栄口の秘密
今日も練習後の部室に、田島の大声が響く。
「まじで!?栄口って、中学ん時彼女いたの!?」
部員達の視線が、いっせいに栄口に注がれた。
「…阿部かぁ~…。」
栄口が睨むと、とうの阿部は知らん顔で着替えをしている。
…ニャロウ。
「なーなー、それ、いつまで付き合ってたの?やった?」
興味津々の田島が栄口にまとわりつく。
部員達も全員が栄口を見ていた。
この様子では、追及を免れるのは無理だな…。
栄口はため息をついて、田島を引き剥がした。
「高校に入る前までだよ。」
「へぇ~。で?やったの?」
気になるのはやっぱりそこか…。
「やってないよ。期待に添えなくて悪いけど、オレは童貞です!」
そこまで言うと、黙っていた阿部が口を開いた。
「えぇ?だってお前、1年くらい付き合ってたんじゃねぇの?
よくシニアの試合観に来てたじゃん。」
栄口が振り返って阿部を睨む。
…くっそ~、中学ん時はオレになんて、まるで興味なかったくせに!
なんでそういうことだけは知ってんだよ…。
栄口は頭を抱えた。今の一言で、田島は余計に興味を持ったようだ。
栄口の肩にがっちりと腕を掛け、顔を覗き込む。
「やったんだろぉ?」
部員全員が自分に注目しているのがわかって、冷や汗が出る。
この感じだと、やってないと言い続けても、田島は信じないだろう。
たったひとこと言ってしまえば、終わりになるなら…。
「…やった。」
栄口の小さな声に、部室がざわめいた。
「うっそ、まじで!なー、どうだった?」
「声でけーよ!これ以上は絶対言わないから、もう2度と聞くなよ!」
「ちぇ~、けち。」
ふてくされた田島の首根っこを掴んで、栄口は言う。
「つーか、言うまでもないと思うけど、絶対篠岡には言うなよな!」
田島はぽかんとして聞き返す。
「なんで篠岡?お前篠岡好きなの?」
「な、なんでって…、あれ?阿部に聞いたんだろ?」
「?」
「??」
「???」
部室中が、不思議な空気に包まれる。
「ああっ!」
静寂を破ったのは、阿部の大声だった。
「お前の彼女って、篠岡…、だったの?」
「え、って、だってお前…。あれ?」
阿部と栄口は顔を見合わせる。
「彼女がいたのは知ってたけど、それが誰かは知らなかった…。
てかオレ、篠岡が同じ中学って、最近まで気づかなかったし…。」
と言うことは…?
「自爆…。」
栄口は床に倒れ込んだ。
部員達が去った後で、残された栄口はまた頭を抱える。
篠岡にばれたら、殺されるな…。
優しい笑顔が怒りに変わる瞬間を思い出し、栄口は思わず腹に手を当てた。
別れた原因?オレの浮気です…。
最終更新:2008年01月06日 19:10