投稿日:2009/07/22(水)、2009/07/26(日)
私は叔母が嫌いだった。外見も中身も。
水商売をしている叔母は、常に派手な化粧をして素顔を隠していたが、その下にあるのが姉である母とは
比べものにならないほど平凡なものだと、幼い頃から私は気づいていた。
肉体のほうも、顔と同じように派手な衣装で着飾ってはいるが取り立てて優れているわけではない。
中身はもっと酷い。母に対するコンプレックスの塊。お金や男に目が無く、うちを訪ねてくるのは
毎回お金の工面ばかり。そのうえ父に色目を使うこともしばしば。
とにかく下品で最低な女。絶対に、私はあんな大人に――女にはならない。
◆◆◆◆
体にまとわりつくような不快な湿度と、殺人的な直射日光。どちらも耐え難いものだが、今の自分なら
耐えられる――というほど浮かれているわけではないが、心が高揚しているのは事実だ。
明日から夏休み。高校最初の夏休みだ。
去年は部活の大会やら、受験の準備やらでほとんど遊べなかったから、その分を今年取り返すつもりだ。
高校は部活に入らなかったし――少し惜しい気もしたが――、勉学のほうは今のところ問題ない。
母は高校に入ったら何か習い事をさせるつもりみたいだが、余計なお世話というものだ。
めいっぱい遊びたいし、折角高校生になったのだからアルバイトをしてみるつもりだ。
きっと楽しい夏になる。もしかしたら、恋も――
「あら、瑞希ちゃんじゃない」
表情が凍る。聞こえてきたのは間違いなくあの女の声。
無視してやろうか。今ならまだ間に合う。今なら人違いにできる。
「ねえ、瑞希ちゃんでしょ?」
突然、携帯が鳴った。慌てて携帯を鞄から取り出す。全然知らない番号だ。
「ほら、瑞希ちゃんじゃない」
後ろを振り向くと、携帯を見せつけるように持ったあの女がいた。
なんとか瑞希は笑顔を作り――精一杯の努力を必要とした――話しかける。
「お久しぶりです、叔母様。お元気そうでなにより」
「ええ、ほんと久しぶりね。私が遊びに行くと、瑞希ちゃんいつもいないんだもの」
親しげにこちらに近づいてくる。
(遊びに……?あんたはいつもお金を借りに来てるんでしょ)
叔母が訪ねてくる時、瑞希はできるだけ出かけるようにしていた。何の連絡もなく、いきなり叔母が
訪ねてくることも多々あったが、両親に自分はいないことにしてもらっていた。
だから当然、両親は瑞希が叔母を嫌っていることは知っている。それに両親も、実の姉である母でさえも、
口にこそ出さないが叔母を嫌っているのは間違いない。なのに――
「ところで叔母様、どうして私の番号を知っているんですか?」
決して笑顔は崩さない。
「さあ、どうしてかしらね」
叔母は目を細め、自分が優位に立っていることに満足しているのだろう、心底楽しいといった表情だ。
それを見てるだけでむかむかしてくる。疑問は残るがこれ以上追求しても、のらりくらりとかわされるだけだろう。
瑞希は話題を変えることにした。
「両親に用があるんでしたら、残念ですけど今でかけてまして」
「知ってるわ。夫婦水入らずで一週間ヨーロッパ旅行なんてうらやましいわね」
両親に聞いたのだろうか。
それにしても、この人のこの雰囲気はなんだ。いつもはもっと余裕のない人だったが。
「なら、どうしたんですか?」
「私はね、あなたに用があるのよ」
「私に?」
つい訝しげな表情をしてしまった。この人はそんなことでも喜ばせてしまうから、できるだけしたくなかったのに。
「ええ、そうよ」
「あの、悪いんですけど私にできることなんて」
ない――と言おうとして、言葉が出なかった。叔母が私の口を塞いだのだ――自分の唇で。
あまつさえ舌まで入れてくる。
まるで予想外の出来事に一瞬思考が停止したが、猛烈な吐き気とともに瑞希は叔母を押しのけようとした。
だができない。どういうわけか力が入らない。
それに、なにか意識が遠のくような、浮かび上がるような、吸い込まれるような感覚がする。
従ってはいけない気がした。このままだと大切なものを失ってしまう気が。
「ん、ん゛ー!」
抗議の声をあげるが、もちろんそれでなにが変わるわけでもない。
そして、言葉にできない喪失感とともに、瑞希は意識を手放した。
覚醒は一瞬だった。意識を失ってから一秒も経っていないだろう。
知らぬ間に目をつぶっていたらしい。暗闇を押しのけるように目を開くと、叔母の姿は無かった。唇にも感触はない。
少なくとも、キスできるほどすぐ近くにはいないらしい。
「セイジ!」
自分があげた声ではない。だが、自分が言ったのかと錯覚しそうになった。
そのくらい、自分の声によく似ていた。だが違和感があった。
声は前から聞こえた。顔をあげると、そこに人がいる。叔母ではない。
瑞希と同じ学校の制服。瑞希と同じ髪型。同じ――
「がッ!」
脇腹にとてつもない衝撃を受けて、瑞希はそのまま昏倒した。
◆◆◆◆
(同じ顔だった)
目が覚めた時に浮かんできたのは、気絶する一瞬前に考えていたことだった。
(ここはどこだろう?)
