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04はる1 - (2007/06/09 (土) 23:51:15) のソース

*NO.04 はるさんからの依頼

言葉は不便なものである
人は言葉に頼るが故にその思いを正しく伝えられない事がある
その人にとって大事な時ほど、可能性は高い
-E・ハガネスキー

浅田物語

少女の名は浅田という。名前は今は無い。
普段はキノウツン藩国というところで藩王付きのメイドをやっている猫耳少女である。
知り合いに誘われて彼女は小笠原へと旅立った。

ここは学校、今は昼休み。授業の緊張感が過ぎ去り空気が弛緩している。
浅田は同郷のはると連れ立って教室を出る。上履きをペタンペタン言わせつつ二人は屋上へと足を向けた。
階段を上がるたびに昼食の入ったコンビニ袋がかさかさとこすれる音を立てる。
「似合わんな、確かに。まあ、谷口の言うとおりだとしても。浅田ならどうとでもするさ」
そういったはるが加齢メイクを落とした顎を撫でる。
はるの言葉も不安を感じる浅田には届かなかった。

昼休みのチャイムが鳴った直後、浅田は教室内に吉田遥の姿を探した。一緒に昼食でも食べようと思ったのだ。
その後ろでは源健司と岩崎仲俊が山口葉月の弁当を取り合って喧嘩している。源はとても楽しそうだが岩崎は鬼のような形相だ。
浅田は青い目を猫のように細めて教室を見渡す。
机に鞄は置いてある、つまり学校外には出ていないはず。
はたと気づいた。そういえば竹内の姿も見えない。
「はるさん、遥ちゃんと竹内君見ませんでした?」
後ろにいたはるに訪ねてみる。
「え、俺は見てないな。こらいい加減に返せ」
源の手からコンビニ袋を奪い返している。どうやら昼飯のようだ。
「誰か出て行くところ見てるだろうけど…あ、谷口さん、急いでそうなところ悪いけど、吉田さんと竹内君見なかった?」
廊下側の席から立ち上がろうとしていた谷口にはるが声をかける。
「ん。ああ。二人とも屋上だと思うが、あー。そのなんというか俺が言うのも似合わないが、その、あんまり邪魔…」
「教えてくれてどうもありがとうございます、谷口さん」
谷口の言葉を遮って浅田とはるは廊下に出て行く。
「…行きやがったか」
残された谷口は眼鏡を懐にしまうと頭をかいた。

場面は屋上への階段に戻る。
浅田の目にまぶしい光が差してくる。屋上への扉が開いているようだ。
扉を開けようとする浅田をはるが止める。隙間から先客の姿を見つけたようだ。
-遥と、竹内だ。何か会話しているらしく、真剣な表情をしている。
はるは扉の影から頭の猫耳をぴこぴこさせて聞き耳を立てた。
(…何を話しているのか良く聞き取れないな)
風の向きが悪いらしく、会話の内容が全く聞き取れない。
と、足音がこちらに近づいてくる。遥だ。
慌てて二人は扉から離れる。ばたん、と扉が壁に押し付けられて遥が階段へと降りていく。
その横顔には、涙が見えた。

#ref(http://mezaden.way-nifty.com/img/haru_S.jpg)

「遥ちゃん」
「行ってやれ浅田」
はるの言葉に頷くと、浅田は弁当を持っているのを忘れて遥を追いかける。
浅田の背中を見送るとはるは竹内に話しかける。
「竹内! 吉田さんのことで話したいから付いてきてくれないかなっ?」
言葉は軽いが、真剣な眼差しのはる。
「僕にはないな」
はるの視線をつい、と受け流すと竹内はすぐに、立ち直るよ、と呟いた。
「じゃあ、浅田を助けてやって欲しい。今一番ぐるぐるしてるから、何しでかすか」
「うーん。僕がいったほうが、悪影響だと思うんだけど、まあいいか」
頭に手をやりながら、竹内はそう答えた。
立ち直るか立ち直らないか優先で物事考えるなら、貴方は二流ですっ、とか浅田なら言うんだろうなーと考えつつ、はるは元来た階段の柵に手をかけた。
「痛みが少ないほうがいいとは思うけどね……」
だからそう言った竹内の言葉は耳に届かなかった。

