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**西條華音@ビギナーズ王国様からのご依頼品 「ここに来るのも久しぶりね……」 ここは宰相府という国の春の園。今日はお友達の華音さんに呼ばれてここに来た。 最近このアイドレスというゲームをやってなかったのだけれど、やはり華音さんに会えるとなると嬉しくてついやってしまう。 前に会ったのは小夜さんの誕生日の時だったから、一カ月半ぶりだろうか。一人で会うのは初めてだから少し緊張するが、楽しみでもある。 早く来ないかなと思いつつ時間を確認する。待ち合わせまではもう少しあるようだ。 時間つぶしにと、待ち合わせ場所にある桜の木を見上げた。 相も変わらずここの桜は見事なものだ。思わず溜息が出てしまう。 どうやってこれほどの桜を維持しているのだろうか。 今度華音さんに聞いてみようかしら。あのことを聞けた後にでも…… 「未央さーん」 ふと、名前を呼ばれた気がしてそちらを向く。遠くから人影が見えた。 この声は……華音さんね! 華音さんはにこやかに笑いながら駆け寄ってきた。 「こんにちは未央さん」 華音さんは今日も可愛らしいお洋服で……少し羨ましいと思う。 私もああいう格好をしたら少しは可愛くなるのかしら…… ……はっ!そんな風にぼうっと考えていたら挨拶を忘れてしまった。 し、失礼にならないかしら? 「ここで会うのは初めて会った時以来ですね」 「そうでしたっけ?」 「ええ、ここで会ったんです」 初めて会った時と言うと……青がいた時ね。その時小夜さんとも会ったのだった。 ちょっとお茶をしただけで二人もお友達ができたのが嬉しかったのを、未だに覚えている。 懐かしいわ……と、懐かしんでばかりいても仕方ない。 今はまだ失礼になっていないけれど、挨拶を忘れたままでは失礼に当たる。 「ひさしぶりです。お元気でしたか?」 「ええ、元気にしてましたよ」 「そうですか。それはよかった」 そう、華音さんからは便りがなかったのでずっと心配していたのだ。 けれど、それそのものがよい知らせだったようだ。思わず笑みもこぼれた。 連られたのか華音さんも微笑んでくれて、えっと……と何かを切り出そうとしている。 何だろう?華音さんの発案はいつも素敵なものだから、少し楽しみにしましょう。 「いきなりですけど今日は未央さんに渡したいものがあったんです」 「?」 「たぶんいきなり渡されたらびっくりしてしまうものですが……」 「ええ。たしかに」 プレゼントというだけで、渡されるまでもなく今びっくりしているのですが。 しかし、渡したいもの?一体何だろうか。誕生日はもうとっくに過ぎているし、 何の記念日でもないはずだけど…… 「未央さんは、以前の未央さんの誕生日の時に私が渡したものを覚えていますか?」 「……小夜さんのならよく覚えていますけど…ええと」 確かあの時のプレゼントは……イヤリングとウェディングドレスだったような……、ま、まさか。 「だから、不公平だなーって」 「え、ああ、いえいえ、気にしないでください!ほんとに!」 「未央さんが気にしなくても私が気にしてしまうのですよ」 そ、そんなこと言われても……ど、どうしましょう。 いつも物をもらいっぱなしで華音さんに悪いし、何よりそんなドレスなんかをもらうなんて。 わ、私なんかに似合うわけが…… 「単純に未央さんも着たら綺麗なんだろうって思ったのもあるのですけどね」 ………………は! いけないいけない、私としたことが。 ち、ちょっとだけの想像で、隣にいる人の方に気合を入れてしまった…… 自爆です…… 「あ、あまり気にしないでください」 「あ……ごめんなさい、気にしないようにしますね」 あ、華音さんがそんなにしゅんとしなくても……ええと、私が言いたいのはそういうことではなくて 「お友達って、きっとプレゼントをあげたりするだけじゃないと、思うんで……」 そう、思うんですけど……あれ、これも何か違うような。ええっと、ああ、何て言えばいいのかしら。 嬉しいのは違いないのだけれどとても申し訳ないと言うか、私が何も用意できないのが悪いと言うか…… 駄目だ。上手く言葉か出てこない。語彙は多い方だと思っていたのに…… 「すみません……なんか悲しくなりました」 「えぇと、その、ごめんなさい……気持ちは分かります。ただ、物が手元にあれば、その時は楽しかったとか、そんな思い出をすぐに……と言うか、見た時に思い出せるかなって考えたんです」 華音さん……そう、華音さんも悪気がある訳ではない。 私が厚意を受け取るのを嫌がっているだけなのだ。 私が無碍にしたものならば私が替わりとなるものを提案しないと…… ええと、見ただけで思い出せる物と言えば……あれがあるかな? 「そういうのでしたら、そうだ、しゃ、写真でもどうでしょう……か」 ドレスとかに比べたら安上がりだし見劣りするような物だけど、アルバムを見るとやっぱり色々思い出せると思う。 ……けど、それが私だけだったらどうしよう。華音さんはそう思わないお人だったら出過ぎた提案になるし、何より今こんなことを考えていること自体失礼に…… 「あ、いいと思いますよ!私も以前国の人から記念写真を残さないかと言われたことがあるんです」 思考を巡らせている私の耳に華音さんの嬉しそうな声が届いた。 途端に頭のつかえがふっと取れた気がした。 よ、よかった……失礼にはならなかったみたい。 あ、あら?嫌だ、顔が……いや頭が熱い。そ、そんなに考えすぎたのかしら。 知恵熱が出るなんて……は、恥ずかしい。 慌てて手で顔を仰ぐ。これで少しでも涼しくなれば……あ!華音さんも扇いでくれてる。 ちょっと苦笑い気味と言うことは……恥ずかしい所を見せてしまった。 ああ、ご、ごめんなさいとすごく言いたい! でも言うと又繰り返しになってしまう。 聞けば華音さんがこうして私に会えるのは限られた時間だけらしい。 その限られた華音さんの貴重な時間だ。先に進まないと。 ええと、写真屋さんなら……確か青が舞さんへの土産にと寄っていたような。 「行きましょう。写真屋さんなら、前に見た気がするんです」 「本当ですか?せっかくだから綺麗に撮ってもらいましょうね」 「はいっ!確かこちらの方です」 そう言いつつおぼろげな記憶を頼りに歩き出す。おぼろげと言っても、要所要所で青が強烈に記憶に入り込んでいるので、どこを曲がるかとかはばっちりだ。 