6-129-142 タジチヨ(ハマ)2 たーじまはーる 後編 ◆VYxLrFLZyg
「全然、返事がこないよ。どうしよう田島くん。」
「もっと、エロいメール送ってみよーぜ!」
「エ、エロ?」
「浜田を思って毎晩オナニーしてるとか。」
「オ!? そ、そんなことしてないよ!」
「ウソでもいいじゃん! 送れ送れ!」
田島は篠岡の手からぱっとケータイを奪い取り、
焦って取り返そうとする篠岡をひょいひょいとかわして、素早くメールを浜田に送信した。
「送っちゃったもんね!!」
「た、田島くん!! ひどいよ!!」
にししっと笑う田島に、篠岡は真っ赤になって抗議するが、田島は全く悪びれない。
毎日、篠岡は昼休みグラウンドで、田島と相談しながら浜田にメールを送る。
見事なまでに浜田からの返信は一切ない。
田島と決めたひたすらメールを送る、という作戦に浜田からのリアクションはゼロで。
ここまで見事にシカトされたら、一体どうすればいいのだろう?
「もう、こないでっていっちゃったからかな・・・。」
ぽつりと呟いた篠岡の言葉に、田島がピクリと反応する。
「今、なんつった?しのーか。」
がらりと表情が変わった田島に篠岡はすこしビクっとなったが。
「私、浜田さんに振られた直後に、もう部活に来ないでって、言っちゃったの・・。」
田島がすっと無表情になって、篠岡を黙って見つめる。
「なんだよ、それ。ヒッデー。」
田島の言葉に、篠岡の心がすうっと冷えていく。
「だ、だって・・・。」
「部活来るなってヒデーよ。浜田は義務なんてないのに顔出してくれてんのに。」
篠岡の手が小刻みに震え出し、目尻には涙が浮かび、
田島から目線を逸らして、地面を見つめる。
「だって、辛いんだもん。浜田さんが視界に入る度に、胸が痛いの。
部活中にそんなの、耐えられないと思って。」
「浜田はオレらのために応援団作ってくれて、練習にだって出てきてくれるのに、
全然関係ないのにそんなことやってくれてんのに、しのーか、それはねーだろ。」
「だ、だって・・・。」
「浜田のやってくれてること、否定するようなこというか?
オレ、そんなこといわれたら傷つく。ちょっと、しのーかのこと見損なった。」
田島の言葉に、篠岡は弾けた様に声を荒げる。
「田島くんにはわからないでしょう!?
自分が好きな人が、自分を好きになってくれないの、
とっても辛いんだから!!」
決して田島の目を見ずに、悲壮な声で叫ぶように訴える篠岡を、
田島は感情の浮かんでいない目でじっと見つめて。
「わかるよ。そんなの。」
「ウソ。適当なこと言わないでよ。」
「しのーか。自分の気持ちだけが大事なのか?」
田島の言葉に、篠岡はぐっと言葉に詰まる。
「自分が浜田好きで、浜田を振り向かせたいのに、なんで来んな、とか言えんの?」
「だ、だって・・・。私を見てくれないなら、視界にも入って欲しくない!」
「なんだよ、それ、勝手だな。 浜田、絶対傷ついた。
ヒドイこといって、自分だけが辛いなんて最低だ。」
篠岡の両目からは、すでに涙がぽろぽろと溢れていて、地面から視線を上げず、
田島を見ることもしない。
「自分だけが、カワイソウって思ってんのか?だったら、浜田だってカワイソウだ。
好きになられて、悩んでる。応援団だって今後しづらくなるんじゃねえ?」
俯いてひたすら涙を流す篠岡に田島はそう声をかけて、篠岡の傍から立ち去って。
小さくなっていく田島の姿を篠岡がぼんやりと眺めていた。
浜田は暑い中冬服を着込んで、声を張り上げていた。
試合中、ずっとベンチで、頭上から響いてくる浜田の声を聞いていて。
あの人と、自分は同じなんだと思った。
野球が好きで、でも野球ができなくて。
がんばるみんなに自分を重ねて、夢を託したいんだ。
そう思ったら、目が離せなくなった。
年上のせいか、みんなより数段男っぽくて、大人っぽくて。
でも泉とじゃれてるときはなんだかかわいくて。
どきどきした。
あの視界に、自分を入れて欲しくて思いを伝えてみたら、その場でフラれて。
それからは、ただただ、辛い。
メールの返信がなくて、辛い。
姿を見かけたら、胸が締め付けられそうで。
浜田が本当は何を思って応援団をしているのかは、確かにわからない。
もしかしたら、同じ思いではないのかもしれない。
そこまで思考したところで、篠岡は自己嫌悪に襲われ始めた。
浜田がどう思って自分をフったかを、考えたことがない。
告白は迷惑なものだったのだろうか。
先ほどの田島の心が頭の中で鳴り響いて、ぐるぐると回り、涙は溢れ続けてとまらない。
浜田を傷つけて、それでも好きでいるなんて、最低のこと。
確かに自分の気持ちでいっぱいで、自分の言葉で浜田がどう思うかなんて
考えたこともなかった。
勝手な好きになって、一方的に押し付けて、一方的に拒否をして、
しつこくメールなんて送って、自分だけがカワイソウと浸っていた。
好きになられて、浜田も悩んでる・・・?
