかるが、外見はどこから見ても瑠美だ。
さやかも自分の体が瑠美になってしまったことを実感する。
どちらへ向いても視界に入る大きな胸。下から見上げる自分の姿。
「私、瑠美になってる?」
「うん。」
さやかが恐る恐る鏡を見る。
赤いニット、黒いパンツルックの瑠美。いつもより大人っぽく、背伸びをしているように見える。
「瑠美になっちゃった…」
「何なの、これ?さっきあれが光ってたよ」
瑠美がオブジェの元に駆け寄る。
向きを変えるだけで感じていた胸の感触が全くない。
階段に昇ったまま歩いているような目線。
さやかも後をついていく。
歩くだけで胸に感じる違和感。
「これが原因?」
「でもそれしか考えられなくない?」
「まぁね。」
さやかも瑠美の考えに乗ったが、気になることがあった。
「でも、なんで私たち、お互いに変身しちゃったの?」
「なんでだろう…」
「だってさ、なんでこうなったか分からなかったら、元に戻ったりできないじゃない」
鼻にかかった甘い声で言うさやか。
「そっかぁ。」
口調はいつもの瑠美だが、発せられる声は落ち着いたおだやかな声色だ。
「とりあえず、服着替えようか。」
502 名前:砂漠のきつね[] 投稿日:2009/02/24(火) 19:11:30 ID:o2135Cb3
<5>
互いの服はまだ濡れたままだ。ゆっくりとお互い服を脱いでいく。
まずアンサンブルを脱ぐ瑠美。
袖を出そうとしたが濡れているせいで生地が伸びきらない。
なんとか脱ぐと、わずかな胸のふくらみ。
フリルの付いたピンクの大きすぎるブラジャーが瑠美であったことの証だ。
何をするにも邪魔っ気だった大きな胸はもうそこにはない。
ほっそりとした、二の腕から手首へのライン。
スカートも脱いでしまう。
ピンクのショーツの下から伸びるスレンダーな長い脚。
(腕も脚もほっそいなぁ…)
さやかも服を脱いでいく。
赤いニットを押し上げる大きな胸。
胸元のワンポイントは持ち上げられて斜め45度を向いている。
脱ぐと白くふっくらとした大きな胸。
Aカップの黒いブラジャーはちぎれてしまい、
ニットを脱ぐとだらしなく前に垂れた。
ずっしりと肩に胸の重みがのしかかる。
黒いパンツは濡れて脚にまとわりついているのと
脚自体が太くなったせいでなかなか脱げない。
なんとか脱ぐと、露わになるむっちりとしたふくらはぎ、そして太腿。
黒いショーツは大きくなったヒップを覆いきれず、Tバックのようになっている。
(この丸み、私と全然違う…)
目の前には決して自分が着ないフリルをあしらったピンクの下着を着けた自分の体。
「私の体…」
さやかが瑠美の腕をつかむ。
ほっそりとした二の腕。
つかんだ自分の二の腕は丸みを帯びた肉感的なラインを描く。
声はいつものアルトボイスではなく、甘ったるい瑠美の声だ。
つかまれた瑠美も不思議な気持ちだった。
思わずさやかを抱き寄せる。
ブラジャーがはだけ、直接伝わる柔らかな感触。
肩までしかない背丈。
(私の胸ってこんなんなんだ…)
「なんか変な感じ」
「ちょっとお姉さんになったみたいな?」
「何言ってるの、同い年じゃない。」
抱きしめ合った腕をほどくと、さやかは瑠美に言った。
503 名前:砂漠のきつね[] 投稿日:2009/02/24(火) 19:12:15 ID:o2135Cb3
<6>
「とりあえず服着ないと。」
「私の服しかないけど、どうしよう。」
「私は瑠美の服着ればいいけど。」
「そっかぁ。じゃあ私は?」
「私が服取りに行くよ。持ってきてあげる。」
瑠美は自分の服をクローゼットから探し出した。
体が大きくなったせいで、服を探すのも違和感がある。
「こんなんでどう?」
瑠美が出してきたのはピンクのプルオーバーと白のキャミソール
そして、白黒チェックのミニスカートと黒のストッキング。
「これ着るの?」
「え、いや?」
「私着ないからこういうの。」
「でも、今はさやかが私なんだから。」