ああ、そこのちょっと枝の折れかけてる木の所を左です。ええ……青がちょっと……。……詳しくは聞かないでください。 「あははは……ああ、そうだ。撮ってもらう場所も決めないとですね。未央さんは春の園に好きな花はありますか?」 「桜が好きです。月並みですけど」 「桜か、いいですねー。桜は見栄えがしますからね。梅だと香りは残せませんし」 「ええ」 そう同意しつつ、周りに誰もいないことに気付いた。よし、あれを聞くには丁度よい。 かなり恥ずかしい話だけど、せっかくニ人きりなのだから活かさないと。 「ええと、それで、ひとつきいていいですか?」 「ええ、どうぞ?」 「私、あなたのこと何も知らないんです。びぎなーずってどんなところですか?」 途端、華音さんの足がピタッと止まった。そしてあちゃーと言わんばかりに天を仰ぐ。 勿論手は目を履っている。 あ……な、なにか失礼なことを聞いたのかしら? 「たしかに、あまり話してませんでしたね……あはは……スミマセン」 ああ!華音さんが落ち込んでしまった。 失礼ではなかったみたいだけれど、流石に言うのが遅かったのかしら? となると私も早く聞いた方がよかったわけだし…… 「あ、あの、いえ、私も聞こうとしませんでしたし」 「えーと、それじゃあ……お互いにちょっとだけ抜けていたということで」 下をちろっとだして、ちょっとばつが悪そうに華音さんが言う。 また謝り合いになるかと思っていたので、その提案にすこし調子を外された。 調子が外れて冷静にその言葉を考えると、今度はその言葉が面白く感じてきた。 抜けていない、なら分かるけど、どちらも抜けているというのはなかなかない。 思わず笑みがこぼれた。 「……ふふっ。そうですね、ではそれで」 「よかったぁ……えっと、それじゃあ簡単にですけど説明させていただきます」 「どうぞ。よろしくお願いします」 「ビギナーズは北国といって一年のほとんどが冬の国なんです。農業も酪農も盛んで自然がたっぷりのいいところですよ」 華音さんが説明を始める。北国と聞いてひとつだけピンときたことがあった。 びぎなーずの人達の肌の白さだ。 外人という訳ではないのに肌が白いものだからどうしたものかと思っていたが、なるほど、北国なら日に焼けることは少ない。 私も住んでみたら肌が白くなるのかしら?……こ、今度ほーむすてぃしてみようかしら。 「王国なので王様がいるんですが、今は勉学に専念されていて、その代わりに執政の里樹さんと摂政のamurさんが政をなさっているんです」 これには少しびっくりした。あのはれんちな魔法使いさんが偉い人だったとは。 人は見かけにはよらないとはこのことを言うのだろう。 私も修行が足りませんね…… 「特産物は乳製品、お酒、ブルスト……ソーセージのことです、それとエアバイクピケとハリセンとかがあります」 農業も酪農も豊かというところから想像はしていたが、おいしいものが多いのだと思った。 えあばいくと言うものがどういったものか分からないが、きっとすごいバイクに違いない。 ハリセンは……無視した方がいいと私にも分かった。 よし、びぎなーずのことは分かった。次は華音さんのことに、今日一番聞きたかったところに入らないと。 「と、ところでその……好きな人は?」 「好きな人ですか?」 失礼な質問かもしれないけど、実はこれがずっと知りたかったのだ。 初めて会ったときからずっと、華音さんは私や小夜さんの恋に構いっ放し。 それでいて自分のことを話してはくれなかった。 だけど、私で役に立つのならば、友達として華音さんの役に立ちたい。 だから、これだけはちゃんと聞かなくちゃいけない。 「いますよ。会ったことがないので憧れになりますけどね」 「どんなかたですかっ?」 手伝えるような人だといいのだけれど……いいえ、どんな人でもお助けしないと! 「私の主観では男らしいってことになってます。もっともバカザルなんて呼ばれ方もしているようですけどね」 「バカザル……ですか」 その瞬間、思考が停滞する、という現象を体感した。 同時に聞こえてくるうしゃしゃという幻聴。 …………げ、幻聴よ幻聴! まぁ、あの人はないだろうと思いつつも、似てるということで話題には出してみる。 「私の道場にも耳の大きな人はいましたね……おさるさんみたいな」 「へぇ……案外、私の好きな人と未央さんの道場の人って遠い親戚だったりするかもしれませんね」 「……はぁ。親戚、ですか。……そうですね、似てるのかもしれませんね」 華音さんが笑っている。 が、こちらは次第に膨れ上がる嫌な予感と必死に戦っていて笑う気にはなれなかった。 ごめんなさい華音さん……。私にも勝てないものがあるんです。 「私の知ってる子は佐久間っていいます。私の一こ下です。まぁ、剣では天才なんですけどね……」 それ以外が、と言いかけて、言えなかった。 言ったらすごい疲れる気がしたのは多分気のせいじゃないだろうから。 そんなことを考えていると、華音さんがなにやら黙っているのに気付いた。 汗もだらだら流れているし……どうしたんですか? 「えっとぉ……私の好きな人も佐久間です。はっきり言って本人な気がするのですが」 「……」 うしゃしゃ うしゃしゃしゃ うっしゃしゃしゃしゃ 頭の中にあの声がリフレインする。 こ、こんな短い間に思考の停滞を二度も体感するなんて。 いや、これは冗談だ。華音さんなりのびぎなーず・じょーくなのだ。 きっとそうに違いありません!きっとそうです! 「ものすごく悪い冗談の気が……」 と言いつつ、冗談だから笑わないと。あはは、あはは…… あれ?顔が上手く動かない……ちょ、ちょっとひきつっちゃったみたい。 「あの、剣以外だとどうなのでしょうか……」 こ、これも冗談の一環で、いいところがないから実は違うんですよ、ということでしょう。 ええ、そうに違いありません! 「自信過剰で、野心家で、体がすごく弱いです……あと女の子にもてたいらしくて誰にでも声をかけるんで、ちょっとおすすめは……」 「……それでも好きだと言ったらどうします?」 ここまできて私に返せる答えは、まずは沈黙だった。 そして考えた。 まず、自分が勝手な想像がしていたことを恥じて、反省した。 次に、ただ思い出した。 今まで華音さんにしてもらったこと、話したこと、勇気付けられたこと。 