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っても、
篠岡は、グラウンドに一人、座り込んでいた。
5限目をサボっても、篠岡は部活にはきちんと顔を出した。
授業に出なかったことに対して、花井らから何かを聞かれるかと思ったが、
不思議と誰も何も言ってこず、少し違和感を覚えたが、それどころではない篠岡は、
心を平静に保つことに必死になっていた。
グラウンドに向かう頃、視界の端に田島が映って、ビクっと思わず姿を隠したくなったが、
それより早く田島に気づかれ、駆け寄られた。
「しのーか。さっき、ゴメンな。」
ひどく傷ついた表情で謝ってくる田島を見て、篠岡の胸に安堵感と罪悪感が広がっていく。
「そ、そんな!わ、私もごめんなさい。私・・・。」
「うしっ!じゃあ部活いこーぜ!」
にっと笑って篠岡の手を引っ張ろうとした田島の手を、篠岡は逆にぎゅっと握り返して。
「あ、あの、田島くん。後でちょっと話せない?」
「ん?部活終わったあとか?遅くなるけどいーのか?オレはかまわねーけど。」
「うん。私も、多少遅くなってもへーきだから。ありがとう。田島くん。」
いつも通りの練習風景が広がっていたが、篠岡は妙に田島を目線で追ってしまっていて。
グラウンド整備の時に西広と田島がこそこそ話していたのが、妙に目に付いた。
「しのーか! オレんチ、くる?」
練習後、まだみんなが揃っているのに大きい声でそう田島に尋ねられて、
篠岡は焦って、田島を引っ張っていった。
そんな二人の後姿を部員が微妙な目線で眺めていたが、篠岡は気づかない。
「そ、そんな大きい声で言わないで!」
「そうか?じゃ、いこーぜ!」
そのまま、ぐいぐいと篠岡を逆に引っ張り、篠岡はしぶしぶとついていった。
田島の家についた時、女の子を連れて帰ってきたことを家族が一斉にはやしたて。
かわるがわる顔を見に来る田島の家族に、篠岡はひたすら頭を下げ挨拶する。
やっと田島の部屋に着き、篠岡はほうっとため息をついた。
「なんか、すごいね。田島くんの家族。」
「そうか?こんなもんじゃねえ?」
「私の家は親と妹の4人だけだもん。全然違うよ。」
男の子らしい、物が散らかった状態の部屋で、田島は足でざくっと物を端に寄せ、
篠岡が座るスペースを作る。
「田島くんって、最近西広くんと仲いいね。」
何気なく篠岡が質問したら、田島は大げさにびくっとなって、焦り出した。
「そそそそ、そーか?フツーだぞ。」
「そう?よく二人でいるな~と思って。」
「いや、フツーだ。で、篠岡。オレに話したいこと、あるんだろ?」
田島は冷や汗を流しながら、必死に話題を逸らそうとして、
いきなり核心をついてしまった。
見る見るうちに篠岡の顔が曇っていく。
「・・・昼間のことで、あれから考えたの。確かに私、
自分のことしか考えてなかったなって。浜田さんに謝らなきゃって・・・。」
「そうだな。謝ったらいいと思うぞ!」
田島はにっと笑いかけて、篠岡はその笑顔に暗い気分が少し癒されたのか、
ぎこちない笑顔をかえす。
「私、あきらめるね。浜田さんのこと。」
「・・・それでいいのか?」
「そうするべきなんだと思う。昼間の田島くんの言葉でそう思った。
だから、あきらめる。好きな気持ち、どうやればあきらめれるのかわからないけど。」
「・・・・・。」
田島は無言になって、篠岡をじっと見つめて。
篠岡は目線を畳の上に固定していて、田島の様子には気づかなかった。
「世の中ってさ、どうしようもねえことってあるよな。」
突然話が切り替わって、篠岡は少し戸惑って、田島を見上げる。
