好井裕明 「『あたりまえ』を疑う社会学」(2006)

分類


目次

1章 数字で語れるか
  • 「わしゃ、知らん。わからん」/調査回答者なのか、生きている人々なのか/「部屋の数と畳の数が相関します」/市民意識調査の問題点/一次元的な尺度で何が測れるのか/人々の経験や情緒が示される語りと出会う
2章 はいりこむ
  • “生きられた意味”へ向かう/シカゴ学派/暴走族のエスノグラフィー/入り口を探す/「監視」されるおっさんから「信頼」されるおっさんへ/カメラの役割/「経験」を語ること/福祉施設に「はいりこむ」/常識的信奉に亀裂をいれる/市民運動に「はいりこむ」/人々の「信頼」にできるだけ近づこうとする/「語られない部分」を実感する/静かに沸騰する「思い」と見合う/“余計な存在”であることを読み解く/変貌する自分の姿を読み解く
3章 あるものになる
  • 「大衆演劇への旅」というテキスト/大学での社会学への違和感/フィールドでの違和感やショック体験/調べることと暮らすこと/メンバーつぃて認められる/懸命に役者になろうとする/フィールドとわたしのせめぎあい/知が邪魔をする/あるものに「なろうとし続ける」
4章 聞き取る
  • 「透明人間」にはなれない/「あなたはどのような差別を受けてきましたか」/「決めつけ」をおしつける失礼/「優雅だねぇ。見事なもんだ、この唄のセンスすごいよ」/相互行為としてのインタビュー/対話的構築主義-エスノメソドロジーの影響/多元的な時間や語りを生きる/「聞き取る」営みがもつ微細な権力性を自覚する/さまざまな働きかけの可能性/どのような存在に対して聞き取りを行うのか/優れた聞き取りの例証-境界文化のライフストーリー/誠実な<ひと>の姿が見えてくる語り/自らの価値観の変動を心地よく感じられるか
5章 語りだす
  • 識字という力/生活世界が量的、質的に拡がっていく営み/ゲイスタディーズ-「語りだす」意義/法廷闘争/囚われに気づき、相対化する/自分史を語ること、書くこと/おさえきれない思いのわきあがり/語りだす力の源へ想像力をふくらませる
6章 「あたりまえ」を疑う
  • 「人々の方法」という発想ーエスノメソドロジーという営み/「人々の社会学」というイメージ/見えており、やっているけど気づかない営み/コードを語ること/グランディッド・セオリーという方法的要請/日常的な相互行為を読み解くまなざし/男女間の微細な権力行使の様相/カテゴリー化というテーマ/カテゴリー化がもつ重要な問題とは/テレビドキュメンタリーの解読/日常のなかの違和感
7章 「普通であること」に居直らない
  • 「普通であること」の“空洞”/「金髪やった」/「普通であること」の権力/「普通の人間」は差別なんかしない/フォビアは感情に由来するものなのか/「普通」を相対化する/調べる本人がいかに「普通」に囚われているか/カテゴリー化の罠/変わる「快感」


評価

★★★☆☆

ひとこと

ビジネス書に慣れてしまうと、とても読みづらい一冊。
大学時代に受けた「社会学総論二」を思い出した。
この講義もフィールドワークを専門にしていた先生のものだった。
書かれていることはむしろ興味がある内容なのに、なぜ読みづらいのか。フィールドワークの世界は対象に一体化することが求められる。
しかし、それを外の人に伝える時はスイッチを替えねばならない。
本書は、著者の思いを「好きに語ったもの」だそうだ。ならばよい。
ただ、社会学(フィールドワーク)が、専門外の人に広く理解されないのは、このスイッチの切り替えが出来ていない点にあるのではないかと感じた。

気になる表現

「普通であること」。
これは、私たちが理解不能なできごとと出会ったり、
はっきりと何かに違和感を覚えたりするとき、
それを自らの日常生活世界から“くくり出す”たえに用いる装置だ。
さらに、このような明快なできごとに対してだけでなく
なんとも言いあらわしがたいが、どこか違う、など、
私たちの日常を脅かす“あいまいな”リスクに対しても、
「普通であること」という装置は見事に発動されるのである。
ただ、問題なのは、その「普通」は中身が満ちているものではなく、
いわば“空洞”であるという点だ。(p218)



