<56>
徐々に瑠美は記憶を取り戻し始めていた。
「そういえば私、美子さんになってたのに…その後とりあえず外に出よ。
ん~、でもこの服はちょっとやだな。おばさんっぽいし。」
クローゼットを探すが、服はどれも地味な色使いばかり。どうにか探し出したのは薄いピンクのシンプルなブラウスと、ウエストにゴムの入った膝丈の白いスカート。
着ているニットとスカートを脱ぐと黒のボディースーツが現れる。
「なんかキツイと思ったらこれか。」
圧迫感から解放されると、乳房の重量感が肩にずっしりとかかる。久々に感じる自分の身体。
「私、こんなに胸大きかったっけ…」
クローゼットからブラジャーを探す。黒やベージュなど地味な色ばかりだが、黒の上下を選ぶ。
「カップは私の方が大きいんだ。」
アンダーが大きいおかげで苦痛なく着ることができた。
「さやかに電話した方がいいかな。でも番号覚えてないし。彩子ちゃんの番号なら、
って今美子さんが彩子ちゃんになってるんだった。なんか、電話すると面倒なことになりそう。」
その瞬間、はっとひらめいた瑠美。
「自分の番号に掛ければいいんだ。」
「なんか電話鳴ってる。」
真由が持ってきた瑠美のカバンの中の携帯が鳴る。
「もしもし?」
自分の携帯に電話して聞こえる小学生の声。
「あのう、誰?」
「誰ですか」
「あ、林瑠美って言います。」
「瑠美さんですか?」
思わず大きな声を上げた真由。周りの3人も真由に注目する。
「あ、私、西山真由っていいます。瑠美さんになってたんです。」
「え?じゃあ、さやかは?」
「今代わりますね。」
さやかが瑠美になったままだと思っていた。結局、さやかの身体が何度も変わったために、瑠美には一度も話が通っていなかったのだ。
「もしもし、瑠美?」「さやか?」
「よかったぁ。瑠美戻ったんだね。」「さやかも戻ったんだね。」
「ホントよかった。瑠美が戻ってきてくれて。美子さんのまんまだったらどうしようかと思った。」
「美子さんのまんま?」「そうだよね、詳しい話は会ってからにしよ。」
そう言って、さやかは電話を切った。
<57>
「来る前に服取り替えようか。」
事態を把握して冷静になってきたさやか。さすがにセーラー服のままいるのは恥ずかしくなってきた。
「でもせっかくだから、このままでいましょうよ。もうこんな服着ることもないんだろうし。私は真由から借りればいいけど。さやかさん、私の制服似合ってますよ。」
美優があっけらかんと言った。
「そりゃそうだけど…」
「それに、瑠美さんはきっと、そのおばさんの格好でくるんでしょ?自分だけそんな格好じゃ恥ずかしいんじゃない?だから、瑠美さん来るまで、このままにしましょうよ。」
「私、服落ちそうなんだけど…」
さやかの大きな服に包まれた彩子が悲鳴を上げた。
「でも、座ってれば大丈夫だよね。」
結局瑠美を気遣って、みんなそのままの服で待つことにした。
30分くらい経っただろうか、瑠美が久々に自分の家に帰ってきた。
「おかえり。」
「ただいま、ってさやか何その格好?コスプレ?」
「瑠美が三船さんの格好で来なきゃだから、みんな瑠美が来るまで服取り替えなかったの。」
「そうなんだ。なんかブラ合わないから早く自分のしたいんだけど。」
瑠美はいそいそと自分の部屋に入ってくると、自分の服を着た小学生を見つけた。
「真由ちゃん?」
「はい、はじめまして。」
「自分の服着てる女の子に言われるのってなんか変な感じ。」
<58>
「そんなことがあったんだ。」「そうだよ、心配したんだから。」
少し涙目になりながら、さやかが話す。
「ということは、この龍の目をいじったら戻ったってこと?」
「そういうこと、美優ちゃんのおかげ。」「いや、私はたまたま…」
珍しく美優が謙遜した。
「服取り替えようか。」
美子を除いた5人が、自分の服に着替える。年齢の異なる5人の女性が一斉に着替え始め、まるで銭湯の脱衣場のような光景が広がった。
「なんか久しぶり。」
瑠美は、大きな乳房をしっかり支えるワイヤーの感覚に新鮮さを覚えた。
(やっぱ小さいな、美優ちゃんよりも小さいし)
