投稿日:2009/06/02(火)
各自の体:
瑠美:→さやか←→彩子、さやか:→瑠美→真由、真由:→瑠美、彩子:←→さやか
<44>
「そういうことなのね。」真由になったさやかが彩子に言う。
「そうなんです。」
「で、瑠美は彩子ちゃんじゃないってどういうこと?また、他の誰かになってるってこと?
面白がってる場合じゃないじゃない。」
「さやかさん、怒ってます?」
確かにさやかは怒っていたのだが、声は濁りのない少女の声。
「驚かないで下さいね。」「こっちは小学生になっちゃったんだから、何聞いても驚かないよ。」
「瑠美さんは、さやかさんと逆です。」「え?」
「三船さんになっちゃったんです。瑠美さん。」「えーっ!?」
電話の2週間ほど前―――
「私付いていこうか?」「いいえ、逆に瑠美さんいないほうがいいです。」
「あんまり趣味と違う服買っちゃだめだよ。元に戻ったときさやかが困るから。」「大丈夫ですよ。」
彩子は自分の趣味で、さやかの身体の服を選びたいという。瑠美も同じことを思って、行動に移したこともあり、彩子がそう思うのも無理ないと思っていた。
「じゃ、おつかれさまで~す」
さやかのしないような、無邪気なバイバイをして、彩子は更衣室を出て行った。
(大丈夫かなぁ…)
少し困ったような顔には、まだわずかにあどけなさが残る。
小さく華奢な身体、可愛らしい顔立ちで幼く見えるが、ふっくらと膨らんだ乳房に、くびれた腰、ヒップの丸み。しっかりと大人の女性としての艶も合わせ持っていた。
「さてと、私は帰ろっかな。」
制服のブラウスのボタンに手を掛けたとき、更衣室のドアが開いた。
「おつかれさまで~す。」「あら、おつかれさま。」
入ってきたのはさやかや彩子の指導役である、三船美子。普段は人事課で仕事をし、春になれば新人の指導役をしている。
さやかになった後、瑠美も数回会ったことがある。黒のストッキングに包まれたふくらはぎは、熟れた丸い曲線を描き、白いブラウスは豊満な乳房にグッと持ち上げられている。
独身でいるのもあるのだろう、不惑を過ぎた年齢には見えない色艶を放っていた。
「今日はもう終わりなんですかぁ?」
瑠美のほうは彩子の真似は上手にできるようになっていた。
「そう。ちょっと今日は早く帰ろうかなって思って。」「へーぇ。」
「彩子ちゃん、最近メイク変えた?」「え、そんな風に見えますかぁ?」
平然と切り返したように見えたが、瑠美は動揺していた。
(こんなとこ気づくなんてさすが。びっくりした…)
「大人っぽくて、綺麗よ。」「あ、ありがとうございます。」
(彩子ちゃんと二人きりなんて運がいいわ。それにしても、ほんと可愛い…)
美子の瑠美を見る目が、さやかの身体の時とは違うことに、まだ瑠美は気づいていなかった。
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瑠美がブラウスを脱ぐ。それを見ている美子。
瑠美が彩子を模倣すればするほど、美子の琴線は呻るように震えるのだった。
(抱きしめたいくらいかわいい!さやかちゃんはさやかちゃんできれいで素敵だけど、
女の子らしい、ちっちゃくて可愛い彩子ちゃん。うぅん、でもここでそんなことしちゃだめ。)
慌てて結わいていた髪をほどく。一瞬して肩まで髪が降りる。
女性の年齢は髪に出るというが、まだ艶もコシもあり、40を過ぎたとはとても見えない。
スーツのジャケットを脱ぐ。成熟した女性の美しさ。
(きれいな人だなぁ)
それを眺めていた瑠美。ぼんやりとした、恍惚にも似た無防備な表情。
もちろん、意図したわけではないのだが、その表情が美子の気持ちを揺り動かした。
(なんて、可愛いの。私もこんな可愛い子だったら…)
そのとき、美子の身体を衝撃が走った。
(何?)
