伊坂幸太郎「モダンタイムス」(2008)

評価

★★★☆

ひとこと

21世紀半ば過ぎの日本を舞台にした「監視社会」について扱ったストーリー。
もちろん表題の「モダンタイムス」はチャップリンの映画へのオマージュ。
世の中に疑問を発する切り口は共感できるのに、どうも展開・結末がなぁ・・・
と感じて★3つ。素材も調理法もいいのに盛り付けがなぁ、、、という程度です。

2008年の作ですが、東日本大震災を経て、
またネット上「口コミ」に疑惑が渦巻く今読むと、
時代を経るほど身近に感じられる一作なのかもしれません。

バイオレンスとITにアレルギーにある方にはあまりお勧めしないかも。。。

なお、文庫化の際にある事件について大幅改訂を行ったそうです。



分類



ネタバラシ作品(この本より先に読め!作品)

  • 伊坂幸太郎「魔王」
  • 伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」

ネタバラサレ作品(この本より先に読むな!作品)



気になる表現


ネットで一番、難しいことは何だか知ってるか(中略)
そういう意味では、占いは強いんだ。占ってもらいたい、と考えている人間は、
名前や生年月日を正直に入力する。(中略)
占いサイトは、いいところを突いてるんだ。(上p34-35)

人はな、他人が何を正しいと考えているのか、それをもとに判断をする、ってことだ。
今その状況でどうすることが正しいのか、他人の行動を参考にするんだよ。(上p86)

人は知らないものにぶつかった時、まず何をするか。
「検索をするんだよ」(上p151)

あのな。大事なことは、まとめちまったら消える。俺はそう言っただろ。
でな、それを突き詰めるとだ
人生は要約できねえんだよ(上p201)

アリは賢くない。
でも、アリのコロニーは賢いのよ。(上p307)

だってさ、人間は情報ではできていないのよ。
その人の情報がどれだけ集まっても、その人間はできあがらない。
逆に考えれば、情報がいくら漏れても、
実はその人間が死ぬようなことにはならないはずなんだって。(下p86)

事実なんて、情報でいくらでも塗り替わっちゃうってことよ。(下p109)

ルールには二種類あるの。
大事なルールとそうじゃないル-ル
規則っていうのは絶対じゃないわけ。
大事なルールほど、法律では決まってないのよ。
困った人には手を貸しなさい、とかね、そういうのは法律になってない。
で、無条件に、糞赤信号に従うってのは、どういうことかって言うと
誰かの決めたルールを無条件に受け入れるだけ、ってことよ
『これはこういう規則になってるから』『こういうことになっているから』
なんて言って、全部受け入れるロボットと同じ。あなた、ロボット?
充電式?じゃないわよね?だったら、考えるのよ。(下p153-154)

人は一度、説明を受けるとそれをありがたい真実だと受け入れるところがあります。
その後ろ側に、本当の真実が隠れていることに気付かないものなのです。(下p300)

国家は、機械的で、システマチックなものでは決してない。そう思わないか?
いろんな人間、政治家や官僚のエゴや自尊心、嫉妬や欲望が複雑に絡み合って、
予想もしない現象を起こす。動物の行動と同じで、論理的に計算できない(下p326)

俺たちの生きている社会は、誰それのせいだと名指しできるような、
分かりやすい構造にはなっていない。さまざまな欲望と損得勘定、人間の関係が絡み合って、
動き合っているんだ。諸悪の原因なんて、分からない。俺はその考え方は正しいと思う。
図式のはっきりした勧善懲悪は、作り話でしか成り立たないんだ。
ただ、そう考えていくと、最終的に辿り着くのは虚無だ。(下p382-383)


メモ




参考文献

  • キャロライン・アレグザンダー「エンデュアランス号 シャクルトン南極探検の全記録」
  • 平川克美「株式会社という病」
  • テイラー「ウォー・ロード 戦争の指導者たち 目で見る戦史」
  • 宮田親平「毒ガス開発の父ハーバー」
  • ギュンター・アンダース「われらはみな、アイヒマンの息子」
  • ジョン・ローレンス・レイノルズ「秘密結社を追え! 封印された、闇の組織の真実」
  • 梅田望夫「ウェブ人間論」
  • ベンジャミン・フルフォード「日本マスコミ『臆病』の構造」
  • 新保博久「世紀末日本推理小説事情」
  • 萱野稔人「国家とはなにか」
  • ロバート・B・チャルディーニ「影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか」
  • ピーター・ミラー「群れのルール」
  • 菊池聡氏「超常現象をなぜ信じるのか 思い込みを生む『体験』のあやうさ」

主人公

  • 渡辺拓海 凶暴な妻をもつシステムエンジニア

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最終更新:2012年02月11日 21:51