3-163-178 カノルリ




「叶くんて、よくない?」

三星の躍進の原動力である、2年生エース・叶の注目度は、
校内で日に日に高まっていった。
「もしかして、甲子園行っちゃうかもね!」
クラスメート達の会話が耳に入って、本を読むことに集中できない。
机の横に掛けられた紙袋には、叶宛ての手紙が2通。
ルリが叶の幼なじみと知った人から、度々頼まれるようになったファンレターだ。
ルリは読みかけの本を机に伏せて教室を出た。

廊下には、野球部の試合日程を記載したポスターがあった。
あと2つ。
あと2つ勝てば、三星は念願の甲子園に出場することができる。

ルリはポスターをじっと見て、幼なじみのことを考えた。
いつの間にかアイドル扱いだよ。あの叶が。
みんなは知らないんだ。
昔はチビでヤンチャで、よく女の子を泣かしてたヤな奴だったのに。

…でも、根っこのとこではいつも優しかったよね。

チャイムが鳴って、生徒たちが講堂へ移動し始める。
今日は全校あげての野球部の応援の日だ。
きっと今日も暑いんだろうな…。
窓の外は目が痛くなりそうなほどの日差しだった。


「三橋。」

呼ばれて振り返ると、そこには叶が立っていた。
ルリは驚いた。
夜の8時。普段なら叶はまだ学校で練習している時間だ。
「何やってんの?」
「何って…、買い物だよ。」

それもそうだ。
家の近くのコンビニ。向かいの家に住む幼なじみ。
別に偶然会ったって、不思議なことは何もない。
とは言え、叶は部活で朝は早く、帰りは遅い。同じ学校でも校舎は別。
実際会話できる距離で叶を見るのは、とても久しぶりのことだった。
試合の後だから、今日は早いのか…。

風呂上りなのか、Tシャツにスウェットパンツ姿で髪は濡れたままだ。
「あ、あの、今日、おめでとう。勝ててよかったね。」
「あぁ、ギリギリだったけどなー。」
叶は笑いながら、牛乳を2本持つとさっさとレジへ向かった。
ルリはハッと思い出して、叶の後を追う。


「ねぇ、叶への預かり物があるの。帰りちょっとうちに寄ってよ。」
「預かり物?」
断っても断っても、次々と預けられる叶へのファンレターやプレゼント。
ずっと気が重かったが、これで肩の荷が降りる。

買い物を終え、並んで歩き出す。何を話していいのかわからない。
帰り道は、ほんの数分がやけに長く感じた。

叶がルリの買い物袋をヒョイと持つ。
「重てっ。」
中はお菓子やジュースばかりだ。
「い、いいよ。持てるよ。」
「こんなもんばっか食ってんと、デブになるぞー。」
叶は笑う。

ヤナヤツ…。
「ふんだ。ほっといてよ。」
ルリがふくれると、叶は
「うそうそ。お前、ちょっと太った方がいいよ。」
と言ってまた笑った。

「ただいまー。」
玄関を開けると、奥からルリの母が顔を出す。
「こんばんは。」
叶が頭を下げると、母は廊下をパタパタと走ってくる。
「いやだ、修ちゃんじゃない。久しぶりねぇ。聞いたよー、
野球部頑張ってんだってねぇ!」
「はい。」

お母さんにつかまったか。いいや、今のうちに。
「叶、今持って来るから待っててよ。」
そう言うとルリは2階の自分の部屋へ走った。

輪ゴムで止めた手紙の束は、20通くらいある。
それから、可愛らしい袋に入れられたいくつかのプレゼント。
それらを全て紙袋に突っ込む。


その時、開け放していた部屋のドアから気配を感じた。
驚いて振り返ると、そこには叶が立っていた。
「ちょっと、何勝手に入って来てんのよぉ。」
「いや、おばさんが…。」
言いかけた叶の後ろから、お盆に2つのグラスを乗せた母が現れた。

