69 名前:砂漠のきつね[sage] 投稿日:2009/10/14(水) 01:58:16 ID:R6EQBBmy
「ちょいとそこの方。」
樋口博美は病院からの帰り道に、怪しげな露天商に声を掛けられた。
普段であれば足を止めることなくその場を立ち去るだろう。しかし…
「若返りたくありませんか?」
露天商の言葉に博美の足は止まった。
早出の勤務が終わり、いつもより早く更衣室に入った博美。カーテンを開けて、自分のロッカーへ向かう。
ロッカーの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。自分が入ってきたことには気づいていないようだ。
「休みの日にも田中さんと顔合わせないといけないなんてやだな。」「しょうがないよ、新人だもん。」
「奈都子はいいよ、森口さんやさしいし。」「まあね。」
この時期は指導のため、勤務のない日に新人の看護師が病院に来ることがある。
話の内容から、博美と同じ病棟の江守早苗と水野奈都子のようだ。
2人は隣で博美が着替えているのに気づかずに話を続ける。
「もっと言い方があると思うのにさ。あんな感じだから、まだ結婚できないんだよ。いいよね、森口さん。お母さんって感じで。」
「うん、不満はないよね。」「田中さんさ、樋口さんみたいな感じになるんじゃない?」
スリップを脱いでいた博美の手が止まった。
「タイプ違うよ。」
「でもさ、性格キツいのは一緒じゃない?しかもあのくらいの歳になっちゃうとさ、男の人も声かけにくいじゃん。重いっていうかさ。」
「早苗、もうこんな時間。」「あ、早く行かなきゃ。」
もう5歳若ければカーテンを開け、鬼の形相で二人の前に立っていたことだろう。しかし、今の自分にはそこまでの気力もなかった。
怪しい露天商にあったのはその帰り道だった。
「化粧品なら間に合ってます。」「化粧なんかで誤魔化しませんよ。」
「どういうこと?」
露天商の放った言葉に、博美は耳を疑った。
「本当にそんなことが起こるの?」「ええ。一人犠牲になりますけどね…」
「ありがとうございます。」
博美は乾燥した白い粉が入った小瓶を黒のバッグにしまった。
ターゲットは決まっていた。
70 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/10/14(水) 01:58:54 ID:R6EQBBmy
それから数日後、ある日の夜勤。
博美と早苗は勤務が一緒になった。早苗の指導役である田中恵美子も一緒に仕事をしていた。
恵美子の担当には重症者が多く、巡回から戻ってこない。ナースルームには博美と早苗の2人きりになった。
「今日は穏やかね。」
「田中さん忙しそうですけど。」
「しょうがないわね。お茶持ってこようか。」
「いいですよ、私入れます。」
「いいの。部屋に取りに行くのもあるし。」
博美は控室に入ると、自分のバッグから白い粉を取り出した。そして、博美は自分と早苗が飲むカップに粉を入れて混ぜた。
「死んじゃったりしないかしら。まぁ私はもうどうなってもいいけどね。」
不敵な笑みを浮かべながら、博美はナースルームへ戻った。
「年齢が入れ替わる?どういうこと?」
「あなたが若い人とこの薬を飲んだとしましょう。そうすると、あなたが若くなって、相手の人が年を取ります。」
「そんなんじゃ、ばれちゃうじゃない。」
「大丈夫です。世界が変わります。」
「え?」
「前からそうだった世界になります。最後にはあなたが若く、相手の方が年を取った世界になります。」
「相手が気づくんじゃないの?」
「最後はわからなくなってしまいます。まあ途中気づくこともありますが、最後にはわからなくなります。安心してください。」
「はい。」
「ありがとうございます。」
早苗は少し緊張した面持ちで、早苗がカップの中の紅茶を飲むのを見ていた。
「どうしたんですか?」
「ううん、何でもない。」
(すぐおかしくなるわけじゃなさそうね。)
この日の勤務はほどなく終了した。着替えをして更衣室を出る。
「おつかれさまでした。」
「おつかれさま。」
(本当にあの歳になるのかしら…)
早苗の後ろ姿を見送りながら、博美はまた不敵に笑った。
71 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/10/14(水) 02:01:53 ID:R6EQBBmy
翌朝。
「う~ん。」
低血圧でなかなか起きられない博美。しかも今日は夜勤の後の休みの日。
いつもなら二度寝をするのだが、今日はふとんから跳ね起きた。
すぐに鏡を見る博美。しかし…
昨日と変わらない顔が映る。
「変わってない…1歳くらいじゃね。」
博美は溜息をついた。
さらに翌日。2日ぶりに勤務に入った博美。
朝起きてからの化粧も、身体の感覚も全く変わりがなかった。
(ほんとに変わってるのかしら?騙された…)
不信を抱きながら更衣室に向かう。
カーテンの向こうで、この前と同じ声が聞こえてきた。
「おはよう。」
「おはよう『ございます』。」
(ん?)
