6-440-443 小ネタ 小ネタ 100kmの世界 ◆VYxLrFLZyg




「知ってるか?時速100キロで走る車の窓から手を出して
 風に当てると、おっぱいの感触なんだって。」

明日は練習試合というとある日の練習後、ダウンが終わった直後に田島が突然そんなことを言い出した。
お年頃な野球部員は一斉にくりっと首を田島に向ける。

「本当か~?」
「アニキがいってた。」
「なんか、ウソくせえんだけど。」

水谷と泉が冷静な反応を示すが、阿部は一人顎に手を当てて、真剣な表情でみんなを見回した。

「いや、多分本当だ。マジでムネに近い感触が得られるらしい。
 ただ、速度は75~100キロと随分ばらつきがあったような。」
「阿部、なんでそんなに詳しいんだよ。」
花井が引きつりながらコメントした。
「試してみたくねー?」
田島の興味津々な眼差しに、全員が田島を見る。

「どうやって?車ねーだろ。」
もっともな泉の問いかけに。
「なんとか、モモカンの車に乗せてもらえないかな!?」
少し無謀な提案を田島が返した。
「モモカンの車は荷物運搬用で、オレらが乗るスペースなくね?」
「荷物降ろすわけにはいかないよね。」
水谷と沖がもっともな事実を指摘して。
「物は試しって言葉もあるし、花井が田島と頼みに行けば、いけるかもしんねー。」
阿部の物騒な提案に、花井の眉が跳ね上がる。
「はあ!?なんでオレがそんなこと!?阿部が行けよ!」
「でも、ちょっと待って、確かに阿部&田島コンビが行くのと、
花井&田島コンビが行くのとでは、成功率変わってきそうだよ?」
西広の妙な根拠の言葉に、花井は真っ青になる。
「いやだ!なんでオレが!」
「なんでオレはすでに決定なんだよ?」
「こういうのは、言いだしっぺが行くってことで~。」
栄口が笑顔で田島をなだめた。

結局、花井と田島がモモカンの元へ小走りに駆けて行き、頭を握られて帰ってきた。


「花井、お前、アホみたいに理由話したのか?」
阿部の言葉に花井が心外そうな声を上げる。
「違ーよ!田島が直球で頼むから!」
「ああ・・・。」
涙目で頭をさする二人を尻目に、一同はがっくりうなだれて、想像上の感触を妄想する。

「じゃあ、シガポだ!」
「シガポ!?」
田島の意外な提案に、一同は新たな可能性を見た。
「確かにシガポなら・・・・いけるかも?」
西広が顎に手を当てて、可能性を模索し
「田島、ちょっと、頼んできてくれよ?」
阿部の一言に田島がシガポの元へすっ飛んでいった。

「なんで田島一人で行かせんだ!? じゃあオレさっき一緒に行く必要なかったんじゃ!?」
花井が抗議の声を上げると全員無言で花井を見て、ニヤッと笑う。
「なっ!?なっ!?ええ!?あるぇ・・・!?」
真っ青になって口をパクパクさせる花井を尻目に全員が田島に注目していると。
ムッとした花井が低い声でポツリと呟いた。
「あのなあ。オレをあんまりからかうのも大概にしろよ? 部のルール、坊主にしてやろうか?」
「ゴメン!」「ワリイ。」「ワリ。」「スマン。」「ゴメン、ナサイ。」
全員、くるっと花井を振り返り、一斉に謝罪を口にした。

やがて田島はシガポを連れて戻ってきて。
「いや~、みんな、若いね!でも、疑問に思ったことを、検証したいという探究心があるのはいいことだよ。
  みんなの知的好奇心、素晴らしい! これは是非協力してあげないとね!」
笑顔でみんなに声をかけたシガポに、全員の顔が明るくなる。
「でも、そうだな。全員はムリだから・・・。そうだ。」
シガポが指を一本立てて、全員をゆっくり見渡し、ニカっと笑った。
「明日の練習試合のMVPへの賞品としようか。」