「あんた、なんて言い方よ。ごめんね修ちゃん、ゆっくりしてってね。」
そう言うと、パタンとドアを閉めてさっさと出て行ってしまった。
「ゆっくりなんてしてかないよ。叶は今日試合して来たんだよ!」
もう、お母さんは…。
ゆっくりも何も、話すことなんて何もないのに…。

「あいかわらずでかい家!」
叶はソファにドサッと腰掛ける。
「叶んちだってでかいじゃん。」
「こんなでかくねーよ。」

叶は部屋をキョロキョロと見回す。
「あんまりジロジロ見ないでよ。」
ルリが言うと、叶は余計にあちこちを見る。
わざとだな…。ルリは呆れてため息をついた。


「はい、これ。」
紙袋を渡す。
「ふーん。サンキュ。預かったって、誰から?」
叶は袋から手紙の束を取り出す。
「知らないよ。叶のファンでしょ。」
「はぁ?」

叶は怪訝そうな顔でルリを見た。
中に入ったプレゼントの包みを見ると、
「何これ?知らない人からこんなんもらえねーよ。」
と、紙袋をつき返した。
「そんなこと私に言われても困るよ。
とにかく私は責任を果たしたからね。ほら帰って帰って。」

ルリはソファに座っていた叶の手を引く。
「なんだよ。ひっでぇな。」
叶はムッとして、ルリの手を引き返す。
「キャ…。」
ルリは簡単にバランスを崩すと、叶の膝に乗るように倒れた。
「ちょっとぉ!」
ルリが怒って顔を上げると、至近距離で叶と目が合った。


「な、なに…。」
言いかけた言葉を叶の唇が塞ぐ。
キス、だ。
すぐに唇を離すと、叶は真っ直ぐにルリを見た。
「なにしてんのよ…。」
叶はじっとルリの目を見て、大きく息をついた。
「キスした。お前のことが好きだから。
だから、知らない女からの手紙なんて、普通の顔して預かって来んなよ。」

ルリは呆然として答える。
「そんなの、知らないよ…。」
告白を、そんなの知らないと言われてしまった。
叶はルリの言葉にカチンと来た。
片手で髪をぐしゃぐしゃとかきあげ、パッとルリを見据える。
「悪かったな!」

いくつか文句を言ってやろうと、ルリに向き直った叶は唖然とした。
ルリの大きな目から、大粒の涙がぽろぽろとこぼれていたのだ。
「なに、泣いてんだよ…。」
そんなにやだったのか?
そう思うと、叶もショックを隠しきれなかった。
思わず下を向いてしまうと、ルリが小さな声で呟いた。

「そんなこと、知らなかったもん…。
だって、私なんてただの幼なじみじゃん。家が近所なだけじゃん…。
その私が、どうして叶のこと好きな人達にダメなんて言えるのよ。
私だって、そんなのずっとやだったよ。
もしその中の誰かを、叶が好きになっちゃったらって、ずっと怖かったよ。
でも、そんなこと言えないもん。ただの幼なじみに、そんな権利ないもん…。」

叶は泣いているルリをぽかんと見つめる。
「え、それ…って、お前もオレを好きだからってこと?」
ルリは叶の胸に、ドン、と拳をぶつけた。
「今頃気付くな、バカ!ずっと好きだったよ!」
叶はルリの細い体を思い切り抱きしめた。
「苦し…。」
ルリが喘いでも、叶は手を緩めなかった。

「んん…。」
叶の深いキスに、ルリの口から声が洩れる。
はぁ、と息をつくと、叶がルリをじっと見つめる。
「ほんとにお前、オレのこと好き?オレ、夢見てない?」
「バカ…。」
ルリは笑って、今度は自分からキスをした。

ルームランプのオレンジ色の明かりに、ルリの華奢な体が浮かび上がる。
着ている服を1枚ずつ脱がしていく。叶の手は震えていた。
ルリは目を閉じて、自分の素肌が外気にさらされていくのを感じた。
薄い水色のブラジャーの背中に手を掛け、ホックを外すと、
真っ白で小さな胸が現れた。叶は息を飲む。

