4-654-663 イズチヨ(写真3)

なんだか朝から体がだるかった。
最近いろんなことがあったから、そのせいでちょっと疲れただけだと思う。
だから、阿部くんに「顔色悪いぞ。」って言われた時も、大丈夫って答えた。
別にどこも悪くない。なのに、そこからいきなり貧血おこしちゃうなんて。
ああ、私、意外とまいってるんだ、なんて冷静に思った。
で、その後は記憶がない。
気づいたらベッドの上で、目の前には阿部くんがいた。

「あ、阿部くん!?」
慌てて飛び起きて周りを見ると、今いる場所が保健室だと気づいた。
「おい、急に起きるなよ。大丈夫か?」
「私…。」
時計を見ると、12時を過ぎていた。2時間以上も寝ていたことになる。
「話してたら、いきなりぶっ倒れたんだよ。調子わりーなら、そう言えよ。」
「ごめんなさい…。」

「いや、怒ってるわけじゃねーからな?」
しゅん、と下を向いてしまった千代を見て、阿部は溜息をつく。
またやっちゃったか?別に怒ってるわけじゃないのに。
三橋といい篠岡といい、自分の何気ない一言でこんなにヘコむなんて
やっぱり自分の言い方がまずいのか?
阿部はしばらく考えた後、俯いた千代の顔を覗き込む。

「いつもの元気な篠岡でいろよ。心配させんな。」
阿部の手が、千代の頬を覆うように触れる。
「顔、熱いな。熱あんじゃね?」
「あ、あの…。」
誰もいない静かな保健室。至近距離の阿部。
千代は自分の心臓の音が、阿部に聞こえてしまうんじゃないかと心配になる。
なんだか夢を見てるみたい。そんなふうに思っていた矢先。
千代は急激に、現実に引き戻される。



突然、保健室のドアが開き、阿部が千代から手を離す。
振り返った阿部の視線の先には、開け放ったドアに寄りかかるようにして、
じっと2人を見つめる泉の姿があった。
「泉。」
千代は、さっきまで熱かった頬から、一瞬で熱が引くのを感じた。

「もしかして、お前も具合悪いのか?」
阿部の声に、泉はゆっくりと2人に近づくと、手に持ったペットボトルを千代の前に突き出した。
「水谷に聞いたんだよ。篠岡が具合悪くて保健室で寝てるって。だから、お見舞い。」
「あ、ありがと…。」
受け取ったペットボトルの冷たさが、さらに千代の熱を奪うように感じる。

泉がちらりと阿部を一瞥して、ふっと笑った。
「聞いたぜ。なんか、阿部カッコよかったらしいじゃん?
ぶっ倒れた篠岡をさ、お姫様抱っこで運んじゃったんだろ?
やーるぅ、こンの王子様が。」
ひやかすような泉の声に、阿部が少し赤くなった顔で睨む。
「からかうなよ。非常事態だろが。」
ふいに知らされた事実に、千代が顔を上げて阿部を見た。

「…お前らってさぁ、つきあってんの?」
泉が笑いながら、問い掛ける。
「は?」
「違うよ!」
怪訝そうな表情をした阿部の声を、遮るように千代が叫んだ。
突然の大声に驚いた阿部が、千代に視線を移す。

違う。違うから。泉くんの機嫌を損ねるようなことは、してないから!
だからお願い、阿部くんにへんなこと言わないで…!

シーツをぎゅっと握り締めて蒼褪める千代と、それを冷たく見下ろす泉。
2人を交互に見ながら阿部が呟いた。
「つきあってねーよ。何言ってんの、お前。」
「ふぅん…?ま、オレには関係ないけどさ。じゃあ篠岡。お大事に、な。」
去り際に、千代の顔を見て泉は笑った。

泉が出て行った後も、2人は無言で締められた扉を見つめていた。
少しして、阿部が千代に向き直る。
「なんだ、あいつ、何言って、」
言いかけた阿部の言葉を、携帯の着信音が遮る。
千代の体が一瞬で凍りついた。

不自然な千代の態度に違和感を感じつつ、阿部が再び口を開く。
「篠岡、携帯。」
「うん、平気…。メールだから。あ、あとで、見る…。」
ポケットの中で振動する携帯が、自分を揺らしているような気がする。
千代はポケットに手を入れ、手探りで電源を切った。
きっと泉だ…。

「阿部くん、ありがとう。もう大丈夫だから、教室戻って?
私ももう行く。あの、部活もちゃんと出るから。」
どう見てもおかしい千代の様子を訝しがりながらも、阿部は腰掛けたベッドから
立ち上がった。
「部活なんて今日はいいから休め。監督にはオレが言っとくから。
つーかもう帰れよ。1人で帰れるか?」
「うん…。そうだね、帰ろう、かな。帰る…。」