起きあがろうとしたが、手がつかえない。後ろ手に縛られているらしい。なんとか体をおこして、周りを見渡す。
通学路の道ではない。どこか部屋の中だ。
薄暗い。電気が止められているわけではないが、彼女は部屋にいる時はできるだけ灯りをつけないようにしていた。
安上がりのボロアパートの部屋が、いっそうみすぼらしく見える気がして。それに、部屋に帰るのは寝るときくらいだ。
(……なに、いまのは?)
今、自分は何を考えていた?
――突然扉をあける音がして、思考を妨げた。
「あら目が覚めたのね」
中に入ってきたのは二人の人物だった。若い男女。
男の方はチンピラだった。ぱっと見で瑞希はそう思った。男に関しては瑞希はそれ以上の感想は持たなかった。
それよりも重要なことがある。女のほうは――
「驚いて声も出ないかしら?」
自分だった。声も、服装も、髪型も、顔も。
まるっきり自分だ。
「あんた、誰よっ……」
呆然と呟いた自分の声に違和感を感じた。まるで自分の声ではないような。
目の前の“瑞希”がにやにやとこちらを見ている。はっとして瑞希は自らの体を見下ろした。
服装が違う。これは先ほどまで叔母が着ていた服だ。
さらによく見れば、自分とは体形も違う。
「鏡はあっちよ」
“瑞希”が指で示した先に振り向くと、自分が最も嫌悪する女がいた。
女にお似合いの余裕のない表情で、後ろ手に縛られ、こちらを呆然と見つめている。
その叔母に、自分が――小山瑞希が、抱くように両手を乗せる。今まで見たこともないような優越感を含んだ
いやらしい笑みを浮かべて。
おかしい。
自分はここにいる。笑みなど浮かべていない。伯母に触れるなんて死んでも嫌なのに。
なのに、目の前に。
目の前に。在るのは。鏡だ。
鏡の中の女が絶叫した。
◆◆◆◆
鏡を呆然と見ている、かつての自分の肩に手を置きながら、瑞希は思わず笑みが
浮かんでくるのを止められなかった。
今鏡に映っている、憎い姉によく似た、美しい少女。これが今の自分なのだ。
隣にいる、酒と煙草と不摂生な生活でくたびれた、30半ばの体とは違う。
体の奥から若さが溢れてくるのを瑞希は感じていた。
この体なら、肌を悪くするためにしているのではないかと思える厚化粧をしなくても、
どんな男も言い寄ってくるだろう。
この、汚れの無い体なら――
「いやああああああああ!」
突如、かつての自分が――この体にとっては叔母にあたる、由香の体が叫び声をあげた。
「なっ!なんなのよっ!これッ!!なんであたしがっ――」
瑞希は嘆息して彼女から気付かれないように離れた。
気分が台無しだ。
(まあ、予想通りの反応だけど。自分も同じように叫んでいたでしょうね)
自分にはヒステリーの気があった。
由香から離れた瑞希は、この部屋唯一の扉の近くで、所在なさげにこちらを見ている
若者に近づき、当然のように命令した。
「黙らせなさい」
防音などまるでされていないボロアパートだ。こんな大声で叫ばれては完全に筒抜けだろう。
人に来られては少々厄介だ。
「さっきみたいに気絶させないでよ。これから叔母様には見せるものがあるんだから」
「はあ、了解っす」
渋々、といった感じで由香に近づいていく若者。
(このバカ。ほんとグズで役立たずなんだから。そんなだからバカ女に騙されるのよ)
「早くしなさい、誠司」
「あー、はいすんません」
言われて少し早歩きになり、ようやく由香の元にたどり着いた誠司は、ため息を一つついた後、
おもむろに未だ喚いている由香の頬を殴った。
「なッ!」
にするのよ、と言いたかったのだろうか?その疑問の答えは誠司の二発目のビンタで
わからないものとなった。
「黙ってろ、ってさ。あんたも、もう殴られたくないっしょ?」
三発目はなかった。由香は押し黙る代わりに、きっと誠司を睨みつけたあと、今度は
瑞希のほうを睨んできた。
瑞希はそれを軽く笑顔で返し、さらに手を振ってやった。ますます由香の顔が険しくなる。
(これがあたしか)
感情を隠すことや、抑えることが苦手な自分。いつもそれで失敗してきた。目の前の由香は
今までの自分そのものだ。
おそらく、今由香の頭には怒りしかないだろう。どうやって現状を打開すればいいのか、
