薄汚れた夜空のもとで現時刻は我々の時刻で換算すると丑二つほど。草木がいびきをかく約30分前である。
紺の帽子に紺のコート、紺のマスク。歩く男は闇夜の空気(リズム)と区別がつかないほど静かで堂々としていた。
魔界327番地区オーデュポン通り、石造りの縦に長い豆腐(アパート)、その303号室の前へと立つ。
呼び鈴を鳴らす。しじまに金属音が響く。
残響。残滓。
その残響の中、室内で家主が招かざる客から遠ざかろうとする微かな音を男は認識していた。
「開けろ!DBIだ!」
男がそう叫ぶなりドアを蹴破り玄関へと侵入する。
寝室へと駆けると家主は窓に足をかけ飛び降りる寸前であった。
「止まれ!」
DBIから支給されている玩具(口径9ミリ装弾数8+1発)を5発ほど逃走希望者の両足へ後脛骨動脈損傷(う)った。
標的が窓からもんどりうって転げ落ちた先へ男も飛び降りて向かう。
石畳でできた道路で落下と出血の痛みに呻き、うずくまる標的に声をかける。
「灰色に赤の差し色か?反吐が出るセンスだな」
「…ッ のクソ犬がァ!」
言葉と共に反撃の銃弾が男へと放たれる。しかしながら、着弾前視認できない何か、おそらく魔術的な防壁であろう、に阻まれ止まる。
何事もなかったように標的へと近づき、粒子身錠をかける。実体化したプロトコルコードが相手を縛り、高強度の暗号で施錠する。
旧式の支給拳銃と共に使うのは不釣り合いな最先端(ハイテックハイ)な品であった。
男は連絡機を取り出し本部へとかける。
「B6だ、標的を確保した。回収してくれ」
「認証を」
無機質な声が返ってくる。
男はB6(メジャーシックスス)の名の通り長三和音に長6度の音を加えた和音を正確に喉からすばやく鳴らし応える。
「音声、声紋、波長認証が完了しました。お疲れさまB6」
――魔界捜査局(Devildom Bureau of Investigation)
魔界の法執行機関。テロ・スパイなど国家の安全保障に係る公安事件、政府の汚職に係る事件、複数の地区に渡る広域事件、
銀行強盗など莫大な被害額の強盗事件などの捜査を担当する。
逮捕権のみで起訴権をもたない。職員を18万人以上かかえ、主に魔界666区内で捜査を行う。
この男B6こと蒼ヰ 瑠(ブレイ ブル)が所属する「機関」であり、今日も任務は恙無く遂行されていた。
最終更新:2018年12月24日 02:28