「いつもは瑠美が着ている服だもんね。」
納得するとさやかは服を着ようとしたが大事なことに気がついた。
「瑠美、下着も貸して…」
「そっかぁ…」
瑠美はクローゼットの下の段から下着を探し始めた。
淡いブルーの生地にフリルがあしらわれた上下。
「違うのがいい?」
「大丈夫。あっちで着替えてくるね。」
下着を含めた着替え一式を抱えて、さやかは隣の部屋に入った。
(まぁ、今は私が瑠美なんだからしょうがないよね…)
フリフリのかわいい下着にとまどいを感じながらも再び自分を納得させ、
さやかは下着を着け始めた。
ブラジャーを着けると肩にかかっていた重量感がいくらか和らぐ。
黒い自分のショーツを脱ぎ、瑠美のショーツを穿く。
他人の下着を着けているという違和感。
胸にかかる重さも視点も違う。
(これからどうなっちゃうのかな…)
さやかは漠然とした不安を抱えずにはいられなかった。
504 名前:砂漠のきつね[] 投稿日:2009/02/24(火) 19:12:52 ID:o2135Cb3
<7>
その頃、瑠美も着替えを始めていた。
下着を探すが、ブラジャーはどれも大きすぎて役割を果たしそうにない。
「下だけでいいよね…」
淡い黄色のショーツに穿き変え、ベージュのキャミソールを着る。
(脚長くて穿き変えるの大変…脚冷えて寒いし…)
瑠美はクローゼットからレギンスを取り出し穿き始める。
足首までの10分丈のはずが7分丈くらいになっているが
脚にフィットするだけにそのラインの素晴らしさが際立つ。
シャドーグレーのニットを着てデニムのミニスカートを穿く。
やはりミニスカートは膝上10cm以上になり、
その下からは長い脚が伸びている。
しばらくするとさやかが着替えを終えて出てきた。
「ほんと、自分がもうひとりいるみたい。」
「何言ってるの、お互い変わっちゃったんだから。
もうひとりじゃなくて瑠美は私。」
「そりゃそうだけど…」
もっともなことを言いながらも、
さやかも目の前の自分は自分でないような感覚を覚えていた。
瑠美は瑠美なりにさやかっぽい服を選んだのだろうが、
こんなファッションはしないからだ。
505 名前:砂漠のきつね[] 投稿日:2009/02/24(火) 19:22:39 ID:o2135Cb3
<8>
「あれが原因だとすると、さっきのお店行かなきゃ。」
「そうだね、すぐ行こっか。」
二人はまた外出の支度を始めた。
さやかは掛けてあったサーモンピンクのコートを取る。
「それ、さやかのコート。私のはこっち。」
瑠美は胸元にファーの付いた白いコートをさやかに渡し、
さやかのコートを自分で着始める。
支度が整うと二人は玄関へ向かった。
さやかが革のロングブーツを手に取る。
「さやか、それさやかのブーツ。」
「そっか。また間違えた。」
「私のそっち。」
白い革のブーツは雨の中を走ってきたために少し汚れていた。
「濡れたし、新しいの出すね。」
「ありがとう。」
瑠美は同じくらいの丈の黒いブーツを取り出した。
さやかが履こうと片足を上げたその時…
「どん」という音がしたと思うと、さやかは
バランスを崩して玄関の壁に体を強打していた。
「痛ったぁ…」
「大丈夫? 鈍くさいのもそのまんまなのかな?」
「ううん。まだ瑠美の体に慣れてないからだよ。」
(かがんだらバストが動いてバランスが…大きいと大変なんだな…)
エレベーターを待ちながら、さやかは数分前の出来事を思い出していた。
(確かに、胸が大きい人は転びやすいって聞いたことあるけど…)
そんなことを思いながらマンションを出る。
道路へ出る小さな階段さえも慎重に降りていく。
(一歩が倍くらいあるみたい。胸がないとなんだか身軽)
瑠美の方は歩きながら、さやかの身体でそんなことを考えていた。
雨は嘘のように上がり虹が出ていたが、
他人の体になって外を歩いている二人には
気づく余裕はまだなかった。
最終更新:2009年02月25日 23:54