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母親と幼馴染・2

投稿日:2009/12/26(土)


午後の教室、数人で輪を作って談笑する女生徒たちの中に、
長い髪にピンクのリボンをつけた、可愛らしい少女の姿があった。
少女は明るい性格のようで、友達と他愛のない会話を交わしながら微笑んでいる。
そこに一人の男子生徒が現れ、少女に話しかけた。
「ひとみ、ちょっといいか」
「ん、なに? ヨシヒロ」
女子の群れに顔を突っ込んだ形の男子生徒は、少々恥ずかしそうにしながら、
下校時に自分と一緒に帰るよう、少女に頼み込んだ。
「うん、いいよ。つき合ったげる」
満面の笑みを浮かべてそう答えた少女に、周囲から冷やかしの声がかかった。
少女はかすかに顔を赤らめ、手をぱたぱた振って抗議したが、
この二人の間柄は、とうに周知の事実である。
そこへ教師がやってきて、騒ぐ生徒たちに終礼を告げた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

ヨシヒロは平凡な少年だった。
兄弟はなく、両親と共に暮らす一人っ子。
親の期待もあって人並み以上に厳しく躾けられたはずなのだが、
残念ながらその甲斐もなく悪戯好きの悪童に育ってしまい、
小学校の高学年になる頃には、立派な問題児の一員となっていた。
母親である園子に言わせると「こんなはずじゃなかった」ということになるが、
当のヨシヒロはいくら叱られてもまるで堪えた様子がなく、
近所に住む幼馴染のひとみをはじめ、多くの人間に迷惑をかけ続けていた。
特にひとみは気弱な性格のため、ヨシヒロに悪戯をされても何も言えず、
泣いておろおろするばかりだった。
この年頃の少年にとって、身近な異性が気になって嫌がらせをしてしまうのは
よくある話だったが、園子は我が子のそんな姿を見ては、いつも心を痛めていた。
これではいけない。何とかしないと。
園子もひとみもそう思いながら、なかなか有効な手を打つことができなかった。

そんなとき園子に、ある品物が送りつけられてきた。
はじめは田舎の親戚が果物でも送ってくれたのかと思ったが、それにしては箱が小さい。
飾り気のない無愛想な紙箱を開けてみると、
中から電子辞書くらいの大きさの薄い機械が出てきた。
添えられていた文によると、何かの懸賞に当たったそうだ。
園子はよく雑誌や飲料の懸賞に応募していたので、こういうことは珍しくなかった。
出した数が多すぎて、自分でも何に応募したのかろくに覚えていないほどだ。
賞品の機械にはキーボードのような細かいボタンがいくつもついていて、
さらに画面を直接触っても操作ができるらしく、そのためのペンタブレットも付属していた。
「ゲーム機――にしてはちょっと大きいわね。電子手帳かしら」
園子はあまりこういうものに興味はなかったが、どうせタダでもらったものだ。
ちょっと触ってみて、飽きたらヨシヒロにでもやるつもりでいた。
そのヨシヒロは学校から帰ってすぐに友達と遊びに出かけてしまい、
夕飯どきになるまで戻りそうになかった。
元気なのはいいけれど、もう少し落ち着きと思いやりのある子になってほしい。
我が子の将来を思うと、園子の口からため息が漏れていった。

そのとき、家にひとみが訪ねてきた。
「ああ、ひとみちゃん? どうぞ、上がってよ」
「すいません、お邪魔します」
ひとみはヨシヒロの同級生で、園子も彼女が小さい頃からよく知っている。
気が弱く今でも泣いてばかりだが、将来はさぞ美人になりそうな可愛らしい娘だ。
ヨシヒロがよく彼女をいじめているため、いつも園子はひとみを慰め、
不甲斐ない息子に代わって謝っているのだった。
ひとみが浮かない顔だったので話を聞くと、どうやらヨシヒロは、
今日もあれこれとひとみにちょっかいを出していたそうだ。
またか。息子が帰ってきたら、うんと叱ってやらないと。
園子がヨシヒロへの怒りを隠しながら、ひとみに茶でも出してやろうと立ち上がると、
テーブルの上に出しっぱなしにしておいた機械をひとみが見つけ、訊ねてきた。
「おばさん、これ何ですか?」
「あー、それ? 懸賞で当たったの。電子手帳か電子辞書かよくわかんないんだけど――
 そうだひとみちゃん。それあげるから、よかったら使ってよ」
「え? で、でも……」
「いいからいいから。ヨシヒロがいつも迷惑かけてるんだから、気にしないで」
「はあ、ありがとうございます……」

しかしひとみは機械を受け取ってはみたものの、使い方がさっぱりわからないらしい。
園子は同封の説明書に目を通しながら、ひとみと二人で機械を使ってみることにした。
「えーと、ユーザー登録……あ、指紋認証なのか。最近のはすごいわねー。
 名前を入れて、年齢、住所……まあこの辺はどうでもいいか。
 ほら、ひとみちゃんも登録したげるから、手出して」
「はい」
園子とひとみ、二人はこの機械のユーザーとして登録した。
パスワードもしっかり設定し、初期設定は完了した。
次に表示されたのはメニュー画面だった。
園子は説明書と画面を見比べつつ、たどたどしく操作をおこなっていく。
「この複製とか置換ってボタンは何なんだろ?」
「あ、おばさんと私のデータが出てきましたね」
「まあ適当にいじってみましょ。どーせタダだったんだし、壊れてもいいわ」
「おばさん、ちゃんと説明書読まないと……」