考えてもいないはずだ。
「いい年して、そうやって喚き散らして、みっともないですよ。叔母様」
「なんなのよ……なんなのよこれはっ!説明してよ!」
「説明、ねえ。必要ないと思いますよ。自分でしたことなんですから、思い出せばいい
じゃないですか」
また、大声で反論しようとしたのだろう。大きく息を吸う由香に告げる。
「あと、大きな声を出すのはやめてもらえます?また殴られたいのならかまいませんけど」
効果はてきめんだった。よほど先ほど殴られたのが恐ろしかったのか、さっと顔を青くして
今まさに開こうとしていた口を紡ぐ。
「自分じゃ思い出せないのなら、手伝ってあげましょうか?」
瑞希は、首に下げていたネックレスを取り出し、由香に掲げて見せた。ネックレスには、
暗い部屋の中でまるでそれ自体が光を放っているかのような、赤く煌めく宝石がついていた。
◆◆◆◆
「それは……?」
由香は、初めて見るはずのそれから、なにか怪しげな魅力を感じていた。初めて見るはずなのに、
既に見たことがあるような。目が離せない。
ついネックレスに見とれていた由香に、瑞希が質問を投げかける。
「叔母様、自分の名前はわかりますか?」
「馬鹿にしてるの……!?あたしの名前は小山瑞希よ!“あたしが”小山瑞希よ!!」
「その体で?」
うっと口をつむぐ。確かに、今の自分の体は小山瑞希のものとはかけ離れていた。
ありていにいえば、嫌っている叔母の体そのものなのだ。
そこまで考え、由香の思考はその後に続く恐ろしい結論が浮かんでくるのを止められなかった。
もっとも、実は結構前から直感的にそうではないかと思いながらも、必死に否定していたことなのだが。
「もしかして、あなた叔母様なの……?」
「いまさらですか?もうとっくに気づいてるのかと思ってましたよ」
あからさまに馬鹿にするかのような口調に、さらに大きなため息までしてみせる。
「まあ、でも。今は私が小山瑞希ですけど」
「何言ってるのよ!その体はあたしのよ!返しなさいよ!!」
「では叔母様、“あなたが本当に”小山瑞希だという具体的な証拠でもあるんですか?」
「それは――」
ない。自分が小山瑞希だという確信が由香の中にあるだけだ。
そもそも自分たちの心はどうやって入れ替わったのだ?
由香は、目の前の瑞希が素直に教えてくれるとも思えなかったが、聞いてみた。
「どうやって、私たちの心を入れ替えたんですか……?」
「それはこれから思い出させてあげますよ。でもその前に、他にも色々と思い出して
もらいたいことがあるんですけど」
思い出す?今の状態を作り出したのはもともと由香だった目の前の瑞希だ。自分は
関係ない。心を入れ替える方法など想像もつかない。
「叔母様、あなたの両親の名前は思い出せますか?」
「……小山宏と、小山由紀よ」
瑞希の質問とともに、また赤い宝石が光りだした。その光を見ていると、何も考えられなくなる。
素直に質問に答えなければいけないような気になってしまう。
「本当に、合っていますか?顔は思い出せますか?」
両親の顔。だが浮かんできた顔は、前の質問に答えた名前の顔とは違う顔だった。
(違う、これは……お爺ちゃんとお婆ちゃんじゃない)
だが、心で否定しても、両親の顔として浮かんできた顔は消えない。
「どう……して?」
「どうしたんですか、叔母様?思い出せないんですか?両親の顔が」
「いいえ……いいえ……違う、どうして……」
言葉に出して否定しても、祖父母の顔は消えなかった。由香が戸惑っている間に、瑞希が
質問を進めてきた。
「では、叔母様。お姉さんのことは思い出せますか?あなたにはお姉さんがいますよね?」
(お姉……さん……?私に姉なんて……)
だが、姉という単語が由香に与えた影響は劇的だった。まるで、ダムが決壊するように
多くの思いが溢れてくる。
(これは、ママじゃない……。いや!なに、こんな想い……ママに)
妬み。憎しみ。どうしてあの人だけが?なんであたしは?もっとあたしを見てよ。
人の囁き声が聞こえる。姉と自分を比べて、自分を哀れんでいる。その中には、さきほど
顔が浮かんできた祖父母――いや、両親の声もあった。
(どうしてあんただけが……どうしてあたしが!)
