投稿日:2009/03/30(月)
<35>
「とにかく、お互いになりたい…って思ったからこうなったのよ。」
携帯から自分の声が聞こえてくるのに戸惑いながら、真由はさやかの話を聞いていた。
声が小さいのは、外の美優や潤子に聞こえないように話しているからだろう。
瑠美の部屋を確認する間もなく、さやかから電話が掛かってきた。
「そう、あそこでは元に戻れなかった。だから、何だかわからないけど、もっと条件があるってこと。」
「私、じゃなかった、真由ちゃんが次に休みになるのはあさってだから、瑠美と会おうよ。」
「えっ?」
この身体の持ち主に会う。身震いしたいような感覚が走る。
「瑠美に伝えないと。戻り方のヒントが分かったんだし。」
「そうですね。」
「大丈夫。私も一緒に行くから。瑠美には私から言っておくし…」
あさってに3人が顔を合わせることにして、電話は終わった。
「瑠美さんって、どんな人なんだろう…ひょっとしたら、あさって元に戻っちゃうかも…」
はっとする真由。
部屋のソファーから鏡の前へ向かう。少しびっくりしたような顔が鏡に映る。
意識しなくても目に入る大きな膨らみ。バストを両手で下から支える。
両手に重量感が伝わると同時に、肩にのしかかる重みがやわらぐ。
「おっきいなぁ…大人になっちゃったんだ…」
<36>
真由がベッドに目線を向けると、ピンクのスカートと白いブラウス。さやかが昨日着たメイド服だ。
「何これ?」
真由が生地を広げてみると、フリルがたっぷりついたスカート。エプロンが床に落ちた。
「何だろ?」
ベッドの上に置いてみる。
「瑠美さんってこんな趣味なの?萌え~って感じ?ご主人様!とか?えぇっ~?」
少し奥手な小学生の知識ではこんなものだろう。実際には真由の街にもメイド喫茶くらいはあるのだが。
「でも、せっかくだし…」
驚きは数秒後、興味に変わっていた。プルオーバーを脱ぎ、ジーンズを脱ぐ。ブラジャーとショーツだけの姿になった真由。形作られた谷間に、豊満なバスト。
「すごいなぁ、巨乳だ。」
ベッドの上のブラウスを着る。スカートを穿き、エプロンをつけると、メイド姿の瑠美。
「かわいい!でも、ちょっと苦しいな…」
さやかと同じように胸の圧迫感を感じる。
「他にはないのかな…」
クローゼットを開けると、高校時代の制服に実習服。
「うわぁ。」
身体は勤務後で疲れているはずだが、精神は11歳の女の子。大人の身体を手に入れた高揚感で、早く休めと言うのが無理だろう。
「これ、見たことある。かわいいよね。」
高校の制服姿になった真由。チェック柄のスカートの裾を持ってひらひらとさせている。
「こっちも着てみよ。」
さやかも着ていなかった水色の実習服を着る。
「水色かわいいな。名前入ってるんだ。他にないかな…」
名前の部分の生地はバストで持ち上げられ、ぴんと張っている。その姿のまま、クローゼットを探す。中に吊るされたリクルートスーツ。
「あ、これ教育実習の先生が着てたやつだ。」
白いブラウスにグレーのタイトスカートとジャケット。ブラウスを着ると、生地がバストに引っ張られ、起伏を作り出す。
新しく買うのが面倒で、少しきつめでも我慢して着ていた瑠美。そんなことを知らず、胸元を見る真由。
「お姉ちゃんが着てたのと違うんだ…」
美優の中学校の制服は、ブラウスに吊りスカート、胸元には赤いリボン。中学生の丸襟のブラウスとの違いは、真由にも分かった。
鏡を見ながらポーズを変えたその一瞬に、胸元に張力が掛かった。ブチッという鈍い音と同時に、キンという高い音が響く。ブラウスのボタンが弾け飛び、鏡にぶつかり床に落ちたのだ。
