投稿日 2010/03/28(日)
中身は一緒。
私は榊。榊(見せられないよ!)という。
今は下校中だが、今日学校で(私は高校生だ)驚くべきことがあった。
私には、ちよちゃんという友人がいる。彼女は十歳で高校に編入された天才少女なのだが、
そのちよちゃんと私の身体が入れ替わったのだ。
原因は一緒に階段を転げ落ちたことのようだが、同じく友人の滝野智にもう一度
突き落とされても、元には戻らなかった。
仕方がないので、今日はお開きになったのだが……私は少し、今の状況に期待していた。
自分とはまるで違う、可愛らしい少女になっている。見える世界がまるで違う。
これなら、今までは諦めていた可愛い格好もできるかもしれない。
ついつい跳ねるような足取りになって、私は歩いていた。すると、
「あ」
一匹の猫がいた。
(かみねこ!)
その名の通り(私が名付けた)、私が撫でようとするといつも手に噛みついてくる猫だ。だが、私は諦めない。
(でも……)
今はちよちゃんの身体だ。もし噛まれたら……
(いや、でも)
むしろ、ちよちゃんの身体なら噛まれないのでは?
私が迷っていると、寝転がっていたかみねこが徐に身体を起こした。
!?
かみねこから私のほうに近づいてきた!
(よ、よし、今なら!)
にゃーんとすり寄ってくるかみねこ。今だ!
がぶっ!
…………
(なんで!?)
違いのわかる猫。
はぁ、大変なことになったなあ。今日、なんと私――美浜ちよと、友達の榊さんの
身体が入れ替わってしまいました。元に戻る方法はわかりません。
(うーん……)
どうしたらいいんだろう。とりあえず今は榊さんちに向かっているけど、頭は今日のことで
いっぱいです。すると、
(あ、ねこだ!)
一匹の猫がいました。
猫は、私の姿を目撃するなり臨戦態勢。身を低くしてふしゃーと声をあげてきます。
「大丈夫、大丈夫だよ」
そこで私はしゃがみこんで、手のひらを出して話しかけました。怖くない。怖くないよ。
にゃーん。私の気持ちが伝わったようです。猫は威嚇をやめて寄ってくると、
私の手を舐めてくれました。えへへ、可愛いなあ。
次の日。
はあ、と私はため息をついた。視線の先には、包帯が巻かれた手がある。
結局、咬まれてしまった。はあ。
「あれ、榊さんどうしたんですか?その手」
「ち、ちよちゃん……ごめん。実は……」
私は、ちよちゃんの大事な身体を傷つけてしまったことへの罪悪感に襲われながら、
昨日の説明をした。
「ええ!?ねこに咬まれたんですか!」
「うん、ごめんなさい……」
「いいんですよ、榊さんが悪いんじゃないんですから。榊さんが会ったねこさんは、
機嫌が悪かったんですかねえ」
私が?ちよちゃんが腕を組んで頭をひねっている。
「私も昨日、下校中ねこに会いましたけど、手をなめてくれたのに――あれ、榊さんどうしたんですか?」
「なんで……」
体育で。
わーわーという歓声が聞こえる。今、私たちのクラスの女子は徒競走の最中だ。
走っているのは私……の姿をしたちよちゃんだ。
あ、また一人抜いた。スタートで失敗したものの、ちよちゃんはどんどんこぼう抜き。
ゴール直前で最後の一人を追い越すと、一位のままゴールをした。周りの歓声が、
一段と大きくなる。
「きゃー!榊さんかっこいー!」
事情を知らない生徒たちは当然といった雰囲気のようだが、事情を知っている
わずかな友人たちは少し驚いていた。
「へー、流石榊の身体だねえ。あのちよちゃんが一位とは」
「いや、ちよちゃんががんばったからだ」
私はそう言い残し、肩で息をしているちよちゃんの元へと向かった。
「良かったね、ちよちゃん」
「はい!榊さんのおかげです!」
こちらが声をかけると、まだ苦しいだろうにばっと顔をあげて、ちよちゃんは
笑顔を見せてくれた。
身体の持ち主である私すら見たことがない、満面の笑みだ。
「可愛い……」
「はい?」
私の身体なのに。私の、身体なのに。
最終更新:2010年04月13日 02:28