そこには、普段からは考えられないほど強い意志を瞳に浮かべた田島がいた。
「身長伸びねえし、好きな女はオレの方見ねえし、どうがんばったって
無理なことってどうしてもあるよな。」
篠岡は、田島の言葉の重さよりも、内容が気になってしまって思わず反射で聞き返した。
「た、田島くんって、好きな人、いるの!?」
「いる。」
田島は無表情に篠岡を眺め。
「田島くんを見ないって、そ、その、振られたの?あきらめたの?どうすればあきらめれるの?」
篠岡は田島ににじり寄りながら、矢継ぎ早に質問を重ねていく。
掴みかからんばかりの篠岡を、田島は軽くいなして。
「さあ、振られてんのかな?ま、コクってないし。あきらめてもねえけど。
そういう意味ではしのーかってがんばったよな。浜田にコクハクしたもんな。 すげーよ。」
少し寂しそうな表情で篠岡を褒める田島に、
篠岡はなぜか胸が締め付けられるような感情に襲われた。
田島に、こんな顔をさせる女の子は、一体誰なんだろう。
「しのーかが、浜田のことはもうどうしようもねえことだって、あきらめれるんのなら
それでもいーと思う。でもそうじゃないなら、がんばれ。納得するまで、足掻け。
自分でケリつけなきゃ、ダメだ。浜田のせいにして、自分がカワイソウって思うのは
もうやめとけ。な?」
田島の言葉は、恋に傷ついた篠岡の心に、一筋の光を差し込こんだように、
暗い気分を晴れさせて。
同時に、自分の行動を振り返って、再び自己嫌悪に陥る。
「私・・・最低だね。」
「しのーかは、がんばってるよ。ただ、浜田に悪いと思うなら謝れ。」
「うん。そうだね。謝って、そして。・・・・あきらめる。浜田さんのこと。」
「・・・・そっか。」
「ありがとう。いろいろ。田島くんも好きな人に振り向いてもらえたらいいね。」
そう口から出した途端、再び胸の奥が締め付けられるような感情に支配される。
篠岡は自分の胸のうちに戸惑って、そんな自分にさらに自己嫌悪に陥る。
思わず田島から目をそらし、畳の目に視線を固定させた。
浜田を好きで、田島に相談に乗ってもらったのに、
田島の好きな人に、子供じみた嫉妬をしている。
汚い、自分の、つまらない優越感。
田島にさっきみたいな目をさせる女の子は、どんな子なんだろう。
そう思うと胸をかきむしって叫びたい気持ちになってくる。
汚い、独占欲。
自分はただのマネジなのに、何を思い上がっていたんだろうか。
部員のみんなに一番近い女の子は自分とでも思っていたのだろうか。
こうやって、家にまで来たりして。
「しのーか。どうした?大丈夫か?」
急に俯いて黙りこくってしまった篠岡を、田島は心配そうに覗き込んで。
「なんでもないよ。田島くん本当にありがとう。
私がんばるよ。今までいろいろ迷惑かけてごめんね。
田島くんの恋が実ること、私祈ってるよ。田島くんみたいな人、
好きにならない女の子なんて、いないよ。大丈夫!がんばって!」
「本当か?しのーか。そう思う?」
篠岡は精一杯の笑顔を田島に向けて。
「うん。田島くんは最高にカッコイイし。素敵だよ!女の子はみんな田島くんのこと好きになるよ!」
篠岡がそういった途端、田島は弾けた様に篠岡をぎゅうっと抱きしめた。
突然の田島の行動に、篠岡はびっくりして、言葉を失う。
「じゃあ、しのーか、オレのこと・・・好きになってよ。」
耳元で囁かれた言葉に、篠岡はさらに混乱して、言葉が出てこない。
今起きていることを整理することにしばし気を取られていたら。
田島の唇が、篠岡の唇を強引に塞いできた。