ものすごくたくさんのものを華音さんにもらって、がんばってと言ってもらったこと。 なんだ、答えは至極簡単なものではないか。 ただ一言こういえばいいのだ。 「応援しますとも」 華音さんの表情がぱぁっと明るくなった。 やはり、正解だったようだ。 「ありがとうございます!私も、未央さんのことを応援してますよ」 「私も、人からはやめろって人、好きになりましたし!」 「あ、言う人の気持ちがちょっとだけ分かります」 ええ。私も、いろんなことがようやく分かった気がします。 今日初めて、心から笑えたような、そんな気持ちになることができたから……。 あ、もうそろそろ写真屋さんのはず。 「あ、そこの角を曲がると……」 「あ、写真屋さんですね。開いてるでしょうか?」 「開いてる……みたいですね。よかったぁ」 早速二人で入店した。 前来たときは青の付き添いであまり見なかったのだが、どうやら貸衣装もあるらしい。 袴で来たけれどやはり、おいてある振袖の方がかわいらしいし、桜には合うだろう。 ここで振袖を貸してもらうのがいいですね。 「未央さん、桜のそばで撮ってもらいましょう!と、衣装は着替えますか?」 「はいっ」 「それじゃあ、着付けが終わったら、また」 「ええ」 そういって一度華音さんとは別れた。 一体どんな振袖になさるのだろう。今から楽しみでしょうがない。 っと、自分の分も選ばないと…… /*/ 「華音さん……綺麗です!」 「そ、そんな……未央さんこそ素敵ですよ?」 「じゃあ……」 「「二人とも素敵ということで」」 そう言って、二人顔を見合わせて笑いあった。 華音さんは本当に綺麗になった。 着替えが終わって華音さんが出てきたとき、思わずため息をついてしまったくらい。 華音さんは薄い緑色の、青い桜と百合が刺繍されているものを選んでいた。 帯が黒色なので全体に落ち着いているけれど、華音さんの髪の色とあいまってとても綺麗…… 本当に素敵な格好で、羨ましい! 私は赤を基調とした中にピンクの花弁が入っている、華やかな一着を選んだ。 振袖の下の方に行くにつれて黒のグラデーションが入っていて、少し大人の感じも出ている。 金の帯で全体をまとめて、バランスよくまとまっている。 ……とは着付けをしてくれた人の談。 ちょっと自信はなかったけど、華音さんが素敵と言ってくれたから少し自信は持てた。 よし、後は写真を撮るだけだ。 「えっと、それじゃあ撮ってもらいましょうか」 「ええ!」 華音さんがカメラマンの方に桜のあるところで、とお願いしに行く。 温和そうなおじさんのカメラマンさんは、ニッコリとうなずくと裏口の方へ案内してくれた。 表でなくてもいいのかと思いつつ、付いていったが、これが正解だった。 「うわぁ……」 「素敵……」 そこには、この春の園で見たどの桜よりも立派な桜が咲き乱れていた。 こういうこともあるからここに店を構えたんだと、おじさんが後で教えてくれた。 後で、だったのはきっと、私たちみたいに圧倒されてたら頭に入らないからだろう。 「はい、撮るよー。そこの幹のところに並んでごらん」 おじさんの声を聞いて、はっと目的を思い出した。 「か、華音さんそこですって」 「う、うん!」 急かされたわけではないけれど、華音さんと二人で慌てて位置についた。 きっと桜に圧倒されすぎて、緊張してしまったのだろう。 その時おじさんがちょっと変な顔をして、すぐに笑顔になったのに気付いた。 だけどそれが、並ぶのではなく寄り添っていたことに対するものだとは、写真を受け取るまで気付かなかったけれど。 /*/ 現像された写真を受け取ってお店を後にしたところで、華音さんがあの、と口を開いた。 「未央さん、お願いがあるのですがいいですか?」 「はい?何でも言ってください!」 華音さんのお願いだったら何でも聞きますよ? それくらいの覚悟で華音さんの次の言葉を待った。 「佐久間さんに今日の写真を見せて、伝言を伝えてほしいんです。いつになるか分かりませんが、いずれ会いに行きますって」 前言撤回。 いや、応援するというところまでは撤回しないけれども、こんなにすぐ覚悟がくずれるとは。 わ、渡すことにはそれほど抵抗はないものの…… こ、こんなにかわいらしい華音さんの写真を渡してもいいのだろうか…… うんうんうなって考えて、それでもどうしても答えが出ない。 これは、もう一度確認すべきですね。 「い、いいんですか?」 「今は努力します、としか言えませんけどね」 首を少しかしげながら、華音さんは苦笑いでそう言った。 佐久間君を知っている私には、やはりかなりの不安が残る。 でも、華音さんがそれを望んでいるのなら…… 私はそれを応援しなくては。 佐久間君のことは……まぁ、なんとかなるでしょう。 だから、 「うまくいきますよ」 ただうなずいて、それだけを告げることにした。 本当にそうなって欲しいから、心からの笑顔を沿えて。 #ここから先はおまけです。ギャグの多用にご注意ください。 /*/ 壬生屋未央は困っていた。 いや、原因は何がというほど難しいものではないのだが、まぁ、困っていた。 迷っている割りには考えていることはただ一つ。 『安請け合いをするものではない』 それだけが彼女の頭の中でリフレインしていた。 彼女が手にしているのは桜舞い散る美しい一瞬を捉えた一枚の写真。 二人の少女が笑うその写真を見て、そして、彼女はこう呟くのである。 「華音さん……やっぱりできません!」 時はこの写真を撮って一週間後、憩いの時間である昼休み。 場所は小笠原、第211天文観測班の住処である学校。 敵は、バカザル、佐久間誠司その人。 勝利条件は写真を渡して伝言を伝える。 敗北条件は写真を渡して伝言を伝える。 どう見ても困難としか思えない戦闘を、彼女は繰り広げていた。 【小笠原写真攻防戦~渡したくない私~】 写真に写っているのは、彼女、壬生屋未央その人と、あいどれすで知り合った西條華音である。 この前二人で会ったゲームの後、こちらでも見れるようにとプリントアウトしたものだ。 壬生屋はこれを見るたびにその時のことを思い出しては笑顔になっているのだが、 ずばり!それこそが悩みの種でもあった。 写真そのものもそうなのだが、何より彼女を悩ませているのはその時の伝言である。 華音さんはこれを見せていつか会いに行くと伝えてくれ、と言っていたが…… がしゃこーん 「うしゃしゃしゃ、ひっかかったなバカめ!」 