園子の手がペンタブを操り、手当たり次第にアイコンをクリックする。
「確認」と書かれた画面に移ったが、ためらいなく「はい」を選ぶ。
すると突然、園子は強烈な違和感に襲われた。
一瞬だけ視界がぐらりと揺れたように感じて、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。
気を失ったとか、気分が悪いとかいうようなことは決してない。
特に何かが変わったというわけでもない。
だが、やはり何かが変わったような、不思議な気分だった。どうにもすっきりしない。
園子が頭を抱えていると、隣にいたひとみが心配して声をかけてきた。
「おばさん……大丈夫?」
「え? ひとみちゃん、声――ええっ !?」
思わずあげてしまった自分の悲鳴にも驚いてしまう。
ひとみの口から出てきたのは、幼い少女の声ではなく、
どこか聞き覚えのある、成人した大人の女の声だったのだ。
逆に自分の喉をついて出たのは、可愛らしい少女の声音。
自分とひとみの声が入れ替わってしまったことを園子が把握するまで、数分を要した。

「な、なんでっ !? なんで私とひとみちゃんの声が……?」
「あたしの声、どうなっちゃったの……?」
園子が目を白黒させていると、ひとみは園子の手から機械をひったくり、
画面を見ながらそれを操作し始めた。
信じられない出来事だが、ひょっとするとこの機械が原因かもしれない。
いきなりの異常事態に戦慄しつつも、ひとみは画面にペンタブを走らせた。
「置換、声……Sonoko、Hitomi……あ、さっきと表示が変わってる。これかな?」
緊張してつばを飲み込みながら、ひとみが確認画面で「はい」を入力すると、
機械の表示も二人の声も、両方が元通りになった。
「も、元に戻ったの? あー、びっくりした……」
「おばさん、この機械――」
「今の、やっぱりこの機械のせいよね。どうなってるのかしら……」

説明書には細かい解説が書いておらず、何のための説明書だと文句を言いたくなったが、
園子はひとみと二人で機械を操作して、その機能を把握していった。
どうやら、これは登録したユーザーの体の一部を自在に変化させることができるらしい。
たとえば今のように二人の声を入れ替えたり、
あるいは他の部分、腕や足を取り替えたりもできる。
入れ替えるだけでなく、身体のパーツを別の人間にコピーすることもできるようだ。
試しに園子の両脚を複製してひとみに生やしてみたが、
小さな体のひとみが脚だけ大人のものになってしまい、かなりアンバランスだった。
また、ユーザーの身体データはバックアップとして保存してあるらしく、
いつでも元に戻せることも判明した。
驚くべき機能の数々を目の当たりにした園子が、興奮した声で言った。
「すっごいわねー、これ。なんかもうSFの世界じゃない?」
「ホ、ホントにすごいですね……。あたしまだ信じられない……」
「そうだ、ひとみちゃん。これ使って、あいつを懲らしめてやらない?」
「え?」
きょとんと自分を見上げてくるひとみに、園子はにやりと笑って言った。
「だから、これ使ってうちの悪ガキを懲らしめてやるのよ。協力してよ」
「ヨ、ヨシヒロくんを?」
「そう。あいつ、私の怒鳴り声とかゲンコツとか、すっごい苦手でしょ?
 あの悪戯坊主が、私の前じゃコソコソ小さくなってるもの。
 だから私とひとみちゃんが入れ替わったら、
 あいつもひとみちゃんに変なことしなくなるわよ。きっと」

こうして園子とひとみは互いの体を入れ替え、ヨシヒロを大いに困惑させた。
ひとみが園子の体でヨシヒロを怒鳴りつけたりどやしつけたり、
逆に園子がひとみの姿でヨシヒロを挑発したり。
そんな二人の姿にヨシヒロはすっかり狼狽してしまい、
それ以来ひとみをいじめることはなくなった。うまくいって二人は大喜びした。
しかし、事態は園子が予想しなかった方向へと進んだ。
ひとみが園子の体のままでいたいと言い出したのである。

