中田亨「『事務ミス』をナメるな!」(2011)

評価

★★★★

ひとこと

モノづくりの現場でのミス撲滅の話は星の数ほどあるけど
そのノウハウを事務系にも適用しようという本。
とてもロジカルで、そして事務系の現場でも十分に参考になる良書。

ミス対策の重要性は、「作業確実実行力」から「異常検知力」に変わってきているのはなるほど、納得。


分類

目次

I 理論篇 なぜ人はミスをし続けるのか?
第1章 人は「有能」だからこそ間違える
  • ミスは知恵の副作用?
  • ミスを招く「能力」① 情報に乱れや誤りがあっても即座に取り除ける
  • ミスを招く「能力」② 不十分な情報だけで短時間で決断できる
  • ミスを招く「能力」③ 繰り返せば上達する
  • 適応型のミスを見分ける方法
  • ミス対策をどうとらえるべきか
第2章 間違えのメカニズム追究はきりがない
  • 人間の間違え方の奇怪
  • その①<アリストテレスの「間違いの2つの原因」説>
  • その②<マイアーとバークの馬取引問題>
  • その③<シンプソンのパラドックス>
  • その④<ウェイソンの四枚のカード問題>
  • その⑤<連言錯誤>
  • その⑥<モンティ・ホール問題>
  • その⑦<パップスの短すぎる証明>
  • その⑧<本音の発動によるミス>
  • 脳内メカニズムが分からなくても、ミスは減らせる
第3章 そもそも「間違い」とは何か?
  • それを間違いと呼んだところで・・・・・・
  • 不安定で不明確な間違いの規準
  • 正解はワンパターンだが、間違いは種々雑多
  • 常識が通用しない機械たち
  • 不便なだけで役に立たない正誤の規準もある
  • 障壁として作られた正誤の規準
  • 「顧客にとって正しい」ことが正しい
  • 「ミス」ではなく「不確かさ」と呼ぶのが正しい
第4章 時代が事務ミスを許さない!
  • 事務ミスは「不正の隠れ蓑」になる
  • 「大は小を兼ねる」時台の終焉
  • 「高度信頼性」を売る産業の出現
  • ミスのリスクを引き受けることで、高度なサービスを実現する
Ⅱ 実践篇 ミスはこう防ぐ
第5章 ミスの解決は、「6つの面」から考える
  • 問題は多角的にとらえるべし 列車事故の歴史の教訓
  • 問題の6つの面
    1. しなくて済む方法を考える
    2. 作業手順を改良する
    3. 道具や装置を改良する、または取りかえる
    4. やり直しが効くようにする
    5. 致命傷にならないための備えを講じる
    6. 問題を逆手にとる
  • 具体例でみる6つの解決策
  • リスクに見合った対策を選ぶ
第6章 「気付かない」から事故になる  ミスを防ぐ力その①「異常検知力」をつける
  • 事務ミスを防ぐ力には3種類ある
  • 「異常検知力」が最重要
  • 検査手順が遅いとミスを広げる データはいつでも見られるように
  • 名前はまぎらわしいことが多い!
  • 混ざってはいけないものは仕分ける
  • 目印や特徴を人為的に付ける
  • 異常検知手段が「文化」を形作る
  • 作業の流れに、さりげなく検知のチャンスを入れる
  • 抽象的なことは「物体」でたとえる
  • 計算は「可視化」してミスを防ぐ
第7章 異変のはじまりはどこか? ミスを防ぐ力その②「異常源逆探知力」で復旧を容易にする
  • 異常源逆探知力が「復旧のコスト」を支配する
  • 社内の不正への抑止効果も
  • トレーサビリティこそが品質保証の本体
  • ゾーニングで異常源逆探知体制を作る
第8章 御社の「手順」はムダだらけ ミスを防ぐ作業手順を組み立てる
  1. やり忘れの元凶である「揃い待ち合流」を避ける
    • 手順の分岐と合流
    • 揃い待ち合流は諸悪の根源
    • 揃い待ち合流の解体 一本道に組み直す
  2. 「因果律」に従って手順を整列させる
    • 決定を受けてから着手する
    • 料理の「さしすせそ」も因果律 手順の前後の相性を見る
    • 因果律をあえて守らない場合もある
    • 抱き合わせ販売は因果律を壊す
  3. 「意味の近さ」に応じて、手順をまとめる
    • 状況把握には意味の並びが大切
    • 意味不明な手順は客にも失礼
  4. 作業の「埋没コスト」を抑える手順にする
    • 「行きがけの駄賃」の原理 コストを共有できる手順にまとめる
    • 接客での埋没コストの無駄は、顧客の心証を悪くする
  5. 「気のゆるみ」を防ぐ手順がある!
    • 大事なことは真っ先に
    • ほっとした後は注意力がなくなる 達成感は保留させる
第10章 氾濫する「ダメ書式レイアウト」: 書式を改良して事務ミスを防ぐ
  1. 「書式レイアウト」が事務の能率を支配する
    • 劣悪なレイアウトが事務ミスを生んでいる
    • 業務改善の盲点となる劣悪な書式の存在
  2. 「欄」は一列整列が基本
  3. 「ポップアウト効果」を発生させる
    • 視覚的要素の取り合わせの妙
    • ポップアウト効果を活かすべき事例
  4. 書式に一体感を出す
  5. 表の罫線を正しく使う
  6. フローチャートを廃止して表を使う
    1. フローチャートは手順の進捗を間違えやすい
    2. フローチャートは情報が少ない
    3. フローチャートは構造が乱れる
  7. 符号化を廃止し、意味を前面に出す
第11章 「ミスに強い」組織に変える
  1. 統計データに基づいた対策を取る
    • 大事故や珍事故に目を奪われやすいが・・・・・・
    • 事故原因のパレートの法則
  2. 「三現主義」 答えは現場にある!
    • 百聞は一見にしかず
    • 社内をふらっと見て回る
    • ホーソン効果 人間は注目されると頑張る
  3. 報告を奨励し、データを活かす
    • 事故報告・ヒヤリハット報告制度が「使えない」理由
    • 報告を上げやすくする
    • 通達は読みやすくシンプルに
  4. 通達の厖大化を食い止める
  5. マニュアルは手順主義で書く
  6. 文書を仕分けして管理する