「こんのバカザルがー!」 怒り心頭の篠山が佐久間を追い回している。 さんだぁなんとかかんとかあたっくとかいうものを佐久間が仕掛けたらしい。 得意のラリアットで仕留めようとする篠山だが、紙一重でするりするりと避ける佐久間。 道場に通い出してから剣に関しては天賦のものがあると思ってはいたが、こう悪用するとは。 アレに見せて、伝言を伝える? ……ダメだ。アレにこれを見せてはダメだ。 壬生屋の中に猛烈にそんな感情が生まれつつあった。 華音さんとの約束は守りたい。しかし、しかしだ。 仮にもバカザルと呼ばれる、第211天文観測班にとってのモンキーであるあのお調子者に、 こんなに素敵に写っている華音さんを見せてもいいものだろうか? 否、断じて否である。 言うなれば佐久間が写真を見ることは承諾しないぃぃ! 「あの……」 この決定には精神的動揺のミスは無い! 「瀬戸口君……」 この覚悟によって進むべき道は照らされて…… 「瀬戸口君……何をさっきから言っているんですか」 見ちゃいけないものを見た表情の壬生屋がそこに見えた。 いや、俺は友情と正義の間でせめぎ合う乙女の心をヴィヴィッドに表現しようとだな、 「ヴィヴィッド……、絶対マガデーの漫画の引用で?」 おお、よく分かったな。週間トレンディもいいがマガデーもなかなか面白くてな。 瀧川の気持ちも少しは分かるようになった所だ。 「分からないでください!」 そう目くじらを立てるなよ。写真みたく笑っていた方がいいぞ? 「……言い遺すことはそれだけですか?」 調子に乗りました、すみません。鬼しばきだけは勘弁してくれ。 「……はぁ、それより、なんでそんなことしてるんですか」 いや、筆者いわくサービスだそうでな、俺とお前さんとの掛け合いが好きな物好きがいるそうだ。 まったく、ふざけた話だとは思わないか。 「……筆者って、誰ですか?」 おっと、気にするな、独り言だ。 ともかくだ、俺は今回お前さんのアシスト役としてここにいるらしい。 これだけは本当だからな、頼りたければ頼ってくれ。 というか、もう相談したくてうずうずしてるんじゃないか? 「し、してません!…………話は、聞いてもらいたいですけど」 OK。聞こうじゃないか。まぁ、大体話は分かってるけどな。 そして、お前さんもどうすればいいかは分かってるんだろう? 「えぇ……でも……」 そう言ってちらりと騒ぎの方を見る壬生屋。騒ぎに松尾まで入って大騒動となっている。 あー……俺もアドバイザーとしてここにいる訳だが、確かにこれは自信を無くす。 というか、俺がこの立場なら絶対に渡さないな。レディを一人不幸の海に落とすようなものだ。 「でしょう?」 だがな、壬生屋。約束は約束だ。 「……はい」 その華音ちゃんとやらとお前が約束したからには、結果はどうあれそれをするべきだ。 それを破ることは、どんなことかは分かるよな。 「ええ……痛いほどに」 よし。……いいか、恋であろうと愛は愛だ。ラヴだなラヴ。 「わざわざ言い直さなくても分かりますっ」 いや、待て、がなるなって。良い話の途中なんだから。 人のラヴに口を出すことは誰にもできやしない。できるのはそれをそっと助けることだけだ。 「……なんだか、問題を先送りにしただけのような気がするんですけど……」 気にするな。そこは華音ちゃんのラヴの問題だ。 彼女のラヴを信じるのも、友の大切な役目だ。 「なんだか、腑に落ちないところがない訳ではないですけど……分かりました。瀬戸口君を信じます」 よーし、いい子だ。それじゃあ後は突撃のタイミングだが…… 「……少なくとも、騒ぎが収まらないと……?」 ん?どうした壬生屋。そんなに固まっ………… づがん! その瞬間。教室が凍った。 バカザル達も、もみ合ったその形のままで静止した、いや、静止させられた。 体の動きは凍りつつも、全員の視線はある人物に向けられている。 「あら、ヤダ。カッター落としちゃった」 うふふと笑いながら、明らかにナイフを机に『突き立てた』原さんがそこにいた。 絶対貫通しているはずのそれをやすやすと引き抜くと、まるでノートをしまうように鞄にそれを収める。 が、半分ほどでその手を止めて、そういえばと呟く。 「今日の夜ご飯、『お肉』が足りないらしいのよねぇ」 ビクゥッ! そんな音を立てたかのように全員が一瞬震えた。というかそんな音が俺には聞こえた。 周囲の反応などまったく意に介さず、原さんはくるっと教室を見回し、 ピタッとバカザルの塊でその視線を止めた。 そして、笑った。まるで女神がそうするかのように、ニッコリと。 「『誰か』、仕入れてきてくれるかしら?」 「「はっ!行って参ります!」」 騒ぎの中心だった佐久間を含めて、その近くにいた人間全員がバタバタと教室を後にする。 文字通り嵐が去り、教室には静けさが戻った。 痛いほどの静けさが。 ……ま、まぁ、これで戻ってきたあたりに話しかけたら良いんじゃないか。 「そ、そうですね」 とりあえず誰も肉片にならなかった事と、夕飯が確実に豪華になることだけは確実だ。 それが嬉しくて笑っているはずなのに、なぜか空笑いになるのを自分では止めることはできなかった。 原さんは健在である。何がというわけではないが、健在だ。 その後、戻ってきた佐久間に写真を見せたところ 『俺のモテ期きたーうっしゃっしゃー!』 と前以上にうるさくなって、壬生屋の鬼しばきの餌食になったのは言うまでもない。 ああ、頑張ってくれ華音ちゃん。小笠原に静けさをもたらしてくれ。 誰かがカッターの錆になる前に。 ---- **作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) #comment(,disableurl) ---- ご発注元:西條華音@ビギナーズ王国 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=1217&type=1178&space=15&no= 製作:里樹澪@ビギナーズ王国 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1559;id=UP_ita 引渡し日: ---- |counter:|&counter()| |yesterday:|&counter(yesterday)|
