戸田山和久「『科学的思考』のレッスン」(2011)

評価

★★★★

ひとこと

理科嫌いだった私が、なるほどと納得できた一冊。
科学リテラシーって知識じゃない、ってことだ良く分かった。
むしろ、こういうことを学校(義務教育)で教えるべきなんだろうなーと思う。
また、章末「科学的に考えるための練習問題」があり、とても実践的な良書。
放射能問題やニュートリノによる相対性理論に反する事実など、2011年最新のトピックにも触れられています。



分類

目次

第Ⅰ部 科学的に考えるってどういうこと?
  • 第1章 「理論」と「事実」はどう違うの?
    • 「科学が語る言葉」と「科学を語る言葉」
    • クリエーショニスト・ステッカーの運動
    • 「インテリジェント・デザイン」の戦略
    • 進化学者はどう応えるか?
    • 「理論/事実」の二分法で考えてはいけない
    • 二分法的思考はヤバイ
  • 第2章 「より良い仮説/理論」って何だろう?
    • 真理に近いのが良い理論か?
    • プトレマイオスの天文学とニュートン物理学
    • なぜニュートン力学のほうが良い仮説なの?
    • 「より良い仮説/理論」の三つの基準
    • 地向斜造山論の難点
    • プレートテクトニクスによる日本列島形成論
    • プレートテクトニクス理論の汎用性
    • 縞模様の謎、トランスフォーム断層の謎
    • プレートテクト二クスはなぜ良い理論なの?
  • 第3章 「説明する」ってどういうこと?
    • 原因を突き止める
    • なぜニュートンは偉いのか
    • 天上の物理学 ケプラーの業績
    • 地上の物理学 ガリレオの業績
    • ニュートン的総合!
    • 正体を突き止めること
    • 三つの説明に共通点はあるか
    • 科学の理念としての還元主義と統一
    • 超心理学はなぜ科学の仲間入りできないのか
  • 第4章 理論や仮説はどのようにして立てられるの?どのようにして確かめられるの?
    • 正しい科学的説明であるためには
    • 生命の発生をどう説明するか
    • 個体発生は系統発生を繰り返す?
    • 四つの非演繹的推論
    • 四つの推論の共通点は?
    • なぜ私たちは非演繹的な推論をするのか
    • 演繹とその特徴
    • なぜ私たちは演繹をするのか
    • 二種類の推論を合体するとすごいパワーが! 仮説演繹法
    • 恐竜絶滅の原因を推論する
    • 仮説の確かめについて言っておくべきこと
  • 第5章 仮説を検証するためには、どういう実験・観察をしたらいいの?
    • 頭のなかの規則を当てるゲーム
    • 検証条件と反証条件
    • 四枚カード問題
    • 「疑似科学」と反証条件
    • 科学的心理学と民間心理学
    • 操作的定義というテクニック
    • 十九世紀末からの心霊ブーム
    • 超心理学と実験者効果
    • カール・ポパーによる線引き
    • 相対性理論、否定される?
    • 反証例が生じてもすぐに仮説や理論は捨てられない
    • 補助仮説に注目を
  • 第6章 なぜ実験はコントロールされていなければいけないの?
    • 実験群と対照群
    • 微生物に関する自然発生説論争
    • 自然発生論争の決着
    • 人間相手の実験をコントロールするのはけっこう難しい 二重盲検法の話
    • 「四分割表」的思考のススメ
    • 重要なのは高い確率ではなく相関だった
    • 「脳科学」の危うさ
    • 系統誤差と確率誤差
    • サンプリングをまちがってはいけない
    • 相関から因果関係への推論は慎重に
    • 相関から因果を推論できるか 地球温暖化問題の例
    • 文部科学省のカン違い
    • マボロシの相関関係
    • 第Ⅰ部のまとめ
第Ⅱ部 デキル市民の科学リテラシー 被爆リスクから考える
  • 第7章 科学者でない私がなぜ科学リテラシーを学ばなければならないの?
    • 本章で考える問い
    • 第一の問題:残念ながら科学じたいが人間の希少資源である
    • 第二の問題:トランス・サイエンスな問い
    • 第三の問題:科学・技術じたいが問題になる
    • 素人さんも共犯者
    • 「なぜ科学リテラシーを学ばなければならないの?」への回答
    • 市民の科学リテラシーは知識量にあらず
    • どうやって科学リテラシーを役立てるのさ?
    • コンセンサス会議という実験
    • 誰が問題を立てるのか 遺伝子組み換え作物を例に
  • 第8章 「市民の科学リテラシー」って具体的にどういうこと?
    • 科学情報をどう読み解くか
    • 「一〇〇ミリシーベルトで健康に影響が出る」とは?
    • ベクレルとシーベルトってどういう単位なのか
    • 「分かりやすさ」の落とし穴
    • 線量限度についての考え方
    • 線形閾値なしモデル
    • 線形閾値なしモデルをどう解釈し伝えるか
    • 「安全は科学的に決着のついている話」なのか? 線量限度をめぐる論争
    • リスク評価の答えは一つに決まらない
    • グレーな領域でどうリスクをとるか
    • 安全と安心の違い
    • 「安心」は心の問題ではない
    • 原子力発電という問題群
    • リスク論争は何に根差しているか
  • 終章 「市民」って誰のこと?
    • 「原発文化人」叩きの不毛
    • 説得のレトリックが機能しない
    • 脱パターナリズムへの転回
    • ここに市民がいた!