「あの女……あんな女!あたしには関係ない!」
「なら、うちにお金を借りになんてこないでくださいよ」
「いやならそう言えばいいのよ!なのにあの女は!あたしが大切な妹ですって!?
そうやって偽善者ぶっていつも影でこそこそと――」
浮かんでくる姉の思い出。過去から現在まで、様々な姿が浮かんでは消えていく。
そして一番最後に出てきた姉の姿。つまりは現在の姉を思い出したとき、由香は
自分の異変に気づいた。
「あたし……いま……」
笑い声が響いた。瑞希が笑っている。由香を見て、嘲っている。
「おめでと、叔母様。これで、何もかにもぜーんぶ思い出せたでしょ?」
無数の記憶が、浮かんでは消えていく。だが、一つとして瑞希の記憶はない。
「その……宝石?あたしたち、その宝石で……」
「ええ、入れ替わったのよ。もっとも、宝石の力は入れ替わることだけじゃないね」
宝石。赤い輝石。道端にいた謎の老婆。手にした瞬間に全てを理解できる。他人に乗り移る
自分――つまりは由香。人の記憶を、心を、精神を歪める力。
「それを……渡せ!」
瑞希に飛び掛ろうとして、由香は床に押さえつけられた。怒りに任せて後ろを振り向けば、
自分を誠司が押さえつけていた。自分のすぐ後ろにいた若者のことをすっかり忘れていた。
「誠司、このグズ!離しなさいよ!」
「うっわ、由香さんそっくり」
「当たり前でしょ。その子はもう、平山由香そのものだもの」
瑞希は、それまで掲げていたネックレスを再び首にかけると、高校の制服のボタンに
手をかけた。瑞希の高校の制服はブレザーだ。
「じゃ誠司、手はずどおりに」
「へーい」
制服をどんどん脱いでいく瑞希。押さえつけていた由香を起き上がらせ、座らせた誠司は、
そのまま離れることなく由香の服の下に手を入れてきた。
彼女らがなにをしようとしているのか。すぐに由香は思いついて声を荒らげた。
「や、やめなさい!あんたたち!そんなことしてなんの意味が――」
「もうこれで、あなたはこの体を見ることはできなくなるのよ“小山瑞希”ちゃん。
最後にこの体の初体験を脳裏に焼き付けていきなさい」
抗議の声をあげている間に、誠司は由香の下着をはずし、胸をまさぐってきた。
由香にとっては既に何度も経験していることであるし、記憶もあるが、“瑞希”の意識が
由香の体を強張らせた。
瑞希のものよりも控えめな由香の胸を、誠司が優しく愛撫する。その手つきは手馴れている
ように感じた。自然と由香の記憶が蘇る。この二人は何度も行為を行ったことがあるようだ――
だが、それがいけなかった。誠司との行為の記憶は、激しい快楽の記憶でもあった。
由香の体を、その既知であり、未知でもある快楽の想像が、熱く火照らせる。
「ん、いやぁ……、こんな……こんなの……」
「しおらしい由香さんってのも、新鮮で燃えるなあ」
誠司の手つきが少し乱雑に、荒々しくなっていく。経験豊富な由香の体は、それら全てを
快楽へと変えていった。
「はぁ……はぁ……ひゃん!」
乳首をつねられても、感じるのは快楽だけ。痛いという感覚はあっても、それを快感だと
由香の体が認識する。胸だけで、“瑞希”は既に限界だった。
「ふわぁ、ひゃめ……ゃめて、おねがい……だか……ら」
だから、誠司が次にしようとしていることに由香は気づかなかった。
「ふああぁぁあ゛ぁああ゛ぁああああああっ!」
いつの間にか、下半身を裸にされ、秘所に指を挿入れられている。それだけで由香は
一度達してしまった。
崩れるようにして由香は上半身を投げ出した。言葉がでない。肩で息をする。
(なによぉ……これぇ……)
「ぁぁん、ぃい、いいよぉ――」
不意に聞こえてきた声に、由香は頭をあげた。手を縛られなかなか起き上がれない上に
視界は涙でにじんでよく見えないが、そこに瑞希がいた。全裸で。胸と秘所を自分で
弄っている。
