6-182-190 タジモモ 田島×モモカン ◆VYxLrFLZyg


西浦高校軟式野球部のマネジを努めている女子高生は
練習後のひと時を、小さい男の子とキャッチボールして過ごしていた。

いつの頃からか、グラウンドに現れて自分も混ぜろと騒ぎ立てるその子の相手を
マネジ一人に押し付け、仲間は後片付けをすませるのが日課になっていて。
「ゆーくん。うまいうまい!」
「とーぜんだっ!」
舌ったらずな声で、自慢げにボールを投げ返してくる姿はとても微笑まく、
日を重ねるごとにうまくなっていくその様子を見るのもとても楽しいものだった。

「ゆーくん。私達、明日は試合だからここには来ないよ。」
「試合!?ねーちゃんは出るのか!?ホームラン打てよ!」
大きな目をきらきらさせて自分を見上げる男の子に、マネジは寂しそうな目を向けて。
「私は、出られないのよ。女だからね~。」
「ええ!?なんでだ!?だってねーちゃん、一番うまいのに!?」
「あはっ!ありがとう!でもね~、仕方ないんだよ。」
「なんでだよ!?」
意味を理解できずに、頬を膨らませて拗ねる姿を、
マネジは微笑ましく思い、小さな頭に手を置いてくしゃっと撫でる。
「ここで野球やる以上は、私は公式戦にはでれないのよ。ま、あきらめてるから大丈夫。
 最初からわかってことだし、何より私はマネジだからね!試合にはでないものよ!
 みんなのサポートなの!」
普通のマネジは、ノックはしないと思うが、彼女の中では自分は普通の範疇らしい。
「そんなのっ、おかしーぞ!いっちばんうまいやつが試合出れないなんて!」
まるで自分のことのように、目に涙までためて憤ってくれる男の子をマネジはぎゅっと抱きしめた。
「ありがと。その言葉だけで十分だよ。」
単純な謝辞をこめたその抱擁は、いたずらで返される。
男の子はその小さな手のひらを目いっぱい開いて、マネジのムネを鷲掴みにした。
「うひゃっ!こらあ!このエロガキ!!」
マネジはゲンコツを男の子に落とそうとしたが、抜群の反射神経にあっさり空振りさせられて
「へへーん! オレを殴れるもんか! ねーちゃんおっぱいでっけーな!」
両手をワキワキと動かして、離れたところからからかう男の子に、
マネジは鬼の形相で駆け寄り、あっさりその頭を捕まえて、ぎりぎり締め上げた。
「いったああああいいい!!」
「お仕置きよ!反省しなさい!」


最初はグラブだけ持参で来てた男の子は、そのうちマイバットも持参で来るようになって。
どんどん上達していく男の子を、うらやましく思いながら、空き時間のほとんどを
彼に付き合ってあげるようになっていた。
非日常的な男の子との時間がそうさせるのか、ごまかしは通じないという直感がそうさせるのか、
疑問に思うことを直球で聞いてくる男の子にマネジは少しづつ、男の子に心を開くようになっていた。

「女はなんで試合でれねーの?」
「女子野球もあるんだよ?でも、ここにはないからねー。でもこの学校に来たかったし、
 野球も本当は硬式のほうがよかったんだけどね~。」
「こうしき?」
「ゆーくんも野球するなら硬式するといいよ!そうだ!中学入ったらシニアにしな!
 そうそう、今からリトルリーグ入りな?キミならすぐに4番打者だよ?」
「いや、いーや。ねーちゃんとする野球のほうがおもろいし。」
「あはっ!そりゃありがと。でもね。同年代とする野球も大事だよ?チームプレイは肌で覚えていかないと!
 甲子園いくなら、今からがんばらないとね。」
「こうしえんってなんだ?」
「野球する少年がみいんな目指す、聖地だよ。私も男なら目指してたね!」
「男じゃなくたって、目指したきゃ目指しゃーいーじゃん。なんでしねーの?」
「ははっ! そうだね。目指したかったね。」

理解できないという目で自分を拗ねたように見つめる男の子に、マネジは寂しそうな目で返して。
「目指したかったな・・・。」
そうこっそり呟いて、マネジは男の子の小さな頭に手を置いて、くしゃりと撫でた。