**西條華音@ビギナーズ王国様からのご依頼品 「ここに来るのも久しぶりね……」 ここは宰相府という国の春の園。今日はお友達の華音さんに呼ばれてここに来た。 最近このアイドレスというゲームをやってなかったのだけれど、やはり華音さんに会えるとなると嬉しくてついやってしまう。 前に会ったのは小夜さんの誕生日の時だったから、一カ月半ぶりだろうか。一人で会うのは初めてだから少し緊張するが、楽しみでもある。 早く来ないかなと思いつつ時間を確認する。待ち合わせまではもう少しあるようだ。 時間つぶしにと、待ち合わせ場所にある桜の木を見上げた。 相も変わらずここの桜は見事なものだ。思わず溜息が出てしまう。 どうやってこれほどの桜を維持しているのだろうか。 今度華音さんに聞いてみようかしら。あのことを聞けた後にでも…… 「未央さーん」 ふと、名前を呼ばれた気がしてそちらを向く。遠くから人影が見えた。 この声は……華音さんね! 華音さんはにこやかに笑いながら駆け寄ってきた。 「こんにちは未央さん」 華音さんは今日も可愛らしいお洋服で……少し羨ましいと思う。 私もああいう格好をしたら少しは可愛くなるのかしら…… ……はっ!そんな風にぼうっと考えていたら挨拶を忘れてしまった。 し、失礼にならないかしら? 「ここで会うのは初めて会った時以来ですね」 「そうでしたっけ?」 「ええ、ここで会ったんです」 初めて会った時と言うと……青がいた時ね。その時小夜さんとも会ったのだった。 ちょっとお茶をしただけで二人もお友達ができたのが嬉しかったのを、未だに覚えている。 懐かしいわ……と、懐かしんでばかりいても仕方ない。 今はまだ失礼になっていないけれど、挨拶を忘れたままでは失礼に当たる。 「ひさしぶりです。お元気でしたか?」 「ええ、元気にしてましたよ」 「そうですか。それはよかった」 そう、華音さんからは便りがなかったのでずっと心配していたのだ。 けれど、それそのものがよい知らせだったようだ。思わず笑みもこぼれた。 連られたのか華音さんも微笑んでくれて、えっと……と何かを切り出そうとしている。 何だろう?華音さんの発案はいつも素敵なものだから、少し楽しみにしましょう。 「いきなりですけど今日は未央さんに渡したいものがあったんです」 「?」 「たぶんいきなり渡されたらびっくりしてしまうものですが……」 「ええ。たしかに」 プレゼントというだけで、渡されるまでもなく今びっくりしているのですが。 しかし、渡したいもの?一体何だろうか。誕生日はもうとっくに過ぎているし、 何の記念日でもないはずだけど…… 「未央さんは、以前の未央さんの誕生日の時に私が渡したものを覚えていますか?」 「……小夜さんのならよく覚えていますけど…ええと」 確かあの時のプレゼントは……イヤリングとウェディングドレスだったような……、ま、まさか。 「だから、不公平だなーって」 「え、ああ、いえいえ、気にしないでください!ほんとに!」 「未央さんが気にしなくても私が気にしてしまうのですよ」 そ、そんなこと言われても……ど、どうしましょう。 いつも物をもらいっぱなしで華音さんに悪いし、何よりそんなドレスなんかをもらうなんて。 わ、私なんかに似合うわけが…… 「単純に未央さんも着たら綺麗なんだろうって思ったのもあるのですけどね」 ………………は! いけないいけない、私としたことが。 ち、ちょっとだけの想像で、隣にいる人の方に気合を入れてしまった…… 自爆です…… 「あ、あまり気にしないでください」 「あ……ごめんなさい、気にしないようにしますね」 あ、華音さんがそんなにしゅんとしなくても……ええと、私が言いたいのはそういうことではなくて 「お友達って、きっとプレゼントをあげたりするだけじゃないと、思うんで……」 そう、思うんですけど……あれ、これも何か違うような。ええっと、ああ、何て言えばいいのかしら。 嬉しいのは違いないのだけれどとても申し訳ないと言うか、私が何も用意できないのが悪いと言うか…… 駄目だ。上手く言葉か出てこない。語彙は多い方だと思っていたのに…… 「すみません……なんか悲しくなりました」 「えぇと、その、ごめんなさい……気持ちは分かります。ただ、物が手元にあれば、その時は楽しかったとか、そんな思い出をすぐに……と言うか、見た時に思い出せるかなって考えたんです」 華音さん……そう、華音さんも悪気がある訳ではない。 私が厚意を受け取るのを嫌がっているだけなのだ。 私が無碍にしたものならば私が替わりとなるものを提案しないと…… ええと、見ただけで思い出せる物と言えば……あれがあるかな? 「そういうのでしたら、そうだ、しゃ、写真でもどうでしょう……か」 ドレスとかに比べたら安上がりだし見劣りするような物だけど、アルバムを見るとやっぱり色々思い出せると思う。 ……けど、それが私だけだったらどうしよう。華音さんはそう思わないお人だったら出過ぎた提案になるし、何より今こんなことを考えていること自体失礼に…… 「あ、いいと思いますよ!私も以前国の人から記念写真を残さないかと言われたことがあるんです」 思考を巡らせている私の耳に華音さんの嬉しそうな声が届いた。 途端に頭のつかえがふっと取れた気がした。 よ、よかった……失礼にはならなかったみたい。 あ、あら?嫌だ、顔が……いや頭が熱い。そ、そんなに考えすぎたのかしら。 知恵熱が出るなんて……は、恥ずかしい。 慌てて手で顔を仰ぐ。これで少しでも涼しくなれば……あ!華音さんも扇いでくれてる。 ちょっと苦笑い気味と言うことは……恥ずかしい所を見せてしまった。 ああ、ご、ごめんなさいとすごく言いたい! でも言うと又繰り返しになってしまう。 聞けば華音さんがこうして私に会えるのは限られた時間だけらしい。 その限られた華音さんの貴重な時間だ。先に進まないと。 ええと、写真屋さんなら……確か青が舞さんへの土産にと寄っていたような。 「行きましょう。写真屋さんなら、前に見た気がするんです」 「本当ですか?せっかくだから綺麗に撮ってもらいましょうね」 「はいっ!確かこちらの方です」 そう言いつつおぼろげな記憶を頼りに歩き出す。おぼろげと言っても、要所要所で青が強烈に記憶に入り込んでいるので、どこを曲がるかとかはばっちりだ。 ああ、そこのちょっと枝の折れかけてる木の所を左です。ええ……青がちょっと……。