6-564-566 小ネタ 小ネタ フキに願いを ◆VYxLrFLZyg
新入生を迎える直前の春休み。
西浦高校は春合宿を行っていて、去年と同じ所を宿舎にしていた。
野球部員は取ってきた山菜を洗って、てんぷらにする準備に奔走されており。
カントク、シガポ、篠岡は外出中で。
知らず気の抜けた感が広がる、まったりとした雰囲気の中、栄口はフキを一つ手に取った。
「おれのフキ」
チュッチュッ
嫌な効果音が花井をげっそりさせて。
「やめろ。誰が食うかわかんねんだぞ?」
フキに向かってちゅーする栄口をたしなめた。
「その会話すっごく聞き覚えあるんだけど。」
沖が真っ青になって栄口のフキを見つめ。
「去年も栄口そんなこと言ってなかったか?」
巣山が去年を懐古する。
「フキマニアかよ。」
泉が冷静なつっこみをいれて
「うぇっ。変態だなーっ。栄口」
田島が正直すぎる感想を漏らして。
「キんモ~。」
水谷がトドメを差した
思いもよらないところで一斉口撃がはじまって、栄口はちょっと悲しくなり、そっとフキを籠に戻す。
「誰にまじないかける気だ。まったく。」
ため息をつきながら放った阿部の言葉に、全員の頭上にはてなマークが飛び出した。
「どういうことだ?阿部?」
「なんかそんなまじまいがあるんだろ?好きな奴に好きになってもらうとかいう・・。」
「ええ!? なんだそれ!?」
「栄口誰を狙ってんだ!」
「栄口が、そんな趣味だったなんて・・・。」
阿部の言葉に全員がじりっと栄口から距離をとった。
「みんな、バックは守れよ!ゲンミツに!」
「三橋も気をつけろ、一番ケツじろじろ見られる位置だからな。」
巣山が自分の背に三橋を庇ってやり。
「そういう意味では外野は安全圏だな。よかった~。」
花井が胸をなでおろし。
「今日ほどレフトでよかったと思った日はないな~。」
水谷が脳天気な声で、自分のポジションを振り返る。
悪乗りはとどまるところを知らず、栄口に反撃する間を与えず容赦なく続き。
栄口はついにキレた。
「何だよ!もう!みんなふざけすぎだろ! 大体まじないかけるんだったら、女にするよ!」
「篠岡にかける気か!?それともモモカンか!?」
「栄口ムッツリだな!」
「栄口くん、は、ムッツリだ、たんだ。」
一斉に突っ込みを始めた野次に、巣山の冷静な一言が響く。
「実は、そのまじないってなんなのかよくわかんないんだけど。」
その瞬間場の雰囲気が静まる。
「・・さあ?」
「はて?」
そして全員がくるっと振り返り、阿部に視線が集まった。
阿部は軽く眉を上げて、みなの視線を受け止める。
「オレもよく知らねーけど、昔クラスの女子がなんか話しててさ。
なんだ?自分の一部だか、祈りだか込めたものを食べさせると、
惚れ薬になるとかなんとか。」
「と、いうと、フキに祈りを込めると、篠岡やモモカンが惚れるってこと?」
花井の解釈に全員がぴたっと動きを止めて。
ごくり・・・。つばを飲み込む音が静かになった部屋に響き渡る。
「体の一部ならより効果的なのか・・・?」
「オレ!あっこの毛いれちゃお!」
田島が発言すると同時に、花井が田島を羽交い絞めにした。
「アホか!おれらだって食うんだぞ!?」
「でも、とすると、当たれば篠岡、もしくはモモカンゲット?」
西広が真剣な表情で考え込み。
「外れればウホッの世界?」
水谷がいやそうな顔をする。
「うっほ。」
「三橋、そこだけリピートすんじゃねえ。」
泉が冷静に突っ込んで。
「むしろアッー!か?」
田島が元気な声で叫んだ。
「しかし当たれば、でかくない?」
「篠岡、もしくはモモカンに惚れられる。」
「ベットするには危険が高いな。」
「まさしくハイリスクハイリターン・・・だな。」
沖と栄口と花井の言葉を、阿部がまとめた。
ごくり・・・。
再び静まり返った台所に喉をならす音が響き渡った。
モモカンたちが買出しから戻ってくるまで時間はない。
やるならその前にやってしまわなければならない。
籠いっぱいのフキを中心に、10人が自然と輪を作る。
566 名前:小ネタ フキに願いを ◆VYxLrFLZyg [sage] 投稿日:2007/10/24(水) 07:20:53 ID:L5k0+irn
パターン1 篠岡、モモカンのどちらかに惚れられる。
パターン2 野郎の誰かに惚れられる。
パターン3 自分が野郎に惚れてしまう。
- もしくはシガポに惚れられてしまう、考えたくもないパターン4。
少し離れた所から、エンジン音が聞こえて、止まった。
3人が帰ってきたのだ。
決断は今しかなく、チャンスも今しかない。
10人の手が、一斉に伸びた。
「うまそう!!」
「う、うまそぉ~・・・・。」
シガポの言葉に10人の反応は鈍い。
「みんな、これは反射を作るのに大事な作業だよ!?
そんなローテンションでどうする!? ホラっ!!うっまっそっうっ!!」
「うまそう!!」
10人はやけくそになって、目を閉じて料理を見ないようにして、叫んだ。
「ホラ!!目を開けて!!うまそう!!」
シガポの言葉が容赦なく響く。
しぶしぶと目を開けて、目の前の料理を見つめて・・・。
「うまそう!!」
そう叫ぶと、不思議とうまそうに見えてきてしまった。
「いただきます。」
「いただきまーす!!」
その言葉と共に、全員の箸が大皿に伸びて、あっという間に空になった。
深夜、寝静まった女部屋のふすまの前で、10人がにじり寄りそっと中の様子を探る。
「あのおまじないって、どれくらいで効くんだ?」
「さあ、そんな即効性あんのかな?」
巣山の言葉に阿部が小首をかしげながら答えて。
「だったら、何でオレらこんな所で雁首並べてんだ?」
「愚問だね。花井。そんなの気になって寝付けないからに決まってるじゃない。」
花井の言葉に、西広が当然の表情で答えた。
「もし効いたら、どうなんのかな?」
「とりあえず、オレらの誰かが誰かに抱きつくんじゃねー?」
「ああ、はずれ引いたらそうなるか。」
「ケツ隠しとけー。」
含み笑いが静かに響いたその瞬間。
ターンと言う音共に、目の前のふすまが大開きに開いて、
目に怒りの炎を宿したモモカンが仁王立ちしていた。
「こんな夜中にあんたたち何してるの!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
はかない10人の、せつない叫び声が、夜の林に吸い込まれていった。
最終更新:2008年01月06日 22:26