「?」
一瞬、何が起きたかわからない真由。鏡を見ると、胸元のボタンの部分が開いている。するりと入る指先、そこに触れるブラジャーのレース生地、やわらかな乳房。
「なくなってる。どこいったんだろ。これかぁ。」
床のボタンを拾う真由。なくなった部分から胸の谷間とブラジャーが覗くが、部屋の中には誰もいない。
スカートを穿き、ジャケットを着る。ストッキングがないものの、リクルートスーツ姿の瑠美そのものだ。
そのとき、瑠美の携帯が鳴った。
<37>
「あ、私の携帯」
自分から掛かってくる電話に出る、不思議な気持ちは電話に出た途端に吹き飛ぶことになる。
「もしもし」「真由ちゃん、大変。」
「何がですか?」「戻り方、分かった!」
「え、そうなんですか?」「でも、あさっての話はちょっとキャンセル。」
「なんでですか?」「瑠美ね、今私じゃないの。」
「どういうことですか?」
真由に電話をする数分前。さやかは瑠美に電話をしていた。
とりあえずは瑠美に連絡をしないと、ということで、瑠美の番号だけ真由の携帯に移したのだった。
「瑠美、びっくりするだろうな。私が小学生になっちゃってて。」
さやかはいたずらをするような気持ちで、瑠美に電話を掛けた。鏡に映るのは、はしゃいでいる小学生の女の子の姿。中身は24歳の女性なのだが…
自分のそんな姿に気づかず、さやかは電話に出るのを待つ。
(夜勤かなぁ?)
ずいぶんしてから、ようやくコールが止まった。
「もしもし」心なしか、瑠美の声がおどおどしているようだ。
「私、さやか。」「え?」
「私、小学生になっちゃった。」「そ、そうなんですかぁ。」
「それでね、分かったの。あの像のせいだと思うんだけど、私たち、こんな風になりたい!ってお互いが願うと、姿が入れ替わっちゃうみたいなの。すぐには戻れないみたいなんだけど。」
「本当にさやかさん、なんですか?」
どうも様子がおかしい。さっきから感じていた違和感。タメ口でないし、瑠美よりものんびりしたしゃべり方。この呼び方をするのは…
「ひょっとしたら、その言い方って、彩子ちゃん?」
「はい。私、さやかさんになっちゃいました。さやかさん、やっぱり綺麗ですね。さやかさんは小学生になっちゃったんですか?」
「なんで入れ替わってんの?」「さやかさん、知らなかったんですか?」
「何を?」「私たち、結構入れ替わってますよ。瑠美さんから聞いてないんですか?」
「はぁ?」
「せっかく瑠美さんの身体見てみたかったのに。もとの身体の話聞いて、私も瑠美さんの身体みたいな巨乳になりたいって思ってたのになぁ。」
さやかの驚きをよそに、彩子はあっさりと話を続けていく。
「結構って、どういうこと?」
「一度入れ替わるとすぐ戻れますけど、最初に戻るのは時間掛かったな。2週間くらいです。私もすぐに元に戻ろうとしたらダメでした。けど、なんとなくお互いの身体に慣れてきた頃にふっと元に戻ったんです。」
「それよ、それ。」「え?」
「お互いがお互いの身体に慣れると元に戻れる…」「知らなかったんですか?」
「知ってたの?」「はい。」
「瑠美も?」「はい。」
「なんで教えてくれなかったのよ、そんな大事なこと。っていうか、わかったのになんで元に戻ろうとしなかったわけ!?」
「瑠美さん、看護婦大変だから、まだしばらくOLやってたいって言ってました。戻り方がわかったから、そのうち戻れるだろうって。」
看護師の大変さを昨日まで感じていたさやかとしては、反論しようのない言葉だった。