さやかは久しぶりに感じた小ぶりな乳房の感触を、言葉には出せなかった。
「なんか、やだな。子供に戻るの。」「何言ってるの、小学生で巨乳体験したのなんて、真由だけだよ。」
真由と美優は言い争いをしながら、お互いの服を着ていく。
「美子さんの服じゃ嫌だよね…」「ん、うん、まぁ…」
彩子だけは自分の服がなくて困っていた。
「じゃあ、私の着る?」
ブラだけは合わないが、他は瑠美の服を借りることにした。
「じゃあ電話するね。」
さやかが、瑠美が持っていた彩子の携帯を借りて、美子に電話をする。美子はおとなしくこちらへ来るという。
<59>
15分後。
「この格好、恥ずかしかった。」
彩子の服のまま瑠美の家まで来た美子。どう見ても度を超えた若作りをしているようにしか見えない。
「ごめんなさい、そんなことになってたなんて。彩子ちゃんがかわいくて…」
「美子さんも綺麗ですよ。あ、こんなこと言ったらまた入れ替わっちゃう。」
彩子が借りていた瑠美の服を脱ぐ。美子も彩子の服を脱いでいく。
ショートパンツはボリュームを増したヒップを納めきれず、ボタンを外したまま止まっていた。
脱ぐと熟れた乳房が、相応しくないかわいい水色のブラジャーに包まれている。
外すと、肩に懐かしい重量感がのしかかる。お互いの服を着て、数ヶ月ぶりに全員がお互いの身体に戻った。
「これ、返しに行こうか…」さやかがポツリと言った。
「いや、気持ち悪いとかじゃなくてさ、なんだか家に置いとくとまたなんかありそうだし。」
「そうだね、みんなで行こうか。」瑠美が他の4人に言う。
結局、6人で返しに行くことになった。
「また瑠美さんになりたいな。」
「それだと、私が真由ちゃんになるの?小学生か、いいかも。」
「瑠美!」「冗談よ。」
「さやかは大変だったもんね。でも、小学生もよかったんじゃない?」
走馬燈のように、ブルマ姿の自分を思い出す。
「いい、遠慮しとく。」
<60>
「おや、みんなお揃いで。どうしたんだい?さっきより人が増えているようじゃが。」
いつものように腰を曲げたまま、老婆が店の奥から出てきた。
「おばあさん、これ返したいんですけど。」さやかがオブジェを差し出す。
「なんじゃ、変身に懲りたかのぅ。」「うん、もうこりごり」瑠美が困ったような顔をした。
「じゃあ、これはわしが預かるかのぅ」
代金を返してもらい、6人は店を出た。
「じゃあ、さやかちゃん、また明日ね。」
「さやかさん、ゆっくり休んで下さいね、あ、あと瑠美さん、これ洗って返しますね。」
「お姉ちゃん帰ろ。」「さやかさん、あ、瑠美さんも。アドレス教えてくださいよ~」
美子に彩子、そして美優と真由。思い思いのことを口にしながら、家へ帰っていった。
「私も帰るね。」「うん。」
「そういえば…」
さやかが思い出したように言った。
「クローゼットの一番下の段見てみて。たぶんまだ入ってると思うけど。」
「何?見たいんだけど。」「帰ったら見て。じゃあね。」
「何だろう。」
家へ帰った瑠美。クローゼットを開ける。
「さやかったら…」
数分後。
「こんなきついのよく着てたね。バイトできるかな…」
白いフリルのブラウスを持ち上げる大きな乳房、アンダーバストに食い込み、乳房の大きさをさらに強調するピンクのエプロン。
メイド姿の瑠美が、鏡の前に立っていた。
<61>
週が開け、6人はもとの自分の仕事や学校に戻った。
受付にはさやかと彩子。
「久しぶりですね、この2人で仕事するのも。」
「見た目はずっと同じだったけどね。」
瑠美は休みのため、家で過ごしていた。
「明日から勤務か…しかも夜勤もだ。大丈夫かな…」
美子に美優、真由も久々に”自分の身体で”いつもの日常を過ごしていた。
夕方の更衣室。
「なんかこのロッカーとか久しぶり…」
「そうですよね、私がそこよく使ってましたけど。」
「そっか、彩子ちゃんよく私になってたんだもんね。」
部外者が聞くと非常に怪しい会話であるが、2人きりの更衣室で、気兼ねもせずに話している。
その時だった。
「なんか変じゃない?」「この感じ…」2人で顔を見合わせる。
(うぅ…また変身しちゃうの?)