田島の手が篠岡の頭をかき混ぜて、耳に触れ、首筋から背中にかけて撫でていく。
唇を押し付けられたまま、混乱したまま硬直していた篠岡は、
背中のこそばゆい部分に田島の手が触れたせいで反射的に体が跳ねた。
「ひゃあああっ!!」
篠岡の叫びに田島はびくっとして思わず手を離し、篠岡を開放して。
篠岡は顔を赤くして、背中に手を回しこそばゆい感覚を飛ばそうと、がしがし手を動かす。
「し、しのーか?」
「せ、背中・・・。だめ・・・。」
「悠一郎!どーした!?」
そんな声と共に田島の家族がなだれ込んできて、先ほどまでの雰囲気はどこかにいってしまった。
「じゃーな。しのーか。」
「うん。ありがとう。自転車ごと送ってもらっちゃって。」
田島家所有の軽トラから手を振る田島を姿が見えなくなるまで見送って、
篠岡は自分の家に入った。
一人になって冷静に戻ると、田島とのやり取りが急に頭の中に浮かび上がってきて
自分の部屋に入ると同時に、腰が抜けて、ずるずるとへたりこんでしまう。
顔に血が集まってきて、思わず両手で頬を押さえた。
田島の小柄なのにしっかりと筋肉質な身体が自分を包んだ感覚が身体に浮かび。
今になって心臓が早鐘を打ち出して、いっそ痛いくらいに血が巡っていく。
暖かい胸板、頭と耳に触れた手、肩から背中に流れた熱と身体を包んだ腕。
そして、唇に触れた、田島の、唇。
田島が好きな女の子とは、自分のことだった。
そんな田島に向かって、自分は恋の相談をしていたなんて。
そんなそぶり一つも見せずに、親身になってくれた田島。
昼間、酷くなじった自分を、田島はどう受け止めただろう。
田島が静かに答えた、「わかるよ。」その時の口調と表情を思い出して、
篠岡は一気に罪悪感に襲われる。
手と足の先から熱が一気に引いて、冷たくなる。
なんて、最低なんだろう。
なんと、ひどいことをしたのだろう。
田島も浜田も、自分のせいできっと深く傷ついた。
なのに、田島が好きな女の子が、自分であるということに
こんなにも心が躍って、嬉しいと思うなんて。
汚い、最低、はしたない。
篠岡は、ひたすら自分を責めて、嗚咽をもらしながら、ベッドに倒れ臥して、声を枕に吸い取らせていった。
冷たい水でどんなに顔を洗っても、泣きはらした瞼は赤く腫れたままで
身体も泥のように重かったが、篠岡は気力で身体を奮い立たせて、朝練に出た。
顔を見られたくないので、早々に差し入れを数学準備室に運び、
志賀に顔をなるべく見せないように、だらだらと作業する。
そうしてグラウンドに近づかないでいい作業を必死で探して、
なんとか朝錬の終わる時間になったので、ほっとため息をついて教室に向かった。
とぼとぼと数学準備質室からの道のりを歩いていたら、
廊下の角から田島が飛び出してきて、篠岡は気まずさで真っ青になる。
「お、しのーか。発見!」
どうやら篠岡を探していたらしい田島は、にっと篠岡に笑いかけたが、
固まってしまった篠岡を、怪訝そうに見つめて。
篠岡の目が、腫れていることに気づくと、表情は一気に険しく変化した。
無言で篠岡の手を引っ張り、教室とは反対の方向に足を向ける。
1限目の始まりを告げるチャイムが鳴り、しばらくして西広のケータイが震えた。。
『田島がいねー。』
泉からのメールに、西広は小首をかしげて、授業中なのに花井にメールを打つ。
『篠岡、教室いる?』
返信はすぐにきて。
『いや、いない。』
西広は、数秒目を瞑ってから、そっとケータイを閉じ、授業に集中し始めた。
授業が始まり、すっかり人気のなくなった校内を二人は忍び足で移動し、
野球部の部室までやってきた。
静かな空間で、田島がゆっくり篠岡を振り返る。