「どうしたんですか?」
瑠美も彩子の口調を真似ている場合ではないと、ただならぬ雰囲気を察した。
「いや、べ、べつに…」
言葉とは裏腹に両肩を押さえ始める美子。
(えぇっ? まさか…)
瑠美の脳裏に最悪の状況が浮かぶ。そして、それはその通りに進行していった。
黒いストッキングに包まれたふくらはぎは、徐々に細くなっていく。
ブラウスの下のEカップの乳房がしぼみ、その中で張りを増していく。
長いストレートの髪は、わさわさと縮み、少しクセが掛かった明るい栗色へ。
彩子の時のように、喘ぎ声はあまり出なかった。
そこには、黒のスーツ、黒のストッキング、のりの効いた白のブラウスに身を包んだ彩子。彩子が着ていると就職活動中の学生のようだ。
「なんなの?」思わず口を押さえた美子。ハスキーなアルトボイスと、甲高い彩子の声では違いが大きすぎた。
「三船さん…」彩子ちゃんに、と言うこともできず、瑠美の身体に変化が始まる。
ヒップに脚、ウエストに肉感的な厚みが加わり、ブラウスの下の乳房が成長し、張りを失っていく。
アンダーバストにも肉感が増し、ブラジャーが乳房の脇に食い込んでいく。瑠美もその痛みを感じているが、声が出せない。
大きくなり弛んだヒップが、紺の水玉の入ったショーツに食い込む。スカートに密着したヒップラインが描かれるブラウンのショートヘアは、いつの間にか長い黒髪に変わっていた。
「私がいる…」
美子は力なくつぶやいた。
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それから美子は瑠美の話を聞いた。
「そんなこと…でも、そうなのよね。」「はい。」
「でも、戻れるの?」「えぇ、私は彩子ちゃんとよく替わってますから。」
「そうなの?」「でも、お互いの身体に慣れるまでは戻れません。」
「じゃあ…」「そうです。数日はたぶん、このままで。」
「じゃあ、家とかも?」「そういうことになりますね。」
40代の女性の身体になったにも関わらず、3度目の出来事で瑠美は驚くほど冷静でいた。
じきに戻れると楽観していたのもあったのだろう。
「だから、服とかも取り替えないといけないんです。」「下着も?」
「ええ。私、胸限界です…」
瑠美が胸に感じていた圧迫感は、もう限界寸前だった。カップはCからEへ2つ大きくなったが、それ以上にアンダーバストが全く違っていた。
比較的細い方だった彩子のブラは「C-70」、美子のブラは「E-80」。10cmの違いはそのまま、ブラの食い込みという形で瑠美を苦しめていた。
言われたままに、美子は服を脱ぐ。
タイトスカートを脱ぐと、ストッキングの下に見えるブラウンのボティースーツ。その中には、自分よりもふた回りくらい小さい、でも張りのある乳房。
(私、彩子ちゃんに…)
その事実に卒倒しそうになりながらも、美子は服を脱ぐ。
肉感的なヒップと太腿、ボリュームのあるバストを包むのは、紺の水玉があしらわれた白いブラジャーとショーツ。ブラウンのボディースーツに包まれているのは、20代前半の張りのある乳房とヒップ。
お互いに合わない下着。全裸になった美子は、同じく全裸になった瑠美から、彩子の下着をもらう。
(彩子ちゃんの裸だ…)
白地に紺の水玉のブラジャーとショーツ。
(彩子ちゃんの下着…可愛い…)
鼓動が早くなるのを嫌が応にも感じながら、水玉のショーツを穿く。
(あったかい、これが彩子ちゃんの…)
ぴったり収まるCカップのブラジャー。鏡に映るのは下着姿の彩子。自分が手を動かすと、彩子が手を動かす。
「ほんとに、彩子ちゃんになってる…」「早くしないと、他の人が来ちゃいますよ。」
ブラジャーを外した瑠美は、圧迫感からは開放されたものの、肩にずっしりとかかる重量感を感じていた。若く見える美子だが、やはり40代の身体。ヒップやバストの弛みは隠せない。
美子から貰ったボディースーツを着る。さっきとはまた違う圧迫感。
(すんごい締め付けてる…)
黒のスーツを着ると、そこには美子の姿。
「帰るのにそれを着てもしょうがないじゃない。」
さっき真似をしていた瑠美とは違う、落ち着いた口調。美子の言うのはもっともだった。
「彩子ちゃんの服、貸して。」
本当は、美子は早く「彩子」になりたくて、仕方なかった。美子は瑠美のロッカーの中から、黒のタートルネックのニットと、グレーのジャンバースカート、そしてデニムのパンツを取り出す。
瑠美がもらったのは、スクエアネックのカーキ色のニットに、白と黒のチェックのスカート。
ニットの生地が丸みのある隆起を描く。彩子の時よりボリュームがあるが、張りはなく、20歳近く年齢が増したことを感じさせるものだった。
「三船さんになっちゃったんだ…」その頃、美子も彩子の服に着替え終わっていた。
「これでいいわね。」(かわいい服。こんなの、今の私が着てたら犯罪よね。)
「三船さん、とりあえず外でちょっと話しましょう。情報交換しないと。」「そうね。」
同意はしたものの、美子は早く家へ帰りたくて仕方なかった。
<47>
こんな夢のようなことがあるのか。指導していた部下には、わけ隔てなく接してきたつもりだが、そのなかでも特に寵愛していた彩子。
今自分が、その彩子の身体になっている。早く自分だけの空間で、彩子になりきってみたかった。
