6-723-730 アベチヨ(ニシ)1 夏の終わり ◆VYxLrFLZyg
連日、過去最高気温を記録し猛暑日が続く夏。
それ以上の熱気に溢れる甲子園球場。
うだるような暑さの中で、それでも白球を追いかける青春のきらめき。
笑う勝者の影に、泣く敗者の姿。
袖口で目を擦りながら、ほんの僅かな土を袋に詰める小さく見える背中。
その日の最終試合終了後、土をかき集めていたのは、西浦高校野球部だった。
夜になっても、気温は30度から下がることはなく、蒸し暑さは肌を汗ばませる。
西浦高校の宿舎では、明日は埼玉に帰る野球部が
3年の最後の夏が終わったことを振り返っていた。
誰の顔にも後悔は見えず、笑顔でそれぞれを称え合い、夏を振り返る。
夜半、西広は一人寝付けず、騒ぎ果てて寝静まった静かな部屋を後に、庭に出てみることにした。
昔ながらの旅館によくある、純和風の庭は少し風が吹いてきたのも相まって、涼しげな印象を西広に与える。
高校に入ってから、野球を始めて3年。
まさか、甲子園に来れるとは思わなかった。
野球漬けだった毎日。
誰にも気づかれないように隠していた想い。
隠されていた想い。
しかし、その日々も今日で終わったのだろうか。
どこか、現実感がない。
縁側に座り、ぼんやりと月を眺めていたら、砂利道を踏みしめる足音が聞こえた。
建物の影から姿を見せたのは、篠岡だった。
「篠岡。」
「西広くん・・・。眠れないの?」
「ああ・・・。篠岡も?」
「うん。」
篠岡はそう西広と言葉を交わしながら、ごく自然に西広の隣に腰を下ろす。
そのまま二人で月を見上げて、しばしの沈黙が流れる。
「お疲れ様でした。西広くん。」
「うん。篠岡も、お疲れ。」
そう言葉を交わし、お互いの目を見つめあい、ふっと微笑み合う。
「よかった。ここにいたのが、西広くんで。」
「へぇ? そう?」
「うん。私、西広くんに伝えたいことがあるの。」
「・・・何?」
篠岡の言葉に、西広の胸中がざわめき始める。
一体、何を言うだろうか。
この3年間、ずっと信じて可能性を探り、こつこつと積み上げてきた。
「私、阿部くんに告白する。」
少し照れくさそうに微笑んで、それでも強い決意をその茶色がちな大きい目に浮かべ
篠岡は西広にそう断言した。
西広は、しばらく目を閉じたが、やがて真っ直ぐ篠岡を見つめ、にっこりと笑う。
「そう、決めたんだね。篠岡。」
篠岡が阿部に惚れていることに、西広が気づいたのは1年の時だ。
自分の篠岡への気持ちを自覚した瞬間、その人は違う人を見ていることの絶望。
そこに救いはあるはずもなく、篠岡を想う淡い気持ちは、胸に吹き荒れる黒い感情と変わってしまい。
あきらめるには余りにも短い夢の時間。
幸いにも、部活中心の野球部には恋愛を持ち込む隙間もなく、
日々野球に費やされている間には、西広にも篠岡にも落ち着いて自分の感情を整理する暇もない。
西広の、篠岡を見るたびに荒れ狂う胸の中。
篠岡の、阿部を見つめる目に浮かぶ、甘い感情
篠岡が阿部に大して何か行動することはなく。
阿部は野球以外には余りにも無関心で、篠岡の気持ちに気づくわけもなく。
西広は、賭けに出ることにした。
自分の、補欠という地位を利用して、さりげなく篠岡のサポートをする。
そうやって、ちょっとづつ距離を縮めていった。
篠岡の信用も勝ち取ることが出来、篠岡は西広に恋愛の相談までするようになった。
西広はもちろん快く相談に乗ってやり、一見適切なアドバイスを繰り返す。
そうやって、少しづつ、篠岡の心に居場所を作っていった。
何かあれば篠岡は一番に西広の元へ来るようになり、西広も笑顔で答える。
事情を知らないクラスメートからは、完全に付き合ってると誤解されるようまでになった。
篠岡の心に、一番近い場所に自分を置かせて、気持ちを阿部から自分に振り向かせる。
そんな、3年越しの西広の賭けは、見事に負けてしまった。
西広は、頬を染めながら告白の計画を立てる篠岡に相槌を打つ。