「なんで、泣いてんの? しのーか。」
すでに篠岡の目からは涙が伝い落ちていて、田島は硬い声で篠岡に問いかけた。
「田島くん・・・。ごめんなさい・・・。」
「何がだよ? わっかんねえ。」
田島は部室の端に置かれている椅子に篠岡を座らせ、自分は机の上に腰かけた。
そのまま、じっと篠岡を見下ろして、黙っている。
「・・・私、田島くんを、傷つけてきたよね?」
「え? なんで?」
篠岡の言葉に、田島は心底わからないという風情で、首をかしげる。
篠岡は田島の顔を見上げれずに、目線を田島の靴に固定させてまま言葉を続ける。
「田島くんの気持ちを知らずに、ひどいこと、言って・・・。ごめんなさい。」
「しのーか、なんかオレに言ったっけ?」
能天気な田島の声に、篠岡はやっと顔を上げて、田島の顔を見た。
田島はにっと笑って、手を伸ばして親指で篠岡の涙を拭う。
「よくわっかんねーけど、気にすんな!」
その笑顔に、篠岡はさらに胸が苦しくなって、より涙をあふれ出す。
「うわっ! なんでさらに泣くんだ!?」
「田島くん、どうして笑顔でいられるの?私だったら、私の仕打ち、耐えられないよ。
どうして私に親切にしてくれるの? 私にそんな価値なんて、ないよ!」
田島は満面の笑顔を篠岡に見せて。
「昨日も言ったけど、しのーかのこと好きだから!」
その田島の笑顔の眩しさに、篠岡は胸が高鳴るのを覚え、
そんな自分をより汚く感じてしまい、とうとう顔を覆って泣き出してしまった。
「田島くんに・・・こんなひどいこと、してきて、私、申し訳なくて、応えられないよ・・・。」
田島は一気に雰囲気を硬く変化させ、篠岡の両手を無理やり掴んで開かせて
ぐっと顔を近づけて篠岡を目線を合わせる。
「しのーか。また自分をカワイソウって思ってるな。しのーかはオレにひどいこと、
全然してねー。オレの気持ち、勝手に決めて落ち込むなって。」
「だ、だって・・・。」
「だってじゃねーよ。オレ、全然傷ついてなんかねーのに、なんで傷ついたって、決め付けんの?」
「だって、私なら、きっと、耐えられない・・・。」
「だから、自分の気持ちでオレを決め付けんなって。
オレはしのーかがしのーからしくしてればそれでいーんだ。
浜田のこと、中途半端にあきらめて、引きずるのはヨクねーって思った。
だからいろいろ協力した。浜田のこと、忘れられねーのか?」
吸い付けられように目線は田島から逸らさず、かすかに篠岡は首を振る。
「オレのコクハク、メーワクだった?」
再び篠岡はかすかに首を振って。
「じゃ、うれしいって思ったか?」
篠岡は首を完全に俯かせて、田島の視線から逃げた。
「私・・・。浜田さん、のこと好きだ、ったのに・・・。自分が、汚くて 嫌になっちゃう・・・。」
「なんでだよ?オレの気持ち、迷惑か?」
篠岡は俯いたまま、首が取れそうな勢いで横に振り、篠岡を見下ろす田島の目に
ほっとしたような感情が浮かぶ。
「・・・オレのこと、好き?」
篠岡は俯いたまま、じっと動かずに。
「・・・答えられない。」
「なんでだよ!?」
「だって・・・。私・・・汚くて、はしたなくて・・・。」
「いってる意味わっかんねー!!」
田島は手を掴んでいた両手を離して、篠岡の両頬を挟み込み、無理やり顔を上げさせた。
必死な表情の田島を見て、篠岡はさらに胸が痛くなり、目線を外す。
「だって・・・。ほんの少し前まで浜田さんが・・・なのに、今は田島くんが・・・。
そんな、ころころ、気持ち、かわっちゃう子、だらしないよ・・・。」
「だから、自分をカワイソウって思うな!! しのーか!!