1年の夏から顔を出し始めた男の子は、2年になる頃にはリトルリーグに入ったようで
回数こそは減ったが相変わらずグランドに現れて、マネジとのキャッチボールを要求する。
「オレ、今日全打席ヒットだったぜ!」
「すっごい!やるやるう!」
試合の結果報告をマネジにするのを忘れない。
3年になってもそれは変わらず、会うたびに日に焼けて、
逞しくなっていく男の子の成長をマネジはひたすら微笑ましく見守っていた。



ある日、マネジは、日の暮れかけたグラウンドで一人立ち尽くしていて、そこに男の子が駆け寄ってきた。
「どうした!?ねーちゃん!?」
「ああ。ゆーくん。久しぶりだね。」
マネジの目から溢れる涙を見て、男の子はびっくりして思わず掴みかかる。
「ど、どーした?誰かにいじめられたのか!?」
自分腕を握るその小さい手をマネジはそっと外して、にこっと笑顔を向ける。
「違うよ。今日最後の試合負けちゃってね。3年間終わったなあって、浸ってたのよ。バカみたいでしょ?」
「負けたのか・・・。」
「まぁ、負けるわよね。そんなに強いチームじゃ、なかったし。
 いいチームだったけど、やれること全部、やったわけではなかったしね・・・。」
「なんだよ?それ。コーカイしてんのか?」
「コーカイ、してないよ。全然。みんな出来る限りのことはやったよ。」
「じゃあなんで泣いてんの?」
「まだ、キミにはわかんないだろうけどね。感傷ってもんよ。」
いつものように男の子の頭に手を置いて、クシャリと撫でようとすると、その手を急に掴まれた。
彼女がびっくりして見下ろすと、小さい身体に燃え上がるような光を目にたたえ、まっすぐ彼女を貫いていた。
「ウソだ。オレはバカだけど、やりとげてマンゾクしてたら泣かねーよ。
 フツー笑うだろ? 泣くのはくやしいからだ。コーカイしてるからだ。
 ねーちゃんは自分の野球、やりきれなかったんだろ? だから泣いてるんだ。」
自分よりはるかに小さい男の子に、自分でも気づいていなかった心の内を読まれて、彼女は愕然とした。
「こ、子供のくせに・・・。」
思わず、男の子が一番嫌う言葉を彼女は呟いてしまい、男の子の柳眉が跳ね上がる。
「子供だけど、オレだっておとこだ!」
そう叫んで、男の子はどんっとマネジを押した。
「きゃっ!」
思わずバランスを崩したところで、つかさず腕を引っ張り、地面に引き倒して。
油断していたせいで、マネジはあっさり倒れてしまった。
男の子は倒れたマネジに馬乗りになり、無理やり顔を捕まえ、がむしゃらに自分の唇を彼女の唇に押し付けた。
その行動に色めいたものは何も感じなかったが、男である証明が、無理やりこういった行為に走ることならば、
きつくお灸をすえる必要があるとマネジは判断し。
自分に馬乗りになったまま唇を押し付け続ける男の子の頭をがしっと握り、締め上げた。
「いったあああああ!!!」
「小さくても、男なら、女に、無理やり、こういうこと、しちゃ、いけないよ・・・?」
凍りつかせるほどの冷たい視線で、ゆっくり目を覗き込んで一言づつ区切りながら言い聞かせると、
おびえたようにうんうんとうなづきながら、号泣して、謝罪を口にする。
「ご、ごめんなさああいいい!!」
「わかればよろしい。」
怖い笑顔でにやっと笑いかけた後、頭を解放して、くしゃりと撫でる。


「さて、もう日も暮れるし、帰りなさい。」
「明日、オレと野球しよう。ねーちゃん。」
さっきまで泣いてたカラスがもう笑ったように、にっかりと笑顔をマネジにむけて約束をせまる。
「もう、引退なんだよね。明日から練習にはこないのよ。
 だからゆーくんとここで野球はもうできないんだよね。今まで、ありがとう。」
頭に置きっぱなしだった手を、さらにくしゃくしゃと撫で回して、マネジは少し寂しげに微笑んだ。
「なんでだよ!それ!」
みるみる男の子の頬が膨れていく。
「あしたっから受験勉強なの。がんばらなきゃいけないのよ。ごめんね。」
「オレ、もうねーちゃんと野球でできねーの?」
「たまになら、いいよ? キャッチボールでもしましょうか?」
「オレ、ねーちゃんとちゃんと野球したい・・・。そうだ!!」
男の子は急に目をきらきらさせて、マネジの膝の上に座ったまま、両腕にすがり付いて。

