6-30-34 タジチヨ ワンサマー1


「水着に着替えて、プールサイドに集合!」
水泳部が遠泳の合宿で不在のため、今日はプールをかりて特別トレーニング。
水中ストレッチ、歩行、エアロ・・・10人全員、そこそこ泳げるので
スイミングレッスンの後で100Mのリレーも何本か行った。

夏の炎天下、白球を追いかける毎日だったので、この日を皆楽しみにしていた。
プールトレーニングもハードだが、やはり水の中は気持ち良く、皆テンション
も高めであった。 

水谷「ちぇー、モモカンの水着姿が見れると思ったのになー」
西広「まさかシガポが水泳部だったとはねー」
巣山「けっこうガタイもいいわけだよなー」
田島「胸毛すげー!もじゃもじゃ!」
三橋「オ、オ、オレ、きょ、今日、楽しみ、で、ね、寝不足・・・」

と、いささか残念なこともあり・・・お昼になった。

「お疲れさまでーす!」
マネジの篠岡が、切り分けたスイカをお盆に乗せてプールサイドに登場。
田島「あれー?篠岡、今日制服なのー?」
「午前中、父母会だったでしょ?監督と一緒に参加したの。
教頭先生もいらっしゃったから、一応ね」
篠岡はスイカを配りながら笑顔で答える。
「このスイカ、田島家からの差し入れ!いつもありがとう!」

プールサイドを裸足でぺたぺた歩く篠岡の透明なペディキュアがキラキラ光る。

泉(うっ、篠岡の生足が目の前に・・・!)
沖(白い・・・すべすべ、ぴかぴか)
花井(筋肉のバランスがキレーだな)
栄口(うひょ!美脚!!)
阿部(屈むと太ももまでバッチリ見えんな
(ちょっと、くるな・・・。)
(や、やばいな・・・

変化をきたす前に、皆スイカを志村某のようなスピードで平らげ、勢いよくプールに
飛び込んでいった。

「おっ!食休みはもういいのかー?」
「先生はこれから父母会に顔出してくるからなー、午後イチは水中氷オニから
はじめてなー!花井よろしく!」
プールサイドでシガポが手を振りながら退場。

篠岡はスイカの皮が積まれたお盆を片付け、対岸でぎゃあぎゃあと水しぶきを
あげる皆を眩しそうに眺めていた。

(ここは水深、けっこう深いんだよね)
西浦高校のプールは半分が2M、もう半分が1.5Mと変な造りをしていた。
(みんな気持ち良さそう!私も脚を水につけるくらいは・・・)
篠岡は銀の掴まり棒を両手で持ちながら、片足を水に浸した。

(んー!冷たい!気持ちいー!)
(こうみると水深2Mには見えないなー)
身を乗り出してプールを覗き込んだ、その時であった。


サッカーボールがプールに飛び込んできて、篠岡の後頭部を直撃、篠岡は前のめりに
プールへ落ちた。

バシャ!ドボン!と派手な音と水しぶきを上げた瞬間、氷オニに夢中だった全員の
動きが止まった。

水中に浮かぶサッカーボール、そして
(篠岡!!)
皆一斉に対岸でバタバタもがく篠岡に向かって泳ぎだす。

(あ、あ、足が、つ、つかない!)
篠岡は本来泳げるが、すっかり気が動転して半ば溺れていた。

すごいスピードで10人全員が我先にと泳ぎ、篠岡を下から抱えようと深水した瞬間、
目が水中の一点に釘付けになった。

篠岡のスカートは水中でめくり上がり、淡いピンクの下着が露に。
さらに下着は張り付き、肌が透け、中心の黒い茂みもうっすら浮かび上がっていた。


(うっ、うわああああああああ!)
皆、手を伸ばすのを躊躇したその刹那、もがく篠岡を果敢にも抱え上げる漢がいた。


ぐったりした篠岡を肩に担ぎ上げ、プールから上がってきたのは田島であった。

皆、雄雄しい田島の姿に唖然とした。小柄ながら筋肉全部で篠岡を支え、抱える田島は
まるで漫画のヒーローさながらの勇姿であった。

(カッコいいなー!オイ!!)

「オイ!おまえら!ボケっとすんな!!」
田島の怒声で皆我にかえり、わらわらとプールサイドに上がってくる。

プールサイドに仰向けに横たえられた篠岡は2、3回ゴボッと水を吐き出した。
「オイ!大丈夫か!?篠岡!」
篠岡の頭を太ももに乗せ、軽く肩をゆすりながら田島は声をかけた。
「はっ・・・はっ・・・うぅ」
篠岡が細く答える。

篠岡の制服はリボンがほどけかけ、シャツは透けて、肌と下とセットと思われる
淡いピンク色の下着をぴったりと写し出し、
水をたっぷり含んだ重いスカートは、腰と太もものラインをくっきり描いていた。


田島と篠岡を見下ろす形でぐるっと取り囲む西浦メンバー。

栄口(小さくても、意外と胸、あるんだなあ)
三橋(し、下着、ぴ、ピンク・・・)
水谷「人工呼吸は必要ねえの?」
泉「意識あるから要らねえよ、てかそれよりおめーはRICEおぼえろよ」
沖「着替えさせないと、じゃない?」
巣山「だな。とりあえずこのままじゃあヤバいよな(俺たちも)」
西広「うん、保健室って開いてないよね」
阿部「モモカンとシガポに報告しなきゃまずくねえか」
花井「そうだな」