よろよろと立ち上がった千代の腕を、阿部が掴む。
「お前、ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫、だよ。」
「ちっと待ってろ、荷物取ってくっから。家まで送る。」
「え、いいよ、ほんとに大丈夫だから。授業もまだあるんだから、ダメだよ。」

慌てて阿部を制止する。
「私、寝起きっていつもこんななの。だから心配しないで、ね?」
「そっか…?」
それでもまだ心配そうに自分を見る阿部に、千代は笑顔を向けた。
「阿部くんは、優しいね。」
「…何言ってんだよ。」

ほんとだよ。だから好きになったんだもん。
多分もう、伝えることはできないけれど。

保健室を出た阿部の背中が見えなくなると、千代はポケットから携帯を取り出す。
電源を入れると、履歴に泉の名前が残っていた。かけ直すと、数コールで繋がる。
「なんの用?」
『別に?まだ保健室にいるのかなって。阿部は?』
「教室戻ったよ。私、もう帰るから。じゃあね。」
一方的に切った携帯をポケットに押し込んで、千代は荷物を取りに教室へ戻った。


まだ少しふらふらする。
授業が始まって静まり返った廊下に、千代の足音が響いた。
階段を下りる途中で、千代は息が止まる。
見下ろした先に、壁に寄りかかった泉の姿があったからだ。

「よ。」
「泉くん…。何してんの、授業は…。」
「サボった。帰るんだろ、送ってく。」
「いいよ、1人で帰れる。」
お願いだから、ほっといて欲しい…。

「阿部と何を話してたの?」
泉が壁から体を起こして、千代に近付く。
「別に、普通の話だよ。具合悪いなら早退しろって、それだけ。」
「ふぅん?それにしちゃオレが入ってった時のあの慌てっぷり、
おかしかったけどね。」
泉が千代をじっと見ている。千代は視線に気づいて、目を逸らした。

「阿部くんは…。」
「は?」
「阿部くんは、私に興味ないかも知れないけど、私のこと心配してくれる。
優しいよ、阿部くんは。泉くんより、ずっと、優しい…。」


並んで歩いていた泉が立ち止まり、千代も思わず足を止める。
ほんの少しの沈黙の後、泉が大きく息をついた。
「そうだな、阿部は優しいよ。オレなんかよりずーっとな。
でも、だから何?可哀想なお前を、阿部が助けてくれるっての?」

手首をぎゅっと掴まれ、その力に驚いて千代は泉を見た。
「そ、んなこと、言ってない…。」
「どんだけ阿部が優しかろーが、そんなこともう関係ないだろ?
お前は誰のもんなんだ?オレだろ。逃がす気はねーよ。」

掴んだ手首を引っ張って、泉が歩き出す。
「なに?離して!どこ行くの!?」
泉は答えず、振り向かず、人気のない廊下を歩くと、千代を男子トイレに引きずり込んだ。
個室の一番奥に千代を押し込むと、泉も続いて入り鍵をかける。
「…嘘でしょ?」
「何が?」

泉がベルトに手を掛けるのを見て、千代はその場から逃げようと、鍵を開けた。
内側に開く形のドアを泉が蹴ると、大きな音がして扉が締まり、びりびりと震える。
「なに逃げようとしてんの?逃がす気はないって言ったろ。」
泉は足を下ろすと、呆然と自分を見つめる千代の前で、再びゆっくりと鍵を締めた。

「やだ…。」
「それ、何度も聞いたよ。」
泉の手が千代の頬に触れ、親指が唇をなぞる。
「お願い、だから。」
「何度も言うけど、ダメ。」


服の上から押し潰すように胸を揉まれ、千代は暴れ出した。
「いや!やめて!」
泉は舌打すると、千代の両手を掴んで、壁に押し付ける。
「お前、バカだな。こんなとこで大声出して。誰かに見つかったらどうすんの?
お前の大好きな阿部も、この校舎の中にいるんだぜ。あっという間に噂になるよ。
授業サボってセックスしてる、バカップルだってね。」
千代の顔が歪んで、ぽろぽろと涙が溢れ出す。