「オレ、ねーちゃんをこうしえんに連れてってやるよ!だから一緒に野球しよう!?」
さもいい考えだろ?といわんばかりに叫ぶ男の子に、マネジは波顔一笑する。
「あはっ!最高だね!それ。うんっ!私を、甲子園につれてってくれる!?」
「あったりまえだ!そんなの!」
にっししと笑ってえらそうにふんぞり返った男の子は、その後スグに真剣な表情に変わり。

「こうしえんつれてくから、オレとけっこんして?」

まっすぐな目で自分をじっと見つめてくる男の子に、マネジは不覚にも顔を赤くしてしまい。
子供特有の現実を知らないその言葉に、どう夢を壊さないように返せば良いのか逡巡した。
「・・・ありがとう。じゃあ甲子園につれてってくれたら、結婚しようか?」
男の子は小さな乳歯がきれいにならんだ前歯をにかっとあわらにし、眩しい笑顔を見せた。
「おうっ!絶対だからな!」
そういって、小さな手でマネジの巨大なバストを鷲掴みし、つかさずマネジの手が男の子の頭を締め上げた。
「い、た、ず、ら、するな!」
「いってええ!ヒヒっ!」
痛がりながらも笑顔のままで、してやったぜという感情を隠しもしない。
男の子の、自分に向けられた純粋な思慕を貴重なものだと感じ、微笑ましく思いながら
マネジは力を緩めて、やはりくしゃりと撫でた。
「約束だからな!!」
男の子は、再びマネジに顔を近づけて、軽く唇を押し付けて。
避けようと思えば避けれたそれをマネジはどうして避けなかったのか、
自分でも不思議に思いながら、ぎゅっと抱きしめてやる。
「・・・元気でね。」

小さな男の子が言うことだし、成長と共に今日の日のことも忘れていってしまうだろう。
それでも、その純粋な思いがマネジには嬉しくて、同時に、指摘された事実が少し痛んで。

「苦しいよ。ねーちゃん。ほんとおっぱいデッケーよな。」
胸の中でぐりぐりと頭を動かす小さな頭を、感謝の思いを込めて見下ろし。
「ありがとうね。ゆーくん。」
きらきらの笑顔を見せる男の子の額に、マネジはそっと唇を押し付けた。
「バイバイ。」


百枝が自分でも忘れていたその思い出を、急に思い出したのは
誰も居ない夜の西浦高校第二グラウンドで、三橋達が入学してからの3年を振り返っていた時だった。

三橋達の卒業式が行われ、その後の謝恩会にも甲子園出場の立役者として百枝も出席し、
まっすぐ家に帰る気持ちになれず、立ち寄ったその場所。
昨日まで、ちっとも思い出さなかったのに、何故今日、10年前のことを思い出したのか。

満月がマウンドを青白く浮かび上がらせている様に、思わずふらりと近づいて、そっとプレートに手を触れる。
百枝の目から自然に涙がこぼれ、頬を伝い落ちていった。

「カントク、ハッケーン!!」

突然でかい声が響いて、百枝が振り返ると、田島がフェンスを乗り越えようとしている所で。
「な、田島くん!?ダメよ!入り口からちゃんと入りなさい!」
百枝は一瞬あっけに取られるが、つかさず田島の無礼をたしなめる。
「ちぇっ。」
田島はしぶしぶとフェンスからおりて、入り口に移動し、一礼してからダッシュでマウンドに駆け寄る。
「カントクは今日ここくると思ったっす!」
目の前でにやりと笑って百枝を見て、田島は手に持ったものを百枝にかざした。
「ほら、卒業証書!」
そういって月明かりの下、にっと笑う田島を、百枝は呆然と見つめて。
「田島くん。みんな打ち上げ中じゃないの?」
百枝の質問を、田島は軽く無視し。
「カントク、泣いてる。カンショーに浸ってたんすか?」
そういって、すっと百枝の涙をぬぐった田島に、百枝はますますぽかんとなり。
「えーと。田島くん?」
「カンショーに浸るとき、ここに来るんでしょ?ねーちゃん?」
その田島の言葉に、百枝はさらに愕然とした。
「え?え?ええ?」
呆けたままの百枝に田島はぎゅっと抱きついて、百枝の耳に口を寄せ。
「ひっでえよな。オレすぐわかったのに。ねーちゃんのこと。」
その呼び方は、先ほどまで思い出していたあの小さな男の子と全く一緒で。
「ゆ、ゆーくん!?」
「やっと、わかったっすか?」
ぱっと顔を離して、田島はにかっと笑った後、ごく自然な動きで百枝にキスをした。
驚きの余り固まってしまった百枝は抵抗する暇もなくその唇を受け入れて。
至近距離で、自分の唇を塞ぐ田島の、目を閉じてる様をぼんやりと見てしまった。


