母の肢体/娘の身体01-07

投稿日 2010/04/11(日)





    紅茶とケーキを乗せたお盆を持って、「娘」の──恵美の部屋の扉をノックしようとしたあたしは、中から漏れ聞こえてくる声に気がついた。
     「恵美……」
     それは、今まで聞いたことがないような真剣でどこか甘い響きを伴った政紀の呼び声だった。
     音がしないようにソッと細めにドアを開けて中を覗き込むと、政紀が「娘」と並んでベッドに腰掛け、その華奢な肩を抱いている。
     「マサくん……」
     答える「娘」の声も甘くかすれていた。
     そのまま政紀は「娘」の身体を抱き寄せ、激しく唇を奪った。
     「んっ…んんっ……」
     彼の行為を受け入れるように、「娘」は政紀の背中に手を回す。
     政紀もまた「娘」の細い身体を強く抱きしめ、そのままふたりはベッドに倒れ込んだ。
     激しく口づけを交わしながら、もどかしげに「娘」の胸元を緩める政紀。
     露わになった胸元から、薄水色のブラに包まれた形のよい乳房がまろび出る。
     彼の指が巧みに下着をズラしていくその手つきから見て、どうやら初めて事に及んだわけではないらしい。
     露出した乳房の先端のピンク色の蕾を、政紀の指先が捕え、同時に彼の唇が情熱と欲望を込めて「娘」の首筋を這い回る。


     「あっ……ああっ…ンっ!」
     敏感な部位に彼のキスを受ける度、「娘」はビクビクッとて身を震わせ、唇から熱い喘ぎを漏らす。
     「恵美の身体、相変わらず感じやすいな」
     「やだ、もぅ、マサくんたら……いぢわるッ!」
     吐息混じりに彼に耳元で囁かれた「娘」は、恥ずかしそうなどこか拗ねたような応えを返す。その表情は、あたしの目から見ても魅惑的で愛らしかった。
     そのままキスと愛撫を続けながら、政紀は(少し拙いながらも)手早く「恵美」の服を脱がせていく。
     「恵美」がブラとお揃いの水色のショーツと紺色のニーソックスだけになる頃には、彼女の身体はどうしようもなく昂ぶり、快楽と期待にうち震えていた。
     それを彼も感じたのか、政紀は仰向けに寝そべる「恵美」の両足を開かせると、太腿の間に顔を近づける。
     「ああぁ……そ、そんな所……恥ずかしいよぅ」
     無論、この言葉は拒絶ではなく「もっとシて!」という意味だ。
     そのことは政紀も心得ているらしく、躊躇う素振りもなく、ショーツ越しに「恵美」の股の間の一番大事な部分を丹念に舐め上げる。
     「はぅ…ぅん……」
     ここからではよく見えないが、おそらく「恵美」のアソコは洪水のようにビチョビチョになっているだろう。「娘」の喘ぎや、白いシーツを掴む手の力のこもり方からも、それは容易に推測できた。


     「恵美、もうそろそろいいかな?」
     布越しのクンニリングをしばし止めた政紀の問いに、「恵美」は顔を真っ赤にしながらも、コクンと頷いた。
     政紀が「恵美」のショーツを下ろすのを見る前に、あたしは丁寧に扉を締めて「娘」の部屋から離れた。
     忍び足で1階の居間に降りて、気を落ちつけるために深呼吸を繰り返す。
     ほどなく、火照った顔や胸の動悸が収まる。
     思ったほどショックを受けていないことが、自分でもちょっと意外だった。
     本来なら、筆舌に尽くし難いほどの衝撃に打ちのめされていてもおかしくないはずだ──「恵美」が、元のあたしの身体が、あたしの知らない間に「処女」ではなくなっていたのだから。
     とは言え、最近のふたりの様子を見ている限り、熱愛中の恋人同士(バカップル)であることは明白だったので、こうなることは時間の問題ではあった。その意味で、これは十分予想できた事態だったと言える。
     また、あたし自身、いまの身体と立場、そして生活に、今やすっかり馴染んでいるせいか、「娘」が恋人に抱かれているのを、どこか微笑ましく感じているというのも一因だろう。
     「しかし……いまさらだけど、政紀が「恵美」の恋人とはねぇ」
     それでも、思わずポツリと呟いてしまう。
     あたしがあたし自身であった頃は、政紀は「気心の知れた幼馴染」であり、「男女の仲を意識せずに気軽に接することのできる男友達」だった。
     いい加減な性格のアイツの尻を叩くのは大概あたしの役目であり、同い年ながら「不甲斐無い弟分」的な目で見ていたものだ。それが、まさかこんな事になるとは……。
     あたしは、一月程前の出来事(アクシデント)を思い出していた。