「確かに大変、看護婦って。夜勤とかで生活リズムはおかしくなるし。
まぁ、そのおかしいのが普通なんだけど。」
「やっぱり、瑠美さんになるのやめようかな。」
「そういう問題じゃないでしょ。瑠美は彩子ちゃんになってるの?」「それが…」
「それがって…」
<38>
話は2ヶ月ほど前にさかのぼる。
「しばらくお待ちください。」
瑠美の受付の仕事も板についてきた。
「あいにく課長は外出中ですが、もうすぐ戻るとのことですので、応接室にご案内いたします。」
ハイヒールを鳴らして、瑠美が客人を案内する。黒のヒールから伸びるしなやかな長い脚。
淡いグレーのブラウスに濃紺のタイトスカートと同色のベスト。首元には大き目のピンクのリボン。
よく手入れされた栗色の髪は、水色のボールの付いたゴムで一本に結わかれている。
20代前半のさやかの身体だが、正装でのたたずまいはもう少し年上に感じられるものだった。
「こちらでお待ちください。」会釈をして受付に戻っていく。
「あの人、結構イケメンでしたね。」となりの女性が声を掛ける。
小さな顔にぱっちりとした二重の目。褐色の肌。それよりも明るいブラウンの髪。
胸元の社員証に「伊藤彩子」と書かれている。
年齢はさやかの1つ下だが、小さな背丈と華奢な体格のためか、比べるとずっと幼く見える。
(かわいいなぁ、女の子!って感じだし)
瑠美も同じような身長だが、むっちりとしていて彩子とはタイプが違う。
大人っぽいさやかに憧れてこの身体になったのだが、身体が入れ替わって1ヶ月が過ぎ、少し飽きも来ていた。
仕事を終えて、更衣室に入る。どの会社もそうだが、不景気で定時に帰れる社員はごくわずか。
さやかの会社も例外でなく、定時に更衣室にいるのは受付嬢くらいだ。
この日も、いつものように2人きりで着替えをしていた。
瑠美がブラウスを脱ぐ。キャミソールの下には濃緑色のブラジャー。細い首筋、しなやかに伸びる腕、指。
(さやかさん、綺麗だな)
瑠美を見上げながら、彩子も着替えていく。キャミソールの下に水色のブラジャー。瑠美は視線の先に意外なものを見つけた。
(谷間だ…)
元の自分の身体にもあった。でも、ブラジャーの機能が上がっているとはいえ、こんな華奢な身体で。
(実はスタイルいいのね、彩子ちゃん)
「ふあぁ」
瑠美の視線を遮るように、彩子はため息を声に出しながら、ロイヤルブルーのプルオーバーを被った。
わずかに、しかし形よく持ち上がる胸元。
「どうかしましたか?」「うぅん。」
彩子の前には、下着姿のさやか。
「さやかさん、きれいですよねぇ。スタイル超いいし。さやかさんみたいな身体になったら、どんな風な感じなんだろうなぁ。」
「そんな、大したことないよ。」
(大したことないとか言っちゃった…私もさやかになりたくてこうなったのに)
<39>
瑠美がロングニットのカーディガンを着ようとしたとき、彩子が胸元を押さえ始めた。
「彩子ちゃん?」「さやかさん、なんだか…ぅっ」
「彩子ちゃん!!」
見覚えのあるこの光景。小さな背中が徐々に大きくなっていく。
華奢な肩はそのままに、伸びていく腕。ショーツから伸びる脚がどんどん長くなっていく。
明るいブラウンの髪は、ショートからセミロング、そしてストレートのロングヘアに。
少し寂しくなった胸元。
「はぁっ!」
押さえていた胸元を解き放す。息を切らしているさやか。それを唖然として見ているさやか。
「さやかさん、私…」彩子はすぐに口元を押さえる。
「なに?声が…」
(彩子ちゃん、さやかに…)
今度は、瑠美にあのときの感覚が蘇る。
(私が彩子ちゃんに!?)
