ミーア@愛鳴藩国様からのご依頼品
空に鳥が見えた。
変わった飛び方をしている。緊張しながら飛んでいて、まるで辺りを警戒しているようだ。
鳥が、まっすぐ降りてきて、何という種類か分かるところまで近づいた時、笑った。
上手に飛ぶようになりましたね。カイエ。
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致命の一撃を繰り出さざるを得なかった。
胴を痛みという名の衝撃が貫通する。次いで、機能的欠損。
バロに比べて私は華奢だからなと苦笑する。
もっと強ければ。
傷のことではなく、そう思った。
傷は魔法でふさげる。しかし、失われた体重までは戻らない。
水分を山のように採り、たらふくの炭水化物で即効性のエネルギーを補給すると、体が動くようになった。
「大丈夫ですか!?」
カイエの心配する声が聞こえた。
実際的なことばかりを返事した。
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自分がうまく話題を見つけて話せないことは知っていた。
ただ、思ったことを口にし、流れで物を言うだけの、陰気な男なのだ。
エノーテラもカイエもどうして自分と一緒にいたがるのだろう。
「今度会ったら、もうはなれないって決めたんです」
助けなければならない人達がいる。
危なくてカイエを連れて行くことは出来ない。エノーテラもだ。
カイエはエノーテラのような癇癪は起こさない。だからエノーテラを任せられる。
「人助けは立派な事です、わかります」
そう、カイエはわかってくれる。
どう思っているかは別だが、エノーテラと違い、そのことをちゃんと口で言う。
無茶を言ったりはしない。
「わかるけど、心配します。バルク様のこと」
二人とも、同じように心配している。
心配をすることと、ついてくることは違う。
ついてくれば、それだけ危険が増える。
そこは二人ともわかってはくれない。
いや。
カイエはわかっている。
わかっているけど。
「バルク様が好きだから」
好きという感情と、どこでも一緒にいようとする傾向との因果関係がわからなかった。
ただ、そういうものだということだけは、学ぶことが出来た。
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400年の歳月を戦いのために費やしてきた。
そこで必要だったのは、いかに戦い、いかに勝利するか、それだけ。
けれども戦場のすぐ隣には、勝利だけではない何かが確かにあった。
誇り、宴、一騎打ち。
普通のファウオーマは戦いとそれらとを明確に分ける。明確に、分けて、しかし一体としている。
しかし、自分は戦いの中に、戦うだけではない、もっと別のものが混じってしまっていた。
多くの子供達の面倒を見続けるうち、きっとそれは進んでいったのだろう。
今では混然としている。中途半端な戦士としての力が、その証左だ。
「どうせだめなんです。困らせてるだけって、知ってるんです」
何故、エノーテラがバロではなく自分を慕うかわからない。
強く、慕うべき戦士は、自分ではなくバロだろう。
それなのに、鎧を持ち出す、泣く、暴れる。いつまでも側から離れようとしない。
今のままでは不幸なだけだろうに。
エノーテラが苦しんでいるのを見て、そう思っていた。
迷宮を駆け抜ける間、カイエはエノーテラを押さえていてくれてるだろうかと何度も考えた。
二人とも、幸せになればよいのに。
「御飯食べたかったら晋太郎さんたち連れ戻してよ、もう(呆れて」
食糧の匂いにつられてやってきたら、こんなことを言われた。
「ではしかたありませんね」
「ふむ」
バロと共にさらに地下へと潜っていく。
ふと、思い出す。
戻ってきた時、カイエはまたおにぎりを作っているでしょうか?
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地上に戻ってから待っていたのは、長い長いメッセージだった。
他の者達にも同様のものが出回っているため、主旨はわかっていたので、読まないでいた。
そういう類のことを公言するのはどうかと思ったからだ。
メッセージの主とはすぐに会えた。
「あ、バルク様ハッピィホリディ! こんにちは」
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「私たちの習慣で、大切な人に贈り物をしたりするのですが」
ウミネコの意匠されたアクセサリー。
素敵なものですね、ありがとうございます。そう、素直に礼を告げた。
カイエはとても嬉しそうだった。
よかったら身に着けていてくださいと言われたので、タリスマンにしますと答えたら、ありがとうございますと言われた。とても嬉しそうだった。
だから、微笑んだ。
「バルク様、大好きですよ」
カイエは言う。
「ずーっと、大好きでいますからね」
もう一度言う。
脈絡がなかったけれど、大切な人だと言われ、好きだと言われたら、やはり素直に私も好きですよと答えるしかなかった。
そうしたら、
とても楽しそうに、
とても嬉しそうに、
とても幸せそうに、
カイエは袖にぎゅうっと掴まっていた
普段は迷惑を掛けたと思ったら自分でちゃんと離れてくれる、エノーテラよりは大人なはずのカイエが、今日だけはずっと袖にくっついていたので、少し驚いた。
静かな世界。宙に腰掛けながら、二人で並んでいる。
また、好きですよと言われたので、知ってますと答えたら、少し、カイエの笑いは弱くなった。
好きですかと聞かれたので、好きですよと言ったら、不意に彼女の顔が緊張した。
もどかしそうな顔。キス、だけじゃない。キス以上のこともしたい。そう言った。
「いつか、いつかでいいです、バルク様の子供がほしいです」
「―――――――――」
「そういう好きです」
袖を離さなかった意味。これまでずっとキスをしたがり、ねだっていた理由。心配をして、どこまでもついてこようとした動機。それと、好きという言葉と、その数と、ファウとビアナの間で子供をもうけるためにする行為の間に、これまで学んできた諸々の事柄を関連付けする。
そうして、一緒にいたい、ということの、その先にあるものに気がついて。
初めて…
初めて、バルクは照れた。
そうですね、そのうちにでも。
答えながらバルクは、自分の中に浮かんだ感情に、好きだとずっと一緒にいたがる理由が、ほんの少しだけ、わかった気がした。
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