2F、踊り場。
遥が階段を下りていく。泣いているせいかあまり周りを気にせず走っており、浅田との差が広がっていくばかりだ。
二段飛ばしで遥を追いかけていた浅田はスカートがめくれないように気をつけつつ三段飛ばしをはじめる。
だが遥との差はなかなか縮まらない。このままでは他の生徒に遥が泣いている姿を見られてしまう。
いやだ なにが嫌なのかわからないけどそんなの嫌だ。
ぎゅ、ともはや中身が悲惨な事になっているであろうお弁当袋を握り締める。
その時、上の方からひゅ、と何か大きな物体が落ちていく。
物体はくるくる回りながら空中を泳いで移動していき途中で壁を蹴ったりしながら遥の先に着地する。
物凄い勢いで遥が固まる。ぴし、という音が聞こえるかのような固まり方だ。
泣きながら唇の端が引きつりあがりさらに涙目になっていく。眼前に降って来たはるが
「遥ちゃん、待って!」
浅田は階段の手すりを掴んで体の遠心力を相殺しつつ急制動、そのまま遥を抱きしめる。
浅田の声に振り向くと、安心したのか遥はわあわあと泣き出した。
「駄目だよ遥ちゃん……可愛い顔が台無しだよ……」
自分のハンカチを取り出すと、下から見上げるように遥の涙を拭いていく。
泣かないで。大丈夫だから。ほら、お昼ご飯だよ、と浅田が慰めるが遥は泣き止む様子が無い。
その後ろで源が目さどく遥を見つけてこっちへ寄って来ようとする。が、はるが投げたサンドイッチに釣られて窓から落ちた。
「よし、時間は稼げた」
だが、はるは源健司という馬鹿を見誤っていた事に気付く。
2階の窓から落ちた源は猫先生でもないのに見事に前転して着地を決める。パンは口にくわえて離さない。
「いえー」
ブイサインである。
「まだ来るか。竹内、あれ迎撃するの手伝ってくれないかな。良いところなんだよ、いろいろと」
「迎撃って」
何か嫌な事を思い出したのかはるは真剣な表情で竹内に持ちかける。
それを見て竹内は苦笑いした。
「竹内さん!このままだと、遥ちゃんもっと泣いちゃう!お願い!せめて、助けて!」
「俺は吉田さんが浅田を通じて幸せになるのを見るのが趣味なんだ、頼む。掃除当番代わってもいい」
浅田とはるが詰め寄って二人で竹内の襟元を掴む。
「いらない。まあでも、僕が原因だしね」
よし、とはるが叫んで再び階段を飛び降りた。どうやら足止めにかかるようだ。その手には昼飯であろう、カツサンドと焼きそばパンが握られている。
源、お前俺の邪魔したいだけだろ、どうせ、とか、はっ、んなわけねえよっと、という声が階下から聞こえてくる。
やがてどーん、という音とうわぁ、というはるの叫びが聞こえてきた
3人が急いで下へ降りると、そこにはグリンガムに押し倒された(というか盛大にじゃれつかれた)はるとにやにや笑いながら迫ってくる源の姿があった。
#ref(http://trpg-2maho.sakura.ne.jp/relm/data/rel_0160.jpg)
「二兎を追うときは二手に分かれる。俺天才」
だが、はるは諦めていない。
(逆に考えるんだ、あいつにもう切り札はない)
決死の表情でグリンガムに舐められてべとべとの顔に携帯を構える。
その通話先は-

金城美姫は副委員長である。
この日も委員長の善行忠孝と共に職員との会議を終えて、教室に戻る最中だった。
「…会議がうまく進んでよかったですね」
「ええ、昼食を食べるくらいの時間はありそうです。貴方もゆっくりしてください」
「はい」
天気もいい、外で食べるのもいいかな。
そんな事を考えつつにこにこと廊下を歩いていると、ふとある人物が目に止まった。
その人物はにやにや笑いながら何故か階段の方へと向かおうとしている。金城の良く知るその表情は
金城の顔から瞬時に笑みが消えていく。
「委員長、ちょっと用事を思い出しましたので失礼します」
はい、と返事をしようと振り向いた善行の視界には猛スピードで遠ざかっていく金城の後ろ姿が見えた。

はっ、と殺気を感じて源は己の左を向く。
そこに見えたのは怒り狂って走ってくる一人の女生徒。最大の天敵とも言える金城美姫だった。
「金城さーーん、源がまたセクハラしてるよーーー」
金城、はるの言葉で、状況を把握。その間わずか0.5秒。
障害物となるグリンガムを見事な跳躍で飛び越えると、そのままの勢いでとび蹴りを源の顔に喰らわせた。
声にならない叫び声を上げて廊下の向こうへと吹っ飛んでいく源。壁に激突してようやく止まった。
だが、鬼の形相の金城がすぐ追いつき、ずるずると引きずっていく。おそらく今日一日は帰ってこないだろう。
とことこと、浅田や遥たちがはるの近くに寄ってくる。
「女神だ…」
べろべろ舐められたままのはるはふと手に持っていたパンを思い出し、グリンガムに差し出す。
「ほら、お前が全部くっちまえ。グリンガム。遠慮はいらないよ」
嬉しかったのかグリンガムの長い尻尾がさらにたぱたぱ振られる。
すぐ近くにいた遥の方に目掛けて。
「え……?」
「……危ない」
浅田は自分の危険を考えなかった。体が勝手に動いたのだった。
遥を押し倒して尻尾からかばう形になる。
ぎゅ、と遥に抱きついて数秒後に訪れるであろう死を覚悟した。
…
……
………?
恐る恐る目を開けてみる。
あと10数センチの所で竹内が尻尾を受け止めていた。
相当な衝撃だったのか、受け止めた手の平から血が垂れている。
遥がおそるおそる顔を上げようとすると、竹内はそれを避けるように廊下を走って行く。
「……あれ?」
ようやく遥が顔を上げると既に竹内の姿は見えなかった。
浅田があまりの事に「た、竹内さん……」と言うと、その後ろでグリンガムにめーと言っていたはるが「不器用な…」と呟いた。
竹内の名前を聞いて、遥は深く落ち込んだ。
真下を向いて、帽子を深く被り、酷く落ち込んだ。
「遥ちゃん。もう、私の顔も、見たくない?」
浅田の言葉に遥はふるふる、と首を振る。
そして

ふられちゃった。ふられちゃったよ。

ただ、そう言うだけだった。

遥の言葉に、浅田は何も出来なかった。
ただその場に立ち尽くすことしか出来なかった。

#ref(http://trpg-2maho.sakura.ne.jp/relm/data/rel_0158.jpg)

廊下を5月の風が吹き抜けていく。
心の答えは まだ見えない。

続く…?


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御発注主:はる@キノウツン藩国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=20;id=gaibu_ita
製作:
高原鋼一郎@キノウツン藩国 
nico@土場藩国 

http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=59;id=
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=62;id=

引渡し日:2007/