手元のニットが床に投げ出された。徐々に縮んでいく身体。少しだけふっくらとするふくらはぎ。
褐色に色づきながら短くなる手足。ストレートパーマのかかった長い髪はいつの間にか肩に届かない程度のショートヘアに。
屈んでいたさやかが顔を上げると、そこには彩子の姿。
「へっ?私がいる?」かわいい喋り方だが、声は艶のあるさやかの声。
「彩子ちゃん、彩子ちゃんに見える?」「さやかさん、私、です。」
「そういうことだったんだ…」「へ?」
「とりあえず、服着よ。」「はい。」
さやかのニットを被る瑠美。しかし、指が袖から出ない。まるで、姉の服を借りた妹のようになっている。
「服、替えなきゃね。」「え?」
「だって…」瑠美は、袖をブラブラと振ってみた。彩子は自分の手元に目線を戻す。5分丈になってしまったプルオーバー。
「あぁ、そうですよね。」
プルオーバーを脱ぎ、ニットをあずかる。すぐに着ようとする彩子。
「あのさ…」「なんですか?」
「下着も…」「えぇっ?」
「だって、きついでしょ?」
彩子は言われて初めて、肩紐が食い込むのを感じた。
「そんなことないですよ。」「でも、カップが…」
トップはさやかの方が大きいくらいかもしれない。しかし、瑠美はさっきとは違う胸元への重力を感じていた。
「彩子ちゃん、さやかになって小さくなってるから。」「そうですかぁ…」
彩子は、ブラジャーを外す。
「下も?」「一応…」
生まれたままの姿になった二人。ぬくもりのある深緑のショーツを穿く彩子。
(なんだかホントにさやかさんになっちゃうみたい)
そのままブラジャーを着ける。ロッカーの鏡は小さく全身は見えないが、胸元までは、はっきりと見える。
むしろ、今までは顔しか映らなかった鏡の位置に、今は胸元がある。谷間の無くなった胸。
(確かにちっちゃいかも…)
彩子のブラジャーを着ける瑠美。水色のレースがあしらわれている。
自分も同じようなものを持っていた気がするが、最近はえんじや紺、濃緑など、さやかの趣味でシックな色の下着が多かった。
「早く着ないと。」「あっ、すいません。」
「うぅん、独り言。」
周りにはまだ人はいない。バッグだけは自分のものを持って、二人は更衣室を出た。
<40>
「なんですかそれ?そんなことあるんですか?」「そう、今とおんなじ様なこと。」
瑠美は、自分とさやかに起きた事を話した。
「そんなにおっきかったんですか、さや…じゃないや、瑠美さんは。」「ぅぅん、人並みよりはね~」
「Fって、全然人並み以上ですよ。」「まぁね。さやかって、昔からそんな感じだったんだよ。スタイルいいし。」
しなやかに伸びる白い指先、椅子を回転させてスカートから伸びる脚を見る。笑みを浮かべる彩子。
「ふふぅん、確かに。」「今まで気づかなかったんだぁ。そんな単純なことが理由だなんて。」
「お互いになりたいって願ったら、その身体になっちゃうと。」「そう。」
「しかも、記憶まで自分のものになっちゃうと。」
「そう。さやかのことは、知ってることも結構あったけど、彩子ちゃんのことなんて、知らないはずでしょ?」
「でも、今はわかっちゃってる。」
「お父さんの名前は泰司、お母さんの名前は紀美子。」「正解!いとこは?」
「え?えー…二人、三人いるんだね、景子さんと幸弘君と華依ちゃん。」「正解!」
「こういうことなんだね。」「へー、面白ーい」
また、にんまりと笑う彩子。
「なんだか、久しぶりにその身体外から見るからかもしれないけど、全然違う人見てるみたい。」
「どういうことですかぁ」
口を尖らせ上目遣いをする彩子。スレンダーな長身の美女の仕草としては似合わない子供っぽさ。
「だから、そんな仕草、さやかはしないから。もっと落ちついてて。でも、可愛い。」「へへぇ。」
照れたように彩子は笑った。
「戻ってみよっか。」「えー。せっかくだから、もうちょっとこの身体がいいな。」