翌日ファインプレーの嵐のにしうらーぜに、対戦相手はなすすべもなく、
競い合うような活躍を目の当たりにしたモモカンは何度も身を震わせて感動した。

結果、MVPは決勝打を放った田島、NO.1出塁率の泉、
最終回を3人で締めた花井、スクイズを防いだ阿部。

試合に出れなかった三橋を含む、6人の恨みがましい目線を
笑顔で受け止めて、4人はシガポの車に乗り込んだ。

「じゃあ、みんな、行こうか!」
「ハイ! お願いします!」
明るいシガポの言葉に、4人はハキハキと返事する。

車は順調に進み、やがて高速の入り口を通過した。
「さ、検証開始だ。みんな心の準備はいいかな!?」
「ハイッ!!」
おもむろに車の窓を腕が出る程度だけ開けると、強い風の音が車内に響き渡り、髪があおられる。
手首から先だけ、そっと車外に出して。
4人の唾を飲み込む音が風の音にまぎれて消えた。

「重い、田島。あんまよっかかんな。」
「だって、オレ真ん中なんだもん。我慢しろよー。泉ー。」
「さ、速度は70kmだよ。もうすぐ75km。・・・・・80kmだ。どうだい!?」
シガポの言葉に、4人の反応は鈍かった。

「・・・風の感触のような。」
「・・・・わっかんねえ!」
「・・・これ、そうなのか?」
「わかんねえ。」
シガポはちらっとだけ助手席の花井を見て、自身も手を窓から出す。
「今は、90kmだね。うーん。手を、卵を持つ形に曲げてみるといいよ。
 それで想像するんだ。自分の好きな人のチチを掴んでいると!!」

シガポの言葉に4人の顔を赤くなったが、黙って手をそっと丸めた。
「どうだい!?」
「風の感触・・・にしか思えないかも・・・。」
「っつーか。オンナのチチ触ったことねえから比べられねー!」
「なんとなく、柔らかくないか?」
「わかんねえ。」

「さあ100kmだよ!」
シガポの声に、4人に新たな気合が入った。

「想像するんだ!コレはカントクの胸だと! 篠岡の胸だと! どうだい!?」
志賀の言葉に4人は一斉に目を閉じて、妄想の集中力を高める。
わずかに指を動かす阿部、ずいぶんひらべったい卵をイメージた手つきだ。
5本の指を思いっきり開いて、わし掴むように大きく動かしているのは花井と田島。
泉は風が指の隙間を通り抜けないように閉じて、ただじっと手を風に当てていた。

沈黙が車内を支配して、ただ風が薙いで行く音だけが全員の耳を打つ。
そんな音に、集中は邪魔されるはずもなく、4人は、自分の手と脳内妄想に全力を注いでいた。


次の日の朝練では、大人体験を果たした4人に、残りのメンバーが群がる。
口々に感想を求められるが、4人ともどこか言葉を濁して、はっきりとは答えない。
そこにシガポがやってきて。

「君達にはまだ解らないかも知れないけどね。女の人の胸ってあんなものじゃないんだ!
 もっと柔らか~くて、癒されるんだ! 残念だね!」

明るいその言葉に4人を含む全員が落胆した。



後日、とある警察署のとある一室で。
西浦高校数学教師であり、野球部の顧問である志賀は机に置かれた一枚の写真を凝視していた。
「これは、あなたですね? 志賀さん。」
警察官の冷たい声音が、志賀に突き刺さり、こめかみから一筋冷や汗が流れ落ちる。

その写真には

運転席の窓から、助手席の窓から、後部座席の窓から
合計5本の腕が指を少し曲げて風に当てている姿がはっきりと映っていた。
残念ながら表情まではわからない。
いや、助手席の阿部の薄ら笑いだけは判別できる。

志賀は喉を鳴らして唾を飲み込むと、意を決したように警察官を真っ直ぐ見つめ。

「これは、私です。認めます。罰金も支払います。だからこの写真、下さい。」


返答はもちろん不可だった。






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最終更新:2008年01月06日 22:17