「だからさー、泣いても無駄だって、いい加減わかれよ。」
逃げ場を失った千代の唇を奪う。舌を入れると、上擦った泣き声が漏れた。
右足で千代の足を開くと、泉はぴったりと身体を寄せ、腿で押すようにして千代の
下半身を刺激した。
千代の腰には、硬くなった泉の股間が押し付けられる。
押さえ付けていた泉の手がスカートの中に入り込むと、千代は自由になった手で、
ほんの少しだけ抵抗してみせた。
弱々しい抵抗はあっさりと破られ、下着の中に指が入ってくる。

「あーあ。なんでもう濡れてんだよ。いやだっつって泣いても、説得力ねぇな。」
泉の嘲笑に、千代は声を上げて泣き始めた。
「ほら、静かにしろよ。こんなとこ見つかって、困るのはお前だろ?」
そう言われても、千代はもう泣き声を抑えることができなかった。
「もう、やめてよぉ…。」

辛くて、苦しくて、本当に嫌なはずなのに。
はしたなくも反応してしまう、この体はなんなの?
こんなところで、脅されて、無理矢理されているのに。
体中を突き抜ける、この甘い疼きはいったいなんなの?
「う…、んぁ、やだぁ…。」
「嘘吐き。やじゃないだろ?気持ちよくしてやっから、こっちにケツ向けな。」

泣き過ぎて、重くなった頭で考える。でも、何も思いつかない。
千代は言われるままに後ろを向くと、壁に手を付いた。
「お利口さん。」
びしょ濡れの千代の頬に優しいキスをひとつ。
下着をずらすと、一気に泉が侵入してきた。

「ふ、う、あぁっ!やだ、泉くん、やあぁ…っ。」
「声、でかいって…。」
後ろから、泉の手ですっぽりと口を覆われる。
息苦しさと、抑えきれない喘ぎ声。止まらない涙で顔が熱い、頭が痛い。
「う…、んん…。」
泉が千代の耳に、唇を押し付け囁く。
「すんげぇぐっちょぐちょ…。お前、嫌なんじゃないのかよ。
ただの変態じゃん。こんなとこでやられてさ、泣いて悦んでんなよ!」

耳にかかる泉の熱い息に煽られて、体が中心に向かって痺れていく。
「んん…!」
奥まで深く貫かれ、千代の体がびくんと痙攣する。
泉の手が離れると、半開きの口からは、呼吸と共に透明な雫が流れる。
膝ががくがくと震えて、支えがなければ、このままへたり込んでしまいそうだ。
後ろから突き上げられるたび、壁が音を立てて揺れる。

「は、ぁ、泉、くん…。」
「し、のおか、こうゆう時は、なんて言うんだ…?」
唾液で濡れた泉の指が、千代の小さな突起を弾く。
「い、やぁ…、も、もう、イッ…、」

千代の声に少し遅れて吐き出した泉の精液は、千代の震える尻を伝って、
ゆっくりと床のタイルに零れ落ちた。

泉が千代の汚れた身体を拭いて、下着を直してやる。
まだぐずぐずと泣いている千代の肩を掴んで、自分の方に向けると、
よろけた千代が胸にもたれてきた。
「きったねー顔…。」
涙も、鼻水も、涎も。顔中の穴という穴から、水分が流れ出ていた。
バッグから取り出したタオルで顔を拭うが、その先から涙が溢れてくる。

真っ赤な顔で、子供のようにしゃくりあげて泣く千代を胸に抱くと、
泉はあやすように背中をぽんぽんと撫でる。
「わ、たし、は、阿部くんが、」
途切れ途切れの言葉は、泉に強く抱きしめられて、掻き消えた。

「…知ってるって、言ったろ。」
卑怯な手を使って、いくら身体を支配したって、心はどんどん遠くなることも。
じわじわと泉のシャツの胸を濡らしていく、千代の涙と額の汗。
泉は、湿った千代の前髪の上から、唇を押し当てた。
「でもオレは、お前が好きなんだよ。」


663 名前:イズチヨ3[sage] 投稿日:2007/09/11(火) 02:04:56 ID:PZ6WIY7e
駅の改札で、今まで顔を伏せていた千代が、顔を上げて泉を見た。
「もうここまででいい。ほんとに、1人で帰れるから。」
1人で帰れるから、じゃなくて、1人にして欲しい、だろうことは泉にもわかる。

「わかった。気をつけて帰れよ。」
「うん、ありがと…。」
そう言ったきり、一度も振り向くことなく人波に消えていった千代の、
華奢な背中に向かって、泉は呟いた。

「オレだって、泣きたくなるよ。」

方法を間違えたことはわかってる。
でも、もうここまで来ちまったんだ。
オレ達2人とも、運が悪かったってことでさ。

諦めろよ。な?篠岡。





最終更新:2008年01月08日 23:29