園子もひとみの体になってからは、毎日学校に通って二度目の青春を謳歌していたが、
当然のことながら、ずっとこのままでいる気などなかった。
二週間ほど経ったある日、園子はひとみを捕まえて、
いい加減元に戻ろうと訴えた。ひとみは園子の顔で笑って言った。
「あたし、おばさんの体で楽しくやってるんです。
 おばさんもヨシヒロくんと一緒に学校行って、楽しんでるでしょ?
 だったら、もうちょっとこのままでいてもいいじゃないですか」
「うーん、それはそうなんだけど……。でも、お互い自分の体じゃないわけだしねえ。
 ひとみちゃん。あの機械、返してくれないかしら。あれがないと戻れないのよ」
「あれはあたしがもらったんです。返すつもりはありません」
にべも無く断られ、園子は困り果てた。
何しろ今の自分は小柄で無力な、幼い少女なのである。
元は自分の体だとはいえ、ひとみを見上げなくてはならないこの状況では、
なかなか強い態度に出ることができなかった。逆にひとみはいつになく強気である。
入れ替わりの原因となった機械はひとみが管理しており、どこかに隠してしまっていた。
ひとみの同意がないと元に戻れないのだが、ひとみは頑として首を縦に振らない。
結局園子はそれ以上何も言うことができず、大人しくひとみの家に帰るしかなかった。

ひとみの家族は二人が入れ替わっていることを知らない。
ひとみを演じることには慣れつつあったが、本来は赤の他人である夫婦に向かって
「お父さん、お母さん」と呼びかけるのには、園子も罪悪感を覚え始めていた。
一方ひとみは、ヨシヒロもその父も事情を聞かされているので、特に不自由はないようだ。
遊びたい盛りだろうに、主婦として一生懸命家事に勤しむひとみの姿に
ヨシヒロの父はたいそう感動したらしく、彼女を実の家族同然に扱っていた。
園子が元に戻りたいと訴えても、ひとみのやりたいようにさせておけと言うばかりである。
ヨシヒロはヨシヒロで今回の騒ぎですっかり意気消沈してしまい、
ひとみと園子が入れ替わったままでも何も言わない。
園子の味方は誰もおらず、元に戻れないまま時間だけが過ぎていった。
一ヶ月、二ヶ月、半年、一年。
ひとみと園子が入れ替わって二年が経ち、園子は中学生になっていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

春の心地よい風が通学路を吹き抜ける中、園子はヨシヒロと一緒に下校していた。
中学校の制服である紺色のブレザーと、髪を飾るピンクのリボン。
今の園子はどこからどう見てもひとみであり、
本人もそう呼ばれることが当たり前になってしまっていた。
ひとみがひとみでないことは、隣にいるヨシヒロを含め、ごくわずかな者しか知らない。
園子はカバンを振りながら、ずっと黙りこくっていたヨシヒロに訊ねた。
「ねえヨシヒロ、今日はなんで私を呼んだの?」
「ん、ちょっとな」
「ふーん? まあいいや」
園子はそのままヨシヒロについていき、かつて自宅だった家に足を踏み入れた。
ひとみは出かけているそうで、誰もいない。
「ふふっ。こういうとき、ただいまって言えばいいのか、
 それともお邪魔しますって言えばいいのか、ちょっとわかんないよね」
「どうでもいいだろ、そんなこと」
相変わらずヨシヒロはぶっきらぼうだ。
そんな息子に構わず、客の身でありながら台所に立って、茶と茶菓子を用意する。
最近この家にもあまり寄る機会がなく、自宅だった頃の記憶も少しずつ薄れつつあった。

ヨシヒロとテーブルを挟んで向かい合い、熱い緑茶をすする。
少し会話も交わしたが、とても母が息子に話すような内容ではなかった。
「C組の伊藤君いるでしょ。今日コクられちゃったんだけど」
「またかよ……。で、つき合う気あんの?」
「そんなわけないでしょ、あんなお子様と。十年早いって」
「そりゃあ、中身は四十近いオバサンだもんな。つき合ったら犯罪だ」
「言ったわね、この糞ガキっ」
園子は可愛らしい見た目に加え性格も明るく、男女どちらからも人気があった。
よくヨシヒロと一緒にいて、あれこれと世話を焼いてやっているため、
周囲からは二人がつき合っていると思われているようだ。
園子からすれば実の息子の面倒を見るのは当たり前のことだし、
そこに恋愛感情が存在するはずはないのだが、かといって事情を説明するわけにもいかず、
むきになって否定するのも面倒くさいのでそのままにしている。
それにヨシヒロの彼女ということにしておくと、周囲の少年たちから
交際を申し込まれることが無く、彼女としても都合が良かった。
中にはそれでも告白してくる熱心な男子もいたが、全て断るようにしている。
園子にとって中学生というのはまだまだ子供であり、
そんな相手とつき合って恋愛ごっこに興じる気には、どうにもなれないのだった。

園子は茶をもう一口すすり、ヨシヒロをじっと見つめた。
「ところでヨシヒロ」
「なんだよ」
「あんた、私に何か言いたいことがあるんでしょ。早く言いなさいよ」
園子はそう言って、湯飲みをテーブルに置いた。
今日、ヨシヒロは普段と同じように振る舞ってはいたが、
母親である園子にとって、彼の様子がいつもと違うのは明らかだった。
ヨシヒロは椅子の背にもたれかかり、大きく息を吐いた。
その仕草は、何か大事なことで悩んでいるようにも見えた。
「ふう……。やっぱり俺のかーちゃんだな。隠し事できねー」
「もしかしてひとみちゃんのこと? 今日いないけど、何かあったの?」
「ああ。今あいつ、病院行ってんだ」
「病院? 体壊したの、それとも怪我?」
「どっちでもない。ピンピンしてる」
ヨシヒロは歯切れが悪かった。
もっとヨシヒロが小さい頃、何か悪戯をしでかしてそれがばれたとき、
これと同じ表情をしていたのを思い出す。
あまりいい予感はしなかったが、とにかく話を聞かなければどうしようもない。
辛抱強く園子が待つと、ヨシヒロはぽつりぽつりと語りだした。