「そんなこと言わないで。」「瑠美さんずるいですよぉ。自分だってずっとさやかさんの身体になってたくせに。」
「まぁそうだけど。」「原因が分かったんですから、戻れますよ。瑠美さんだってそのつもりだったんでしょ。」
「私は、原因わからなかったから、仕方なく。」
「言い訳はなしです。お願いですよぉ、もうちょっといいでしょ、この身体。」
両手で肩を抱きながら、彩子はさやかが見せそうもない、いたずらっぽい笑顔で言った。
「その代わり、この身体も私の自由だよ。」
「それはそうです。でも、変な男にひっかかったりしないでくださいね。あ、彼氏はいないです。」
「知ってる。」「そっかぁ、いとこなんかよりも、先に確認しますよね…」
二人は笑いながら、カフェラテとコーヒーに口をつけた。
<41>
彩子は瑠美から聞いたさやかの家へ向かった。
(聞かなくてもわかっちゃうんだろうけどね)
いつもと違う視線と歩幅。指先や腕をきょろきょろと見回す。
(さやかさんの身体だぁ)
歩道の溝にヒールが挟まる。思わずバランスを崩す彩子。
(びっくりしたぁ。背が大きいと転びやすいのかな…)
電車に乗り、マンションへ。
「ここがさやかさんの家かぁ。」
瑠美と交換したバッグから鍵を取り出し、部屋へ入る。電気をつけると、洗面所へ向かった。
鏡に映るのは、いつも隣で見ていたさやか。
(さやかさんだぁ、きれいだな…)
ベージュのトレンチコートを脱ぐと、ボーダー柄のロングニットのカーディガン、
その下には白のブラウス。そして、黒のスキニーパンツ。
リビングの姿見の前に立つ。腰元に手を当てる。
(脚長っ!ここが腰?ホント、スタイルいいよねぇ)
そのとき、おなかが鳴った。
「誰の身体でもおなかは空くんだね。せっかくだから、外に出ちゃお。」
彩子は再びトレンチコートに身を包んだ。
(手とか私よりちっちゃいじゃん。かわいいなぁ。)
瑠美は彩子の家へ向かっていた。
グレーのハーフコートの下は、ロイヤルブルーのチュニックにカーキ色のショートパンツ。
そしてパープルのカラータイツにキャメル色のブーツ。10代でも通用しそうな格好だ。
「若いよねって、1つしか違わないけど。」
2度目の他人の身体、慣れた様子で部屋の電気を点ける。
コートを脱いで、部屋着を探す。枕元に脱ぎ散らかしてあるグレーのスウェット。
「まぁ、他人が来るなんて思ってもないもんね。」
チュニックを脱ぎ、ショートパンツとカラータイツも脱ぐ。水色の下着姿になった瑠美。
「やっぱ、谷間あるよね。」
華奢な身体で服の上からは全く目立たないが、バストのボリュームは十分にある。
「CとかDくらいじゃない?」
クローゼットから別のブラジャーを取り出し、裏を見る。
「やっぱり。っていうか、アンダーが70ってどういうこと?すんごい細いじゃん。」
細身ではあるが、太腿やふくらはぎには十分に女性的な肉感が感じられる。
「もちょっと、色白だったら完璧だよね。」
スウェットを着ると、瑠美はまた独り言を言った。
<42>
「おはよーございまーす」
「おはようございます。っていうか、なんでそんなテンション高いんですか、瑠美さん。」
「何言ってるの、いつも彩子ちゃんこんな感じだよ。」「そんなんじゃないですよ。」
「私のイメージからはこんな感じなんだけど。」「そうですかぁ。」
よく聞けば少しおかしな会話だが、エントランスは始業前に急ぎ足で通り過ぎる人ばかりで、二人に気を留めるような人はいない。
互いの身体になって15時間。二人は再び更衣室に入る。
「そろそろ戻った方がいいんじゃない。」「えーっ、まだいやですぅ。」
「その甘ったるいの、さやか絶対言わないよ。」「えーっ、そんなこと言われてもぉ。」
「さやかが戻ってきて、困るようじゃダメでしょ。」「そりゃ、そうだけど…」