胸の中に、3年間押さえつけていた黒い感情が広がっていくのを止めることも出来ず。
ただ、笑顔で篠岡を見つめていた。
埼玉に戻ってきたらすぐ3年生は引退し、三橋達3年生は急に勉強に追われることになった。
とはいうものの、8月に入ってから入れる予備校も、講習もなく、
そんな急に野球から離れれる訳もなく、自然に三橋の家に全員が集まり、なんとなく参考書を開く。
そんな夏休みになっていた。
ピンポーン。
玄関のチャイムの音に、三橋がビクっと反応する。
「あ、あれ?」
来客は誰だろうと、三橋が不思議に思った時、西広が手を上げた。
「あ、多分篠岡じゃないかな。昨日誘ったから。ごめん、三橋、言うの忘れてた。」
「う、うん!、ぜんぜ、んかまわない、よ。」
「相変わらず西広と篠岡って仲いーんだなぁ。」
水谷の面白くなさそうな声に、西広が脚を玄関に向けながらも肩越しにふっと笑い返す。
「フツーだよ?」
遠のく足音を全員が聞いて、ふと目線を交し合し、そっと顔を寄せ合ってひそひそ話を始める。
「フツーかな?」
花井の言葉に
「にしては、仲良すぎるでしょ。」
水谷が答えて
「毎日メールしてるらしいぜ?」
巣山が続き
「オレもしのーかとメールしてるぞ!?」
田島がチャチャを入れる
「毎日じゃねーだろ。」
泉の冷たいつっこみに
「そりゃ、そうだけど・・・。」
田島がしゅんとなる。
「え!?あの二人付き合ってんの!?」
「まじで?」
栄口と沖がびっくりして
「いやぁ~・・・。時間の問題じゃね?」
花井の締めの言葉に
「えええ!?はあ~。」
一同はため息をついた。
阿部は額を寄せ合って話す連中を一瞥し、興味なさそうに一つ息を吐いた。
やがて、西広に伴われて篠岡も部屋に入って来て、一同は真面目に勉強に取り組むことにした。
甲子園での最後の夜を機に、西広は最後の賭けに出た。
「告白は、もうちょっと待ったほうが、いいよ。」
「そう、かな。」
「阿部は今、野球に燃え尽きて真っ白な状態だろうし。」
「うん。それはそうだね。」
「しばらく、様子を見たら?改めて急ぐ必要はないよ。慎重に行こう。
失敗したら、怖いだろう?オレも阿部をよく見ておくから。ね?」
穏やかな笑顔でそう話す西広を、篠岡は尊敬の眼差しで見つめて、ほうっとため息をついた。
「ホント、西広くんってすごいね。相談してよかった。ありがとう。」
頬を染めて笑う篠岡を、西広は表情を変えることなく頷いた。
夏休みの間は、篠岡との距離の近さを見せ付ける。
夏休みが終わった後は、些細な用事を見つけては篠岡の教室に顔を出して
篠岡には気づかれないように、しかし周りからは肩を抱いて見えるように篠岡と話す。
二人の間についての噂はまことしめやかに流れ、知らぬは篠岡ばかりになった頃。
西広は、篠岡に阿部への告白を勧めた。
『会って、話がしたいの。』
家族は祖母の家に泊りがけで遊びに行き、西広が一人で居た夜を狙ったかのように、篠岡からのメールが入る。
西広は了解の返信を送り、篠岡の到着を待った。
秋雨が部屋のガラスに打ち付け、外の雑音を雨の音に塗り替えてしまう。
その音にまぎれてかすかにインターホンがなり、
西広がドアを開けると、雨に濡れた篠岡がたっていた。
「・・・いらっしゃい。ずぶぬれだよ? 篠岡。」
呆然とした表情の篠岡を乾いたバスタオルで包んでやり、バスルームへと追いやる。
「ウチの洗濯機、乾燥までいけるから脱いだら放り込んで? これオレのだけど。」
西広が差し出した着替えを篠岡はうつろなまま受け取り、バスルームのドアを閉めた。
身体がさらに温まるようにと、西広はキッチンに向かう。
火にかけたヤカンの水が、お湯に変化していくさまをまんじりと見つめながら。
はたして、自分は賭けに勝ったのかと、思案していた。
篠岡は、今日阿部に告白したはずだ。
篠岡は明らかに精彩を欠いている。
傘も差さずに自分の家まで来たことは、何を意味する?