「実はあいつ、妊娠したんだ。それで今日、産婦人科に行ってる」
「ふーん、そう。妊娠したの」
納得してうなずいた園子だが、次の瞬間、いきなり大声をあげた。
「はあ !? 妊娠ですって !? なんでひとみちゃんが妊娠してんのよ!
 あれ私の体なのよ !? 私に黙って、勝手にそういうことしてたってわけ !?」
最近ろくに会っていない夫、ヨシヒロの父親の顔が脳裏に浮かんできた。
いくら妻の体とはいえ、年端もいかぬ少女に手を出したというのだろうか。
テーブルをドンドン叩いて吠える園子に、ヨシヒロがさらに驚くべき話を聞かせた。
「それが……俺がひとみとやっちまったんだ。そしたら妊娠した」
今度こそ園子は、開いた口が塞がらなかった。
夫婦でさえ許せないというのに、なんと母と息子である。
全身の血が頭にのぼってしまい、頭の中が沸騰して何も考えられなくなった。
「ヨシヒロ――あんたねえっ !!」
それからのことはよく覚えていないが、おそらくヨシヒロを口汚く罵ったのだろう。
マザコンとか変態とか、そういった言葉をぶつけたのは辛うじて記憶にある。
ヨシヒロも何やら釈明していたようだが、何を言われたのか全く覚えていなかった。
迂闊だったのは、ヨシヒロの性格も考えず、思い切りわめき散らしたことだろう。
この少年はいくら自分に非があっても、ただ黙って反省するような男ではない。
園子とヨシヒロは当然のように口論になり、互いに怒りをぶつけ合った。

「いい加減にしろよ! もう終わったことはしょーがねーだろうが!」
「何開き直ってんのよ! 母親の体を犯しといて、それでいいと思ってんの !?」
「同じことばっかり、何度も言うなって言ってんだ! いい加減にしろよ、お前っ!」
「何よ、母親に向かってお前呼ばわり !? この変態息子、土下座して謝れっ!」
とうとう口だけでは足りなくなったのか、
ヨシヒロは椅子から立ち上がると、園子につかみかかってきた。
「ちょっと、何よ――!」
園子はヨシヒロを鋭くにらみつけたが、彼は構わず園子の椅子を引き倒した。
華奢な園子の体が床に叩きつけられ、派手な音があがった。
視界が一回転して、目の前が点滅したり星が散ったり。
とっさに後頭部は庇ったものの、背中をしたたかに打ってしまった。
「つう……!」
気がつくと、仰向けに倒れた園子の上にヨシヒロが覆いかぶさっていた。
まだ中学生とはいえ、ヨシヒロの体は今の小柄な園子より、ひと回りは大きい。
息子に押し倒されるという事態に、園子の頭の中は真っ白になった。

「こっち向けよ」
ヨシヒロの両腕に上体を抱え込まれ、無防備な唇を奪われる。
眼前を覆うヨシヒロの顔はぼやけて、誰だか判別もできなかった。
「んっ……」
唇を割って侵入してくるヨシヒロの舌。
気持ちいいのか悪いのか、それも思考が霞んだ園子にはよくわからない。
口内を蠢く肉の塊がまるで催促しているように思われて、つい自分も舌を絡めてしまう。
園子とヨシヒロは濃密な接吻に没頭し、唾液をくちゅくちゅと混ぜ合った。
だんだん息が苦しくなってきた頃、ヨシヒロが一旦顔を離し、園子を見下ろした。
逆光の中、息子の顔は別人かと見紛うほどに暗かった。
「ざまあみろ」
ヨシヒロはそう言うと、園子の長い髪をかき分け、首筋に吸いついた。
白い肌を唇で挟んでついばんでくる。もしかすると跡が残ってしまうかもしれない。
そこで園子はようやく拒絶することを思い出し、首を振って暴れた。
「ちょっ !? あんた、何してんのよ! やめなさ――」
パン、と乾いた音が響いた。ヨシヒロが平手で園子の頬をぶったのだ。
左の頬がひりひり痛む。息子に暴力を振るわれたのが信じられなかった。
園子は今度こそ完全に思考を放棄してしまい、虚ろな表情でヨシヒロを見上げた。