「こ、こら!何すんの!?」
数秒後やっと我に返って、慌てて田島を引き剥がす。
「何で?オレ約束守ったんすから、今度はカントクが守る番っすよ?」
「や、約束って・・・。」
目の前で頬を膨らませて百枝を見みつめる田島の表情に、百枝は確かに見覚えがある気がして。

「忘れるなんてひっでぇ。おれちゃーんとカントクのこと、甲子園に連れてったのに~。」
両腕を上げて頭の後ろで組みながら、田島はニヤニヤ笑って百枝を見ている。
「えええええ!? 田島くんが、ゆーくん!?」
「そうっすよ。ほんっとカントク気づかなかったよなー。」
余裕しゃくしゃくの表情で、田島が白い歯を見せて笑う。
「オレ、入学してスグに気づいたのに!」
「な、なんで!? なんでその時言わなかったの!?」
「いえるわけねーじゃん。オレ、あの時からずーっと好きなのにっ!」
百枝は言葉を失い、ただ口をパクパクと動かすしかなく。

田島は笑顔のまま、再び腕を伸ばし百枝を抱きしめ、問答無用でキスをする。
「卒業したら、ヤクソク果たしてもらおうって決めてたっす。」
百枝の目を覗き込んで、ニヤッと笑ったその顔には、野獣のような鋭い光が浮かび、
百枝は蛇に睨まれた蛙のように、田島のその目に飲まれ、思考が停止した。
動きを止めた百枝に田島は再び唇を押し付け、今度は舌を差し込んで、百枝の舌を貪欲に食らう。
されるがままだった百枝は、田島が胸をぎゅっと揉み上げてきた瞬間、我に返り慌てて身体を引き剥がした。

「た、田島くん!や、ヤメなさい!」
しぶしぶと身体を離して、不満そうな目で百枝を見つめる田島から、
百枝は数歩下がって、まず落ち着こうと深呼吸をする。
深々と息をつく百枝を、田島はのんびりとした様子で眺めていて。
「えーと、田島くんは昔、ココに来てた?」
「ハイ!」
「んで、わ、私と、よくキャッチボールした?」
「ハイ!」
「や、約束って・・・。」
「ハイ!甲子園に連れて行ったら、結婚するって!」
元気よく右手を上げて、からっとした笑顔で明るく返事した田島に、百枝は見る見るうちに顔が真っ赤に変化した。
「えええ!?ほ、本気なの!?」
田島はすっと笑顔を納め、強い感情の浮かんだ瞳でまっすぐ百枝を射抜いて。
「本気っていうか、オレのことも約束も、すっかり忘れてたカントクに拒否権なんてねっすよ?」
百枝の混乱していた精神は田島のその目と口調に、彼の意思の強さを感じ取り、妙に冷静になっていく。
同時に、今までの彼に一度も感じたことのない感情が、胸の底から湧き上がってくるのを自覚して。

百枝はゆっくりと微笑んだ。



百枝のマンションに入った瞬間、田島が百枝を羽交い絞めにし、髪を掻き分けうなじに唇を落とす。
その感触に背筋にビリっとくる快感を覚えたが、百枝はぐっと我慢して、田島をたしなめる。
「コラっ!待ちなさい!」
「10年待った!もう待たねー!」
その言葉に、百枝の動きが止まる。
謝恩会出席のためスーツを着ていた百枝の服を、荒々しく田島が脱がそうとする。
自分にしがみ付いて貪欲に行動を起こす田島ごと引っ張って、百枝は壁を伝い歩き、とりあえず玄関から移動する。