     * * * 


     1カ月前、政紀の奴が「親父のお土産だぞ~」と言って何やら民芸品のようなものを我が家に持って来たのが、そもそもの事の発端だった。
     政紀のお父さん、木下泰男さんは、個人としては結構大きな規模の貿易商を営んでいて、海外出張に出かけることも多い。
     ちなみに、あたしのママは、その「木下商事」で庶務というか秘書みたいな仕事をして働いていたりする。もっとも、おじさんが出張中は書類整理以外あまり仕事がなく、午前中だけで仕事を終わらせて、午後は家にいることも多いみたいだけど。
     まぁ、それはともかく。
     政紀が持って来た、アフリカか南米かとにかくジャングルの未開部族をイメージさせるその民芸品──木彫りの像も、そういった海外出張中におじさんが買い込んだ品らしい。
     「なんでも、とある部族に伝わる「願い事がかなう神像」なんだとさ!」
     ニヤニヤ笑いながらくれた政紀自身は、そんなこと微塵も信じていないみたいだった。
     無論、その点はあたしも同じだ。いまどき「願い事がかなう」なんて曖昧な御利益を、こんな古ぼけた彫像を見て本気にする日本人は滅多にいないだろう。お人好しでちょっと天然気味なママでさえ、苦笑していたくらいだ。
     もっとも、その御利益云々は別にしても、なかなか細工が細かく、何より独特の雰囲気のある木像なので、リビングに飾るアンティークとしては悪くないかも。その点は、ママも同感だったらしく、その像は居間の飾り棚に置かれることになった。
     そして……その翌々日の土曜日の晩に、ソレが起こったのだ!


     * * * 


     その日、わたしは、晩御飯のあと、少し遅めのお茶会(と言える程、たいしたものではありませんけど)を娘の恵美と楽しんでいました。
     何の話から、そういう話題になったのか、確か最近あまり芳しくない娘の成績について少し注意したことが発端だったと思いますが、わたしと娘の間で、珍しくちょっとした言い争い……というか愚痴のこぼしあいになったのです。
     「あーあ、ママはいいなぁ。面倒くさい勉強とかしないで、泰男おじさんトコロで適当に書類整理とかしてれば、お金がもらえるんだもんね」
     ウチが父子家庭であることをわたしが気にしていることを知っている恵美は、普段はそんな無神経なことは決して言わないのですが、紅茶に入れたブランデーが少し多かったせいかもしれませんね。
     「あら、わたしに言わせれば、学生ほど気楽な立場はありませんよ?」
     「え~、そぉ? センセーはウルサイし、周りの男共はガキでバカだし、勉強はメンドイし、学校行事とかウザいし」
     「それもまた、若い頃だけの特権ですよ。そう言えば、恵美ちゃん、大学はどうするつもりかしら?」
     女手ひとりで育ててきた大事な娘です。できれば、ちゃんとした大学を出て、それなり教養と資格を身につけて欲しいのですけれど。
     もっともこれは、家庭の事情で大学に行きたくても行けなかったわたしのコンプレックスから来る感情かもしれませんね。
     「んー、まだ考えてないけどさ。あたし、高校出たら働こうかなぁ。ね、おじさんトコで雇ってくれないかな?」
     「こら、そんないい加減な気持ちでは、木下さんも雇ってくるワケないでしょ!」
     「うぅ、やっぱり? はぁ……泰男おじさんなら、そこいらのチャラい男共と違ってダンディでカッコいいし、上司にするのにサイコーなんだけど」
     6歳の頃に父親を事故で亡くしたせいか、娘は隣家の木下さんに「理想の父親像」を重ねているフシがあります。こういうのも「ファザコン」と言うのでしょうか? まぁ、確かに人格者ではありますが。