ヨシヒロは放心した園子を床に寝かせ、戸棚から荷造り用の紐を取り出した。
そして寝転がった体に横を向かせて、両手を背中に回して縛り上げた。
叩かれた頬の痛みに、後ろ手に縛られた手首の痛みが加わった。
園子は呆然として、一切の抵抗をやめてしまっていた。両の目から涙がぽろぽろこぼれた。
ヨシヒロは園子を拘束すると、彼女の細身の体を抱きしめ、胸や背中を撫で回した。
その顔は興奮して赤く染まり、鼻息も荒かった。
「お前のせいだからな」
乱暴な手つきでジャケットと中のブラウスを開かれる。ボタンが千切れ飛んだ。
肌着の下の乳房はまだ平たかったが、ヨシヒロはそこをわしづかみにしてきた。
もみもみと、ではなくぎゅうぎゅうと――体重をかけ胸を圧迫され、とても苦しい。
もっと優しくしてくれたらいいのに。なぜかそう思った。
首筋から胸にかけ、ヨシヒロの舌が園子の体を這い回る。
園子はしゃくり上げながら、鼻をぐずぐずさせることしかできない。
そんな彼女の姿が愉快なのだろう。ヨシヒロは実に満足そうだった。
「う――うっ、ひっく……ひくっ」
泣いていると、またヨシヒロが唇を重ねてきた。
園子を肉体的にも精神的にもいたぶり尽くすつもりか、執拗に口内をねぶってくる。
自分の肉を貪られるぴちゃぴちゃという音が、やけに大きく聞こえた。
苦しさと屈辱感に、涙が次から次へと溢れてくる。

「んふっ……んん、んっ」
たっぷりと幼馴染の少女の唇を堪能し、ヨシヒロが再び離れた。
母である自分が決して目にするはずのない、サディスティックな息子の笑みを前にして、
園子の体はぶるぶる震えて止まらなかった。
そんな園子を見下ろしてにやりと笑い、ヨシヒロが訊ねた。
「どっちがいい? 無理やりされるのと、合意の上ですんのと」
「あんた……自分が何やってるか、わかってんの……? 私はあんたの母親なのよ……」
「体は違うだろ。ひとみは俺のこと好きだって言ってたし、別にいいじゃん」
「いやよ、私は――んんっ」
そこでまた口を吸われる。
吐き出そうとした言葉を無理やり飲み込まされてしまい、園子の呼吸が激しく跳ねた。
ヨシヒロは抵抗のできない園子の唇を貪りながら、乳房をぐにぐに揉みしだいてくる。
「いやだって言っても無理やりするぞ。
 どっちでも同じなんだから、いいって言えよ。そしたら紐、解いてやるから」
「そ、そんな……」
元々何を考えているのかわからないところがあったが、まさかこんな行為に及ぶとは。
絶望の淵に叩き落とされた園子は歯を食いしばり、涙目でヨシヒロを見上げるしかない。
園子の首筋を指で優しく撫で上げ、再びヨシヒロが問うた。
「で、どうすんの。無理やりされたい? それとも優しくされたい?」
「う、うう――」
もはや園子に選択の余地はなかった。
半泣きの顔でこくんと首を縦に振った園子を、ヨシヒロはほくそ笑んで見下ろした。

それからヨシヒロは園子を縛っていた紐を切り、彼女を裸にひん剥くと、
体中を念入りに愛撫して、生娘の緊張した体をほぐしてやった。
園子も観念してその行為を受け入れ、不覚にも一度、達してしまった。
「意外と可愛いな、お前」
笑って自分の頭を撫でるヨシヒロに胸が疼いたのは、恋情のせいか憎悪のせいか。
仰向けでソファに寝かされた彼女の入口は淫らな汁に溢れ、無様な姿を晒していた。
こちらも服を脱いだヨシヒロが両脚の間に体を割り込ませ、勃起した雄を割れ目にあてがう。
ゴムもつけていない亀頭が光を反射して、てらてらと光っていた。
園子がちゃんと避妊しろと口にすると、ヨシヒロは笑って言った。
「お前、もう生理あんの?」
「あ、あるわよ……。今日は多分大丈夫だと思うけど、それでもちゃんとつけてよ……」
「大丈夫ならいいじゃん。このままやっちまおうぜ」
だがいくら安全日であっても、妊娠する確率はゼロではない。
それに中身は四十前の中年女と言えど、体はまだ中学生の娘だ。まして他人の体である。
園子は避妊具のない生の性交を嫌がったが、
彼女が見せた最後の抵抗にも、ヨシヒロは平気な顔だった。
「第一、ひとみだってお前の体で妊娠しちまったんだぜ、お互い様だって。
 いいからもう入れるぞ、力抜いとけよ。すっげー痛いらしいからな」
「やあ、ヨシヒロ……!」
そして園子は、人生で二度目となる処女の喪失を経験した。