「あんt――うあぁああ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁん!!!!」
背後からの衝撃で、由香の抗議は喘ぎ声に成り代わった。
朦朧とする頭で、なんとか後ろを見る。と、そこには誠司が覆いかぶさるように由香の
上にのしかかっていた。同時に、陰部からの異物感を強く意識した。
初めての体験だというのに、“瑞希”は痛みを感じなかった。
(当たり前だ……。誠司とは、もう何度も……何度も……)
「ひやぁぁああん、いいっ!いいよぅ!!せいじもっと!もっと!!」
もっと強く。その望みはすぐに叶えられた。誠司は自分の望みを分かってくれる。
誰よりも。
何度、腰を打ち付けられたのだろうか。その間に由香は何度も達していたが、誠司は
まだ一度も達していなかった。だが、誠司もそろそろ限界のようだ。
「くっ!!!」
「あぁはあああぁぁあああああああああああっ!!!」
大きく一突き、深く、強く挿し込まれたかと思うと、次の瞬間、熱い、熱いものが由香の
中を満たした。同時に、由香も達していた。気絶するのではないかと思うほど強く。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
事後の気だるい感覚が包む。由香はもう全てがどうでもよくなっていた。
が、同じように近くで息を荒げていた誠司が突然立ち上がったのを察して、由香が顔を
あげると、そこには自分がしたことのない淫らな顔をした瑞希がいた。
その目は、誠司の体を期待するように見つめていた。
そして、近づいてきた誠司に背伸びをするように首に手を巻きつけ、キスをする。
(私のファーストキス……)
そんなことは、正直に言えば由香にはどうでも良かった。他人事のように、誠司と絡み合う
瑞希を見ながら、由香が感じていたのは、誠司と行為に及んでいる自分自身に対する嫉妬
だった。
◆◆◆◆
身支度を整え、扉の前に移動してから、瑞希は部屋の中へと体を向けた。
「それじゃあ、叔母様。二度と会うことはないと思いますが、ごきげんよう」
返事は返ってこない。
「なんかもうどうでも良さそうですけど、一度言っておきます。元に戻ろうと私に
近づこうとしても無駄ですよ。宝石の力で、あなたは瑞希だった頃の関係者をそうだと
認識できないようにしてありますから」
「あの、由香さん……」
話しかけてきたのは、誠司だった。グズでバカで役立たず。ただのチンピラだ。
(こいつに処女あげたのは早まったかなー)
「なによ」
「えっと……お元気で」
「あんたもね。また騙されて借金なんて作んじゃないわよ」
今回渡した報酬で、誠司の借金はチャラになるはずだ。お金の出所は――まあ、宝石の
力があればいくらでもある。
「じゃあ、改めて。ごきげんよう、叔母様」
返事は返ってこない。もしかしたら、何か聞こえたかもしれないが、扉が閉まる音しか聞こえない。
体にまとわりつくような不快な湿度と、殺人的な直射日光。どちらも耐え難いものだが、今の自分なら
耐えられる。こんなに浮かれている自分は初めてだ。
明日から夏休み。二度目の、高校最初の夏休みだ。
一度目は、最低の思い出しかないから、その分をこれから取り返すつもりだ。
何をしよう。
めいっぱい遊んで、アルバイトも今の自分にはきっと楽しいだろう。それに恋。
瑞希には近所に幼馴染がいる。瑞希が、幼い頃から想っている少年が。
彼だけではない。アルバイト先で、面接のときに見かけた青年。たぶん大学生くらいだろうか。
彼はなかなかいい線をいっていた。
それに、あと少しすれば、両親が帰ってくるのだ。由香だった頃、密かに狙っていた父。
憎い姉だった母は、父を私が落としたらどんな顔をするだろうか。
きっと、楽しい夏になる。嫌な女は、もういないのだから。
最終更新:2009年07月26日 23:33