1歩歩くごとに、田島の手はスーツのボタンを外して、
3歩目には、3つしかないジャケットのボタンは外し終わられて。
やっと寝室のドアにたどり着いた頃には、シャツのボタンは引きちぎらんばかりにすべて外されて。
ベッドまであと2、3歩の所で、スカートのファスナーを下ろされ。
落ちかけたスカートは足に絡んでしまい、ベッドに転がるように倒れこんだ。
「きゃっ!」
短い百枝の悲鳴は、くっついて倒れこんできた田島の唇によって途切れさせられる。
「ん・・・ふ・・。」
田島は舌で百枝の舌を絡めとり、口内をかき回しながら、全開になったシャツの合間から覗く胸を
隙間から手を差し込んで直に触れた。
田島の手では収まりきらないそのボリュームに、田島の喉が鳴る。
すると、百枝の手が無理やり田島を押しのけて、非難の目つきで田島を見上げた。
「こ、コラ、待ちなさいって!スーツ皺になるでしょ!」
「へ?スーツ?」
ぽかんとした田島を尻目に、百枝は肩に引っかかっていたジャケットを脱ぎ、
脚に引っかかっていたスカートも脱いだ後、その二つをもってベッドから降り、きちんとハンガーにかけた。
「一張羅なの!皺になったら大変なの!」
そう田島に説教するが、シャツは全開で、ストッキング姿で、ブラも下着も全部見えている状態での言葉は、
どこか真剣味がなく、田島はにやにやしながら百枝の姿を見ていた。
「何よ?」
「すっげーカッコ。なんかのプレイ見たいっすよ?」
そう指摘され、百枝は自分の格好を見下ろして一瞬赤面するが、
すぐにニヤッとした表情に変わり、挑戦的に田島を見た。
「田島くん、女のストッキングの脱がせ方、知ってる?」
「脱がせたい!脱がせて、破いてるのエロビデオで見た!」
「そう、じゃあ、やってみる?ただし、破いたら弁償してもらうわよ?コレ、一枚3千円するの。」
「ええ!?さ、さんぜんえん!?そんなのが!?」
百枝は手を両腰に当て、田島が座っているベッドに近づき、ゆっくり誘うように片脚を乗せた。
「じゃあ、脱がせて?」
完全にびびってしまった田島だが、それでも身体を起こして、百枝の腰に手を掛けた。
薄い、少し力を入れただけで敗れてしまいそうなナイロン材質を、おそるおそる下げていく。



引っ張る勇気がでないのか、百枝の脚に手を沿わせるようにして、
両手でゆっくりと下げていく田島の目は真剣そのもので、
百枝はこみ上げる笑いを必死に押し殺しながら、黙ってされるがままになっていた。

ついに田島の手が百枝の脚の指先まで到達し、田島はほーと息をついた。
「はー。破らずにできた!」
ホントは破りたかったけど、と小声で呟いた田島に百枝はとうとう吹き出して。
「あっはっはっ!お、お疲れ様!」
そのまま百枝がベッドに腰かけると、つかさず田島が覆いかぶさっていく。
素早く背中に手を伸ばし、百枝のブラのホックを外し。
「ほんっと、昔からムネデッケー。」
10年前のことを思い出すのか、田島はしみじみと呟き、そのまま口を寄せて突起を口に含んだ。
片方のムネもめちゃくちゃにこね回し、田島の手からはみ出した部分が、いびつに形を変える。
「ん・・。」
自分の胸に縋りつくように顔をうずめる田島の頭を、百枝は微笑みながらくしゃりと撫でると、
不意に田島が顔を上げて。
「昔、よくそうやって頭撫でられた。」
田島はニッと笑いかけ、百枝は10年前の笑顔を思い出した。
「ほんとに、田島くんはあの男の子なんだね・・・。」
「そうっすよ?ホント、完璧忘れてたもんなー。カントク、ヒッデー。」
「はは、ゴメンゴメン!だって面影ないよ?あの約束も覚えてるわけないって思ってたし。」
「忘れられねーっす。オレが野球やるきっかけ、カントクだし。」
田島はそこで至近距離から百枝の目を覗き込み、まっすぐ見つめて。
「約束、ちゃんと果たしたっしょ?どうせかないっこないってカントク思ってたっしょ?」
「・・・・そうだね。まさか本当に、あの男の子に甲子園連れてってもらえるとは
 あの時は信じられなかったわね。」
「オレはできない約束はしねーっす。だからカントクも・・・。」
最後の部分は口にせずに、代わりに田島は百枝の唇に自分のそれを押し付けた。