気になる表現



メモ

  • 適応過剰のミスか、普通のミスかの見分け方
    • 発生の系統性(規則性があるか)

  • アリストテレスの2つの説
    1. 相反する事柄が同一の知識に収容されていること
    2. 理性は多くの事柄を対象にできるが、欲求は一つの事柄しか取り扱えない

  • 問題の6つの面
    1. 前提条件の問題 → しなくてよい方法を考える【抜本的対策】
    2. やり方の問題 → やり方を変える【現状の補修】
    3. 道具と装置の問題 → 道具を変える【現状の補修】
    4. やり直せればよい → やり直しが効くようにする【被害の管理】
    5. 致命的でなければ可 → 致命傷にならないための備えを講じる【被害の管理】
    6. 認識の問題 → 問題を逆手にとる【抜本的対策】

  • ヒューマンエラーを防ぐ3つの力
    1. 異常検知力:不足すると事故頻発
    2. 異常源逆探知力:不足すると事故復旧コストが跳ね上がる
    3. 作業確実実行力:不足すると通常作業のランニングコストが増加

  • 品質
    • 品質それ自体
    • 追跡可能情報

  • ケラー「ARCS理論」による通達を無力化するもの
    • つまらない
    • 自分に関係ない
    • 自信がない
    • できてもうれしくない



参考文献

  • アリストテレス「アリストテレス全集11巻」
  • フロイト「精神分析学入門Ⅰ」
  • ゲーリー・ベルスキー、トマス・ギロヴィッチ「賢いはずのあなたが、なぜお金で失敗するのか」
  • ヤスパース「精神病理学原論」
  • 大橋昭一、竹林浩志「ホーソン実験の研究」
  • ケビン・フライバーグ、ジャッキー・フライバーグ「破天荒! サウスウエスト航空」
  • T.ギルブ、ワインバーグ「計算機入力の人間学」
  • ワインバーグ「コンサルタントの秘密」
  • 古賀良男「安全担当の実践学」
  • 西沢隆二「ISOマネジメントシステムの崩壊は、何故起きたか」
  • 筒井紘一「利休百話」
  • ドラッカー「ネクスト・ソサエティ」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年09月22日 10:11