着替え終わった博美は違和感を感じた。
(この声は、江守さんと水野さん…)
「暑っついね。」
「ほんと、今年はそうですよね。」
「来るまでに疲れちゃうもん。」
会話は何ともないものだが、語尾の違和感は消えない。
博美がカーテンを開けると、隣の二人も同じタイミングで出てきた。
『おはようございます』
二人が声を合わせて博美にあいさつした。
「おはよう。暑いね。」
そういった後、博美は目を疑った。
名札の赤い丸シール。奈都子の名札にはこれが貼られている。新人の印のマークだ。
しかし、早苗の名札からはそのシールが消えている。
「どうしたんですか?」
早苗は怪訝そうに、博美に尋ねた。
「ううん、何でもない。行きましょ。」
(確かに、ちょっと大人っぽくなったように見えるけど…)
先ほどの不信感は、わずかな期待感へと変わっていた。
76 名前:
give and take 4[sage] 投稿日:2009/10/17(土) 03:54:28 ID:c2Siq1uA
博美は病棟でも年長の看護師だ。
そのため、全体を統括するリーダー役になることが多い。
今日も部屋を回らず、ナースルームに待機していた。
「あ、それ私やっとき『ました』。」
「ありがと。」
同期の早苗に敬語を使う奈都子。
あの露天商が言っていた言葉の意味がようやくわかった。
『世界が変わるんです。』
今は、早苗が2歳年を取った世界。
ということは…
(私は2年若返ってる?)
その瞬間、博美は足下を見た。去年自転車で転んだときにできた膝のあざ。
なかなか引かずに残ってしまい、年齢を感じたのを思い出した。
それがなくなっている。
(ほんとに若返ってる?)
「どうしたんですか、樋口さん、嬉しそうな顔して。」
2歳年を取った早苗が何も気づかずに博美に話しかけた。
「ううん、なんでもない。」
博美は笑って早苗に答えた。
77 名前:give and take 5[sage] 投稿日:2009/10/17(土) 03:54:55 ID:c2Siq1uA
2日後の朝。
今日は早苗は休み。出かけるために寝間着のTシャツとハーフパンツを脱いだ。
小さな青のドットが入ったブラジャーとショーツ。
かわいらしいデザインの下着が小さいながらも、大人の色香が満ちた乳房とヒップを包んでいる。
(やだ、私まだこんな下着持っていたっけ…)
一晩明け、早苗は26歳。
「もう捨てなきゃな。」
着替えるためクローゼットを開ける。
水色のパステルカラーのボーダーのTシャツ、黄色のプリントパーカー。
フリルのたっぷり入った赤チェックのミニスカートに、白のショートパンツ。
「もうこんな服似合わないな。」
その中でも地味な緑のカットソーにジーパンを合わせた。
「下着も服も買わないと。」
さらに2日後。博美は出勤準備をしていた。
夜勤が続いた後の日中の勤務。
朝起きて久々にファンデーションを伸ばした瞬間だった。
パフから伝わる感覚がいつもと違う。
(あれ?なんか違う…)
普通の女性なら戸惑うことだろう。
しかし、博美の場合、原因ははっきりしていた。
(順調に若くなってるみたいね)
38歳まで若返った博美。
30代に入ったことで、肌のキメが徐々に戻っているようだった。
黒いブラジャーに包まれた豊満な乳房。
外側に垂れた乳房が張りを取り戻し、谷間が戻っているようにも見える。
「ふふ、ホントに若返ってる。」
熟れた女性特有の声のかすれが少し和らいでいることに、まだ博美は気づいていなかった。
78 名前:give and take 6[sage] 投稿日:2009/10/17(土) 03:55:54 ID:c2Siq1uA
「おはようございます。」
聞き覚えのない声。
一瞬誰に声をかけられたのかと驚いて、博美は後ろを振り返った。
そこには、28歳の早苗の姿。
1週間前までの若々しさに変わり、成熟した大人の雰囲気が醸し出されていた。
涼やかな水色のロングスカートに、白のブラウス。
ショートパンツを履いていた以前のスタイルとは全く違う。
「そのスカートきれいね。」
「ありがとうございます。休みの日に買ったんですよ。夏服着ようとしたら若い子が着るようなデザインしかなくてびっくりして。もうショートパンツなんか履けないですよね。」
「あら、まだまだいけるんじゃない?」
「やめてくださいよ。」
何の疑いもなく笑う28歳の早苗を見て、博美は年齢の入れ替わりが本当に進行していることを確信していた。
「これどうしたらいいですか?」
「それ、私やっておく。水野さん、病室見てきて。」
病棟では、早苗は奈都子の指導役のナースになっていた。博美はその様子を不思議な気持ちで眺めていた。