     「それなら、政紀くんはどうなの?」
     娘の幼馴染であり、わたしにとっても息子のような存在である隣家の少年の名前を試みに出してみます。
     ──わたし、平静を装えてますよね?
     「えー、まさのりィ? まぁ、周囲のアホどもに比べたら多少はマシかもしれないけどさぁ……まだまだガキだよ? いいトコ、あたしの子分、それか弟分ね」
     ほぼ予想通りの娘の答えを聞いて、内心ホッとしている自分が嫌になります。
     ──まさか娘も、自分の母親が息子みたいな年の少年に片思いしているなんて、想像もつかないでしょう。いえ、わたし自身、幼い頃から我が子のように可愛がってきた男の子に、こんな感情を抱くようになるとは、数年前は想像もつかなかったのですから。
     けれど、彼はあまりに若い頃の夫とよく似ていました……姿形がではなく、行動や心のありようが。
     誤解しないで欲しいのですが、わたしは何も亡夫の身代わりとして政紀くんを好きになったワケではありません。ただ、その無邪気で自由闊達、時にやや無謀な性格や言動が、俗な言い方ですが、わたしの「好みのタイプ」なのです。
     少女時代、箱入り娘だったわたしを「籠の鳥」状態から解き放ってくれた若き日の夫に心奪われ、駆け落ち同然に一緒になった時と同様に、わたしはこの種の男性に弱いのでしょう。
     無論、こんな内心は押し隠して、政紀くんにはずっと「幼馴染のお母さん」、あるいは「優しい母親代り」(彼も5年前に母親を病気で亡くしています)として接しているつもりです。
     ですが、もし彼に恋人でも出来たら……そう思うと、まだ見ぬその女性への嫉妬に胸が苦しくなります。大切な我が子さえ、その恋人最有力候補としてどこか警戒し、探りを入れているのですから。浅ましい自分が嫌になります。


     「あ~あ、社会人になったら、ちょっとはマシな男に出会う機会もあるのかなぁ」
     だからこそ、娘のそんな何気ない言葉に、反論してしまったのでしょう。
     「あら、わたしは、できることなら、もう一度高校生をやってみたいですよ」
     言ってしまってから、さすがに恥ずかしいことに気付いて、誤魔化すようにボトボトとブランデーを紅茶に垂らし、グイッとカップを飲み干します。
     「ふーーん、いいんじゃない? ママはすごく若く見えるし、現役でもじゅーぶんイケるって! ねーねー、あたしの制服とか着てみる?」
     「も、もう、恵美ちゃん、親をからかうものじゃありませんよ?」
     褒めてくれるのは嬉しいですが、わたしも既に36歳。確かに実年齢よりは若く見えると自負してはいますが、どんなに頑張ってもせいぜい20代半ばといったところでしょう。
     そんな女が高校生のカッコしてたら、イメクラかコスプレです。確かに、娘の高校の制服はわたしの現役時代と異なりシックで可愛らしいデザインなので、着てみたいという気持ちはゼロではありませんが……。
     「あたしとママが~、たちばとかこーかんできたらよかったのにねー……ヒック!」
     「! 恵美ちゃん、あなたまさか、ブランデーをそのままカップに注いで飲んだんじゃあ……」
     これ以上飲まさないよう娘の手からブランデーの小瓶を取り上げつつ、ふと、わたしの口からもポロリと本音が零れます。
     「でも、そうね。もし、そんなことができたら、よかったのにね」

     ──その願い、叶えて進ぜよう

     「え? 恵美ちゃん、何か言った?」
     「うーうん、べつにー。あはは、ママのオッパイ、おっきぃねー」
     こ、こら、いくら同性同士だからって、気軽にひとの胸揉む人がありますか!
     まったく……女の子の癖してお酒飲んだら「セクハラ上戸」ってのは、先が思いやられます。
     完全に酔っぱらってグニャグニャになった娘を、なんとか介抱してベッドに運んだのですが、わたしも結構酔っていたのでしょう。そのまま自分の部屋で眠りつきました。
     ──明りの消えた居間で、あの神像が満月の光を浴びて淡く輝いていることに気付かないままに。

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最終更新:2010年04月13日 02:46