……詳しくは聞かないでください。 「あははは……ああ、そうだ。撮ってもらう場所も決めないとですね。未央さんは春の園に好きな花はありますか?」 「桜が好きです。月並みですけど」 「桜か、いいですねー。桜は見栄えがしますからね。梅だと香りは残せませんし」 「ええ」 そう同意しつつ、周りに誰もいないことに気付いた。よし、あれを聞くには丁度よい。 かなり恥ずかしい話だけど、せっかくニ人きりなのだから活かさないと。 「ええと、それで、ひとつきいていいですか?」 「ええ、どうぞ?」 「私、あなたのこと何も知らないんです。びぎなーずってどんなところですか?」 途端、華音さんの足がピタッと止まった。そしてあちゃーと言わんばかりに天を仰ぐ。 勿論手は目を履っている。 あ……な、なにか失礼なことを聞いたのかしら? 「たしかに、あまり話してませんでしたね……あはは……スミマセン」 ああ!華音さんが落ち込んでしまった。 失礼ではなかったみたいだけれど、流石に言うのが遅かったのかしら? となると私も早く聞いた方がよかったわけだし…… 「あ、あの、いえ、私も聞こうとしませんでしたし」 「えーと、それじゃあ……お互いにちょっとだけ抜けていたということで」 下をちろっとだして、ちょっとばつが悪そうに華音さんが言う。 また謝り合いになるかと思っていたので、その提案にすこし調子を外された。 調子が外れて冷静にその言葉を考えると、今度はその言葉が面白く感じてきた。 抜けていない、なら分かるけど、どちらも抜けているというのはなかなかない。 思わず笑みがこぼれた。 「……ふふっ。そうですね、ではそれで」 「よかったぁ……えっと、それじゃあ簡単にですけど説明させていただきます」 「どうぞ。よろしくお願いします」 「ビギナーズは北国といって一年のほとんどが冬の国なんです。農業も酪農も盛んで自然がたっぷりのいいところですよ」 華音さんが説明を始める。北国と聞いてひとつだけピンときたことがあった。 びぎなーずの人達の肌の白さだ。 外人という訳ではないのに肌が白いものだからどうしたものかと思っていたが、なるほど、北国なら日に焼けることは少ない。 私も住んでみたら肌が白くなるのかしら?……こ、今度ほーむすてぃしてみようかしら。 「王国なので王様がいるんですが、今は勉学に専念されていて、その代わりに執政の里樹さんと摂政のamurさんが政をなさっているんです」 これには少しびっくりした。あのはれんちな魔法使いさんが偉い人だったとは。 人は見かけにはよらないとはこのことを言うのだろう。 私も修行が足りませんね…… 「特産物は乳製品、お酒、ブルスト……ソーセージのことです、それとエアバイクピケとハリセンとかがあります」 農業も酪農も豊かというところから想像はしていたが、おいしいものが多いのだと思った。 えあばいくと言うものがどういったものか分からないが、きっとすごいバイクに違いない。 ハリセンは……無視した方がいいと私にも分かった。 よし、びぎなーずのことは分かった。次は華音さんのことに、今日一番聞きたかったところに入らないと。 「と、ところでその……好きな人は?」 「好きな人ですか?」 失礼な質問かもしれないけど、実はこれがずっと知りたかったのだ。 初めて会ったときからずっと、華音さんは私や小夜さんの恋に構いっ放し。 それでいて自分のことを話してはくれなかった。 だけど、私で役に立つのならば、友達として華音さんの役に立ちたい。 だから、これだけはちゃんと聞かなくちゃいけない。 「いますよ。会ったことがないので憧れになりますけどね」 「どんなかたですかっ?」 手伝えるような人だといいのだけれど……いいえ、どんな人でもお助けしないと! 「私の主観では男らしいってことになってます。もっともバカザルなんて呼ばれ方もしているようですけどね」 「バカザル……ですか」 その瞬間、思考が停滞する、という現象を体感した。 同時に聞こえてくるうしゃしゃという幻聴。 …………げ、幻聴よ幻聴! まぁ、あの人はないだろうと思いつつも、似てるということで話題には出してみる。 「私の道場にも耳の大きな人はいましたね……おさるさんみたいな」 「へぇ……案外、私の好きな人と未央さんの道場の人って遠い親戚だったりするかもしれませんね」 「……はぁ。親戚、ですか。……そうですね、似てるのかもしれませんね」 華音さんが笑っている。 が、こちらは次第に膨れ上がる嫌な予感と必死に戦っていて笑う気にはなれなかった。 ごめんなさい華音さん……。私にも勝てないものがあるんです。 「私の知ってる子は佐久間っていいます。私の一こ下です。まぁ、剣では天才なんですけどね……」 それ以外が、と言いかけて、言えなかった。 言ったらすごい疲れる気がしたのは多分気のせいじゃないだろうから。 そんなことを考えていると、華音さんがなにやら黙っているのに気付いた。 汗もだらだら流れているし……どうしたんですか? 「えっとぉ……私の好きな人も佐久間です。はっきり言って本人な気がするのですが」 「……」 うしゃしゃ うしゃしゃしゃ うっしゃしゃしゃしゃ 頭の中にあの声がリフレインする。 こ、こんな短い間に思考の停滞を二度も体感するなんて。 いや、これは冗談だ。華音さんなりのびぎなーず・じょーくなのだ。 きっとそうに違いありません!きっとそうです! 「ものすごく悪い冗談の気が……」 と言いつつ、冗談だから笑わないと。あはは、あはは…… あれ?顔が上手く動かない……ちょ、ちょっとひきつっちゃったみたい。 「あの、剣以外だとどうなのでしょうか……」 こ、これも冗談の一環で、いいところがないから実は違うんですよ、ということでしょう。 ええ、そうに違いありません! 「自信過剰で、野心家で、体がすごく弱いです……あと女の子にもてたいらしくて誰にでも声をかけるんで、ちょっとおすすめは……」 「……それでも好きだと言ったらどうします?」 ここまできて私に返せる答えは、まずは沈黙だった。 そして考えた。 まず、自分が勝手な想像がしていたことを恥じて、反省した。 次に、ただ思い出した。 今まで華音さんにしてもらったこと、話したこと、勇気付けられたこと。 ものすごくたくさんのものを華音さんにもらって、がんばってと言ってもらったこと。 なんだ、答えは至極簡単なものではないか。 ただ一言こういえばいいのだ。 