張りつめたヨシヒロの肉棒が、園子の膣をかき分ける。
たっぷり汁を分泌させた秘所の肉は一度だけ、不逞な侵入者に抵抗を見せたが、
それも彼の体重と勢いに抗し切れず、ついには無残に引き裂かれてしまった。
「う、うう――うううっ……!」
「やっぱ苦しそうだな。大丈夫か?」
性器を突き込んだヨシヒロが動きを止め、今さら園子を気遣ってきた。
園子はハアハア息を切らし、額に汗を浮かべてうなずいた。
「うん、何とか……」
「そっか。じゃあ続ける」
「んっ! んああっ、あくっ!」
ヨシヒロがめりめりと音をたてて処女の中に割り込み、一番奥まで到達する。
幸いにも、痛みは何とか我慢できそうだった。
自分の中を息子の男性器が満たしているという実感が
鈍い苦痛となって、園子の脳に焼きつけられる。
「私……ヨシヒロとしちゃってるんだ……」
痛みに耐え、深呼吸しながら感傷にひたっていると、
ヨシヒロが腰を動かして結合部をかき回し始めた。
「ヨ、ヨシヒロっ !? ちょっと待って、動かないで……っ!」
「う、きっつい――でも、なかなかいいな。ははっ」
全裸で両脚を広げた園子の上にはヨシヒロが覆いかぶさり、
とろりと血の滴る肉壷に、猛りきった雄の象徴を挿入している。
ほんの一時間前には想像もしなかった事態に、
もう園子の頭は考えることをやめてしまっていた。

ヨシヒロの動きは荒々しいが、決して下手ではなかった。
今は彼の母親になったひとみと経験を重ねているからだろうか。
規則正しいリズムで腰を前後させ、ぎちぎち悲鳴をあげる膣内を力強くこすり立ててくる。
犯され続ける園子の秘所はじんじん痺れ、痛みも麻痺しつつあった。
ヨシヒロが入ってくるたびに喘ぎ声が漏れてしまう。
「あっ、ううっ、うんっ、んっ」
「気持ちいいか? ひとみ」
「ううん……すっごくしんどい」
「そっか。もうちょっとで終わるから、我慢しろ」
「うん……」
母ではなくひとみと呼ばれても、園子は否定しなかった。
肉体だけでなく、心も麻痺してしまったのだ。
自分は女でこいつは男。今していることも、愛する男女なら当然の行為だ。
愛する――自分はこの少年を愛しているのだろうか。
そんなことも考えられなくなって、ひとみはただ喘ぐだけの人形と化した。
「ん、くっ、ああ――はうっ……!」
手を口に当てて指をぐっと噛み締める園子の姿は、幼いながらも艶かしい。
ヨシヒロのものが胎内で硬度を増し、さらに激しく前後した。
破瓜の血と愛液、肉棒の先端から漏れた雄の汁が混じり合って挿入を助ける。

大きく開いた園子の両腿を担ぎ上げ、ヨシヒロがきつくきつく密着した。
陰茎が奥へ奥へとねじ込まれ、壁にこつんと突き当たった。
「ああ――ああああっ」
園子が開いた口から犬のように舌を出し、ひときわ大きな声をあげた。
体重をかけて自分にのしかかってくる男の体を無意識に抱きしめ、膣の肉を引き絞る。
それに応えて雄の尿道が開き、沸騰した白濁を彼女の秘部に撒き散らした。
自分の中で震えて脈動するヨシヒロの姿に、園子は息子が達したことを知った。
膣内にヨシヒロの遺伝子がたっぷりと注ぎ込まれたというのに、
園子にはその実感がなく、他人事のような顔でヨシヒロと抱き合っていた。
最後まで行為を終え、ヨシヒロが火照った顔で訊ねてきた。
「大丈夫か?」
「うん……」
自分の口から吐息と共に甘い声が漏れる。
息子相手にこんな媚びた声音を使うことになるとは思わなかったが、
こうなってしまっては仕方がない。後はもう、成り行きに任せるだけだ。
園子は不思議と落ち着きを取り戻していた。
ヨシヒロが園子の中から抜けると、ぱっくり開いた陰部から二人の体液が溢れてきた。
園子はピンク色の淫らな汁を見下ろし、熱い息を吐いてヨシヒロにしなだれかかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

半ば強姦のような形で処女を奪われた園子だが、関係は一度だけに止まらなかった。
それ以来、ヨシヒロは学校が終わると園子を家に呼び出し、体を求めてくるようになった。
肉体は赤の他人だからと言って、渋る彼女に無理強いして交わるのである。
園子ははじめ複雑な思いだったが、だんだんそれにも慣れてしまい、
ひと月も経つ頃には、進んでヨシヒロを受け入れるようになっていた。
幼馴染の心を持った母の体を犯して妊娠させたうえ、母の心が入った幼馴染の体を弄ぶ。
どうしようもない息子だが、その息子を憎みきれないのもまた、確かな事実だった。
馬鹿な子ほど可愛いと言うが、どうであっても自分のたった一人の息子には違いない。
そのヨシヒロが自分の体を抱きしめて甘えてくると、嫌とは言えなかった。
学校ではヨシヒロが堂々と園子との交際宣言をしてみせたし、
放課後はしょっちゅうお互いの家に行き来して、逢瀬を重ねていた。