百枝の手が田島のシャツにのびて、ボタンを一つづつ外していく。
それに誘われるかのように、田島は唇を合わせたまま、ベルトをもどかしく解き。
百枝がシャツを脱がせると同時に、ズボンも脱ぎ捨てた。
その勢いのまま百枝の手は田島の腰に伸びて、トランクスに手を掛けると、
お返しとばかりに田島の手が百枝の最後の一枚に伸びた。

どさっと百枝が背中をベッドに預けると、長い髪がぱっと広がり、枕を覆い隠し。
その光景を、田島がしばしじっと見下ろし、やがてゆっくり身を伏せる。


舌を絡めあい、存在を確認しあって。
手はお互いの体のラインをなぞる様にするりと滑る。
片手では収まらない乳房を強引に揉みしだく田島に、百枝は少し背を反らして反応を返し。
田島の手が百枝の中心に伸びた時は、すでに十分滴り、簡単に指の侵入を許した。
中でめちゃくちゃに動くその動きに、百枝は荒く息をつき快感に耐える。
「ねーちゃん・・・。」
昔の呼び名で呟いた田島に、百枝はうっすら目を開けて見つけ返し。
「ゆーくん。」
同じく昔の呼び名を返した。

その返答を合図にしたかのように、田島は体の位置を変え、いつの間に用意したのか、ぴりっと袋を破いた。
「あ、あれ?いつの間に?」
「オトコのタシナミ。」
にいっと笑った田島に、百枝は苦笑いを返すしかなく。
再び覆いかぶさってきた田島に百枝は腕を回して抱きついた。
ぐっと、体を割り開いて侵入してくる異物感に、少しの痛みを覚え百枝は浅く息をつく。
「ゆ、ゆっくり・・・お願い。」
「へ?初めて?」
少しびっくりしたように百枝を見下ろす田島を、微笑みながら見上げ。
「まさか、ただ、3年以上ぶりだから・・・。」
百枝の返答に、田島は少しぶすっとした表情になり。
「ちぇ。一瞬期待しちゃった。」
「ははっ・・悪いね。でも田島くんだって初めてじゃないでしょ?」
百枝が苦笑いしながら同じ質問を返すと、田島は少し微妙な笑顔を百枝に向けて。
「ドーテイじゃねーっす。」
百枝はほんの少し、田島の初めての相手に興味を持ったが、それを聞くのは無粋だと思い、田島の動きを促した。
ゆっくり時間をかけて、自身をすべて百枝に埋めた田島は大きく息を吐いて。
「う、動いていいっすか?」
「いいよ。でも最初はゆっくりお願いね。」
その言葉と共に田島はゆっくり腰を動かし始め、百枝は久しぶりの中を擦られる感覚に戸惑いを覚えた。
「んっはっ・・・はあっ!」
やがて田島の動きは早くなり、百枝は体の中から沸き起こる快感に、体中飲み込まれていき、
理性が吹き飛ばされる。
「ああっ!・・・はあんっ!・・っ!」
「オレ、もうイキそう!」
「わ、私も・・っ・・・!!んんっ!!いいよっ。イッて!?」
田島の動きが一段と激しくなって、百枝の身体を荒々しく揺らし、
やがて、二人で身を震わせた後、動きを止めた。


自分の胸に顔を押し付けるように寝息を立てている田島を、百枝は少し寂しそうな表情で見つめ。
起こさないように注意しながら田島の頭に手を置き、そっと、くしゃりと撫でた。
「ありがとう。田島くん。・・・・ごめんね?」
カーテン越しの月の光に照らされた田島の瞼が、一瞬ピクリと反応して。
百枝は一瞬起こしたかと心配したが、寝息が元通りになったのを確認すると
ふっと微笑んで、田島の額に触れるだけのキスを落とし、眠りについた。





「田島くん、引越しはいつ?」
「3月の最終週っす。」

情事が終わった後、百枝はコーヒーカップを片手に、
いまだベッドの上でまどろむ田島に問いかけた。
「そう、来週ね。」

卒業の日以来、毎日のように田島は百枝のマンションを訪れ、貪欲に百枝の身体を求めて。
百枝は拒むことなく、若い田島の欲望を受け入れていた。
ベッドの上で枕を抱きしめながら、裸のままうつらうつらしている田島を
百枝は悲しげに眺め数秒目を閉じた後、
ゆっくり目を開けて、まっすぐ田島を見つめた。