オレは平気だから!しのーかに好きになって欲しいっていうオレの気持ちを大事にしろ!? なっ!?」
田島の言葉に、ふらついていた篠岡の目線が、じっと田島の目に固定されて。
「・・・田島くん・・・。」
「オレのこと、好き?」
篠岡は唇を震わせて、何も答えない。
「しのーか!素直になれ!オレのこと、好きか!?」
「・・・・っ!!・・・・っ好き!」
顔をくしゃくしゃにして、搾り出すように必死に答えた篠岡に、
田島は奪い取るように自分の唇を篠岡の唇に押し付けた。
貪るように田島の舌が篠岡の唇を割り開いて、侵入し、かき混ぜる。
両腕が篠岡の両肩を包み込み、ぎゅっと抱き寄せ椅子に座っていた篠岡を立たせて、
自分も机からおりて、二人の距離をゼロにした。
10センチほどの身長差は、触れる密度をより高くして田島の背中に篠岡の手が回る。
「しのーかが、落ち込む必要、ねー。」
「汚いって思うな。」
「しのーかは、キレーだ。」
「それでも落ち込むなら、全部オレが引き受けてやる。
自分を責めるな。辛いならオレのことだけ考えてろ。な?そうしろ?」
唇を重ねながら囁かれる田島の言葉は、篠岡の自己嫌悪を少しづつ洗い流していく。
田島の唇が首筋に降りていき、篠岡はぎゅっと田島の首に抱きついて。
「私、田島くんを好きになってもいい?」
「あったりまえだ!!」
「私、田島くんが好き!」
田島が顔を上げて、正面から篠岡を見つめて、目を閉じてきゅうっと身震いした。
「すっげーっ!! 嬉しい!!オレもしのーか、好きだ!!」
再び唇を合わせて、今度はお互いが貪りあうように舌を絡ませあう。
お互いの身体をめちゃくちゃに撫で回し、存在を確認しあって。
ふと、田島の手が篠岡の背中の敏感なところに触れてしまい。
「ひゃああああ!!」
篠岡は手を突っぱねて田島から逃げようとしたが、田島はニッと笑って、さらに強く羽交い絞めにし、
篠岡の唇を塞いで声を出せないようにしてから、再び背中を撫でた。
「っっ!!・・・っ!!・・・!」
田島の腕の中で篠岡が必死に身体を動かすが、どう足掻いても戒めから抜け出せず、
やがて、抵抗する力もなくなったのか、力が抜けた。
足が立たなくなった篠岡を田島はそっと椅子に腰掛けさせて、首筋に唇をなぞらせ
そっと服の上から篠岡の胸に触れた。
「た、田島くん・・・。」
敏感なところを散々なぞられ、息も絶え絶えになった篠岡は、まるで抵抗できない。
「オレ、とまんねー。ごめん、しのーか。」
篠岡のシャツのボタンを強引に外していき、下にきていたキャミをたくしあげ、
ブラも強引にずらし、直に触れる。
椅子に座った篠岡の前に膝立ちになると、唇で篠岡の胸の突起に吸い付いた。
「んっ・・・。」
ピクリと反応した篠岡の手が、田島の頭をぎゅっと抱きしめて、田島の行動を促す。
田島の手がスカートの中にもぐり、荒々しく撫でてくる。
強い刺激に篠岡は身を震わせ、ますます田島にしがみついて。
田島の手が下着の端を掴んで脱がそうとする動きに、身を硬くするが、
田島の手が腰に回って、強引に浮かされするっと下げられた。
ひんやりした空気が、スカートの中に流れていき、篠岡は羞恥心で真っ赤になった。
「た、田島くん・・・。その・・・。」
「あっ!オレ、あるぞ!」
田島の行動に抵抗したくて発した篠岡の言葉は、別の意味で捉えられたらしく、
田島はぱっと篠岡から離れ、自分のロッカーをがさごそし、小さい袋を取り出した。
「な、なんで!?」
篠岡が一瞬素に戻ってあんぐりと田島に質問すると、にしっと笑う田島がその袋を左右に振った。
「もらった。」