妊娠中のひとみもそんな二人を怒るどころか、積極的に応援してくれていた。
「これでおばさんも共犯ね」などと笑って言うあたり、
自分はヨシヒロとひとみにはめられたのかもしれない。
反応に困った園子だが、数ヵ月後、無事にひとみが赤子を出産すると、
毎日ヨシヒロの家に寄り、生まれた子供の様子を見にくるようになった。
ヨシアキと名づけられた男児を園子はとても可愛がり、
ヨシヒロを無視して世話を焼くありさまだった。
自分が腹を痛めて産んだ赤子を抱き、乳をやるひとみは、とても幸せそうに見えた。
元は園子の体だったはずだが、彼女自身がそれを忘れかけていた。
それほどひとみは園子として適応していたし、園子もひとみになりきっていた。
ひょっとしたら、ひとみはヨシヒロの母になりたかったのかもしれない。
仲がいいだけの赤の他人ではなく、血の繋がった肉親になりたかったのかもしれない。
柔らかい笑顔で授乳を続けるひとみを、園子は羨望の眼差しで見つめていた。
そこへいつの間にか背後に回っていたヨシヒロが園子を抱きしめ、優しく頭を撫でる。
「ヨシヒロ……」
「羨ましいか? 産みたいなら産んでもいいぞ、俺の赤ちゃん」
「馬鹿っ!」
園子は顔中真っ赤にしてヨシヒロを怒鳴りつけたが、心の中は幸福で一杯だった。
自分はひとみで、息子だったヨシヒロの女。もはやそれでいいではないか。
やがて自分はヨシヒロと結婚して、子を産んで育てていくのだろう。
姑のひとみと些細なことで喧嘩をしたり、かつて愛した男を舅と呼んで
自分が産んだ赤子を見せ、溺愛させたりする日常を送るのかもしれない。
そんな平凡で非凡な未来予想図を、いつしか園子は思い描いていた。

しかし、事態は園子の思うようにはいかなかった。
原因はやはりひとみである。最後の最後に、ひとみが心変わりしたのだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

ヨシヒロが目を覚ますと、カーテンの隙間から白い光が差し込んできていた。
もう朝とは言えない時間になってしまっているようだ。
まだ眠気の残った頭をぶるぶる振って、ベッドの上で身を起こす。
その動きに反応したのか、ヨシヒロの隣で眠っていた女が身じろぎして、
「ううん」と艶かしい声を漏らした。長く美しい黒髪を持った、妙齢の女だ。
ヨシヒロは女の名前を呼び、ゆさゆさ体を揺らして起こそうとする。
「おい、ひとみ。もう昼だぞ、起きろ」
「ん――やだ、ヨシヒロぉ……」
女は目を閉じたまま甘い声をあげ、抵抗の意思を示したが、
ヨシヒロは寝床の布地をまくりあげて女の体を引きずり出した。
一糸まとわぬ白く豊満な女体が、明かりのついていない寝室の中で露になる。
昨夜は随分と長丁場だった。心地よい疲労感が二人の体を包んでいた。
ヨシヒロは女を引き寄せて頬にキスをすると、シャツとズボンを身につけた。
「先に飯食っとくから」
「うん、わかった」
女は寝ぼけまなこを手でこすり、部屋を出て行くヨシヒロを見送った。
今日は休日。たまにはこんな自堕落な日があってもいいだろう。女はそう思った。

ヨシヒロがダイニングに顔を出すと、一人の女がコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。
椅子に座った膝の上には、あどけない顔の幼子が抱かれている。
女は一瞬だけヨシヒロに視線を向けたが、すぐにまたテレビに戻した。
大きなあくびを一つして、その女に話しかける。
「園子、飯」
「起きて第一声がそれ? おはようくらい言えっての」女はテレビから目を離さずに言った。
「いいじゃん、腹減ってるんだ。パンでいいから食わせてくれよ」
「もうちょっとでお昼にするから、それまで待ちなさいよ。まったく……」
女は幼子をヨシヒロに預けると、しぶしぶ食事の用意を始めた。
奇妙なことに、女は寝室にいたもう一人の女と全く同じ顔をしていた。
髪こそ短く切って整えているが、顔立ちも体格も双子かと思わせるほど瓜二つである。
園子と呼ばれた女は、スパゲッティを作ってヨシヒロに振る舞った。
チーズの匂いが鼻腔をくすぐる、こってりしたカルボナーラだ。
「朝昼兼用だから、そのつもりでね」
「はいよ。あいつらはどうした?」
「ヨシアキは友達と出かけたわ。サヤカは部活。
 昼までゴロゴロ寝てるのはあんたたちだけよ。まったくもう」
園子は幼子を抱き上げ、「困ったパパだよねー」と言って同意を求めた。
そこへ着替えを済ませた寝室の女、ひとみが現れた。
同じ顔をした二人の女が向かい合い、親しげな会話を交わす。
「園子、おはよう」
「もうそんな時間じゃないわよ。あんたの分もご飯作っといたから、食べなさい」
「うん。ありがと」
ひとみはヨシヒロと一緒に食事をとり、休日の家族の団欒を楽しんだ。