「あんまり見たら、ヤダ…。胸、小さいから。」
そっと手で触れると、すっぽりと手のひらに収まる。
「いい、小さくても、メチャクチャ可愛い。」
そう言うと、叶は小さな膨らみに、唇を押し当てた。
片手で胸を触りながら、乳首にチュッと吸い付くと、ルリの体がブルッと震える。
もう片方の手を、水色のショーツのゴムに掛けると、ゆっくり引き下ろす。
足首に引っかかったショーツを引き抜くと、叶はルリに向き直る。
「すげぇ、きれい…。」
裸のルリは頬を染めて、手で顔を覆う。

「私ばっか、恥ずかしいよ…。」
言われてみれば、ルリは全裸に剥かれているのに、叶は来た時のままだ。
「ごめん。」
叶はそう言ってTシャツに手を掛け、一気に脱ぐ。
細身ながら筋肉の付いた、しなやかな体が薄暗い部屋に浮かび上がる。
ルリは体を起こして、叶の腹筋に触れた。

「…くすぐったいかも。」
叶は身をよじる。
「すごい。痩せてるのかと思ったら、腹筋割れてる…。」
筋肉に沿って指を這わせる。
つつ、と下まで降りると、スウェットパンツの紐部分で指が止まる。
「これ、取ってもい?」
ルリが上目で見る。
「あ、あぁ、うん。」

しゅるしゅると紐を解き、スウェットパンツを脱がすと、
ボクサータイプのパンツの前はパンパンに張り詰めていた。
ルリがそれをパンツの上から触った。
「う…。」
「あったかい…。」

しばらく片手でスリスリと触ったあと、ルリはパンツのウエストに手を掛けた。
「えと、脱がすよ?」
そう言ってルリはおそるおそるパンツを脱がせた。
解放されたペニスが、腹にぺちんとぶつかる。

「おっき…。」
ルリは思わず声を出した。
「いや、悪いけどオレなんて普通だよ…。」
叶は恥ずかしそうに言った。
「こんなのが、私の中に入るの?」
ルリは瞬きもせずに、不思議そうに見つめている。
そっと手で握ると、それは硬く、熱を持っていた。
「あんま見んなよ。」
叶がルリのおでこを指でちょんと突く。

「交代。今度はオレの番。」
そう言うと、叶はルリの頬にキスをした。
頬に、瞼に、おでこに。たくさんのキスをする。
ルリは体がふわふわ浮くような感覚に、力が抜けていく。
目を閉じて、体を預ける。気持ちいい…。
裸の胸が触れ合うと、叶の鼓動が聞こえる。
「すごい、ドキドキしてるね…。」
「あたりまえじゃん。嬉しくて死にそうだよ。」

叶の舌がルリの乳首をペロリと舐めると、背中からくすぐったいような
痺れが突き抜ける。
「あん…。」
唇が、だんだんと下の方に降りていく。腹、臍を伝って、下腹部へ。
そして幼さの残る秘唇へとたどり着いた。
熱い舌が、まだ渇いたままの肌を舐める。
秘裂に舌を差し込むと、花びらは一瞬で開いた。

力を抜いて、全てを叶に委ねる。
性的な刺激と、他人を信頼して体を預けることの気持ち良さ。
今までに経験したことのない快感を、ルリは全身で感じていた。

「三橋、気持ちいい?」
叶が顔を上げてルリを見る。
「なんでそうゆうこと、聞くのよぅ。」
「だって、気持ちよくなってもらいたいんだもん。なぁ、どうなの?」

聞くまでもない。
ルリの秘裂には蜜液が溢れ、熱く蕩けてしまいそうだった。
小さな入り口は完全に開ききって、叶を待っている。

叶の指がゆっくりと出入りする。
探るように、曲げた指で膣壁を擦ると、
ルリの呼吸が浅く速くなり、背中に汗が浮き出してくる。
ピンク色に染まった顔を、左手で覆うように隠す。
ルリの体がピクンと震えるたび、小さな胸が波打つように揺れる。
可愛いな…。
叶はぼんやりと思った。