阿部に、振られた?
阿部は自分が広めた噂を信じた?
お湯が沸いたことを知らせる音がけたたましく鳴った時、西広は自分が笑みを浮かべていた事に気づいた。
コンロの火を止め、苦笑いする。
黒い感情に支配された自分を、嘲笑している自分に。
シャワーを浴びた後もまだぼんやりしている篠岡に、ココアの入ったマグカップを握らせ
篠岡が腰かけているソファーの隣に西広も座った。
二人が、ココアをすする音だけが、しばらくリビングに響く。
「・・・西広くん。」
「・・・何?」
「西広くん・・・・・・噂、知ってた?」
篠岡の言葉に、西広は内心の動揺を完璧に押さえ込んで、篠岡を眺める。
「・・・知らない。どんな噂?」
篠岡は、マグカップを持っていた両手に力を入れ、爪がカップの表面をすべり、耳障りな音が鳴る。
「・・・・・・私と、西広くんが、付き合ってるっていう噂。」
「・・・・・それはまた、光栄な噂だね。」
「そんな事実ないのに、阿部くん、それ、信じてた。」
篠岡の可愛らしい眉がきゅっと寄せられて、涙を浮かべた目で西広を見つめ。
「怒られちゃった・・・。阿部くんに。」
「篠岡・・・。誤解されちゃったの?阿部に。」
西広が優しい声音でそう問いただすと、篠岡はコクリと頷く。
「ごめん。オレもそんな噂になってるなんて知らなくて。篠岡に、迷惑かけちゃったね。
阿部にはオレから誤解、解くよ。」
「ううん。いいの。それはがんばって自分で解くから。」
話すうちに、篠岡は調子が戻ってきたのか、表情が明るくなっていく。
「阿部はなんていったの?」
「お前は西広と付き合ってんだろ、ばかか。って言われて。
誤解を解く間もなくどっかいかれちゃって。追いかけたけどダメだった。」
「篠岡・・・。ゴメン。」
心底申し訳なさそうに西広に篠岡は慌てて手を振り謝り返す。
「私こそ、そんな噂知らなくって。ごめんね。西広くんの好きな人に誤解されてるかもしれないし。」
「そんなの、篠岡が気にすることじゃないよ。」
「ううん。だって、西広くんの恋うまくいってほしいもん。」
「・・・・・・ありがとう。」
はにかんで笑う西広に、篠岡も笑顔で返した。
「それにしても、阿部、ヒドイね。・・・ねえ。篠岡は阿部のどこが好きなの?」
唐突な西広の質問に、篠岡は小首をかしげて考え込む表情になった。
「・・・それがね。わからないの。」
「ええ?」
「阿部くんがいると何でか目で追っちゃうの。もし、阿部くんと付き合えても
私は多分阿部くんに傷つけられて、いっぱい泣いちゃう気がするんだけど。
くんが今いることが嬉しくてたまらないかんじ・・・かな。 って、ちょっと私、バカみたいだね。」
幸せそうに阿部を語る篠岡に、西広は変わらない穏やかな表情を浮かべながら、話を続ける。
「傷つくのに、好きなの?」
「うん。」
「泣くってわかるのに、好きなんだ?」
「うん。」
「篠岡の話、ちっとも聞こうとしないのに?」
「うん。聞いてもらえるまで頑張る。」
「何で・・・・そんなに。」
「何でだろうね? 西広くんには何でも話せるから言っちゃうけど。
阿部くんの傍に行くと、怖くてたまらないの。でも傍に行きたいの。
西広くんの傍のほうが、よっぽど安心するんだけどね。」
篠岡がそういった途端、西広の表情が曇り、口からは低いトーンの声が漏れた。
「・・・何で。」
「西広くん?」
怪訝な顔で西広を見つめる、篠岡に、西広はその顔に元通りの笑顔を浮かべた。
「いや、何でも。オレの傍は安心する?」
「うん。」