グレーのTシャツワンピースにデニム、さやかの服を着た美優と、谷間が覗く白のアンサンブル、チェックのキュロット姿の瑠美。
「なんでまた変身しちゃったの?」「どういうこと?」
同じ日の別の頃。
「ちょっとなんでおばさんになってるの?」
違和感を感じた美優は、授業を抜け出し、トイレの鏡の前に立っていた。うっすらと浮かぶ皺に、少し荒れた肌。コシの無くなった髪。娘の制服を借りている母親のようだ。
「彩子さんだ、綺麗だな…ってこんなこと言ってる場合じゃないや。」
真由も授業を抜け出し、トイレの鏡の前に立っていた。真由は体育の授業中。体操着姿の彩子。
「なんでまた変身しちゃったの?」
瑠美が部屋の鏡の前に立つ。白のアンサンブルに黒のミニスカート、瑠美の服を着たさやか。
「これって真由ちゃんだった?この声…子供になっちゃった。」
キャメルイエローと黒の幾何学模様のワンピースに身を包んだ真由。
「どうなっちゃってんのこれ。」口調まで美優を真似するように、さやかが言った。
「戻ったはずなのに…」よく見ると谷間どころか、乳房の上の方まで見える格好になってしまった瑠美の姿の彩子。
「オブジェも返したし、なんで?」
「私たち、変身できる身体になったんじゃないですか?」
「何それ?」
「お互いに念じなくても、変身できるみたいな。」
「でも突然こんな風になっちゃ困るでしょ。」
「怒んないで下さいよさやかさん。」
「だって困るもん、私は元に戻りたい。」
そういうと、さやかの身体に変化が起きた。褐色の脚が白くなり、胸が少し小さくなる。
「戻った!」「ホントだ。」
美優:「よかったぁ。こんなんじゃ帰れないよ。っていうか、こっから出られないし。」
真由:「お姉ちゃんとかも変身しちゃったのかな?」
美子:「いくらなんでも小学生が着るような服はないわ。」
瑠美:「さやかだとサイズ合わないし、外出られない所だった…」
6人は互いに連絡を取った。戻ろうと念じたら、みんな元の姿に戻った。
「私たちに能力が備わったのかな?」さやかとの電話で瑠美が言った。
「でもこんなの困るわ。仕事中に突然小学生や高校生になるなんて。」美子はもっともな意見を言っていた。
「私なんてあのおばさんになっちゃって。超困った。戻ったからよかったけど。」
美優がそう言ったそばで、なにやら物音がする。
「真由?あ、変身してる…あのおばさんになった。」
「私、今日3回目です。体育の時間に彩子さんになって、帰りにさやかさんになって、今、三船さんでしたっけ、その人になっちゃいました。」
あどけないしゃべり方で電話口から聞こえてくるハスキーなアルトボイス。
「真由ちゃん、戻れるうちに戻っておいた方がいいよ。」
「とりあえずまた、おばあさんのとこに行かないとね。」
<62>
さかのぼって、同じ日の朝。
客の目に触れないところにおいてあるオブジェ。
再び仕入れのために店を空ける前に、老婆がオブジェを磨いていた。
「おや…」
老婆があることに気づく。美優がいじった龍の部分だ。
「この目玉、逆だった気がするがの。」
元に戻そうとする老婆。しかし…
「おう、そう言えば。」はっと目を見開く。
「これで元に戻ったんじゃな。入れ替わり過ぎて、もとに戻れなくなった時に、龍の目を入れ替えて、互いの姿に戻す話があったのぅ。それで戻ったんじゃな。」
しかし、次の瞬間、老婆は怪訝な顔をした。
「戻った戻ったと喜んじょっとが、位置を戻さないと、真の元の姿には戻れないはずじゃったがのう。娘さん達に…でも時間が。仕方ない、出るとするかのぅ…」
―6人の本当の姿の時に龍の目を元に戻す-
6人の入れ替わりが本当に終わるのは、老婆が仕入れから帰ってくる、さらに2ヶ月後のことだった。