メモ




参考文献

新睦人「社会学の方法」
大谷信介「これでいいのか市民意識調査-大阪44市町村の実態が語る課題と展望」
山崎喜比古・瀬戸信一郎「HIV感染被害者の生存・生活・人生」
赤川学「子どもが減って何が悪いか!」
ジョエル・ベスト「統計はこうしてウソをつく-だまされないための統計学入門」
山田富秋・好井裕明「エスノメソドロジーの想像力」
好井裕明・桜井厚「フィールドワークの経験」
好井裕明・山田富秋「実践のフィールドワーク」
好井裕明・三浦耕吉郎「繋がりと排除の社会学」
佐藤郁哉「暴走族のエスノグラフィー -モードの叛乱と文化の呪縛」
佐藤郁哉「フィールドワークの技法 -問いを育てる、仮説をきたえる」
田代順「小児がん病棟の子どもたち -医療人類学の視点から」
菅原和孝「もし、みんながブッシュマンだったら」
鵜飼正樹「大衆演劇への旅 -南條まさきの一年二ヵ月」
鵜飼正樹「役者南條まさきと研究者鵜飼正樹のあいだ」
鵜飼正樹「大衆演劇における芸能身体の形成」
福岡安則・好井裕明・桜井厚「被差別の文化・反差別の生きざま」
桜井厚「インタビューの社会学 -ライフストーリーの聞き方」
桜井厚「境界文化のライフストーリー」
反差別国際連帯解放研究所「語りのちから -被差別部落の生活史から」
桜井厚・岸衛「屍場文化 -語られなかった世界」
桜井厚「生活戦略としての語り -部落からの文化発信」
蘭由岐子「『病いの経験』を聞き取る -ハンセン病者のライフヒストリー」
赤坂真理「『障害』と『壮絶人生』ばかりがなぜ読まれるのか」
好井裕明「識字という力の解読」
キース・ヴィンセント・風間孝・河口和也「ゲイ・スタディーズ」
橋口亮輔「二十才の微熱」
橋口亮輔「渚のシンドバッド」
橋口亮輔「ハッシュ!」
小林多寿子「物語られる『人生』-自分史を書くということ」
色川大吉「ある昭和史」
色川大吉「自分史-その理念と試み」
色川大吉「昭和史世相篇」
ニキリンコ・藤家寛子「自閉っ子、こういう風にできてます!」
松田泰二・川田牧人「エスノグラフィー・ガイドブック -現代世界を複眼でみる」
佐藤郁哉「組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門」
Hガーフィンケル「エスノメソドロジー -社会学的思考の解体」
BGグレイザー&ALストラウス「データ対話型理論の発見 -調査からいかに理論をうみだすか」
西阪仰「相互行為分析という視点 -文化と心の社会学的記述」
西坂仰「心と行為 -エスノメソドロジーの視点」
串田秀也「会話のトピックはいかに作られていくか」
串田秀也「ユニゾンにおける伝達と交感 -会話における『著作権』の記述をめざして」
串田秀也「『うん』と『そう』の言語学」
山田富秋・好井裕明・西阪仰「会話分析への招待」
Hサックス「ホットローダー」
好井裕明「批判的エスノメソドロジーの語り -差別の日常を読み解く」
草柳千早「『曖昧な生きづらさ」と社会 -クレイム申し立ての社会学」
好井裕明「障害者を嫌がり、嫌い、恐れるということ」
石井政之「肉体不平等 -ひとはなぜ美しくなりたいのか」
中村うさぎ・石井政之「自分の顔が許せない!」
石井政之・藤井輝明・松本学「見つめられる顔 -ユニークフェイスの体験」
三浦耕吉郎「カテゴリー化の罠 -社会学的<対話>の場所へ」
宮本常一「忘れられた日本人」
中野卓「口述の生活し」
鵜飼正樹「見世物稼業 -安田里美一代記」
菅原和孝「ブッシュマンとして生きる -原野で考えることばと身体」
佐藤郁哉「現代演劇のフィールドワーク -芸術生産の文化社会学」
武田尚子「マニラへ渡った瀬戸内漁民 -移民送出母村の変容」
蘭信三「中国帰国者」
Pウィリス「ハマータウンの野郎ども -学校への反抗・労働への順応」
WFホワイト「ストリート・コーナーソサエティ」
北澤毅・片桐隆嗣「少年犯罪の社会的構築 -『山形アット死事件』」
桜井厚・好井裕明「差別と環境問題の社会学」
桜井厚・小林多寿子「ライフストーリー・インタビュー -質的研究入門」
安積純子・岡原正幸・尾中文哉・立岩真也「生の技法 -家と施設を出て暮らす障害者の社会学」
天田城介「<老い衰えゆくこと>の社会学」
浦河べてるの家「べてるの家の『非』援助論 -そのままでいいと思えるための25章」
渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ -筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」
石川准「見えないものと見えるもの -社交とアシストの障害学」
蔦森樹「男でもなく女でもなく -新時代のアンドロジナスたちへ」
掛札悠子「『レズビアン』である、ということ」
伏見憲明「ゲイという『経験』・増補版」
牧口一二「ちがうことこそええこっちゃ」
金満里「生きることのはじまり」
和田武広「はじけた家族 -手記・結婚差別」
TAMAYO「コメディ+LOVE TAMAYO的差別の乗り越え方」
栗原彬「証言水俣病」
石田吉明・小西熱子「そして僕らはエイズになった」
草伏村生「冬の銀河 -エイズと闘うある血友病患者の訴え」
佐藤真「日常という名の鏡 -ドキュメンタリー映画の界隈」
Aクラインマン「病いの語り -慢性の病いをめぐる臨床人類学」
アーサーWフランク「傷ついた物語の語り手 -身体・病い・倫理」
jホルスタイン&jグブリアム「アクティヴ・インタビュー -相互行為としての社会調査」
JVマーネン「フィールドワークの物語 -エスノグラフィーの文章作法」
Dベルトー「ライフストーリー -エスノ社会学的パースペクティブ」
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最終更新:2009年03月01日 22:03