「応援しますとも」 華音さんの表情がぱぁっと明るくなった。 やはり、正解だったようだ。 「ありがとうございます!私も、未央さんのことを応援してますよ」 「私も、人からはやめろって人、好きになりましたし!」 「あ、言う人の気持ちがちょっとだけ分かります」 ええ。私も、いろんなことがようやく分かった気がします。 今日初めて、心から笑えたような、そんな気持ちになることができたから……。 あ、もうそろそろ写真屋さんのはず。 「あ、そこの角を曲がると……」 「あ、写真屋さんですね。開いてるでしょうか?」 「開いてる……みたいですね。よかったぁ」 早速二人で入店した。 前来たときは青の付き添いであまり見なかったのだが、どうやら貸衣装もあるらしい。 袴で来たけれどやはり、おいてある振袖の方がかわいらしいし、桜には合うだろう。 ここで振袖を貸してもらうのがいいですね。 「未央さん、桜のそばで撮ってもらいましょう!と、衣装は着替えますか?」 「はいっ」 「それじゃあ、着付けが終わったら、また」 「ええ」 そういって一度華音さんとは別れた。 一体どんな振袖になさるのだろう。今から楽しみでしょうがない。 っと、自分の分も選ばないと…… /*/ 「華音さん……綺麗です!」 「そ、そんな……未央さんこそ素敵ですよ?」 「じゃあ……」 「「二人とも素敵ということで」」 そう言って、二人顔を見合わせて笑いあった。 華音さんは本当に綺麗になった。 着替えが終わって華音さんが出てきたとき、思わずため息をついてしまったくらい。 華音さんは薄い緑色の、青い桜と百合が刺繍されているものを選んでいた。 帯が黒色なので全体に落ち着いているけれど、華音さんの髪の色とあいまってとても綺麗…… 本当に素敵な格好で、羨ましい! 私は赤を基調とした中にピンクの花弁が入っている、華やかな一着を選んだ。 振袖の下の方に行くにつれて黒のグラデーションが入っていて、少し大人の感じも出ている。 金の帯で全体をまとめて、バランスよくまとまっている。 ……とは着付けをしてくれた人の談。 ちょっと自信はなかったけど、華音さんが素敵と言ってくれたから少し自信は持てた。 よし、後は写真を撮るだけだ。 「えっと、それじゃあ撮ってもらいましょうか」 「ええ!」 華音さんがカメラマンの方に桜のあるところで、とお願いしに行く。 温和そうなおじさんのカメラマンさんは、ニッコリとうなずくと裏口の方へ案内してくれた。 表でなくてもいいのかと思いつつ、付いていったが、これが正解だった。 「うわぁ……」 「素敵……」 そこには、この春の園で見たどの桜よりも立派な桜が咲き乱れていた。 こういうこともあるからここに店を構えたんだと、おじさんが後で教えてくれた。 後で、だったのはきっと、私たちみたいに圧倒されてたら頭に入らないからだろう。 「はい、撮るよー。そこの幹のところに並んでごらん」 おじさんの声を聞いて、はっと目的を思い出した。 「か、華音さんそこですって」 「う、うん!」 急かされたわけではないけれど、華音さんと二人で慌てて位置についた。 きっと桜に圧倒されすぎて、緊張してしまったのだろう。 その時おじさんがちょっと変な顔をして、すぐに笑顔になったのに気付いた。 だけどそれが、並ぶのではなく寄り添っていたことに対するものだとは、写真を受け取るまで気付かなかったけれど。 /*/ 現像された写真を受け取ってお店を後にしたところで、華音さんがあの、と口を開いた。 「未央さん、お願いがあるのですがいいですか?」 「はい?何でも言ってください!」 華音さんのお願いだったら何でも聞きますよ? それくらいの覚悟で華音さんの次の言葉を待った。 「佐久間さんに今日の写真を見せて、伝言を伝えてほしいんです。いつになるか分かりませんが、いずれ会いに行きますって」 前言撤回。 いや、応援するというところまでは撤回しないけれども、こんなにすぐ覚悟がくずれるとは。 わ、渡すことにはそれほど抵抗はないものの…… こ、こんなにかわいらしい華音さんの写真を渡してもいいのだろうか…… うんうんうなって考えて、それでもどうしても答えが出ない。 これは、もう一度確認すべきですね。 「い、いいんですか?」 「今は努力します、としか言えませんけどね」 首を少しかしげながら、華音さんは苦笑いでそう言った。 佐久間君を知っている私には、やはりかなりの不安が残る。 でも、華音さんがそれを望んでいるのなら…… 私はそれを応援しなくては。 佐久間君のことは……まぁ、なんとかなるでしょう。 だから、 「うまくいきますよ」 ただうなずいて、それだけを告げることにした。 本当にそうなって欲しいから、心からの笑顔を沿えて。 #ここから先はおまけです。ギャグの多用にご注意ください。 /*/ 壬生屋未央は困っていた。 いや、原因は何がというほど難しいものではないのだが、まぁ、困っていた。 迷っている割りには考えていることはただ一つ。 『安請け合いをするものではない』 それだけが彼女の頭の中でリフレインしていた。 彼女が手にしているのは桜舞い散る美しい一瞬を捉えた一枚の写真。 二人の少女が笑うその写真を見て、そして、彼女はこう呟くのである。 「華音さん……やっぱりできません!」 時はこの写真を撮って一週間後、憩いの時間である昼休み。 場所は小笠原、第211天文観測班の住処である学校。 敵は、バカザル、佐久間誠司その人。 勝利条件は写真を渡して伝言を伝える。 敗北条件は写真を渡して伝言を伝える。 どう見ても困難としか思えない戦闘を、彼女は繰り広げていた。 【小笠原写真攻防戦~渡したくない私~】 写真に写っているのは、彼女、壬生屋未央その人と、あいどれすで知り合った西條華音である。 この前二人で会ったゲームの後、こちらでも見れるようにとプリントアウトしたものだ。 壬生屋はこれを見るたびにその時のことを思い出しては笑顔になっているのだが、 ずばり!それこそが悩みの種でもあった。 写真そのものもそうなのだが、何より彼女を悩ませているのはその時の伝言である。 華音さんはこれを見せていつか会いに行くと伝えてくれ、と言っていたが…… がしゃこーん 「うしゃしゃしゃ、ひっかかったなバカめ!」 「こんのバカザルがー!」 怒り心頭の篠山が佐久間を追い回している。 