(でも、一緒に帰るわけじゃないし、あとでゆっくりすればいいわよね)
瑠美はすぐに、ボディースーツの締め付けに苦しめられていた。
(こんなのよく着てるよね、三船さん。こうやって体型維持してたのね)
彩子の服とはまったく違う、地味な服。40代になったと実感する。
「じゃあ、行きましょう。」感じてしまった老いの感覚を振り切るように、瑠美は美子を連れて外へ出た。
とりあえずの情報交換をして、二人は互いの身体の家へ帰った。美子は帰りの電車の窓もずっと眺めていた。
いつもなら、そこに映るのは衰えが見え始めた顔。今日は違う。少し色黒で、にきびはあるものの、くりくりとしたつぶらな瞳。
「かわいい…」思わずつぶやいてしまい、周りを見渡した。
彩子の家に着き、玄関を開ける。
「こんな部屋なのね。」テーブルの上のアクセサリー、パステルカラーのカーテン。美子の年齢では似合わないもばかりだった。
「ちょっと、落ち着かないかな。」リビングのソファーに腰をかける。脇を見ると、全身が見られる鏡。
その前に立つ。黒の長袖Tシャツ、グレーのジャンバースカート、デニムのパンツ。
両肩を抱きしめる。「私のもの…」
鏡の中で恍惚の表情をする彩子の顔。息遣いが荒くなる。
水玉の下着姿になった美子。
「かわいい。これが、今の私…」下着も外す。全裸の彩子。
乳房に手を当てる。自分が失った張り。ブラジャーを外しても、垂れる部分は少ない。
「意外とおっきいじゃない。あぁぅ…」乳首を触れた瞬間、久々の感覚が全身を走った。
「やっぱり若いのね…お風呂入ろ。」美子はそのまま、浴室へ向かった。
瑠美は美子の家へ帰る。
濃紺のカーテンは閉まったまま。黒い革のソファー。
「へぇ。こんなお家なんだ。」
ダイニングテーブルの上にバッグを置き、電気を付ける。鏡に映る美子の姿。
スクエアネックのカーキ色のニットには、明らかに20代と違った曲線が浮き出ている。
白黒チェックのスカートからは、黒のストッキングに包まれた肉感的なふくらはぎ。
(どうしてこうなっちゃったんだろ。なりたいなんて思わなかったのに)
「なりたいなんて思わなかったのに入れ替わったっておかしくない?」
真由の声で、さやかが彩子に尋ねる。
「そうなんですよ。私たちは、そりゃ何度も入れ替わって慣れっこになってましたけど、
それでも『さやかさんの身体になりたいっ!』って思って替わってたんですよ。なのに…」
「ちょっと真由、いつまで電話してんの!携帯代お母さん払ってんだからね!」
部屋の外で大きな声がした。
「まずい、長電話してたからお母さん怒ってる。」「さやかさん、ホントに小学生みたい。」
「しょうがないじゃない、ホントに小学生なんだから。どっちにしても瑠美と会っても元には戻れないね。また電話する。私の身体大事にしてね。」
「大丈夫ですよぉ、任せてください。」
彩子は得意げにさやかに言ってみせた。
<48>
それからまた1週間が経った。瑠美と美子がお互いの身体になって3週間が経とうとしていた。
美子は帰宅すると、すぐにクローゼットを開ける。
身体が変わってからというもの、美子は自宅で次々と彩子の服を着替えていた。
まるで着せ替え人形のように。新しい服もたくさん買った。
くるみボタンの付いたかわいいデザインの黒のプルオーバー。小さな花柄がちりばめられたふわふわのブラウス。どれも40代の自分では着られないものばかりだ。
鏡に映るのは白のニットのカーディガンに紺のボーダーのタンクトップ、水色の7分丈のパンツを履いた彩子の身体の自分。
40歳になった自分では決して出来ないスタイル。
パンツからわずかに見える華奢なふくらはぎ。
タンクトップを持ち上げる張りのある乳房。
「かわいい…」
以前から心の中を満たしていた思いが言葉になって表れた。
「ずっとこの身体でいられたら…」
着ていた服を脱ぎ、鏡を見る。ピンクの上下の下着を着た彩子の姿。
「かわいい。」華奢な肩を自分で抱きしめる。
「私は伊藤彩子。これは私の身体。」
歪んだ感情が、身体と精神のバランスを崩していた。次第に息が絶え絶えとなる。
「私は彩子。私は…」
美子は意識を失った。
瑠美は早く彩子の身体に戻りたかったが、美子に「もうちょっとだけ」と言われ、ここまで来てしまった。美子の家へ一人で帰宅する瑠美。
仕事は身体が覚えていたので難なくこなしていたが、40代の身体となったためなのか、仕事が大変なためか、瑠美はずいぶんと疲れていた。
「私ももう歳だからな…」
ふーぅとため息をついた後、瑠美ははっと息を呑んだ。
「なに今の、三船さんが言ったみたい。」
だんだんと馴染んでいく身体の感覚。鏡に映る美しい女性。ボリュームのあるバストとヒップ。ふくらはぎの肉感。どれも熟れた魅力を放つと同時に衰えが滲む。
(なんだかこの身体が自分のみたいな感覚になってる。早く戻りたい…)
しかし、思いとは裏腹に、感じていた違和感が薄れていく。
「もともと私の身体じゃない、疲れてるのかしら。」
言った瞬間、瑠美は口を塞いだ。
「何今の?私の言葉じゃない。」
次第に息が荒くなる。黒革のソファーからがばっと起き上がる瑠美。しかし、すぐによろけて目の前が真っ暗になった。
(私、どうなっちゃうの…)
最終更新:2009年06月02日 21:05