「田島くん。もうこないでね。」
田島の目がぱちっと見開かれ、目だけで百枝を見上げる。
「引越し準備もあるでしょうし、今日で終わりにしましょう。」
田島の目をそらさずに受け止めて。
「はあっ!? 意味わっかんねー!?」
田島はがばっとベッドの上に身を起こし、非難の声を上げた。
百枝は持っていたカップをテーブルの上に置き、腕を組みぐっと田島を睨みつけるように見下ろして。

「田島くんとこういうことするのは、さっきので最後。今日で会うのも最後。
 大学でも野球がんばってね? さようなら。」
一気に言い終わって、にっこりと笑いかけた。
「・・・なんすか。それ。」
田島の目がすうっと表情を失い、数段低いトーンで呟いた田島にさらに百枝は言葉を続ける。

「あの日だけと思って相手したのよ。田島くん、しつこいよ?
 もう十分満足でしょ? 付き合ってるわけではないし、
 付き合う気もないから、もうこないでって言ってるの。」
黙って百枝を見上げるその田島の目に百枝は肝が冷えるのを覚えたが
必死でこらえて視線を外さない。

しばしそのまま睨み合いが続いたが、先に動いたのは田島だった。
「・・・カントク。何か変なこと考えてるっすね。」
ため息をつきながらそう言ってて、落ちていた自分のトランクスを拾い、履く。
切れて罵り出すのを予想していた百枝は田島の反応に虚をつかれて。
ベッドから降りて自分の前に立つ田島を黙って見ていた。

「オレ、手放すつもり、ねっす。」
「・・・迷惑なの。ほんの遊びだったの。
 正直、田島くんのことは男として見れないし、魅力も感じてないの。悪いわね。」

田島の目に射すくめられながらも、百枝は震えそうになるのを懸命に我慢して
あえて厳しいセリフをその唇に乗せた。

その言葉に、田島の眉がぴくりと上がったが。
すぐににかっと百枝に笑顔を見せた。
「オレ、難しいことわっかんねえけど、カントクがウソいってんのぐらい、わかる。」

その笑顔に、百枝の決心はぐらつきそうになるが。
「同情で、寝たのよ。図に乗らないで頂戴。」
田島の怒りを買おうと百枝はさらに詰った。

田島の表情が見る見るうちに硬くなり、すっと田島は目を伏せて百枝から視線を外して。
百枝はたくらみが成功したかと安堵した。

「同情だったら、2回目なんてねーんだ。あれは、抱くほうも傷つくし
 もう2度とソイツの顔も見れなくなるくらい、後悔する。
 だから、カントクがオレを拒まなかったのは同情なんかじゃねー。」

そこで田島は顔を上げ、真正面から百枝を見つめて。

「オレを好きだからだ。」
きっぱりと断言した。
完全に予想の外れた田島の返答に、百枝は混乱してしまい。

「・・・・誰と?」
しばらくの沈黙の後、百枝の口から出たのは、そんな言葉で。
口にした瞬間百枝は自分の口を手で塞いで、自分自身に呆然とした。
それは、嫉妬からなのか、単純な疑問からか。

「・・・言いたくねっす。オレだけの話じゃないし。」
少し顔を歪ませて、回答を拒否した田島に、百枝は女の勘が働いて。
「・・・千代ちゃん?」
マネージャーの名前を出した。
その名を聞いた途端、田島の目にわずかに動揺が走り、百枝は自分の予想が当たったことを知った。
「そんな・・・。」
「カントクにはカンケーないっす。」


田島は、そう言い捨てて、呆然としていた百枝の身体に手をまわし、強引にベッドに押し倒した。
ベッドのスプリングが二人分の体重に軋む。

「同情じゃ何回も寝れねー。オレはそれを知ってる。オレを好きだからだ。認めなよ。ねーちゃん。」
先ほどの言葉を田島は至近距離で百枝に囁いて。
「ねーちゃん。何を不安に思ってんの?」
心の奥底の気持ちを読まれた事実に、百枝の目が見開かれ、呆然とし、唇がわずかに震え。

「田島くんの未来を、守らないと・・・。」
百枝の本音が、唇から紡がれはじめた。
「あなたはいつかプロになる。このことは田島くんにとって、
 致命的なスキャンダルになってしまう。何より、あなたはまだ若いんだから、
 こんなこと、やめないと。今ならまだ、間に合う。」
本音をすべて吐き出した百枝を、田島は満足そうに見下ろして、にかっと笑い。