満面の笑みで答える篠岡に、西広は内面の感情を抑えられなくなり、
しかし表面上はごく穏やかに、篠岡との距離を詰めた。
手を篠岡の頭に載せて、ゆっくりと撫でる。
篠岡はその手をはらいもせずに、目を閉じてされるがままだ。
「西広くんの好きな人に、誤解されないかな?」
「・・・それは、大丈夫じゃないかな? 多分・・・。」
「西広くんは、告白、しないの?その人に。」
「さあ、・・・・・・今はまだ、しないかな。」
「そうだね。まずは噂、消さないと、私みたいになっちゃうよね・・・。ごめんね?」
「篠岡が謝る必要はないよ。」
その噂が広まるように仕向けたことを、篠岡は全く気づかない。
余りにも純粋に自分を信じる篠岡に、西広は胸の内の感情が悲鳴を上げるのを聞いていた。
そのままそっと篠岡の頭を引き寄せて、自分の胸に押し付ける。
篠岡は少し慌てたように西広を見上げようとしたが、西広の手がそれを許さない。
「に、西広くん?」
「阿部にヒドイこと言われて、泣きなかったら泣いてもいいよ?」
「・・・泣かないよ。私が阿部くんを好きなんだから。」
もう一方の手も篠岡の肩に回し、西広はさらにぎゅっと篠岡を抱きしめた。
「じゃ、オレを阿部だと思ってみたら?」
「・・・・・・西広くんは、西広くんだよ。私の、大切な友達。」
「うん。そうだね。」
西広は優しい声で同意すると、そっと篠岡から身体を離して、今度は篠岡の手に触れた。
手のひらを上に向けさせて、指を絡ませながら、親指で篠岡の手のひらを撫でていく。
「西広くん?」
篠岡の問いかけに、西広はにこっと笑いながらも篠岡の手を撫でるのをやめない。
手のひらのくぼみにすっと指を走らせ、生命線をなぞる。
同時に篠岡の指に絡ませた指も動かして、指の股をきゅっと刺激する。
もう片方の手で手首の出っ張りを撫で、包み込む。
しばらくそのままその動きを繰り返していると。
西広の耳に、篠岡の口から零れた吐息が聞こえた。
そっと様子を伺うと、篠岡は頬を僅かに上気させて、きゅっと唇を噛んでいた。
西広は両手で掴んでいた篠岡の手を外して、篠岡の手と、自分の手10本の指が
密着するようにぎゅっと絡め取った。
篠岡は顔を俯かせて、西広の目線から逃げる。
紙の間から僅かにのぞく頬は赤く、引き締められた唇は僅かに震え、膝をぴったりあわせる篠岡を
西広は満足そうに眺めた。
再び篠岡の肩に手を回してぎゅっと引き寄せそのまま篠岡の髪をかき上げ耳に口を寄せた。
「篠岡。」
耳元で甘く囁いた西広の声に、篠岡の肩がビクンと震えた。
西広はそのまま唇を篠岡の耳に押し当て、力を込めずに耳にそっと歯を立てた。
「・・・っふ・・・。」
篠岡が自由になる手で自分の口を押さえる。
その動きを視界の端に捉えながら、西広はさらに耳に舌を差し入れた。
「・・・っは・・・。」
こらえきれずにもれた篠岡の声が、西広の耳を打つ。
篠岡の肩に回している手で、そっと篠岡の身体を撫で、反応を誘う。
抵抗しない篠岡の身体は西広の手の動きに僅かに反応し、篠岡は僅かに膝を擦り合わせた。
その様子を確認した西広は唇を滑らすように下に移動させ、篠岡の首筋にぎゅっと押し付けた。
「あっ・・・。」
篠岡の肩が大きく跳ね、ひときわ大きい声が口からこぼれた。
篠岡の手を握っていた手を離し、その勢いのまま西広は服の上から乳房に触れきゅっと力を込める。
雨に濡れたせいで、西広の服を借りていた篠岡は下着をしておらず、簡単に西広の手にあわせて形を変えた。
「や、に、西広くんっ!!」