誰から?と聞こうとした篠岡は、再び田島に唇を塞がれてチャンスを失う。
田島の手が直に背中に触れて、篠岡の体が大きく跳ねる。
「しのーか。背中よえーよな。」
少し意地悪そうににっと笑った田島は、篠岡を椅子からおろさせて
座の部分に手をつかせた。
「た、田島くん?」
「いーから。」
すっかり把握した篠岡の敏感な部分に今度は唇で触れていく。
篠岡の身体はさらに大きく跳ねるが、田島は体全体で押さえ込んで逃がさない。
両手で自分の口をきつく押さえて必死に声を堪える篠岡を、田島は満足そうに見下ろして
「ふっ・・・・んっ・・・・・、た、田島くん・・・。」
強い刺激に身を震わせる篠岡のこらえ切れずに漏れる声が、
田島の背筋をぞくっと刺激する。
手を再びスカートの中にもぐらせ、今度は直に篠岡の中心に触れる。
「んんっ・・・!!」
「濡れてる。すげえ。」
田島の熱っぽい囁きは篠岡の耳に届き、さらに羞恥心を湧き起こさせ。
「しのーか、いい?」
それでも、篠岡は、わずかに首を頷かせた。
ぴりっと袋を破る音がして、篠岡が何気なく振り返ると、田島が四苦八苦しながら装着してるところで。
「オレ、実は初めてー。」
ぎこちない手つきでかぶせていく田島に、篠岡は覚悟を決めた。
「そんなの、私もだよ。」
「痛くしか出来ねーかもしれねーけど、いいか?」
申し訳なさそうな田島の言葉に、篠岡は満面の笑みを返して。
「田島くんがくれるものなら、何だっていいよ。
こんな私でもいいっていってくれる田島くんが、なにより大事だよ。」
篠岡の返答に、田島も満面の笑みを返して。
ゆっくり篠岡の脚を開いて、田島自身を押し付けていく。
「んっ・・。」
「痛いか?」
自分の身体を引き裂こうとする力は、篠岡に強い痛みを与えるが、必死に我慢して。
「へいき、だよ。」
さらに田島が侵入し、痛みが増す。泣き叫びたくなる激しい傷みを篠岡はさらに堪えて。
すべてを受け入れた。
「へーきか?しのーか?」
「・・・へいき。」
「しのーか。オレのこと好き?」
痛みで閉じていた目を開いて、篠岡はまっすぐ田島を見上げる。
「田島くんが好き。私を好きって言ってくれる田島くんが大好き。
私も答えたい。だから・・・動いて?」
「しのーか!!」
篠岡の言葉に、田島はがむしゃらに腰を動かし始めた。
篠岡の身体にさらに強い痛みが駆け巡るが、田島の首にしがみついて、必死に耐える。
「あっ・・・んっ・・は!!・・・っ!」
「しのーかっ!・・しのーか!」
田島の囁く声が篠岡の正気を保っていたが痛みは和らぐことはなくさらに激しくなる。
篠岡の意識が、痛みの余り遠くなり始めた頃、田島が果てて、動きが止まった。
血が混じったスキンを自身から外しながら、田島は元気のない声で篠岡に謝った。
「ゴメン。全然優しくできなかった。痛かったんじゃねー?」
「ううん。平気。」
篠岡は自分から田島に抱きついて、軽く唇を触れさせて。
「だって、こんなにも幸せ。」
そう泣き笑いの表情で田島に微笑む篠岡を、田島はぎゅっと抱きしめ返して。
「オレも、すっげー幸せ。」
二人はお互い見つめ合って、ふひっと笑いあった。
浜田はその日、2限目から顔を出した田島に、昼休み呼び出しをくらってしまった。
「浜田!ちょっといいか!?」
にんまりした笑顔の田島に声を声をかけられて
顔を引きつらせながら、びくびくとついていくと、屋上では篠岡が待っていて。
篠岡が浜田の姿を認めた途端、静かな表情でゆっくりと自分に向かって頭を下げるのを見て
浜田は、やっといつもの日常に戻れそうだと、ほっと胸をなでおろした。
最終更新:2008年01月06日 22:00