6-678-680 小ネタ うらーぜの知的好奇心 ◆VYxLrFLZyg
「しのーかっ! ちょっといいか!?」
合宿に入った初日の夜、もうそろそろ就寝時間という時間。
すでに部屋に引っ込んで、寝る準備をしていた篠岡は
女部屋にやってきた田島に呼び出された。
「何? 田島くん?」
当然の疑問を田島にぶつけるが、田島は手をふりふりさせて篠岡を誘う。
不思議に思いつつも、男部屋に入っていった田島に続き、足を踏み入れた。
篠岡が部屋に入りきった途端、襖が篠岡の後ろでピシャンと閉められる。
その音に篠岡がビクっと振り返ると、阿部が無表情な顔で襖を背に立っていた。
その様子に不穏なものを感じて、篠岡は青ざめながら周りを見渡すと。
みんながぴしっと正座して、三つ指をついて篠岡を見上げていた。
「え?」
篠岡が思わずぽかんとする。
すると、阿部も回り込み、腰を下ろし正座して、まっすぐ篠岡を見上げる。
「しのーか。お願いがある。」
田島が実に真剣な表情で、じっと篠岡を見つめる。
その目に、篠岡の心臓が早鐘を打ち始めた。
一体、何をいうつもりなんだろう?
田島の目は見開かれ、一片の曇りも見受けられない。
その目に篠岡が見惚れた時、田島は口を開いた。
「さっき銭湯で、モモカンのおっぱい、お湯に浮いた?」
「・・・・・・・え?」
田島の言葉が、すぐには理解できずぽかんと口を開ける。
「頼む、しのーか。教えてくれ!」
「気になるんだ! 本当にデカイムネはお湯に浮くのか?」
「脂肪は浮くっていうけど、ムネも浮くの?」
「純粋な興味だ。」
「知的欲求を満たしてくれ。篠岡。」
「浮くん、で、すか・・・?」
「ただ単に、知りたいだけなんだけどな。」
口々に理由を言い、全員がきらきらした目で篠岡を見つめる。
きらめきだけは天使のようなその眼差しに、篠岡は混乱し、言葉を失う。
「え?・・・あの、ちょっと、みんな?」
「「「「「「お願いします! 篠岡! 教えてください!」」」」」
その言葉と共に、全員が畳に額を押し付けるように頭を下げた。
「ええー!?」
そして、篠岡がやっと言葉の意味を理解し、すっとんきょうな声を上げた。
「お願い! しのーか!」
田島がエサをねだる子犬のような目を篠岡に向け懇願すると。
その後ろで阿部がICレコーダーを取り出しておもむろにスイッチを入れた。
「検証、カントクのムネは果たしてお湯に浮くのか。証人、篠岡千代。」
そう自分の声を録音し、それをそのまま篠岡に向ける。
「えっと・・・・。」
果たして答えるべきなのかどうか迷い、再び助けを求めてみんなを見渡したが
瞳孔がほぼ完全に開いているせいで、きらきらと光り輝く合計20の瞳が篠岡に突き刺さる。
ぴかぴかの瞳と、さきほどの言葉が篠岡の脳内をぐるぐると駆け巡り。
篠岡は完全に追い詰められ、へなへなとその場に座り込んだ。
口をパクパクと動かして、目は焦点が合わないまま、空を見つめ、
数時間前の出来事を思わず思い出してしまう。
「・・・・・・・・・・・・・浮いてました。」
そして篠岡は、ありのままの事実を口にした。
「やっぱりかー!!」
「そうか! 浮くんだ!」
「ってか、どんなけ!? でかいんだ?」
「浮くってはっきりわかったの!?」
口々に話し始めるみんなのペースに篠岡は完全に巻き込まれてしまい。
「えっとね・・・。お湯に浸かった途端、こうフワーとプカーってなったよ。」
親切にも手つきをまじえて説明してしまった。
「うあっ!想像できねー!」
「う、あああ、あ、ううう!」
「ああ、三橋! 気をしっかり持って!」
「浮くってどんなカンジなんだー・・・。」
「湯船に浮かぶでかい物体が二つ・・・?」
想像した情景を辺りを憚らずに垂れ流す部員達を目の当たりにして
篠岡は一人耳まで赤くなったり、青くなったり。
自分の胸元を思わず見下ろして、ちょっと悲しくなってしまった時。
田島の声が、場の雰囲気をがらりと変えた。
「ね、しのーかも、おっぱい浮くの?」
田島の無遠慮な質問に、篠岡は一気に素に戻り、顔を真っ青にして言葉を失う。
「篠岡は、浮かないだろう。どう考えても。」
続いた阿部の言葉に、場は完全に凍りついた。
阿部は無遠慮に篠岡を上から下までじろじろ眺める。
さらに、空気を読まない阿部の言葉が、部屋の気温を絶対零度まで下げた。
「どっからどう見たって、B以上は絶対無いもんな。」
阿部と田島以外は冷や汗をダラダラと流しながら、そおっと凍りついた篠岡の様子を伺うと。
「あ、あああ阿部くんの、バカー!!」
篠岡の絶叫が合宿所を駆け巡った。
その声に駆けつけたシガポとモモカンに、全員がきっちり絞められたという。
最終更新:2008年01月06日 22:33