静止交じりの篠岡の声を無視するように、西広は動きを止めない。
シャツの裾から手を侵入させ、篠岡の乳房に直に触れると、篠岡の身体がひときわ大きく跳ねた。
「に、西広くん!!」
篠岡はやっと西広を手で追いやろうとするが、力は込められていない。
「篠岡、少し黙って?」
西広の言葉に、篠岡がひときわ大きく唇を噛み、快感をこらえる表情に変わる。
「黙って、気持ち、いい?」
困り果てた表情の篠岡が、何も言わずにただ、目尻に涙を溜めていく。
その間も西広は手の動きを止めず、篠岡の胸を柔らかく揉み、快感を与え続けていた。
西広がそっと位置を変え、ソファーに座る篠岡の正面に移った。
篠岡の膝に手を置いて、身体を押し付けて開かせる。
泣く寸前の表情の篠岡は真っ赤な顔で西広を見下ろすが、抵抗は、ない。
西広の手がゆっくり膝を伝い、やがて篠岡の脚の根元まで達した。
手にぐっと力を込めて、篠岡の中心に刺激を与えると。
篠岡が自分を抱きしめるように両手を身体に回して、ぎゅうっと身震いした。
その後、荒い息を吐き、涙目でぐったり力が抜ける。
「イったの?」
西広の言葉に、篠岡は答えず、そのままぽろぽろと涙をこぼしていく。
「ふっ・・・。うっ・・・。」
静かに泣く篠岡を西広は隣に座りなおして、そっと肩を抱いた。
「・・・オレの部屋、行こうか?」
「・・・いや・・・。私・・・私が好きなのは・・・。阿部くんなのに。」
「違うよ。篠岡は、オレが好きなんだよ。」
西広の言葉に、篠岡がビックリしたように西広を仰ぎ見た。
「触れられて、嫌じゃなかっただろう? じゃあ、好きってコトだよ。」
篠岡は呆然と西広を見つめて、僅かに首を左右に振る。
西広はそんな篠岡に、いつもと同じ笑顔で笑いかけ、強引に篠岡を抱え上げた。
「い、イヤっ!! 西広くん!」
「暴れると、危ないよ?」
冷静な言葉をかけて、篠岡の抵抗を封じると、西広は脚を自分の部屋に向けた。
開けっ放しだった自分の部屋に入り、篠岡をベッドの上に横たわらせながら
自分もそのまま覆いかぶさる。
篠岡はがむしゃらに手を動かして、西広を追いやろうと必死になる。
「な、何で!? 西広くん!こんなっ!?」
「篠岡、オレが好きなのは、篠岡だよ?」
篠岡の両目が驚きに見開かれ、動きが止まる。
「篠岡が好きなのは、オレだ。その証拠に、さっき抵抗しなかっただろう?」
篠岡の顔が羞恥心が浮かび上がり、唇を噛む。
西広は篠岡のシャツを捲くり上げ、有無を言わせずそのまま胸の突起を口に含んだ。
「やっあっ!!」
篠岡の腹筋に力が入るのが西広に伝わり、もう片方の乳房も手で覆い、そのまま丹念に刺激を与える。
篠岡の脚がぎゅっと閉じられ、腿を擦り合わせる動きに西広は気づき。
乳房を揉んでいた手を滑らせて、そのままジャージの下に潜らせた。
「やあああ!!」
閉じられた脚の間に強引に手を割り込ませると、暖かい感覚が西広の指を包む。
溢れる蜜が西広の指に触れた途端、するりと侵入を許し、ぎゅっと脚の間に押し込める。
「篠岡、脚開いて? 篠岡はオレを好きなんだから、こういうことしたっていいんだよ。」
西広の言葉に、篠岡の膝からすっと力が抜けた。
粒を丹念に押しつぶしていた西広の指がその下の部分にまで到達し、さらに暖かく包み込んだ。
「気持ちいい?篠岡?」
「ヤダ・・・ヤダよ・・・。西広くん・・・。」
「篠岡。」
「こんなの・・・違うよ・・・。」
「どうして。」
「私は、阿部くんが好きなの!!」
「違う。オレだよ。」