さんだぁなんとかかんとかあたっくとかいうものを佐久間が仕掛けたらしい。 得意のラリアットで仕留めようとする篠山だが、紙一重でするりするりと避ける佐久間。 道場に通い出してから剣に関しては天賦のものがあると思ってはいたが、こう悪用するとは。 アレに見せて、伝言を伝える? ……ダメだ。アレにこれを見せてはダメだ。 壬生屋の中に猛烈にそんな感情が生まれつつあった。 華音さんとの約束は守りたい。しかし、しかしだ。 仮にもバカザルと呼ばれる、第211天文観測班にとってのモンキーであるあのお調子者に、 こんなに素敵に写っている華音さんを見せてもいいものだろうか? 否、断じて否である。 言うなれば佐久間が写真を見ることは承諾しないぃぃ! 「あの……」 この決定には精神的動揺のミスは無い! 「瀬戸口君……」 この覚悟によって進むべき道は照らされて…… 「瀬戸口君……何をさっきから言っているんですか」 見ちゃいけないものを見た表情の壬生屋がそこに見えた。 いや、俺は友情と正義の間でせめぎ合う乙女の心をヴィヴィッドに表現しようとだな、 「ヴィヴィッド……、絶対マガデーの漫画の引用で?」 おお、よく分かったな。週間トレンディもいいがマガデーもなかなか面白くてな。 瀧川の気持ちも少しは分かるようになった所だ。 「分からないでください!」 そう目くじらを立てるなよ。写真みたく笑っていた方がいいぞ? 「……言い遺すことはそれだけですか?」 調子に乗りました、すみません。鬼しばきだけは勘弁してくれ。 「……はぁ、それより、なんでそんなことしてるんですか」 いや、筆者いわくサービスだそうでな、俺とお前さんとの掛け合いが好きな物好きがいるそうだ。 まったく、ふざけた話だとは思わないか。 「……筆者って、誰ですか?」 おっと、気にするな、独り言だ。 ともかくだ、俺は今回お前さんのアシスト役としてここにいるらしい。 これだけは本当だからな、頼りたければ頼ってくれ。 というか、もう相談したくてうずうずしてるんじゃないか? 「し、してません!…………話は、聞いてもらいたいですけど」 OK。聞こうじゃないか。まぁ、大体話は分かってるけどな。 そして、お前さんもどうすればいいかは分かってるんだろう? 「えぇ……でも……」 そう言ってちらりと騒ぎの方を見る壬生屋。騒ぎに松尾まで入って大騒動となっている。 あー……俺もアドバイザーとしてここにいる訳だが、確かにこれは自信を無くす。 というか、俺がこの立場なら絶対に渡さないな。レディを一人不幸の海に落とすようなものだ。 「でしょう?」 だがな、壬生屋。約束は約束だ。 「……はい」 その華音ちゃんとやらとお前が約束したからには、結果はどうあれそれをするべきだ。 それを破ることは、どんなことかは分かるよな。 「ええ……痛いほどに」 よし。……いいか、恋であろうと愛は愛だ。ラヴだなラヴ。 「わざわざ言い直さなくても分かりますっ」 いや、待て、がなるなって。良い話の途中なんだから。 人のラヴに口を出すことは誰にもできやしない。できるのはそれをそっと助けることだけだ。 「……なんだか、問題を先送りにしただけのような気がするんですけど……」 気にするな。そこは華音ちゃんのラヴの問題だ。 彼女のラヴを信じるのも、友の大切な役目だ。 「なんだか、腑に落ちないところがない訳ではないですけど……分かりました。瀬戸口君を信じます」 よーし、いい子だ。それじゃあ後は突撃のタイミングだが…… 「……少なくとも、騒ぎが収まらないと……?」 ん?どうした壬生屋。そんなに固まっ………… づがん! その瞬間。教室が凍った。 バカザル達も、もみ合ったその形のままで静止した、いや、静止させられた。 体の動きは凍りつつも、全員の視線はある人物に向けられている。 「あら、ヤダ。カッター落としちゃった」 うふふと笑いながら、明らかにナイフを机に『突き立てた』原さんがそこにいた。 絶対貫通しているはずのそれをやすやすと引き抜くと、まるでノートをしまうように鞄にそれを収める。 が、半分ほどでその手を止めて、そういえばと呟く。 「今日の夜ご飯、『お肉』が足りないらしいのよねぇ」 ビクゥッ! そんな音を立てたかのように全員が一瞬震えた。というかそんな音が俺には聞こえた。 周囲の反応などまったく意に介さず、原さんはくるっと教室を見回し、 ピタッとバカザルの塊でその視線を止めた。 そして、笑った。まるで女神がそうするかのように、ニッコリと。 「『誰か』、仕入れてきてくれるかしら?」 「「はっ!行って参ります!」」 騒ぎの中心だった佐久間を含めて、その近くにいた人間全員がバタバタと教室を後にする。 文字通り嵐が去り、教室には静けさが戻った。 痛いほどの静けさが。 ……ま、まぁ、これで戻ってきたあたりに話しかけたら良いんじゃないか。 「そ、そうですね」 とりあえず誰も肉片にならなかった事と、夕飯が確実に豪華になることだけは確実だ。 それが嬉しくて笑っているはずなのに、なぜか空笑いになるのを自分では止めることはできなかった。 原さんは健在である。何がというわけではないが、健在だ。 その後、戻ってきた佐久間に写真を見せたところ 『俺のモテ期きたーうっしゃっしゃー!』 と前以上にうるさくなって、壬生屋の鬼しばきの餌食になったのは言うまでもない。 ああ、頑張ってくれ華音ちゃん。小笠原に静けさをもたらしてくれ。 誰かがカッターの錆になる前に。 ---- **作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) #comment(,disableurl) ---- ご発注元:西條華音@ビギナーズ王国 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=1217&type=1178&space=15&no= 製作:里樹澪@ビギナーズ王国 http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1559;id=UP_ita 引渡し日:2008/10/17 ---- |counter:|&counter()| |yesterday:|&counter(yesterday)|

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