「もう、とっくに手遅れっ!」
そのまま百枝の唇を塞いだ。

すっかり知り尽くした百枝の敏感な所を田島の指がなぞっていき。
「はっ・・・。最初のも、受け入れるべきじゃなかった・・。ごめんね。」
一度本音を出して、たがが外れたのか、百枝は謝罪を素直に口にして。
「むっずかしいこと考えてるなー。」
眉をくしゃっと歪ませる百枝に、田島は白い歯を見せて笑う。
田島は豊満な乳房を押しつぶすように強く揉んで、百枝の反応を誘い。
百枝の目をいたずらっぽく見つめたまま、その先端を口に含んだ。
「はっ・・・。」
ここ数週間毎日のように身体を重ねていたため、
すっかり反射が作られてしまったのか、百枝の身体は素直な反応を返し見る見るうちに溢れ出て。
田島が心得たように遠慮なく百枝の中心に手を伸ばした。
「すっげ、溢れてる。全然ゼンギいらなくねー?」
「っふ・・ゆーくんの未来に私は相応しくない・・・。」
「うー。まだ言うか。」
田島はぐっと指を深く差し入れて、中をかき回し百枝の理性を飛ばそうと試みる。
「っはっ・・!ああんっ・・・!」
「オレだって、バカじゃねーし。今こんなこと見つかったらカントクにとっても
よくないってこと、ちゃあんとわかってるっす。」
田島は今度は自分の舌で触れながら、百枝の不安も飛ばそうと言葉を続けた。
「それに、問題になって、あいつらやコーハイにメーワクかけるのもヤだし。」
すっかり慣れた手つきで枕もとの袋を手に取ると、素早く準備して
田島は一気に深く百枝に侵入した。

「はっ・・・ああん!」
背筋を反らして快感に耐える百枝を、田島は満面の笑顔で眺めて
百枝の頬の、ほつれた髪を手でそっと後ろに撫で付けて、目を覗き込み視線を真っ直ぐ合わせた。

「だから、ねーちゃん。今度はオレを待ってて?」
イタズラっぽくそういった後、唇を重ねながら、ゆっくり揺らし始めた。
「ど、どういう意味っ・・?」
押し寄せる快感にこらえながら百枝が田島を問いただすと。
「結婚できる時が来るまで、オレを待っててってこと。」
「え!?」
「10年もオレを夢中にさせといたんだから、一生責任とってもらわないとなー!ゲンミツに!」

無邪気な笑顔でそう断言した田島を、百枝は快感にもまれながらぼんやりと眺め
不意に、田島笑顔の奥底に横たわる、自分への覚悟と執着を理解した。

途端、百枝は急に悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しくなって。

「は、あははははは!!」
「ええ!?何!?何で笑ってんだ!?」
「いやっ!ははっ、ははは!!」
「ちぇー。何だよ。人が真剣に言ってんのにー。」
田島は口を尖らせて拗ねた表情を見せると、
百枝の笑いを止めさせようとよりいっそう動きを早めた。
「んんっ・・・!!ああっ・・。」
田島の動きにあわせて、百枝の笑い声が途切れてはかない喘ぎに変わると
田島は満足そうにニヤッと笑い、より行為に没頭していく。

百枝の手がぎゅっと田島の頭を掴んだのを合図に、田島も我慢を開放して。
深い呼吸と共に、二人動きを止めた。



玄関先で、靴を履き終わった田島はくるっと百枝を振り向いて。

「引越しまでは毎日来るっすから!」
「来ちゃダメ。」
「なんで!?さっきも言ったじゃん!」
「引越し準備もあるだろうし、残った時間は親孝行しなさい。
 大学は行ったらなかなか帰省できなくなるよ?
 夏休みも忙しいだろうし、そうねー。仕方ない、私が行ってあげるか。」
「ええ?それって!?」
「とりあえず、野球がんばんなさい。待っててあげるから、ね?」

そういって、ニっと笑った百枝を、田島は身を震わせ喜色満面になり。
ぎゅっと抱きついて、触れるだけのキスをした。

「く~っ。絶対だかんな!ゲンミツに!!」
「はいはい。」

笑顔で去っていく田島を百枝も笑顔で見送って。
田島は百枝のマンションを後にした。



翌日、田島は百枝のマンションに現れ、扉から顔を出した百枝はすぐさま田島の頭を握り。
田島はぎりぎり握られたまま、じりじりと侵入していき
二人の姿は扉の向こうに消えた。








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最終更新:2008年01月06日 22:13