西広が身体の位置を変えて、至近距離から篠岡を覗き込み、目線を合わせる。
呆然と見上げる篠岡の目は、快感と感情に揺れていた。
西広は篠岡の首筋に顔を埋めて、唇でなぞる。
「い、ヤダ・・・。」
「オレの愛撫で、イったクセに。」
西広の言葉に、篠岡は言葉を失い、沈黙した。
西広はそれをいいことに再び胸に手を伸ばし、きゅっと力を込めた。
手を下に移動させて、再び直に篠岡の中心に触れる。
指をなぞる様に下ろして、ゆっくりと上下に動かす。
ぬるりとした感触は西広の動きをさらに加速させる。
西広自身がその感覚に興奮を覚え、さらに刺激を与えることに集中し始めた頃。
篠岡の嗚咽が西広の耳に届いた。
「阿部くん・・・あ、べくん・・・。うっ・・・阿部く・・ん。」
しゃくりあげながら、阿部の名を繰り返し呟く篠岡に、西広は動きを止めた。
唇を噛んでしばらく目を閉じる。
ここまでしても、篠岡は阿部しか見ていない。
その事実に、西広は打ちのめされた。
身体をゆっくり篠岡から離して、ベッドに腰かける。
篠岡は両手で顔を覆いながらも、阿部の名を呟き続けていた。
ベッドに一人篠岡を残し、西広は部屋を出て行った。
やがて、乾いた篠岡の服を手に戻り、未だベッドの上で嗚咽を漏らす篠岡の脇にその服を置く。
「篠岡。服、乾いたから、着替えな? オレ、リビングで待ってるから。」
篠岡がその言葉に顔を上げると、西広はすでに部屋を出て、扉を閉めたところだった。
西広がリビングの窓から外をうかがうと、雨はすっかり上がったようだった。
片手で顔を覆い、ため息を一つつく。
西広がどんなに手を尽くしても、篠岡は阿部を見るのを止めなかった。
自分に篠岡の気持ちを向けさせることは、叶わなかった。
自分と阿部の違いはどこにある?
なぜ、篠岡は阿部を見る?
なぜ、自分は篠岡しか見ない?
結論はわかりきっている。
自分の想いが篠岡にしか向かなかったように、
篠岡の想いは阿部にしか向かなかった。
人の気配に西広が振り向くと、着替え終わった篠岡が、佇んでいた。
やっと泣き止んだのか、しかしわずかにしゃくりあげながら黙って西広を見つめる篠岡に
西広は優しく笑いかけた。
「服、ちゃんと乾いてた?」
その言葉に、篠岡の首がこくんと縦に動く。
西広が一歩篠岡に近づくと、篠岡の身体がビクリと跳ね、戸惑いの色がその目に浮かぶ。
西広はそのまま篠岡の前を通り過ぎ、篠岡の荷物に近づいた。
勝手にそのカバンを開け、篠岡のケータイを取り出す。
「に、西広くん・・・何を?」
西広はその言葉に答えず、アドレス帳を勝手に操作して、自分のメルアドと番号を
篠岡のケータイから消した。
「雨、上がってるから一人で帰れるよね?」
そのケータイを差し出して、にっこり笑いかけると、篠岡がおずおずとそれを受け取り、頷いた。
荷物を持って篠岡を玄関まで送り、篠岡の何かを言いたげな目線を無視して笑顔を向ける。
「気をつけて。送れなくてゴメン。」
「そ、それはいいんだけど。あの・・・西広くん。」
「じゃあね。篠岡。」
いつもの優しい笑顔で篠岡を追い出して、帰るのを見届けないまま扉を閉めた。
そのまま、扉に背中をもたれさせ、目を閉じる。
「西広くん。ごめんなさい・・・。」
ドア越しの篠岡の言葉が西広の目を開かせる。
「本当に、ごめんなさい。」
続いた言葉に、西広は再び目を閉じ、深いため息を吐いた。
やがて、篠岡が遠ざかる気配がして、ドアの向こうが静かになっても
西広はずっと扉にもたれてじっと目を閉じていた。
最終更新:2008年01月06日 22:39