「入れるよ。痛かったら言えよ。」
「うん…。」
ルリの心臓は、壊れてしまうんじゃないかと思うほど、ドキドキしていた。
膣口に叶自身がピタリと押し当てられると、ルリの体は硬直した。

「力抜いて。」
叶が蜜液をまぶすようにペニスを擦りつけると、だんだんと滑りが良くなる。
亀頭がクリトリスを擦ると、ルリの体がピクッと動く。
気持ちいいのかな…。叶はしばらく、その動きを繰り返した。

徐々にルリは力が抜けていくが、叶はこのままでは挿入前に果ててしまいそうだ。
片手で持って、入り口を探る。ルリもそれに気付いて緊張する。
優しくしてやりたい。
そう思って出来るだけゆっくりと挿入していく。

「うんん…。」
ルリは体をよじる。やはり痛いのだろうか、じりじりと体が逃げていく。
「大丈夫か?痛いならやめるからな。」
叶は心配そうにルリを見る。
自分の欲望で、ルリをつらい目に合わせたくない。
「平気…。叶は?気持ちよくなれそう?」
ルリが赤い目で問いかける。
「もう最初っから気持ちいいよ。」
「よかったぁ…。」

ルリはふぅ、と大きく息をつくと、叶の目を見て言った。
「私は、叶が大好きだからね。叶にだったら私、痛い目に合わされてもいいの。
だから、我慢しないで、来て…。」
そう言って、叶の首に腕を回す。
叶は目から、涙か汗かわからない、熱い液体がこぼれるのを感じた。

「ル、リ。」
かすれた声で名前を呼ぶと、くせのあるふわふわの髪に指を絡める。
「好きだ、ルリ、大好きだよ。」
ぐっと体を密着させ、強張りを押し込むと、ルリの体が汗でしっとりと濡れていく。
思いきり腰を突き動かすと、体の奥から何かが裂ける音がした。
ルリは小さく叫んだが、叶の体に回した手を離すことはなかった。

「…なんか言ってよ。」
行為の後の気だるい空気の中、素に戻ると照れが出てしまう2人。
沈黙に耐え切れず、ルリが言う。
「なんかって…。」
ルリの大きくてまん丸な目が、叶の目をじっと見る。

叶は髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、呼吸を整えると
「好きだよ。」
と言った。
ルリの目はさらにまん丸になる。
「なんだよ。」
叶は顔を赤らめた。
「ビックリして…。そんなこと言うと思わなかった。」
「なんだよ!じゃあもう言わねーよ!」

叶が顔を横に向けると、
「ヤダ。もっと言って。」
ルリは叶の膝にぴょんと飛び乗って、顔を覗き込む。
目はキラキラと輝いていた。
「くっそー!可愛いな、お前は!」
叶は笑いながらルリを抱きしめると、優しくキスをした。
「じゃ、またな。」
「うん。忙しくてもメールくらいはしてよ。」
玄関で叶とルリがキスをしようとした時、またルリの母が登場した。
2人は慌てて体を離す。

「あらぁ、修ちゃん、帰っちゃうの?」
「あ、明日も練習あるから…。お邪魔しました。」
叶がルリに笑顔で、「じゃあな」と言い玄関を出ると、母はチラリとルリを見る。
「お母さんは修ちゃん好きだから、いいと思うな。」
ばれてる…。
ルリは耳まで赤くなると、モゴモゴと口篭もった。
「修ちゃん、甲子園行けるといいね。そうしたらみんなで応援に行こう。」
「うん…。」

叶はきっと甲子園に行くよ。
そしたらまたファンが増えちゃうかも。
でももう不安になんてならない。
きっと叶は、満員のスタンドの中にだって、私を見つけてくれるはず。

ルリは目を閉じて思う。
明後日にはきっと、マウンドでガッツポーズする叶が見られるよね?
頑張ってね、修悟!
最終更新:2008年01月06日 19:34