常石敬一「原発とプルトニウム」(2010)
評価
★★★☆
ひとこと
震災後に買った「震災前に書かれた」原発本。
幼い頃「キュリー夫人の伝記」を何度も読んだのに、その人に興味を持ちながらも
その偉業に全く興味がなかった“人文系?”な自分に気づいた。
内容は科学史。新書とはいえ、中学レベルの理科(化学・物理)の知識だと正直、理解は困難。
もう少し勉強してから、再読したいと思う一冊。
分類
目次
第1章 貪欲と禁欲
- 一枚のX線写真
- 中性子の発見
- 長い中断と人的資源の枯渇
- 戦争が終わり科学界に活況が戻る
- ベリリウム線の謎
- じつは中性子を見ていた
- 超ウラン元素発見競争
- 人工放射能
- 人工放射能から超ウラン元素へ
- ノーベル賞委員会の誤り?
第2章 「あり得ない」ことが起きる・・・・・・
- 核分裂の発見
- 二人の科学者の出会いと別れ
- 手作りの実験装置
- 手紙で研究討議
- クリスマスの叔母と甥の会話
第3章 「あり得ない」ことが起きた!
- 皆見ていたけど見えていなかった
- フリッシュ、ボーアに会う
- 「できる」と分かればゴールは近い
- 熱狂する物理学者 米国
- 核分離論 ボーア=ホイーラーの理論
- 熱狂が米国に広がる
- 熱狂が連鎖反応の確認へ
- 熱狂ではなく恐怖がフリッシュ=バイエルス覚書を生む ヨーロッパ
- まわりで戦時研究が進行中
- 爆弾は可能だ・・・・・・
- MAUD委員会
第4章 失われた元素、プルトニウム
- 科学予算が軍事機密にからめとられる
- 核分裂物質としてのプルトニウムを予言
- 科学者が軍事機密の網にもがく
- 神話の作り方 情報操作
- 生き馬の目を抜く素早さ
- 装置がもたらしたノーベル賞、尻尾もつかまないうちに
第5章 原爆開発ゴーサイン、好奇心から愛国心・恐怖心
- 最初の予算 ゆっくりした歩み
- 一九四一年春、状況が一変 英国からの衝撃
- 米国の原爆開発計画は二段式
- 原爆と原子炉
- シカゴパイル(CP-1)
- プルトニウム製造工場とその後始末
第6章 百万分の一秒を目指して ロスアラモス
- 実験室で原爆を見る
- 二秒の差が生死を分けた
- トリニティ 終りの始まり
- マンハッタン計画の決算
第7章 「原子力平和利用」の時代
- 核独占の崩壊と「平和のための原子力」演説
- 核燃料サイクル
- 今後の日本の核政策
日本がエネルギーの安定的な確保を考えるのであれば、オバマが言う「国際燃料バンク」構想に積極的にかかわるほうが、何十年か先の核燃料サイクルの完成を待つよりはるかに現実的だろう。(中略)
ダムも見直そうという時代である。巨大原子力発電所もそう遠くないうちに同じ道を歩むのではないだろうか。(p262)
日本が核武装することの日本にとってのデメリットを、米国の著名な軍事戦略家の一人R・ヒルズマンは、
「日本の全土を壊滅するには極めて少量の核があればいい。
日本は単に地形的な理由で、わずか六発前後の核でいい」
と指摘している。米国に対してだと三〇〇~四〇〇発が必要だという。(p263)
メモ
- 米国の原爆開発製造計画
- 1941.11.27 大統領宛に報告書提出(真珠湾攻撃直前)
- 1942.1.19 大統領が認可
- 核分裂による「工業的目的のための大規模な原子エネルギーの解放」の可能性を探るフィージビリティ・スタディの開始
- 連鎖反応は起きるのかどうか? どのような条件で起こるか?
- 超ウラン元素(プルトニウム)の大量生産は可能か? 生産効率は?
- 1942.1 シカゴ大学で原子炉の建設着手
- 1942.12.2 世界最初の原子炉(シカゴパイル)で臨界(連鎖反応が自発的に成長し始める)に達した。
- 1942.12.28 予算措置を伴う本格スタートの決定(原爆開発のための5億ドルの支出を承認)
- 1945.7.16 実験用プルトニウム爆弾(トリニティ)を実験
- 1987 ハンフォード工場のすべて(9基)の原子炉が活動停止。通算、57tのプルトニウム製造。(なお現在日本で保有するプルトニウムは32t)
- 1989 ハンフォード工場の諸施設の解体と除染作戦開始。毎年10~15億ドル。2020年まで同規模の予算が見込まれ、2050年までに施設の解体を終え、2065年までに廃棄物処理を終える予定。(米国の国家予算の都合で決められた予算を執行)
- 原子炉と原爆の核分裂によるエネルギーの違い
- 原爆
- 核分裂の連鎖反応は閉じた空間の中で100万分の1秒で完了(人が制御することができない「爆発」)
- 原子炉
- 核分裂の連鎖反応の進行は人が制御可能。
- 民間利用は研究用と動力用、軍事利用ではプルトニウム生産用の3種類
- 連鎖反応の暴走をコントロールするために、制御棒がある。緊急炉心冷却装置は、空焚きで冷却水がなくなったときに使う。暴走反応は止められない。
参考文献
- E.キュリー「キュリー夫人伝」
- セグレ「X線からクォークまで」
- K.ホフマン「オットー・ハーン 科学者の義務と責任とは」
- セグレ「エンリコ・フェルミ伝 原子の火を点じた人」
- H.D.スマイス「原子爆弾の完成」
- O.ハーン「オットー・ハーン自伝」
- C.ケルナー「核分裂を発見した人 りーゼ・マイトナーの生涯」
- S.ローゼンタール「ニールス・ボーア」
- 西尾成子「現代物理学の父ニールス・ボーア」
- J.ウィルソン「われらの時代に起こったこと 原爆開発と12人の科学者」
- S.R.ウィアート「シラードの証言」
- O.フリッシュ「何と少ししか覚えていないことだろう 原子と線背負うの時代を生きて」
- 山極晃・立花誠逸「資料マンハッタン計画」
- 日野川静枝「サイクロトロンから原爆へ 各時代の起源を探る」
- N.モス「原爆を盗んだ男 クラウス・フックス」
- J.スターン「核・細菌・毒物戦争」
- 太田昌克「盟約の闇 『核の傘と』日米同盟」
最終更新:2011年12月30日 14:11