気になる表現

科学は軍隊と並ぶくらいパワフルで、だからこそ暴走すると危険だ。
そこで、科学を市民社会のコントロール下に置く必要がある。(中略)
市民は科学をシビリアン・コントロールできるだけの科学リテラシーをもっていないといけない。
これが、全ての市民が科学リテラシーを身に付けるべきだと私が考える理由です。(p209)




メモ

  • 科学を語る言葉:科学的概念
  • 科学を語る言葉:メタ科学的概念
    • これらの言葉の定義と、使い方を体得できていることをリテラシーという。
    • 理論、仮説、測定、予言、アドホック、説明、原因、相関、有意差、法則、普遍的、一般的、特殊ケース、方程式、モデル、帰納、演繹、類比、真理、情報、方法論、仮説演繹法、コントロール実験、検証、反証


  • より良い仮説/理論の3つの基準
    1. より多くの新奇な予言を出してそれを当てることができる。
    2. アドホック(その場しのぎ)の仮定や正体不明・原因不明の要素をなるべく含まない
    3. すでに分かっている多くのことがらを、できるだけたくさん/できるだけ同じ仕方で説明してくれる

  • 科学的な「説明」には三種類ある
    1. 原因を突き止めること
    2. 一般的・普遍的な仮説/理論から、より特殊な仮説/理論を導くこと
    3. 正体を突き止めること

  • 非演繹的推論(帰納法、投射、類比、アブダクション)
    • 情報量を増やすが蓋然的(=必然的ではない)。
    • 目に見えることから目に見えないことを推論するための手段
  • 演繹的推論
    • 真理保存的だが情報量を増やさない
    • 前提に暗黙のうちに含まれている情報を明示化するための手段

  • バーナム効果:曖昧なことや両義的なことを書いておくと、あらゆる人が自分に当てはまると思ってしまう効果

  • トランス・サイエンス:科学と政治の領域がだんだんと区別しにくくなり、両者が交わる領域のこと

  • デキル市民の科学リテラシー
    1. 提供された科学情報に適切な問いを抱くことができる
    2. 科学の手続きには語らずモデル化と理想化が含まれることを知っている
    3. 一冊の書籍や一つの情報ソースを鵜呑みにしない。複数のソースを比較して、妥当だと思われる説明を取捨選択できる。「分かりやすさ」には落とし穴があることを知っている。喩えだけで満足してしまわない。
    4. 科学の特徴である「分からなさ」がきちんと伝えられているかをチェックできる。リスクや確率てきなことがらについて妙に断定的な物言いがなされていたら、ちょっと疑う。
    5. 科学が不確実なことがらについて何かを言うとき、必ず外挿(既知のデータを基にしてその外側の範囲も同じ傾向だろうと考えて数値を予測)や推定が含まれていることを知っている。
    6. 科学的仮説を分かりやすい言葉で伝えようとするとき、強調点の置き方によって正反対の含意をもつこともあると知っている。それを避けるために、できる限り元ネタにちかいソースから情報を入手しようとする。
    7. モデル化と推定の仕方の違いにより、不確実領域を科学が扱うとき、つねにいくつもの異論が並立していることを知っている。その異論の背景には政治的対立の可能性があることを知っている。
    8. 自分のリスク認知にはバイアスがあることを知っている。バイアスを避けて冷静にリスク判断するツールとして、数値化されたリスクを参考にできる。
    9. 科学・技術に「安心」を要求することは合理的で、科学的・学問的に議論できることを知っている。
    10. デキル市民は、リスク論争は安全性やリスクが問題になっているようでいて、その実、フレーミングの不一致に根差しているのだということを知っている。科学技術をめぐる社会的決定の場面で、科学的なリスク評価を尊重しながら、さらに社会、政治、倫理、責任、信頼性…も視野に入れた複合的・多元的安フレーミングを提案していける。


参考文献

  • 菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、飯田泰之+SYNODOS「もうダマされないための『科学』講義」
  • T・シック・ジュニア、L・ヴォーン「クリティカルシンキング」
  • 菊池聡、谷口高士、宮元博章「不思議現象 なぜ信じるのか」
  • 菊池聡「超常現象をなぜ信じるのか」
  • 伊勢田哲治「疑似科学と科学の哲学」
  • 坂井克之「脳科学の真実」
  • 平川秀幸「科学は誰のものか」
  • 小林*司「トランス・サイエンスの時代」
  • 小林*司「誰が科学技術について考えるのか」
  • 小林*司「公共のための科学技術」
  • 中谷内一也「リスクのモノサシ」
  • 藤垣裕子「科学技術社会論の技法」
  • 竹内薫「99.9%は仮説」
  • 養老孟子・山崎正和による対談「変な国・日本の禁煙原理主義」
  • 杉山滋郎「科学教育-ほんとうは何が問題か」
  • 金森修・中島秀人「科学論の現在」
  • 平川秀幸「リスクの政治学」
  • 平川秀幸「3・11以降の科学技術コミュニケーションの課題」
  • 平川秀幸「もうダマされないための『科学』講義」
  • 鶴田隆雄「放射線入門」
  • 内田樹「ひとりでは生きられないのも芸のうち」
  • 中川恵一「放射線のひみつ」

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最終更新:2011年11月24日 00:45