(先週までは同期だったのに)
立場の変化は自分にも及んでいた。
副師長とも言える立場であったのが、数日で主任に下がり、いまや普通のナースの年長者になっていた。年下だった主任も、今や年上になった。
「私行きます。」「ありがとう。」
年下だった主任への敬語。しかし、博美は全く悪い気はしていなかった。
確実に進行する若返り。
仕事終わりに、ナースサンダルへ脚を伸ばす。いつも仕事終わりに感じる脚の重みが軽い。
(今日は忙しくなかったから…)
そうつぶやきながらも、博美は晴れやかな気持ちになっていた。
106 名前:give and take 7[] 投稿日:2009/10/28(水) 03:35:29 ID:IP73JH9V
さらに3日が経った。
35歳になった博美。最初の頃とは違い、加速度的に若返りが進んでいく。
アンダーバストがスリムになり、バストに張りが出てきたため、ブラジャーが合わなくなってきた。
「下が緩いんだ…ピンクとか着られるかな…」
風呂上がりに測った体重。若返りが始まってからは初めてだ。
「やだ、2キロもやせてる!」
同じ頃、31歳になってしまった早苗。
(なんか肉付いてきたな…)
ついこの間まで22歳であったという記憶は全く残っていない。
決して太っているとは言えないスタイルだが、22歳の時に比べれば、
全体の線の細さが薄れ、成熟した丸みが加わってきていた。
鏡を見ながら、ウエストをつまむ。
(ちょっとダイエットしないと…)
青のドットが入った真っ白なブラジャーはレースの入った紺一色へと変わっていた。
107 名前:give and take 8[sage] 投稿日:2009/10/28(水) 03:36:52 ID:IP73JH9V
その翌日。
更衣室に入った博美は、後ろからすごい力で押さえつけられた。
振り返ると、32歳になった早苗。
22歳の時に漂っていたあどけなさは消え、力の入った眼の横、目尻にはしっかりと皺が入っている。
「樋口さん、どういうことですか?」
「え…」
「なんで私、こんなになっちゃってるんですか?」
大きな声を出している割には誰も来ない。
「服もこんなのしかないし、どういうこと!?」
ボタン脇にフリルの付いた白のブラウスに薄手の緑のスカート。それでも30代に入った早苗には、少し若作りにも見える。
『やっぱりこうなってしまいましたね。』
周りが静寂に包まれ、あのときの男が現れた。
「あんた誰よ。」
『はじめまして』
「戻しなさいよ、わたしのこと。」
『そういうわけにはいきません。こちらの方との契約ですから。』
「はぁ?何言ってんの?」
22歳の精神に戻った早苗は、威勢のいい言葉で男に食ってかかる。
『二人の歳が近づいたんで、ちょっと世界に歪みが出てしまったようです。まあよくあることですから。』
そういうと男の手から光が放たれ、早苗を包む。
乳房が描き出していたブラウスのラインに、ふくよかな丸みが加わり、ボタンにかかる張力がわずかに増す。
髪にはパーマがかかり、艶が少しずつ失われていく。スカートから覗く脚、ストッキングの下に浮かぶシミ。
光が収まると、30代後半となった早苗の姿。いつの間にか男から出された姿見に、自分の姿が映る。
「な、何よ、これ…」
高さは変わらないものの、少しこもった、かすれがちな声。小さくつぶやくと、早苗は気を失った。
108 名前:give and take 9[sage] 投稿日:2009/10/28(水) 03:43:45 ID:IP73JH9V
『さ、あなたも若返りましょう。』
同じように、博美の身体を光が包む。
紺のブラジャーの中で乳房が瑞々しさを増す。押し上げられた乳首がブラジャーと擦れた。
思わず声を上げそうになる博美。ヒップが上がり、ショーツに密着する。
「見せて。」
鏡には、黄色のチュニックにベージュのスカートを履いた20代の女性。
先ほどよりもむしろむっちりしたようにも見えるが、バストやヒップに若さゆえの張りが戻ったためだろう。
キメの揃った肌が戻り、目尻の消えた若々しい顔。その下には存在を主張するバストとヒップ。
そんな身体を年の割には地味な、シックなデザインの服が包んでいる。
「だいぶ若返ったわね。」
『言葉遣いも若くされた方が…』
「そっかぁ。そうだね。」
『よくお似合いです。あなたを26歳、彼女を40歳にしておきました。私の力ではこれが限界です。あとはまた自然と若返っていきますので。』
「じゃあ、あと4日ってこと?」
『そういうことになりますね。』
「楽しみにしてる。」
最終更新:2009年11月13日 19:53