この家の家族構成は一人の夫と二人の妻と、三人の子供たちである。
商社に勤めるヨシヒロと公務員のひとみが働いて金を稼ぎ、
園子が家事と育児を担当する。そういう役割分担になっていた。
知らない人間が見たら、ヨシヒロは双子の姉妹の両方と結婚したのかと思ってしまうだろう。
しかし戸籍上はひとみがヨシヒロの妻であり、園子はひとみにとって姑という扱いだった。
だがヨシヒロは園子もひとみも平等に扱い、一方を偏愛することは決してしなかった。
現に今ヨシヒロが抱いている幼子は、数年前に園子が出産した女児である。
子供たちからしてみれば、同じ顔をした母親が二人いるという奇妙な状況だったが、
きちんと「ママ」と「母さん」を区別して、特に不自由なく育っている。
もっとも思春期を迎えた長男と長女は、家のこと一切を取り仕切っていて
子供にも口うるさい園子に閉口し、自分たちに甘いひとみの方によく懐いていた。
たまにそうしたことが原因で揉めることもあるが、全体として見れば実に円満である。
そろそろ三十代に突入しそうなヨシヒロ達であるが、夫婦の営みは今でも欠かさない。
ひとみと園子の二人の妻を日ごと交代で寝室に呼び、寝物語を紡ぐ。
時には三人でお互いを貪り合うこともあり、子供たちからは呆れられていた。
ひょっとすると四人目も生まれそうな勢いである。
だが、いくら父の遺産と二人の稼ぎがあっても、無計画な子作りは望ましくないだろう。
家計を預かる園子は、自分だけでなくひとみの下半身も管理しなくてはならなかった。

こんなことになったのも、全てひとみのせいだった。
園子がまだヨシヒロの妻ではなく母だった頃、二人は奇妙な機械を使って入れ替わった。
どちらもお互いの体と立場を受け入れて満足し、何年も入れ替わったままで過ごした。
このままずっと元に戻らず生きていくのだと園子が思っていると、
ある日、園子が高校生になる頃だったか、ひとみがまたあの機械を持ち出してきた。
園子にとっては懐かしい機械だったが、もう電池が切れかかっているらしく、
画面の表示もろくに見えないありさまだった。
ひとみが言うには、この機械は特別なバッテリーを使っているようで、
どこの電気屋でも充電できなかったそうだ。つまり、今使わないと二度と使えなくなる。
四十になろうかという身で二人の子供を出産し、ひとみの体は急激に衰えつつあった。
老いというものを実感し始めたひとみの目に、かつての自分の若々しい体を持った園子は、
羨むべき嫉妬の対象として映ったのである。

「園子さん、元に戻りましょう。あたしの体と立場を返して下さい」
唐突に言われて園子は戸惑った。
ひとみが小学生のときに入れ替わって以来、高校生になるまでの数年間を
ひとみとして過ごしており、今さら元に戻れと言われても納得できない。
園子が怒って反発すると、ひとみは機械を操作しながら言った。
「じゃあ、園子さんはそのままでいいです。あたしは今のその体をコピーしますから」
どういうことかと思う間もなく、ひとみの姿がぐにゃりと歪み、
園子の前に自分と全く同じ外見をした、可愛らしい少女が出現した。
数年ぶりに元に戻ったひとみは、成長した自分の体を触って確かめ、嬉しそうに笑った。
「ふふっ、これで同じですね。どっちがひとみになりますか?」
そこで機械の電池が完全に切れ、もう何も映さないガラクタになってしまった。
これで園子もひとみも今の姿で固定され、一生このまま過ごさなくてはならない。
ヨシヒロを加えた長い話し合いの末、結局園子が母親としてヨシヒロと同居し、
ひとみは懐かしい自分の家に帰り、女子高生を始めることになった。
ヨシヒロは、「もうどっちでもいーや」と投げやりなコメントを残し、
ただ状況に流されるだけだったが、今まで通りに園子のことを愛してくれた。

ひとみはひとみでヨシヒロと結ばれ、大学を出ると同時に入籍した。
二人の結婚式に園子は変装して出席する羽目になり、
さらに自分が産んだわけでもない子供の面倒も見なくてはならず、
ヨシヒロとひとみの新婚旅行についていくことができなかった。
園子は今でもそれを根に持っていて、何かあるたびにそれを口に出してヨシヒロをいびる。
そうこうしているうちにヨシヒロの父、園子の夫が早世してしまい、
園子は二人の子供を連れてヨシヒロと同居し、家事を切り盛りするようになった。
子供たちは戸籍の上では亡き夫の子供で、ヨシヒロの弟と妹にあたるが、
産ませたのは幼い頃のヨシヒロ自身である。多少なりとも父親の自覚はあった。
こうして夫と二人の妻と二人の子供が、一つ屋根の下で暮らし始めた。
さらに園子がもう一人子供を授かり、実に賑やかな家庭になっている。
どうしてこんなことになってしまったのか、ときどき不思議に思うことはあっても、
園子は今の自分と家族に、充分に満足していた。
穏やかな休日を買い物に費やし、夜は息子とベッドに潜り込む。
昨日はひとみの番だったから、今夜はたっぷりしてもらうつもりだった。
夜の寝室に園子の嬌声が響き渡る。
「あっ、んんっ、ひいっ、ヨシヒロぉっ!」
愛する男に抱かれながら、園子はこの上ない幸せに溺れていた。

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最終更新:2009年12月27日 13:28