「じゃぁ、気をつけないと。少なくとも職場では。」「それなら、瑠美さんもちゃんと私っぽくしてください。」
「わかりましたぁ。」「そうね、そんな感じで。」
「上手じゃない…ですかぁ。」
二人はお互いの制服に着替える。瑠美が受付の仕事に戸惑ったのとは違って、今回はほとんど同じ仕事。
さやかの方が上のために、任せられる仕事は多少違ったが、彩子もさやかの仕事を見ていたおかげで、滞りなく1日が過ぎていった。
午後6時。
二人は会社の近くのイタリアンレストランにいた。
「昨日のご飯はどうしたの?」「外に食べに出ちゃいました。」
「家に作り置きがあったのに。」
「だって、この身体、よく見られるじゃないですか。すれ違う人がチラ見とか2度見とかするんですよぉ。私そんなことなかったし、なんだか嬉しくって。」
街中の雑踏でさえ目を引く長身と脚の長さ。瑠美もさやかの身体の頃に同じような経験をした。
「ナンパに引っかかったりとか、まずいことにならないようにしないとね。」「そうですね。」
店員がパスタとリゾットを持ってくる。
「ここのリゾット、私好きだったのにな…」「え?」
「味落ちたのかな…」「さやかはチーズあんまり好きじゃなかったから、そのせいかも。」
瑠美も今まで口につけるだけだったコーヒーを、カップ一杯飲みきった時に驚いたことがあった。
「味とかの感覚は、もとの身体で感じるからね。」「さやかさんって何が好きなんですか?」
「あんまり覚えてないけど、女の子にしてはスイーツが大好きって感じじゃなかった。
だからそのスタイルなのかもしれないけど。」
「えーっ!私大好きなのに…今日もパンナコッタ食べて帰ろうと思ったのに~」
「地が出てる…」「あ…でも~」
「別に嫌いじゃなかったよ。だけど、彩子ちゃんみたいに大好きじゃなかっただけ。」「じゃあ食べてもいいですね。」
彩子は満面の笑みを浮かべながらリゾットを口に運んだ。
<43>
それから3日後の金曜日。更衣室の2人。
「もう飽きちゃったでしょ?」「そんなことないですよぉ。」
長身の美女が甘々な話し方をしているのは、やはり違和感がある。
「明日、さやかと会う約束してるのよ。」「えぇ? 私が会うのも困るけど。でも、戻れるのかも分かりませんよ。」
「だから試すんじゃない。ほら、目つぶって。」「なんで、目つぶるんですか?」
「いや、なんとなく…」
(さやかの身体に…)(私の体に…)
二人を3日前と同じ感覚が襲う。体の芯から何かが外へ出て行くような感覚。
思わず口が開く。膝ではなく太腿に触れるスカートの裾。肘の下にあるブラウスの袖口。
「さやかに戻った。」「私も…」
目の前にはぶかぶかのブラウスに身を包んだ彩子。スカートはずり落ちて、ストッキングに包まれた下半身とショーツが丸見えになっている。
「戻れるんだ。よかった。」「これなら、瑠美さんの元の体にも。」
「そうだね。でも、まだいいや。」「あーん、戻っちゃうとまたその身体になりたくなってきた。」
「また気が向いたらね。」「ずるいな、瑠美さん。瑠美さんこそ飽きちゃったんでしょ、私の身体。」
「そんなことないよ、彩子ちゃん可愛いし。」「じゃあ、またお願いします。」
「それより、早く着替えないと。」「あ…」
ショーツ丸出しの彩子は、少し顔を赤らめながらストッキングを脱いでいく。
濃紺のショーツを脱ぎ、ピンクでフリルの付いたショーツを穿く。彩子の穿いていたショーツを穿く瑠美。温もりが股間に伝わる。
(なんか変な感じ…こればっかりは慣れないよね)
お互いの私服に着替える。
「はぁ、久しぶり。」「私も、このワンピース久しぶり。」
黒のレースがあしらわれた深緑のワンピースを着て、瑠美は懐かしい気分になった。
(自分の持ち物じゃないのにな…)
しばらくすると、二人はまた身体を取り替えるようになった…
最終更新:2009年03月30日 22:28