田島「三橋、オレのバスタオルとって」
三橋「う、うん」

田島は手渡されたバスタオルで篠岡の上半身を手早くくるみ、
両腕でしっかり篠岡を抱えあげ立ち上がった。

田島「とりあえず篠岡ウチに運ぶわ。姉ちゃんの服あるし、着替えさせて寝かしとく」
「おまえら、モモカンとシガポに伝えたらオレんちこいよ!」
花井「お、おう!」
阿部「シガポの車で病院に行けるか頼んでみっか」

田島「んじゃ、ゲンミツによろしく頼むぜ!」
田島はウインクひとつ残し、颯爽とプールをあとにした。

田島は水着のまま畑の畦道を突っ切って、縁側から家に入った。
家には誰もいなかったが、少し前まで家族が家にいた気配があった。

居間を通り二階へ上がり、田島は自分の部屋の畳に篠岡を優しく横たえた。

「篠岡?」
「う・・・ここ、田島くん家・・・?」
「そう。今タオルと着替えもってくるから、ちょっと待ってて」
「でも・・・」
「いいからいいから、そのまま、な」

田島は押入れから自分の枕を引っぱり出して、篠岡の頭の下に敷き、
笑顔で部屋を出て行った。

篠岡は寝たままぼんやりと部屋を見渡した。
雑誌、漫画、野球ボール、ダンベル・・・畳の上にはいろんなモノが
散らかっていたが、埃っぽくはなかった。
(ふふ、お母さんが掃除機かけてるのかな?)

篠岡は目を閉じた。
後頭部にわずかな鈍痛があった。水をたくさん吸ったので鼻の奥がツンと痛む。
水の中の浮遊感が残り、体が火照っている。

田島の体を思った。
太い腕、がっしりした肩、成長途中の厚い胸板・・・
小柄だけど、しなやかで逞しい少年の体だった。
(もう少し、あの腕の中にいたかったな・・・)
胸がドキドキする。顔が熱くなる。

すっと襖が開き、田島が戻ってきた。



「これ、姉ちゃんのパジャマ。着替えられっか?」
「だ、大丈夫っ、ありがとうっ」
篠岡は慌てて身を起こした。田島が素早く篠岡の背中を支える。

「? 顔、赤いぜ?じゃあ、着替えたら声かけてな、隣の部屋にいっから」
「う、うん」

胸のドキドキが治まらない。

篠岡はヨロヨロと立ち上がり、制服のリボンをほどいた。
(田島くんの腕の中の、安心感は)

シャツのボタンを外していく。
(田島くんがバッターボックスに立つ安心感と、同じ感じだった)

スカートのホックを外し、チャックを下げる。
(その安心感を、わたしが、独り占め)

下着に手をかける。
(わたしだけにくれた、安心感)

ふたつ結びにした髪の毛をほどき、タオルで拭う。

脱いだ下着、スカート、シャツ、リボンをそのまま畳の上に置いていったが、
(あ、畳、濡らしちゃうよね)
全裸になったところで篠岡は気付いた。
(ハンガー、ないかな・・・)
部屋を見渡す篠岡の目が見開いた。

部屋の襖は開いたまま、田島がじっと篠岡を見ていた。




田島は篠岡を真っ直ぐ見つめながら部屋に入ってきた。
篠岡の正面に立ち、
「篠岡」
と低い声で名前を呼んだ。

篠岡はあまりの驚きで声が出ず、全裸の体を隠そうともせず、
呆然と立ち尽くした。

「おれさ、篠岡が溺れたときさ、一番に助けたかった」
篠岡は鳥肌が立った。

「って篠岡のこと抱っこしてハタケ走りながら思った」
「水ん中では、もう勝手に体が篠岡目がけて泳いでた」
篠岡は息を呑んだ。

「で、自覚した。けど、今言ったらなんだかドサクサっぽくなっから」
「また、あとでそれは言うよ」
田島の目は真剣で、篠岡はその目の中に取り込まれそうな感覚に陥った。

田島は畳の上のパジャマを取り、篠岡の両手に握らせた。
篠岡の肩に手を置き、そっと引き寄せ、
「体が冷えてんぞ。早く着ろ?」
と耳元でさらに低い声で、優しく囁いた。



部屋から出て行こうとした田島が襖のところで立ち止まり、踵を返し、戻ってきた。

固まったままの篠岡の肩を再度抱き、そのまま鎖骨のところにそっと口付けた。
「篠岡のからだ、キレイ。もう、ソーゾー以上に」

首筋にもうひとつ、唇を落とす。
「もう他のヤツの前で、びしょ濡れになるなよ!ゲンミツに!」

田島は顔を離し、ニッと笑った。



田島が階段を降りたタイミングで、外がガヤガヤと騒がしくなった。
聞きなれた声が飛び交うのに、篠岡はハッと我に返り、急いでパジャマを着た。
震える手で、ボタンをかけていく。

(田島くんの目、バッターボックスに立つときと、同じだった)
やっとの思いでパジャマを着て、へなへなと座り込む。
階下から大人数の声が家の中に流れ込む。

(田島くんに、裸、見られた・・・ みんな、にも・・・?)
(自覚? あとで、なにを、言うって・・・?)
(えええええええええええーっ!?)

永遠に続きそうで、一瞬のワンサマー。







最終更新:2008年01月07日 00:09