森田浩之「スポーツニュースは恐い」(2007)
評価
★★★☆
ひとこと
マスメディアの『ステレオタイプ』について取り上げた一冊。
4章以降は、マスメディアがステレオタイプに報じる「日本人観」について
特にスポーツを題材に取り上げています。
特にサッカーに対する報道について?いっぱい感じていた私には共感できる部分が多かったけれど、
終章に作者が述べているとおり、そういう見かたをわざわざする人は少ないのかもしれない。
分類
目次
第1章 本当はこんなに恐いスポーツニュース
- みんなが楽しみなスポーツニュース
- スポーツニュースは「オヤジ」である
- サブリミナルに蓄積される価値観
- 「忘れさせない」ナショナリズム
第2章 女子選手に向けるオヤジな目線
- スポーツニュースがやっている「無意識のセクハラ」
- 女子にだけ気安く「ちゃん」づけするオヤジ
- 女子選手のプライベートが気になる
- 私生活に関心を向ける歴史的理由
- 「ママさんボランチ」宮本ともみの主婦な生活
- 「授乳柔道家」谷亮子の衝撃
- 強調される「男の支え」
- 高橋尚子と小出監督の「疑似父娘関係」
- スポーツニュースが好きな「女子種目」の秘密
- 「なでしこジャパン」という愛称の意味
- スポーツは男の「最後の砦」
第3章 スポーツニュースは<人間関係>に細かい
- スポーツニュースは「スポーツマンニュース」
- 乱発される最年長記録
- スポーツニュースが本当に語りたがっていること
- とりあえず「謙虚」な感じにしておこう
- 「事実」と「物語」のはざま
- 巨人・上原、「恩返し」のストッパー
- 小笠原道大、「努力」の果て
- 「長く続けることはすばらしい」
- ヒーローは社会のシンボルになる
- つまらなくても意味があるヒーローインタビュー
第4章 スポーツニュースは<国>をつくる
- スポーツニュースがやっている大仕事
- ジョホールバルで山本浩アナが吐いた名ゼリフの意味
- <日本人>はイメージされたもの
- <時間>と<空間>を共有する感覚
- 木村和司のFKがワールドカップのたびに流れる理由
- スポーツニュースは<未来>も考える
- 「祐ちゃん」「マーくん」が定着した意味
- 甲子園代表校マップが描く<空間>
- 「本場」アメリカと日本列島
第5章 日本人メジャーリーガーが背負わされる<物語>
- 「やっぱり日本人は日本がいちばん」
- 松坂大輔が「落ち着ける」場所
- 日本食の呪縛
- レッドソックス、日本食導入の決断
- 試練としての英会話
- 城島健司は英語で「チャック開いているよ」と言っていた
- 「日本人の物語」はなぜつくられる
第6章 世界中で刷りこまれる<国民>
- アメリカ
- つくられるロールモデル
- 「成功した労働者」「よき父、よき夫」
- 苦難を乗り越えた物語
- アルゼンチン
- あの華麗なサッカーはスポーツニュースが生んだ
- 「男らしさ」を定義しなおす
- ヨーロッパ
- 炸裂するステレオタイプ
- ステレオタイプが示す「中心」と「周縁」
- イギリス
- 大衆紙の見出しにおどる“We"
- ふたつの戦争、ひとつのワールドカップ
- 透けて見えるコンプレックス
- イングランド-アルゼンチン戦という大河ドラマ
第7章 ワールドカップでつくられた<日本人>
- <国>が最も見えるイベント
- 無意識に描かれる<日本>の姿
- なぜか地球の端っこにいる「私たち」
- 「列島」は祈り、叫び、悲鳴をあげる
- 永遠に「世界」に挑戦しつづける国
- 「日本」と「世界」を行き来する監督
- 中田英寿がまとっていた「世界」
- 「組織力」は本当に日本の強みなのか
- 高い身体能力は「アフリカ勢特有」
- 「決定力不足」は日本社会のせいなのか
- 「日本人は自由が苦手だ」
- 議論の前提に使われるステレオタイプ
- 新聞にあふれる「ひきこもりナショナリズム」
- 読者の頭はスポンジではないけれど
第8章 イビチャ・オシムはなぜ怒ったか
- 「物語」を拒否した監督
- 「オヤジ性」を本能的に感じ取る
- イチローはなぜ「物語」を背負わないか
- 私たちが<私たち>を規定する
- すでに「刷り込まれている」自分からの出発
「世界」とは個々の対戦相手やその集合体ではなく、イメージであるようだ。実体のない想像上の概念である「世界」は、つねに日本より上の存在として描かれる。
不思議な話だが、日本はここでいう「世界」の一部ではない。地理的にいえば日本は世界の一部のはずなのに、イメージとしての「世界」は日本の外側にある。(p156)
メモ
- オドネルの研究で見えたヨーロッパ国民のステレオタイプ(ヨーロッパ中部からの目線)
- ヨーロッパ北部
- スカンディナビア諸国、特にスウェーデンの選手には「冷静」「寡黙」「活力がない」「退屈」
- ヨーロッパ中部
- ドイツ人は「強い精神力」「規律が高い」「効率がいい」「勤勉」「課題を把握している」「頼りにできる」
- イギリス人は「勇敢」「あきらめない」「献身的」「闘争心が強い」
- フランス人は「合理的」「教養がある」「華麗」「才能」「インスピレーション」「魅力」「上品」
- ヨーロッパ南部
- 「気まぐれなラテン系」、「情熱的」「激しやすい」「軽薄」「快楽主義的」「官能的」
- 中南米
- 「創造性」「才能」「規律が低い」「合理的でない」「向う見ずな」「気性の起伏が激しい」「怠惰」「口先だけ」「自己中心的」
- 日本のメディアには他国にはない一大ジャンル「日本人論」がある。
- 日本人の「特殊性」に関する「国を挙げての施策」。「自然決定論」という特徴(by ブライアン・マクベイ)
- 「現代の修身の教科書」(by ハルミ・ベフ)
参考文献
- ベネディクト・アンダーソン「想像の共同体」
- 伊藤守「テレビニュースの社会学」
- 井上俊、亀山佳明「スポーツ文化を学ぶ人のために」
- 田中和子、諸橋泰樹「ジェンダーから見た新聞のうら・おもて」
- 田渕祐果「スポーツ・ジャーナリズムと女性」
- 橋本純一「メディア・スポーツとイデオロギー」
- 梅森直之「ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る」
- 岡本能里子「メディアが創るヒーロー 大リーガー松井秀喜」
- 松井秀喜「不動心」
- 日本放送協会「スポーツ史の一瞬」
- 酒井直樹「序論 ナショナリティと母(国)語の政治」
- 杉本良夫、ロス・マオア「日本人論の方程式」
- 山本敦久「『高い身体能力』って何」
- 菅谷明子「メディア・リテラシー」
- 鈴木みどり「メディア・リテラシーを学ぶ人のために」
- 富山英彦「メディア・リテラシーの社会史」
最終更新:2010年12月17日 22:27